2009/07/19(日) - 12:55
すでに発売から3年目となったルック595であるが、果たして並み居るライバルと比べてどうなのだろうか? 今、ここに改めて検証してみたい。
ルックはカーボンフレームの黎明期からずっと第一線で活躍し続けるカーボンの老舗メーカーだ。何と今から23年前の1986年にフランスのラヴィクレールチームにフレームを供給し、グレッグ・レモン(アメリカ)のツール・ド・フランス初制覇に貢献している。長いツールの歴史の中でカーボンフレームが優勝バイクとなったのは、これが初めてのことだった。
以来ルックは、KG85、KG96、KG171、KG181、KG281、KG381といったニューモデルを次々とリリースし、ツール・ド・フランスを始めとする実戦に投入し続けてきた。もちろん、その勝利の数も枚挙にいとまがない。
2004年、ルックは画期的なカーボンフレーム585を発表する。それまでルックはアルミラグの強度にこだわり続けてきたが、585で初めてカーボンラグを採用したのだ。超高圧で固められたVHPC(ベリー・ハイプレッシャー・コンプレスド)カーボンラグの完成によって、アルミラグでなくてもルックの厳しい強度基準をクリアできたのである。
さらに585では、通常のHM(ハイモジュラス)カーボンよりもさらに高弾性なVHM (ベリー・ハイモジュラス)カーボンチューブを採用し、フレーム単体重量990gという超軽量を実現している。
そして2006年、ルックは585の技術をさらに昇華させ、究極のカーボンバイクとも言える595を完成させたのである。VHMカーボンチューブ、VHPCカーボンラグはもちろんのこと、フレームと一体でデザインされたインテグラルシートポスト「E-POST」も採用した。
E-POSTはただのインテグラルシートポストではない。黒(ハード)、赤(ミディアム)、グレー(ソフト)の3種類のエラストマーが用意され、好みの剛性に調整することが可能なのだ。こんな凝った機構のインテグラルシートポストも他にないだろう。
心配な調整機能もE-POSTでは万全だ。シートチューブ切断後も、付属のスペーサー(1.25mm、2.5mm、5mm、10mm)により最大30mmまで調整可能なのである。これだけの調整幅があれば、厚みの違うサドルへの交換にも十分対応できる。
フォークはHSC6まで進化している。HSC6でついに下側のベアリングを1-1/4インチに大型化。これによって、ブレーキ性能、路面追従性能、ハンドリング性能は一段と向上しているという。もちろん、ドロップアウトからコラムまでフルカーボンだ。強度基準の厳しいルックゆえ、世界で最も厳格なEN14781安全基準をクリアしているので、強度面でも安心。
2009年モデルではHEAD FITシステムの導入により、フレーム全体で40gの軽量化が施された。フレーム+フォーク重量は1390g(Sサイズ、フルサイズシート長フレーム1040g/フォーク350g)という驚くべき超軽量を実現している。
今回インプレしたのは595のノーマルバージョンだが、カーボンシートの積層方向や弾性率を変更することにより15%剛性アップした「ウルトラバージョン」も用意されている。よりシャープなレスポンスが好みのライダーは、こちらを選ぶというのも良いだろう。
― インプレッション ―
「上級者用の究極のロードバイクだ」 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
私は以前、595ウルトラに乗っていたことがあるのだが、今回インプレしてみてこのノーマルバージョンの方が好みだった。今なら間違いなくこちらを選ぶだろう。今まで乗っていたバイクであるにもかかわらず、非常に新鮮な感動を覚えた。
剛性感はかなり高めだ。ウルトラバージョンがあるとはいえ、この剛性感の高さはたいていのバイクを凌駕している。かなり硬めのバイクが好きな人でも、ノーマルバージョンで十分なのではないだろうか。
踏み込んだときの反応が非常に良い。よくインプレで「踏んだ分だけ前に進む」という表現をするが、このバイクは「踏んだ分以上にスイスイ進む」感覚だ。レース用バイクとして、とても素晴らしいフィーリングだと思う。こんなに気持ちの良い加速感を示すバイクはあまりない。
反面、振動吸収性は少々犠牲にしている。路面が荒れているところでは、路面の凹凸が結構手に伝わってくるのだ。それでも不快というレベルではないので、これは我慢できる。そもそも剛性感の高いレーシングバイクであるから、これは文句を言う部分ではない。
ハンドリングは素直で、まったくクセがない。非常にニュートラルなハンドリングだ。したがって、初心者でも緊張感を強いられることなくコーナリングをするこができるだろう。
ブレーキングで少々ビビりがあった。しかし、これはインプレ車に装着されていたシマノのカーボンホイールとブレーキシューとの相性の問題だ。コリマのコルクシューなどに交換すれば、ピタッと収まると思われる。
ほどんど死角が見あたらないバイクであるが、あえて難点を挙げるとすればシートポストの取り扱いの難しさか。この方式だと少々重たくなるし、メンテナンス性も高いとは言えない。まあ、ポジションが決まってしまえばいじる部分ではないのだが、小柄なライダーではシートが下げられずにポジションが出せないということもある。
それ以外は、ほとんど死角らしい死角がない。発売から3年がたっているが、その魅力は少しも色あせていない。上級者用の究極のロードバイクとして、自信を持ってオススメすることができる。
「素晴らしい乗り味。これぞカーボンバイクだ」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
595が初めて日本にデリバリーされたのは2006年のこと。つまり、もう発売から3年が過ぎているバイクなのだが、相変わらず素晴らしい乗り味だ。「カーボンフレームはこうあるべき」という見本のようなバイクだろう。
VHM(ベリー・ハイモジュラス)カーボンの採用により乗り味はかなり硬めなのだが、ショック吸収性もそれほど犠牲にしていないのはさすがルック。本当に絶妙な乗り味である。
ヒミツはチューブの外径にある。今のカーボンバイクの多くはHM(ハイモジュラス)カーボンの薄肉大径チューブがトレンドになっているが、ルックのチューブ外径はそれほど大きくない。より高弾性なVHMカーボンで剛性を稼いでいるのだ。
チューブの外径を大きくすれば剛性が上がるのは当たり前、薄肉にすれば軽くなるのは当たり前である。しかし、ルックはあえて外径を抑え、肉厚も極端に薄くはせず、VHMカーボンで剛性を上げているのだ。コストはかかるが、引き替えに「剛性感が高く、振動吸収性もある」という素晴らしい乗り味が実現できる訳だ。
踏み出しの軽さも素晴らしい。まるで後ろから押されているかのように、グングン加速してくれる。スプリントのかかりも良いので、ホビーレースでスプリント勝負になった時にも強い味方になってくれることだろう。
そして、上りも気持ちよい。ダンシングをするとバネ感も感じられるので、自分のペダリングのリズムとシンクロさせれば本当に気持ちよく上っていける。シートポストやシートステーにエアロ形状を採用しているが、ヒルクライムバイクとしても第一級の性能だ。
とにかく、本当に素晴らしい乗り味のバイクだ。これぞまさにカーボンバイク。値段が高いこと以外、これといった弱点が見あたらない。いや、これだけの内容を持ったバイクであるから、この価格でもリーズナブルだ。一度乗ったら、間違いなく誰でも欲しくなってしまうだろう。
<ルック595 スペック>
フレーム VHM(ベリー・ハイモジュラス・カーボン)
シートポスト E-POST
フォーク ルック・HSC6
ヘッドパーツ HEAD FITシステム
カラー プロチーム、レッド、ウルトラ(ブラック/ホワイト)
サイズ 49、54、53、55、57
重量 1390g(Sサイズ、フルサイズシート長フレーム1040g/フォーク350g)
希望小売価格(税込み) 499,800円(フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
www.o-vest.com
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
ウェア協力:カステリ(インターマックス)、カンパニョーロ
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
ルックはカーボンフレームの黎明期からずっと第一線で活躍し続けるカーボンの老舗メーカーだ。何と今から23年前の1986年にフランスのラヴィクレールチームにフレームを供給し、グレッグ・レモン(アメリカ)のツール・ド・フランス初制覇に貢献している。長いツールの歴史の中でカーボンフレームが優勝バイクとなったのは、これが初めてのことだった。
以来ルックは、KG85、KG96、KG171、KG181、KG281、KG381といったニューモデルを次々とリリースし、ツール・ド・フランスを始めとする実戦に投入し続けてきた。もちろん、その勝利の数も枚挙にいとまがない。
2004年、ルックは画期的なカーボンフレーム585を発表する。それまでルックはアルミラグの強度にこだわり続けてきたが、585で初めてカーボンラグを採用したのだ。超高圧で固められたVHPC(ベリー・ハイプレッシャー・コンプレスド)カーボンラグの完成によって、アルミラグでなくてもルックの厳しい強度基準をクリアできたのである。
さらに585では、通常のHM(ハイモジュラス)カーボンよりもさらに高弾性なVHM (ベリー・ハイモジュラス)カーボンチューブを採用し、フレーム単体重量990gという超軽量を実現している。
そして2006年、ルックは585の技術をさらに昇華させ、究極のカーボンバイクとも言える595を完成させたのである。VHMカーボンチューブ、VHPCカーボンラグはもちろんのこと、フレームと一体でデザインされたインテグラルシートポスト「E-POST」も採用した。
E-POSTはただのインテグラルシートポストではない。黒(ハード)、赤(ミディアム)、グレー(ソフト)の3種類のエラストマーが用意され、好みの剛性に調整することが可能なのだ。こんな凝った機構のインテグラルシートポストも他にないだろう。
心配な調整機能もE-POSTでは万全だ。シートチューブ切断後も、付属のスペーサー(1.25mm、2.5mm、5mm、10mm)により最大30mmまで調整可能なのである。これだけの調整幅があれば、厚みの違うサドルへの交換にも十分対応できる。
フォークはHSC6まで進化している。HSC6でついに下側のベアリングを1-1/4インチに大型化。これによって、ブレーキ性能、路面追従性能、ハンドリング性能は一段と向上しているという。もちろん、ドロップアウトからコラムまでフルカーボンだ。強度基準の厳しいルックゆえ、世界で最も厳格なEN14781安全基準をクリアしているので、強度面でも安心。
2009年モデルではHEAD FITシステムの導入により、フレーム全体で40gの軽量化が施された。フレーム+フォーク重量は1390g(Sサイズ、フルサイズシート長フレーム1040g/フォーク350g)という驚くべき超軽量を実現している。
今回インプレしたのは595のノーマルバージョンだが、カーボンシートの積層方向や弾性率を変更することにより15%剛性アップした「ウルトラバージョン」も用意されている。よりシャープなレスポンスが好みのライダーは、こちらを選ぶというのも良いだろう。
― インプレッション ―
「上級者用の究極のロードバイクだ」 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
私は以前、595ウルトラに乗っていたことがあるのだが、今回インプレしてみてこのノーマルバージョンの方が好みだった。今なら間違いなくこちらを選ぶだろう。今まで乗っていたバイクであるにもかかわらず、非常に新鮮な感動を覚えた。
剛性感はかなり高めだ。ウルトラバージョンがあるとはいえ、この剛性感の高さはたいていのバイクを凌駕している。かなり硬めのバイクが好きな人でも、ノーマルバージョンで十分なのではないだろうか。
踏み込んだときの反応が非常に良い。よくインプレで「踏んだ分だけ前に進む」という表現をするが、このバイクは「踏んだ分以上にスイスイ進む」感覚だ。レース用バイクとして、とても素晴らしいフィーリングだと思う。こんなに気持ちの良い加速感を示すバイクはあまりない。
反面、振動吸収性は少々犠牲にしている。路面が荒れているところでは、路面の凹凸が結構手に伝わってくるのだ。それでも不快というレベルではないので、これは我慢できる。そもそも剛性感の高いレーシングバイクであるから、これは文句を言う部分ではない。
ハンドリングは素直で、まったくクセがない。非常にニュートラルなハンドリングだ。したがって、初心者でも緊張感を強いられることなくコーナリングをするこができるだろう。
ブレーキングで少々ビビりがあった。しかし、これはインプレ車に装着されていたシマノのカーボンホイールとブレーキシューとの相性の問題だ。コリマのコルクシューなどに交換すれば、ピタッと収まると思われる。
ほどんど死角が見あたらないバイクであるが、あえて難点を挙げるとすればシートポストの取り扱いの難しさか。この方式だと少々重たくなるし、メンテナンス性も高いとは言えない。まあ、ポジションが決まってしまえばいじる部分ではないのだが、小柄なライダーではシートが下げられずにポジションが出せないということもある。
それ以外は、ほとんど死角らしい死角がない。発売から3年がたっているが、その魅力は少しも色あせていない。上級者用の究極のロードバイクとして、自信を持ってオススメすることができる。
「素晴らしい乗り味。これぞカーボンバイクだ」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
595が初めて日本にデリバリーされたのは2006年のこと。つまり、もう発売から3年が過ぎているバイクなのだが、相変わらず素晴らしい乗り味だ。「カーボンフレームはこうあるべき」という見本のようなバイクだろう。
VHM(ベリー・ハイモジュラス)カーボンの採用により乗り味はかなり硬めなのだが、ショック吸収性もそれほど犠牲にしていないのはさすがルック。本当に絶妙な乗り味である。
ヒミツはチューブの外径にある。今のカーボンバイクの多くはHM(ハイモジュラス)カーボンの薄肉大径チューブがトレンドになっているが、ルックのチューブ外径はそれほど大きくない。より高弾性なVHMカーボンで剛性を稼いでいるのだ。
チューブの外径を大きくすれば剛性が上がるのは当たり前、薄肉にすれば軽くなるのは当たり前である。しかし、ルックはあえて外径を抑え、肉厚も極端に薄くはせず、VHMカーボンで剛性を上げているのだ。コストはかかるが、引き替えに「剛性感が高く、振動吸収性もある」という素晴らしい乗り味が実現できる訳だ。
踏み出しの軽さも素晴らしい。まるで後ろから押されているかのように、グングン加速してくれる。スプリントのかかりも良いので、ホビーレースでスプリント勝負になった時にも強い味方になってくれることだろう。
そして、上りも気持ちよい。ダンシングをするとバネ感も感じられるので、自分のペダリングのリズムとシンクロさせれば本当に気持ちよく上っていける。シートポストやシートステーにエアロ形状を採用しているが、ヒルクライムバイクとしても第一級の性能だ。
とにかく、本当に素晴らしい乗り味のバイクだ。これぞまさにカーボンバイク。値段が高いこと以外、これといった弱点が見あたらない。いや、これだけの内容を持ったバイクであるから、この価格でもリーズナブルだ。一度乗ったら、間違いなく誰でも欲しくなってしまうだろう。
<ルック595 スペック>
フレーム VHM(ベリー・ハイモジュラス・カーボン)
シートポスト E-POST
フォーク ルック・HSC6
ヘッドパーツ HEAD FITシステム
カラー プロチーム、レッド、ウルトラ(ブラック/ホワイト)
サイズ 49、54、53、55、57
重量 1390g(Sサイズ、フルサイズシート長フレーム1040g/フォーク350g)
希望小売価格(税込み) 499,800円(フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
www.o-vest.com
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
ウェア協力:カステリ(インターマックス)、カンパニョーロ
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
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