11月2日に開催された「あわじ・バイク・エクスピリエンス」にゲスト選手として参加し、淡路島を走ったサムエル・サンチェス(スペイン)。長年エウスカルテル・エウスカディのエースとして走った35歳は、来シーズンの契約を結べずにいる。世界が注目する金メダリストの進退に迫る。



サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsujiインタビューを行なったのは淡路島のイベント後、ドバイ行きのエミレーツ便に乗るために関西国際空港に向かう車内。先にドバイに到着した家族やヨーロッパのエージェントと忙しなく連絡を取るサンチェスに、来シーズンについて聞いた。

スペイン国内で高い人気を誇るサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)スペイン国内で高い人気を誇るサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsuji初めて来日して日本のイメージは変わりましたか?
「毎年研修か何かで東京に行く息子の先生から、よく日本の話を聞いていた。全てが整っていて、スペインとは大違い。彼女から聞いていた通りの国だと思った。あと、街の巨大さに驚かされる。見渡す限りずーーーーっと街が続いている(笑)中国とも大きく違っていて、街が綺麗だ。キャリアで一番大きな勝利(北京五輪ロード金メダル)を掴んだのは中国だけど」

今回の来日後の予定は?
「土曜日23時半のフライトでドバイに飛んで、そこで妻と子ども2人と合流。フェルナンド・アロンソが走る日曜日午後のF1アブダビGPを観るんだ。だから今は完全にシーズンオフとしてバイクに乗らない。1年のうち250日間は家を空けているので、今が家族と過ごす大切な時間」

今シーズンを振り返って
「思うような結果は残せなかったけど、悪くないシーズンだった。それにしても悪天候続きで、スタートしてすぐに雨が降り出すレースばかりだった。そして世界選手権の落車でシーズンが終わってしまった」

世界選手権の落車の影響はまだ残っている?
「(フィレンツェの周回コースで)ハイスピードで下っている時に、前を走るエヴァンスと一緒に落車した。避けようとしたけど、左膝を地面に打ち付けてしまった。打ち所が悪ければ膝を骨折していたと医者に言われたから、自分はラッキーだったのだと思う。でも、その影響で世界選手権やロンバルディアで結果を残すことが出来なかった。良いシーズンの締めくくりを迎えることが出来なかった」

イベント参加のためだけに来日したサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)イベント参加のためだけに来日したサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsuji来シーズンに向けたトレーニング開始はいつ?
「落車後ほとんどバイクに乗っていなかったから、今回のイベントが久々のロングライドだった。チームが決まればすぐにでもトレーニングを開始する。でも現状はチーム契約が先決で、具体的にトレーニングをいつ開始出来るかは分からない」

久々のロングライドを走るサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)久々のロングライドを走るサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsujiエウスカルテル・エウスカディの解散について
「家族のようなチームの崩壊は見るに耐えなかった。でも自分には為す術がなかった。何と言ってもエウスカルテルで14年間も走ったんだ。これほど辛いことはなかった。エウスカルテルでキャリア最後の2年間を走りたいと切に願っていた。今から違うチームジャージを着ることに違和感を覚えるかも知れないけど、まだまだ走り続ける情熱とモチベーションはある」

乾杯の音頭をとるサムエル・サンチェスとイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)乾杯の音頭をとるサムエル・サンチェスとイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsuji現在35歳のあなたが契約を失っている状況をどう見ていますか?
「まだ精神的にも身体的にも、トップ選手として走る力が自分には残っている。その力がある間は当然プロとして走り続けたい。その気持ちがあったからこそ、エウスカルテルと(2015年末までの)2年契約を結んだんだ。でも残念ながら今は来シーズンに向けた他のチームからのオファーがない。職を失っている状態。本当に厳しい状況にある」

ヨーロッパで契約を獲得するのは難しい状況?
「スペインは不況で、ガソリンなど全ての生活費が高騰しているのに、平均収入は減っている。日本も不況だって?詳しくは知らないけど、不況の次元が違うと思う。そんな状況で、多くのヨーロッパチームは規模を縮小していて、トップチームは来シーズンに向けたメンバー獲得を終えている。空いているスポットはなかなか無いんだ」

2015年に結成されるとされるアロンソのチームに加わることは有り得る?
「アロンソは自分と同じアストゥリアス州オビエドの出身。良いプロジェクトだけど、チームを結成するのは2015年の話。短い期間ならまだしも、2014年シーズン丸々レースから離れて、新チームを待ち続けるのは現実的ではないよ」

選手を引退して監督になることも考えている?
「そもそも来シーズンも選手を続ける意思があることが前提だけど、(つまらなさそうな顔でハンドルを握る真似をして)1日中ずっとプロトンの後ろでチームカーを運転する仕事は性に合わない。引退して監督になりたいとは思っていない。それよりもチームマネージャーやチームの裏方の仕事に就いて、選手のトレーニングや走る環境を整えることに従事したいかな」

また日本に戻ってきてくれますか?
「今回は3日間だけの滞在だったので、また戻ってきたい!素晴らしいイベントだったし、素晴らしい体験をすることが出来た。今回が最初の来日だったけど、これが最後の来日にならないように願っている。またレース会場で会おう」。




text&photo:Kei Tsuji
Amazon.co.jp

最新ニュース(全ジャンル)