2013/07/12(金) - 18:37
スタート地点にやって来たオメガファーマ・クイックステップのバスには報道陣の人だかりができた。昨日の主役トニ・マルティンの存在よりも、今日の主役になるだろうマーク・カヴェンディッシュに注目しているからだ。そしてサンマロで引き起こした落車が後を引いている。
カヴは昨日の個人TT走行中に心ない観客からボトルに入った尿を浴びせられるという嫌がらせを受けた。一昨日のトム・フィーラース(アルゴス・シマノ)の落車に怒っているファンからだという。ルフェーブルGMは言う「昨日のカヴの走りを良く思っていない観客もいて、馬鹿者からひどい仕打ちを受けた。カヴは怒っていたが、すぐにそれを真に受けるべきじゃないと思った。正しい判断だと思う。」
ツール閉幕後にオランダで開催されるポストクリテリムがカヴの招待取り消しを発表したことを受け、総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏と競技委員長のジャンフランソワ・ペシュー氏もカヴェンディッシュを訪問し、A.S.Oの態度が変わらないことを示した。
フィーラースとは昨日のうちにツイッターでの謝罪メッセージに加え電話で話し、お互いに問題が無いことを確認したというカヴ。「ナイスと言えないことが起きたけど、サイクリングは観客と近いスポーツ。ファンが多いこと、とりわけイギリスのファンの応援には本当に喜びを感じながら走っている。」
そして「今日はビッグスプリントが待っている。パリ〜トゥールではまだ勝ったことがないけれど、スプリンターにとってトゥールで勝つことには特別な意味がある。ぜひ勝ちたいね。」と話し、意気込む。いつにない笑顔でスタート地点に向かった。
しのぎやすい気温だが今日も晴天が続く。フォルジェールの街をぐるりと回りスタートしたプロトンは一路トゥールを目指し直線的に進んでいく。マイエンヌからサルト県へ、そしてロワール川流れるトゥールへ。
直線路が単調に続くイージーなコースのステージだが、落車の危険が常にあるツールならではの光景は、各チームが集団のなかでそれぞれのチームごとに集結して走っていることだ。メイン集団の先頭を固めるマイヨジョーヌ擁するスカイの後ろには、今日ステージに意欲を見せるオメガファーマ、アルゴスが。
そして2位のバルベルデ擁するモビスター、コンタドールを包囲するサクソ・ティンコフが。それぞれのリーダーを守るために一塊となって走る。総合やステージ勝利を諦めていないチームの姿勢はその様子を見れば分かる。
ツール最速の男、カヴが負けを認める
ゴール地点はパリ〜トゥールのゴール地点として有名なグラモン大通りとは違うところに設定されたが、それでもラスト450mは道幅7mの広々とした直線路。一昨日のサンマロへのゴール状況に続き、選手たちの後方から強い追い風が吹いている状態。高速が長く維持できるスプリンターに有利な状況だった。
落車によってグライペルがストップ。オメガファーマ・クイックステップとアルゴス・シマノの勝負になった。ヘルト・ステーグマンのリードアウトによって飛び出したカヴが他のスプリンターたちに先んじて早めのスプリントを開始したが、最速のはずのカヴをキッテルが追い込み、ゴール寸前で交わした。
ジョン・デゲンコルブによれば、アルゴス・シマノのトレインのベストなリードアウトは、デゲンコルブらがラスト500mまで可能な限り列車をいい位置まで引きあげ、最終スプリントへの発射台をつとめるトム・フィーラース(オランダ)にバトンタッチ。フィーラースがラスト200mでキッテルを解き放つことだという。
しかしこの日は「話題の人」フィーラースの調子が良く無く、急遽代役としてクーン・デコルト(オランダ)が最終発射台をつとめた。しかし早めに牽引のデコルトがいなくなったため、キッテルもマッテーオ・トレンティン(オメガファーマ・クイックステップ)の後輪を利用し、次にカヴの後輪に乗り換え、最高のタイミングが来るのを待った。
加速力で優るカヴが、ビッグパワーでスピードを維持するキッテルに負けてしまった。カヴにとっては自信過剰の、早すぎたスプリント開始に見えた。キッテルの後輪につけて加速を生かした勝負をすれば勝ち目はあったように思えるが、そう出来なかったのはフィーラースとの一件が影響したか。
ツール最速のカヴが負けた。コルシカでの第1ステージはラスト30kmで落車したことがスプリントに影響した。第10ステージではフィーラースと絡んで勝負に陰りが出た。しかしこのステージはキッテルとの真っ向勝負で追い抜かされた。ツールのゴールスプリントで圧勝を続けてきたカヴが負ける。今までの5年間のツールで最速スプリンターの名前を欲しいままにしてきたカヴがこうしたカタチで負けるのは、当たり前に勝つことよりも「ニュース」だ。
歓喜に包まれるアルゴス・シマノに並んだオメガファーマ・クイックステップのバスでは、着替えを済ませたカヴがメディアの取材に応じた。しかも笑顔で、機嫌は損ねていない様子で。「キッテルはただ僕よりも速かった。ただそれだけのことだ。チームは出来るだけのことはやったし、完璧だった。僕らとアルゴスの決闘だった。それで彼が僕よりも速かったんだ。単に僕より彼が速い場合、打つ手はないね。」
アルゴス・シマノのGM、イワン・スペークンブリンク氏は満足気だ。「今このツールという世界最高の舞台で最高の位置に居る。まさに夢のようだね。でもこの日のためにチームはたくさんの準備を重ねてきた。科学的な解析など、あらゆる手法を重ねて進歩してきたんだ。チームが小さなスタートを切ってから、そして2006年に僕がチームを引き継いで(GMに就任)から、ずっと夢見てきたこと。こんな日が本当に来るなんて。」
「でもこの夢は信じていた夢でもある。もし100%の力が出せれば、勝利は近づいてくると信じていた。だからこの日が来ることは信じて疑わなかった。我々は実現するために必要なステップを正しく踏んできたんだ。マルセルは最初、タイムトライアルの選手としてチームと契約している。それが彼のデータをチェックしたところ、驚くべき大きなパワーを持っていることがわかり、スプリンターとして行くことにしたんだ。」
「それ以来、彼はあらゆるアプローチで進歩してきた。そしてアルゴス・シマノが力を見せるステージはまだある。」2009年にスキル・シマノとしてツールに初出場したチームは、今ツールの注目の的だ。チームにはもう一人の勝てるオプションとして、登れるスプリンターのデゲンコルブがいる。
丸坊主になる約束をしたデコルト
監督たちがインタビューに答えるその脇で、ローラー台を回すクーン・デコルト(オランダ)も注目の的だ。キッテルがツールでステージ3勝をあげたら頭を丸めるという約束をしていたが、その3勝が現実のものとなってしまった。どころか、今日はスプリント列車の最終発射台を急遽つとめるという名誉のポジションもついてきた。カーリーヘアの金髪が美しい色男だ。
デコルトは「あぁ、なんて約束をしちゃったんだ。でも約束は約束。こんなうれしい約束なら果たさない手はないね。今夜が本当に楽しみだ。あぁ、オーマイガッ!」と早口でまくし立てながら、楽しそうにローラーを回す。明日、丸坊主のデコルトに会うのを楽しみにしておこう。
左指を深く切る怪我を負ったユキヤ
ラスト3kmで発生した落車に巻き込まれた新城幸也(ユーロップカー)は、メディカルカーによる治療を受け、左手の出血を抑えるためにガーゼの応急処置をした状態でゴールまで帰ってきた。「やってしまった」という表情を浮かべつつも、慌ててはいなかった。
前で転んだ選手たちに突っ込み、手が自転車のリアメカ周辺に入ってしまったのが原因。怪我は左指の中指と、人差し指の第1関節と第2関節の間を深くえぐる切り傷。思わず「穴が開いちゃったよ」と叫んだほどだったという。出血が多く、縫合が必要だろうとのことだが、ユーロップカーにはチーム内に治療ができるドクターが居るため、ホテルでの治療となりそうだ。
「出血が多いのが気になるけど、脚のほうは元気だから大丈夫、明日も走るよ! ホントは明日がチャンスだと思っていたんだけど、怪我の様子をみながら頑張ります。ご心配おかけしてすいません」とユキヤ。幸いブレーキを掛けるときに影響の少ない左手の怪我(ユキヤは右/前ブレーキ)であるのが救いだ。
今までのツールで怪我に見舞われることは少なかったユキヤだが、落車の怪我といえば初出場の2009年ツール第6ステージでの落車での尻もち状態でバルセロナの路上に落ち、最後まで影響を引きずったことがある。影響が出ないことを祈ろう。
ボアッソンハーゲンのリタイアでスカイは7人に
落車して肩の骨を骨折が判明、リタイアを決めたエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)。ドクターによれば手術の必要はないが、夏の終わりまではレースに出れないだろうとのこと。ノルウェーの自宅に戻り療養する。ヴァシル・キリエンカがピレネーでタイムアウト失格になり、スカイはこれで7人体制に。最強の軍団のチーム力に不安が出てきた。
スカイのブレイルスフォードGMは言う。「エドヴァルドのリタイアは本当に残念だ。彼のような能力のある選手の離脱はチームにとっては大きな損失になる。しかし彼がいなくても依然我々は残りの選手たちでレースをやりぬく自信がある。プランは変わらず、フルームを全力でサポートする」。
photo&text:Makoto.AYANO
カヴは昨日の個人TT走行中に心ない観客からボトルに入った尿を浴びせられるという嫌がらせを受けた。一昨日のトム・フィーラース(アルゴス・シマノ)の落車に怒っているファンからだという。ルフェーブルGMは言う「昨日のカヴの走りを良く思っていない観客もいて、馬鹿者からひどい仕打ちを受けた。カヴは怒っていたが、すぐにそれを真に受けるべきじゃないと思った。正しい判断だと思う。」
ツール閉幕後にオランダで開催されるポストクリテリムがカヴの招待取り消しを発表したことを受け、総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏と競技委員長のジャンフランソワ・ペシュー氏もカヴェンディッシュを訪問し、A.S.Oの態度が変わらないことを示した。
フィーラースとは昨日のうちにツイッターでの謝罪メッセージに加え電話で話し、お互いに問題が無いことを確認したというカヴ。「ナイスと言えないことが起きたけど、サイクリングは観客と近いスポーツ。ファンが多いこと、とりわけイギリスのファンの応援には本当に喜びを感じながら走っている。」
そして「今日はビッグスプリントが待っている。パリ〜トゥールではまだ勝ったことがないけれど、スプリンターにとってトゥールで勝つことには特別な意味がある。ぜひ勝ちたいね。」と話し、意気込む。いつにない笑顔でスタート地点に向かった。
しのぎやすい気温だが今日も晴天が続く。フォルジェールの街をぐるりと回りスタートしたプロトンは一路トゥールを目指し直線的に進んでいく。マイエンヌからサルト県へ、そしてロワール川流れるトゥールへ。
直線路が単調に続くイージーなコースのステージだが、落車の危険が常にあるツールならではの光景は、各チームが集団のなかでそれぞれのチームごとに集結して走っていることだ。メイン集団の先頭を固めるマイヨジョーヌ擁するスカイの後ろには、今日ステージに意欲を見せるオメガファーマ、アルゴスが。
そして2位のバルベルデ擁するモビスター、コンタドールを包囲するサクソ・ティンコフが。それぞれのリーダーを守るために一塊となって走る。総合やステージ勝利を諦めていないチームの姿勢はその様子を見れば分かる。
ツール最速の男、カヴが負けを認める
ゴール地点はパリ〜トゥールのゴール地点として有名なグラモン大通りとは違うところに設定されたが、それでもラスト450mは道幅7mの広々とした直線路。一昨日のサンマロへのゴール状況に続き、選手たちの後方から強い追い風が吹いている状態。高速が長く維持できるスプリンターに有利な状況だった。
落車によってグライペルがストップ。オメガファーマ・クイックステップとアルゴス・シマノの勝負になった。ヘルト・ステーグマンのリードアウトによって飛び出したカヴが他のスプリンターたちに先んじて早めのスプリントを開始したが、最速のはずのカヴをキッテルが追い込み、ゴール寸前で交わした。
ジョン・デゲンコルブによれば、アルゴス・シマノのトレインのベストなリードアウトは、デゲンコルブらがラスト500mまで可能な限り列車をいい位置まで引きあげ、最終スプリントへの発射台をつとめるトム・フィーラース(オランダ)にバトンタッチ。フィーラースがラスト200mでキッテルを解き放つことだという。
しかしこの日は「話題の人」フィーラースの調子が良く無く、急遽代役としてクーン・デコルト(オランダ)が最終発射台をつとめた。しかし早めに牽引のデコルトがいなくなったため、キッテルもマッテーオ・トレンティン(オメガファーマ・クイックステップ)の後輪を利用し、次にカヴの後輪に乗り換え、最高のタイミングが来るのを待った。
加速力で優るカヴが、ビッグパワーでスピードを維持するキッテルに負けてしまった。カヴにとっては自信過剰の、早すぎたスプリント開始に見えた。キッテルの後輪につけて加速を生かした勝負をすれば勝ち目はあったように思えるが、そう出来なかったのはフィーラースとの一件が影響したか。
ツール最速のカヴが負けた。コルシカでの第1ステージはラスト30kmで落車したことがスプリントに影響した。第10ステージではフィーラースと絡んで勝負に陰りが出た。しかしこのステージはキッテルとの真っ向勝負で追い抜かされた。ツールのゴールスプリントで圧勝を続けてきたカヴが負ける。今までの5年間のツールで最速スプリンターの名前を欲しいままにしてきたカヴがこうしたカタチで負けるのは、当たり前に勝つことよりも「ニュース」だ。
歓喜に包まれるアルゴス・シマノに並んだオメガファーマ・クイックステップのバスでは、着替えを済ませたカヴがメディアの取材に応じた。しかも笑顔で、機嫌は損ねていない様子で。「キッテルはただ僕よりも速かった。ただそれだけのことだ。チームは出来るだけのことはやったし、完璧だった。僕らとアルゴスの決闘だった。それで彼が僕よりも速かったんだ。単に僕より彼が速い場合、打つ手はないね。」
アルゴス・シマノのGM、イワン・スペークンブリンク氏は満足気だ。「今このツールという世界最高の舞台で最高の位置に居る。まさに夢のようだね。でもこの日のためにチームはたくさんの準備を重ねてきた。科学的な解析など、あらゆる手法を重ねて進歩してきたんだ。チームが小さなスタートを切ってから、そして2006年に僕がチームを引き継いで(GMに就任)から、ずっと夢見てきたこと。こんな日が本当に来るなんて。」
「でもこの夢は信じていた夢でもある。もし100%の力が出せれば、勝利は近づいてくると信じていた。だからこの日が来ることは信じて疑わなかった。我々は実現するために必要なステップを正しく踏んできたんだ。マルセルは最初、タイムトライアルの選手としてチームと契約している。それが彼のデータをチェックしたところ、驚くべき大きなパワーを持っていることがわかり、スプリンターとして行くことにしたんだ。」
「それ以来、彼はあらゆるアプローチで進歩してきた。そしてアルゴス・シマノが力を見せるステージはまだある。」2009年にスキル・シマノとしてツールに初出場したチームは、今ツールの注目の的だ。チームにはもう一人の勝てるオプションとして、登れるスプリンターのデゲンコルブがいる。
丸坊主になる約束をしたデコルト
監督たちがインタビューに答えるその脇で、ローラー台を回すクーン・デコルト(オランダ)も注目の的だ。キッテルがツールでステージ3勝をあげたら頭を丸めるという約束をしていたが、その3勝が現実のものとなってしまった。どころか、今日はスプリント列車の最終発射台を急遽つとめるという名誉のポジションもついてきた。カーリーヘアの金髪が美しい色男だ。
デコルトは「あぁ、なんて約束をしちゃったんだ。でも約束は約束。こんなうれしい約束なら果たさない手はないね。今夜が本当に楽しみだ。あぁ、オーマイガッ!」と早口でまくし立てながら、楽しそうにローラーを回す。明日、丸坊主のデコルトに会うのを楽しみにしておこう。
左指を深く切る怪我を負ったユキヤ
ラスト3kmで発生した落車に巻き込まれた新城幸也(ユーロップカー)は、メディカルカーによる治療を受け、左手の出血を抑えるためにガーゼの応急処置をした状態でゴールまで帰ってきた。「やってしまった」という表情を浮かべつつも、慌ててはいなかった。
前で転んだ選手たちに突っ込み、手が自転車のリアメカ周辺に入ってしまったのが原因。怪我は左指の中指と、人差し指の第1関節と第2関節の間を深くえぐる切り傷。思わず「穴が開いちゃったよ」と叫んだほどだったという。出血が多く、縫合が必要だろうとのことだが、ユーロップカーにはチーム内に治療ができるドクターが居るため、ホテルでの治療となりそうだ。
「出血が多いのが気になるけど、脚のほうは元気だから大丈夫、明日も走るよ! ホントは明日がチャンスだと思っていたんだけど、怪我の様子をみながら頑張ります。ご心配おかけしてすいません」とユキヤ。幸いブレーキを掛けるときに影響の少ない左手の怪我(ユキヤは右/前ブレーキ)であるのが救いだ。
今までのツールで怪我に見舞われることは少なかったユキヤだが、落車の怪我といえば初出場の2009年ツール第6ステージでの落車での尻もち状態でバルセロナの路上に落ち、最後まで影響を引きずったことがある。影響が出ないことを祈ろう。
ボアッソンハーゲンのリタイアでスカイは7人に
落車して肩の骨を骨折が判明、リタイアを決めたエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)。ドクターによれば手術の必要はないが、夏の終わりまではレースに出れないだろうとのこと。ノルウェーの自宅に戻り療養する。ヴァシル・キリエンカがピレネーでタイムアウト失格になり、スカイはこれで7人体制に。最強の軍団のチーム力に不安が出てきた。
スカイのブレイルスフォードGMは言う。「エドヴァルドのリタイアは本当に残念だ。彼のような能力のある選手の離脱はチームにとっては大きな損失になる。しかし彼がいなくても依然我々は残りの選手たちでレースをやりぬく自信がある。プランは変わらず、フルームを全力でサポートする」。
photo&text:Makoto.AYANO
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