地中海の太陽が降り注ぐ、マルセイユのビューポート。第3ステージのスタート地点はちょっとした騒ぎになっていた。ユキヤのステージ5位に沸いたのは日本人メディアたち。しかしその騒ぎから広まるように、海外メディアが注目し始めた!

海外メディアの取材攻勢

前日5位に入った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)には報道陣が詰めかける前日5位に入った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)には報道陣が詰めかける photo:Makoto Ayanoまず朝のレキップ紙に「Premiere manche : Arashiro =第1戦はアラシロの勝ち」という記事が載った。これは別府史之との日本人対決で、まずは新城が勝ったという内容の小記事。これが火種になった。2人の動きを追いかけるように動く日本人メディアの動きを他のメディアの人達が面白がっていることも、そのきっかけになったか。

ユキヤがチームバスから出てくるのを日本人メディア陣が待っていると、そのそれぞれの日本人記者を捕まえては、ユキヤのプロフィール、経歴、どんな選手なのかを取材しはじめる。新聞社に通信社、テレビが代わる代わるやってきては、話を聞いてくる。

ツール・ド・フランスのロゴの前でポーズをとる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ツール・ド・フランスのロゴの前でポーズをとる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayano待ち時間だからいいにしろ、こちらもその対応に追われるようになってしまった。ウレシイ悲鳴だ。

ユキヤがまだ5年ぐらいのキャリアしかないこと。フランスで走っていたこと、石垣島出身であることなど、細かく説明した。加えて海外メディアが知りたがるのは日本における自転車競技の人気度。熱を帯びてきていることは確実だけれど、やはりまだまだメジャースポーツとはいえない。

日本中がそれに夢中というわけではないが、ただ、石垣島の新城一家は連日TV観戦をしながら流れで宴会が始まる毎日を送っていること、島じゅうが大きく盛り上がっている(と伝え聞いた)ことなどを話した。

ボトルを背中に詰め込んで集団を目指す新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ボトルを背中に詰め込んで集団を目指す新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayanoスキル・シマノの今西コーチ、そして私と、通算1時間は質問攻めにしてくるベルギーの通信社の記者に逆に質問すれば、「国全体が自転車ファンともいえるベルギーやオランダ語圏の国民は有名選手のプロフィールを深く知りたがるので、詳しく知りたいんだ」とのこと。

「シチリア出身のヴィスコンティが熱狂的な人気があるのと同じようなもの。日本ではまだ石垣島限定、自転車ファン限定の話題だけれど、この活躍をきっかけに国中のフィーバーにつながる可能性がある。日本はそういう国」と答えておいた。

ユーロスポーツのTVクルーは新城を捉まえて日本語でメッセージをしゃべらせた。こちらはヨーロッパ発の多国籍への放送。世界的なアピールだ。

新城がサイン台に動けばカメラマンが一緒に走り、写真へのポーズをせがむ。私も位置取りのバトルをして撮りたいところを、ちょっと譲ってもいいかな、という気になる。その加熱した様子をサイン台の上から見ていたアナウンサーのマンジャスさんは「すごい注目度! ユキヤ、今日は勝つんだろう?」とからかった。

日本のメディアに代わって海外メディアからの取材ラッシュに、新城の負担はかなりのものに思えた。欧米系の選手がステージ5位になったところでニュースにならないが、日本人、アジア人だとそれはツール・ド・フランス的にはサプライズなのだということを、身をもって実感した。


マルセイユでの経験を生かしたフミ

新調したチームバスから出てきた別府史之(日本、スキル・シマノ)新調したチームバスから出てきた別府史之(日本、スキル・シマノ) photo:Makoto Ayanoいっぽうのフミは第2の故郷マルセイユにきて上機嫌だ。こちらはメディアより地元の友人・知人の訪問を受けてその対応を楽しんでいたようだった。マルセイユの出身チーム「ラポム・マルセイユ」のチーム員や監督などと久しぶりの交流をしたようだが、ここで改めてミストラルについてのアドバイスを受けたのだろう。

スキル・シマノにはスプリンターのケニー・ロバート・ファンヒュンメルがいる。今春多くのレースでゴールスプリントを制し、ヨーロッパツアーの総合ポイントリーダーになっているが、メンバーの揃ったツール・ド・フランスでのポテンシャルは未知数。チーム監督に聞けばおそらくはトップ5位以内、そしてステージ勝利に絡める実力があるだろうとのこと。

エーススプリンターのファンケニーロバート・ファンヒュンメル(オランダ、スキル・シマノ)エーススプリンターのファンケニーロバート・ファンヒュンメル(オランダ、スキル・シマノ) photo:Makoto Ayano今シーズンはウェイトトレーニングを重点的に行い、ボリュームを増したそうだ。ちなみに昨年、日本のシマノ鈴鹿ロードにも招待され、出場した。(でも落車の影響もあって盛一大(愛三工業)に負けてしまい、かなり落ち込んだそう。しかし盛がトラック・ワールドカップの入賞者であることを知って持ち直したそうだ)。

フミはケニーをスプリント勝負に持ち込ませるための列車要員でもある。単身逃げに乗れば自分の可能性を追求し、集団の展開になればチームのために力を使う。それがタスクだ。

この日は私と一緒に取材に帯同している別府始さん(スポーツジャーナリスト)がジャーナリストモトの後席に乗ることになり、プロトンの前後をオートバイで走ることになった。

私は2007年のツールのマルセイユ〜モンペリエステージでプレスモトに乗ったが、この日のステージのコースは2年前とかなりの部分同じコースを走る。その際に感じたのは熱射のような日差しと、常に同じ方向から吹き付ける海風、ミストラルだ。

コース脇の通信社の車が(熱で?)発火して炎上する事故があったし、負傷でタイム差を失っていたヴィノクロフとアスタナが奇襲攻撃を仕掛け、集団をバラバラに分断してしまった。当時出場した選手もその記憶はあるだろう。


分断した集団。フミの指示でスキル・シマノは先頭集団に6人が入った

優勝したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームコロンビア・HTC)にトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)が手を伸ばす優勝したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームコロンビア・HTC)にトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)が手を伸ばす photo:Makoto Ayanoフミを含む逃げが決まった。というより、コロンビアの動きもとくに奇襲ではなく、自然に決まったことのようだった。それにうまく乗ったのがスキル・シマノ。6人の選手を送り込むことに成功した。

海沿いの道に出て、コースの右折に伴って横風に代わる。それが1km続く区間で集団はバラバラに分断されてしまった。

ステージ8位でゴールする別府史之(日本、スキル・シマノ)ステージ8位でゴールする別府史之(日本、スキル・シマノ) photo:Makoto Ayanoチームコロンビアは先頭に集結して、前の逃げを吸収しようというつもりのペースアップだったようだが、フミが横風の危険を察知してチームメイトたちに集団の前に上がるように手を挙げて指示を出し、選手たちはチームコロンビアの後ろ、アスタナの前の割り込んだ。そしてその後、右折したとたんに強烈な横風が拭く区間に突入してしまった。

左から横風が吹いているとき、後ろの選手は前を行く選手の右後方に着きたい。それが道路の右側ぎりぎりを走られると、ドラフティング効果が得られず風圧を受けてしまう。一列棒状で走っているときに前の選手が中切れを起こせば、それを飛び越して一人前の選手に飛びつくのは難しくなる。アームストロングは前の集団に入ったが、ここで中切れを起こしたのはコンタドールだったようだ。

ステージ8位に入った別府史之(日本、スキル・シマノ)にも報道陣が詰めかけるステージ8位に入った別府史之(日本、スキル・シマノ)にも報道陣が詰めかける photo:Makoto Ayano思わぬところでついた41秒差。多くの選手、関係者がまさかこのステージでそんな動きになるとは思ってもみなかったのだろうが、前の日、そして朝のスタート時にミストラルについての予測を充分にフミから聞いていた自分にとっては、想定内のレース展開になってしまった。地元の経験、地の利が生きたレースになった。フミの経験がツールのステージの流れを決めてしまったのだ。

集団が分断してからのフミの働きはゴール地点のモニターでしか確認できなかったが、スキル・シマノのメンバー、そしてチームコロンビアと共に逃げ集団をよく引いているように思えた。こういう平坦系の局面でのフミのスピードは有名選手たちの中にあっても光るものがある。

フミの8位は、チームメイトをアシストしながらの順位。ユキヤの5位と続いたことで、明日はフミに取材が殺到することになるのだろうか。

日本人選手の連日の上位フィニッシュは確かにサプライズなニュースだが、この2人はまだまだそれ以上のことができると確信する。スキル・シマノのチーム総合1位は、まずは初出場のツールにおいて残した結果としては申し分の無いものだろう。

ラッキーが巡ってきてジャーナリストモトに乗った別府始さんも、集団が分断するのを後方から見ることが出来たそうだ。レースが動いているときは危険なため、前には上がれなかったそうだが、弟の活躍を体感した話はJ SPORTSのツール解説に登場した際に披露してくれるだろう。別府始さんは明日モンペリエのチームTTの前に帰国の途に着く。

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