2013/12/05(木) - 16:12
野辺山では床に伏せていた。京都で1週間療養し、ビワコマイアミランドで砂のコースに挑んだザック・マクドナルド。昨シーズンの全米選手権エリートレースで2位に入ったRapha-FOCUS所属の22歳に日本のシクロクロスシーンの印象を訊く。
2013年1月13日に開催された全米選手権エリートレースで、U23対象選手ながら表彰台に上がったザック・マクドナルド(Rapha-FOCUS)。「すでに2012年にU23の全米チャンピオンに輝いて、2013年はUCIポイントを取るためにエリートレースに出場。コースが自分向きだったから自信をもって挑んだら2位だった」と語る22歳が、初めて日本のシクロクロスレースを走った。
マクドナルドが出場を予定していたのはUCI(国際自転車競技連合)登録レースである信州シクロクロスの野辺山2連戦(11/16-11/17)と関西シクロクロスのビワコマイアミランド(11/24)。
結果は野辺山が途中リタイアとDNS。ビワコマイアミランドでは2位だった。
「日本に到着してすぐに体調を崩してしまい、残念ながらレースを闘える状態ではなかった。平常時の心拍が45bpm程度なのに、ずっと95bpmを刻んでいて自分でも驚いたよ。招待選手として土曜日は何とかスタートラインに並んだものの、咳が止まらなくなってリタイア。せっかく良いチャンスを与えてもらったのに申し訳なかった」。マクドナルドは顔面蒼白だった日々をそう振り返る。
「野辺山からすぐ京都に移動して、ヴィンセント(ヴィンセント・フラナガン=京都在住のオーストラリア人:元MTBクロスカントリー全日本&豪チャンピオン)の家でゆっくり過ごしたおかげで、レース出来るほどに体調が回復。この数週間まともなトレーニングが出来ておらず、自分の走りに期待はしていなかった。レース直前まで心拍を上げていなかったので、レース強度に自分の身体がどんな反応を見せるかも分からなかった」。
招待選手として最前列でビワコマイアミランドのコースに繰り出したマクドナルドは、全日本チャンピオンの竹之内悠(コルバ・スペラーノハム)や小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロス)らとパックを組んで走行。「思っていたよりずっとずっと良い感触で走れたのでホッとした。でも自分の不注意で2周目の砂区間で前転。すぐに復帰してピットでバイクを交換したけど、先頭(竹之内)とかなり差がついてしまった」。最終的にマクドナルドは51秒差の2位でレースを終えている。
負けたこと、そして日本で思うようにUCIポイントを取れなかった悔しさを浮かべながらも、予想以上に身体が動いたことに少し安心した表情を見せるマクドナルド。アメリカへの帰国を前に、自身の生い立ちや日本のシクロクロスシーンについて聞いた。
シクロクロスを始めたきっかりは?
物心つく前からずっと自転車に乗っていて、いろんなスポーツを経て自転車競技に行き着いた。自分のルーツはロードバイクではなくMTB。一時期はモトクロスもやっていた。トレーニングのためにロードバイクにも乗るけど、舗装路でのレースが退屈なのでレース活動はオフロードばかり。14歳の頃にシクロクロスに出会って、MTBクロスカントリーと並行してシクロクロスに出場するようになったんだ。
理想とか憧れのライダーは昔から特にいない。父親はサッカー好きだったし、家族に影響されたわけじゃない。自分で自転車競技に夢中になったんだ。おそらく自分は目で見てテクニックを盗むのが得意なタイプ。ローカルレースで活躍していたライダーたちを小さい頃から追いかけていた。グラスルーツの小さいレースから成長して今に至る。
やはりMTBの経験がシクロクロスに生きている?
オフロードとオンロードは別もの。ハンドリングからペダリングまで違う技術が必要になる。どちらが良いとかではなくて、両方経験することで、互いに足りないものが補えると思う。でも、オフシーズンにロードレースやMTBレースに没頭することで、その疲労がシクロクロスに影響してしまうこともある。
現在はフルタイムで選手として走っている?
パートタイムでビジネススクールに通ってファイナンスを専攻している。でも勉学の時間がトレーニングに影響するとは思っていない。一日中ずっとバイクに乗っているわけじゃないし、今の環境が自分のモチベーションに繋がっているので問題は無いよ。
シーズン中は遠征ばかりでは?
シクロクロスのシーズン中は移動の連続。だから移動の疲れなんて言い訳にならない。北米ではUCIレースが年間50戦ほどある(アメリカのUCIレースは世界最多43戦)。移動が好きじゃないとやっていけないスポーツだと思う。今回の日本遠征では、思うようなレースが出来なかったものの、結果的にバイクに乗れない日々が続いたので日本を満喫出来たとも言える。ヨーロッパ遠征の時はそんな観光する余裕なんて無いし。
今回来日するまで、日本に対するイメージは?
日本人選手としては、ヨーロッパのレースで(竹之内)悠を見たことがある。あとは大介(Rapha Japan代表の矢野大介)をアメリカで見た程度。日本にはUCIレースが3戦しかないので、もっとこじんまりとした大会をイメージしていた。野辺山もマイアミランドも、ライダーや観客の数が多く、オーガナイズも良くて驚いた。
実際に走ってみて日本のシクロクロスの印象は?
日本では木の杭が主流になっている(UCIルールで金属杭の使用は禁止)けど、アメリカではプラスチック製のスティックが多い。自分はスキー競技もしていたから、プラスチックスティックに接触しながら走ることに慣れている。でも日本では木なので、かなり接触に気を使って走ったよ。
あれだけの数の木の杭を打ち込む労力を考えただけで、主催者の熱意を感じることが出来た。特に野辺山はコースのレイアウトから会場全体の雰囲気まで良くて正直驚いた。お世辞ではなく、アメリカの連中よりも高いレベルのことを大介は実現している。自分が打ち込んでいる競技を、違う国で経験出来たことは本当に良かった。あぁ、もっと全開で野辺山を走ってみたかった。
マイアミランドのコースは特殊では?
砂のコースは好き。下のカテゴリーの選手には過酷だったと思うけど、走っていて楽しかった。北米にも砂地のレースはあるけど、マイアミランドのような長い砂セクションは無い。短い砂地か、グラベルっぽい砂地か、草地に砂が混ざっている程度なんだ。だからマイアミランドの砂はどちらかというとベルギーのコクサイデに似ている。でもコクサイデはアップダウンがあって、砂がフカフカしていて難しい。
帰国後、今シーズンの予定は?
まずは体調を戻すことが何よりも大事。それからアメリカとカナダのシクロクロスレースを連戦する。カナダを含めると毎週ハイレベルなレースをこなすことが出来るんだ。レースで結果を出すと同時に、色んな場所に顔を出すことが大事だから。全米選手権の後にヨーロッパに渡ってUCIワールドカップを走り、まだ決まってないけど東京のレース(シクロクロス東京)かな。
日本のUCIレース3連戦で多くのUCIポイントを逃したのは想定外?
血眼になってUCIポイントを獲得するために来日したわけじゃない。かといってUCIレースが無ければ日本に来ていなかったと思う。もっとポイントを稼いでいれば別だけど、シーズン序盤の数レースをパスしてしまっているので、今100ポイント取ったところでUCIワールドカップのスタート順はそんなに変わらない。それよりも、長い目で見て、新しい場所で走り、新しいものを見たことが良い刺激になったよ。
text&photo:Kei Tsuji
2013年1月13日に開催された全米選手権エリートレースで、U23対象選手ながら表彰台に上がったザック・マクドナルド(Rapha-FOCUS)。「すでに2012年にU23の全米チャンピオンに輝いて、2013年はUCIポイントを取るためにエリートレースに出場。コースが自分向きだったから自信をもって挑んだら2位だった」と語る22歳が、初めて日本のシクロクロスレースを走った。
マクドナルドが出場を予定していたのはUCI(国際自転車競技連合)登録レースである信州シクロクロスの野辺山2連戦(11/16-11/17)と関西シクロクロスのビワコマイアミランド(11/24)。
結果は野辺山が途中リタイアとDNS。ビワコマイアミランドでは2位だった。
「日本に到着してすぐに体調を崩してしまい、残念ながらレースを闘える状態ではなかった。平常時の心拍が45bpm程度なのに、ずっと95bpmを刻んでいて自分でも驚いたよ。招待選手として土曜日は何とかスタートラインに並んだものの、咳が止まらなくなってリタイア。せっかく良いチャンスを与えてもらったのに申し訳なかった」。マクドナルドは顔面蒼白だった日々をそう振り返る。
「野辺山からすぐ京都に移動して、ヴィンセント(ヴィンセント・フラナガン=京都在住のオーストラリア人:元MTBクロスカントリー全日本&豪チャンピオン)の家でゆっくり過ごしたおかげで、レース出来るほどに体調が回復。この数週間まともなトレーニングが出来ておらず、自分の走りに期待はしていなかった。レース直前まで心拍を上げていなかったので、レース強度に自分の身体がどんな反応を見せるかも分からなかった」。
招待選手として最前列でビワコマイアミランドのコースに繰り出したマクドナルドは、全日本チャンピオンの竹之内悠(コルバ・スペラーノハム)や小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロス)らとパックを組んで走行。「思っていたよりずっとずっと良い感触で走れたのでホッとした。でも自分の不注意で2周目の砂区間で前転。すぐに復帰してピットでバイクを交換したけど、先頭(竹之内)とかなり差がついてしまった」。最終的にマクドナルドは51秒差の2位でレースを終えている。
負けたこと、そして日本で思うようにUCIポイントを取れなかった悔しさを浮かべながらも、予想以上に身体が動いたことに少し安心した表情を見せるマクドナルド。アメリカへの帰国を前に、自身の生い立ちや日本のシクロクロスシーンについて聞いた。
シクロクロスを始めたきっかりは?
物心つく前からずっと自転車に乗っていて、いろんなスポーツを経て自転車競技に行き着いた。自分のルーツはロードバイクではなくMTB。一時期はモトクロスもやっていた。トレーニングのためにロードバイクにも乗るけど、舗装路でのレースが退屈なのでレース活動はオフロードばかり。14歳の頃にシクロクロスに出会って、MTBクロスカントリーと並行してシクロクロスに出場するようになったんだ。
理想とか憧れのライダーは昔から特にいない。父親はサッカー好きだったし、家族に影響されたわけじゃない。自分で自転車競技に夢中になったんだ。おそらく自分は目で見てテクニックを盗むのが得意なタイプ。ローカルレースで活躍していたライダーたちを小さい頃から追いかけていた。グラスルーツの小さいレースから成長して今に至る。
やはりMTBの経験がシクロクロスに生きている?
オフロードとオンロードは別もの。ハンドリングからペダリングまで違う技術が必要になる。どちらが良いとかではなくて、両方経験することで、互いに足りないものが補えると思う。でも、オフシーズンにロードレースやMTBレースに没頭することで、その疲労がシクロクロスに影響してしまうこともある。
現在はフルタイムで選手として走っている?
パートタイムでビジネススクールに通ってファイナンスを専攻している。でも勉学の時間がトレーニングに影響するとは思っていない。一日中ずっとバイクに乗っているわけじゃないし、今の環境が自分のモチベーションに繋がっているので問題は無いよ。
シーズン中は遠征ばかりでは?
シクロクロスのシーズン中は移動の連続。だから移動の疲れなんて言い訳にならない。北米ではUCIレースが年間50戦ほどある(アメリカのUCIレースは世界最多43戦)。移動が好きじゃないとやっていけないスポーツだと思う。今回の日本遠征では、思うようなレースが出来なかったものの、結果的にバイクに乗れない日々が続いたので日本を満喫出来たとも言える。ヨーロッパ遠征の時はそんな観光する余裕なんて無いし。
今回来日するまで、日本に対するイメージは?
日本人選手としては、ヨーロッパのレースで(竹之内)悠を見たことがある。あとは大介(Rapha Japan代表の矢野大介)をアメリカで見た程度。日本にはUCIレースが3戦しかないので、もっとこじんまりとした大会をイメージしていた。野辺山もマイアミランドも、ライダーや観客の数が多く、オーガナイズも良くて驚いた。
実際に走ってみて日本のシクロクロスの印象は?
日本では木の杭が主流になっている(UCIルールで金属杭の使用は禁止)けど、アメリカではプラスチック製のスティックが多い。自分はスキー競技もしていたから、プラスチックスティックに接触しながら走ることに慣れている。でも日本では木なので、かなり接触に気を使って走ったよ。
あれだけの数の木の杭を打ち込む労力を考えただけで、主催者の熱意を感じることが出来た。特に野辺山はコースのレイアウトから会場全体の雰囲気まで良くて正直驚いた。お世辞ではなく、アメリカの連中よりも高いレベルのことを大介は実現している。自分が打ち込んでいる競技を、違う国で経験出来たことは本当に良かった。あぁ、もっと全開で野辺山を走ってみたかった。
マイアミランドのコースは特殊では?
砂のコースは好き。下のカテゴリーの選手には過酷だったと思うけど、走っていて楽しかった。北米にも砂地のレースはあるけど、マイアミランドのような長い砂セクションは無い。短い砂地か、グラベルっぽい砂地か、草地に砂が混ざっている程度なんだ。だからマイアミランドの砂はどちらかというとベルギーのコクサイデに似ている。でもコクサイデはアップダウンがあって、砂がフカフカしていて難しい。
帰国後、今シーズンの予定は?
まずは体調を戻すことが何よりも大事。それからアメリカとカナダのシクロクロスレースを連戦する。カナダを含めると毎週ハイレベルなレースをこなすことが出来るんだ。レースで結果を出すと同時に、色んな場所に顔を出すことが大事だから。全米選手権の後にヨーロッパに渡ってUCIワールドカップを走り、まだ決まってないけど東京のレース(シクロクロス東京)かな。
日本のUCIレース3連戦で多くのUCIポイントを逃したのは想定外?
血眼になってUCIポイントを獲得するために来日したわけじゃない。かといってUCIレースが無ければ日本に来ていなかったと思う。もっとポイントを稼いでいれば別だけど、シーズン序盤の数レースをパスしてしまっているので、今100ポイント取ったところでUCIワールドカップのスタート順はそんなに変わらない。それよりも、長い目で見て、新しい場所で走り、新しいものを見たことが良い刺激になったよ。
text&photo:Kei Tsuji
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