雨が降り止まない。スタートは晴れているのにゴールは雨というパターンが続いている。「ジロ・ディタリアが雨を連れて来たんだ。勘弁してくれよ」。ボランティアで交通整理をしているおじさんがトスカーナ訛りのイタリア語で言う。体感気温も下がって来た。

アペニン山脈の山間の街サンセポルクロアペニン山脈の山間の街サンセポルクロ photo:Kei Tsuji
慣れない衣装に疲れたので地べたに座る慣れない衣装に疲れたので地べたに座る photo:Kei Tsuji
アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)が履くプライベートブランド「HANSEENO」のカーボンシューズ(2013年7月発売予定)アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)が履くプライベートブランド「HANSEENO」のカーボンシューズ(2013年7月発売予定) photo:Kei Tsujiマリアビアンカを着て登場したウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ブランコプロサイクリング)マリアビアンカを着て登場したウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ブランコプロサイクリング) photo:Kei Tsuji

イタリアには明確な南北問題がある。イタリア全土を駆け抜けるジロに帯同していると、はっきりと南北差を感じることが出来る。走っている車から路面の舗装具合、建物の見た目まで、北上するにつれて真新しく、綺麗になってくる。単純に、かかっているお金が違う。

これは自転車にも言えることで、前日のマルケ州からこの日のトスカーナ州にかけて、サイクリストの数自体がどっと増えた。北上するにつれてサイクリストが増え、バイクの年式が新しくなり、カーボンフレーム率が高くなり、バイク重量が軽くなり、コンポのグレードが上がり、変速の段数が増える。

ジロは雨雲とともにイタリアを巡っているらしい。それまで天気が良かったというトスカーナ州に、まるでジロに合わせたように、雨が降る。しかも大雨と言っていいほどの土砂降り。標高1000m級の山岳の気温は10度を切った。

丘に作られた街に向かってプロトンが進む丘に作られた街に向かってプロトンが進む photo:Kei Tsuji
観客からパニーノとキアンティワインの差し入れ(飲んでませんよ)観客からパニーノとキアンティワインの差し入れ(飲んでませんよ) photo:Kei Tsuji
この雨は果たして恵みの雨なのか、それとも禍いの雨なのか。ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、スカイプロサイクリング)はまたもや雨の下りでタイムを失いかけた。対して、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)の下りは安心感が違う。

これまで多くの時間をトラックレースに費やし、3つの五輪金メダルと6つの世界タイトルを手にしたウィギンズに対し、エヴァンスは(ヘジダルも)MTBクロスカントリー出身。両者にはそんな違いがある。ただ、それ以前に、金曜日の落車以降、ウィギンズは下りの感覚を失ってしまっている。ウィギンズの言葉を借りると「まるで少女のように下っている」。落車の感触を引きずってしまい、下りコーナーを攻められなくなる感覚は、自転車に乗る全ての人間に共通する。

なお、ウィギンズにとって嬉しくない情報として、天気予報によると、どうやらジロ2週目の天気も思わしくない。優勝候補の筆頭と見られていたウィギンズは、ツール・ド・フランスよりもずっとテクニカルなジロ・デ・イタリアのコースに苦しめられている。ツールではあまり降らない雨がそこに追い討ちをかけている。

雨雲に覆われたフィレンツェの街雨雲に覆われたフィレンツェの街 photo:Kei Tsuji
地元が近いマリオ・チポッリーニが会場に登場地元が近いマリオ・チポッリーニが会場に登場 photo:Kei Tsuji
フィレンツェの街を一望出来るミケランジェロ広場にジロはゴールする。イタリアの観光ツアーには必ずと言っていいほど組み込まれている観光名所で、海外からの観光客を乗せた大型バスがいつもズラッと並んでいる。

トスカーナ出身のマリオ・チポッリーニやアンドレア・タフィが会場に顔を見せた。数メートル歩くだけであちこちから「マリオ〜〜〜!!」という声が飛ぶチポッリーニのカリスマ性は凄い。なお、今年のジロには彼の名前を冠したバイクに2チーム(ヴィーニファンティーニとバルディアーニヴァルヴォーレ)が乗っている。

9月に行なわれるロード世界選手権の周回を逆走するコースで、28歳のマキシム・ベルコフ(イタリア、カチューシャ)が勝った。フォトグラファーの多くは「なんだ、ロシアチームに所属するロシア人か」と受け流し、カルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アージェードゥーゼル)の勘違いガッツポーズを懸命に撮影したが、実はベルコフのイタリア歴は長い。

2006年にロシアのU23タイムトライアルチャンピオンに輝いたベルコフは、現在ヴィーニファンティーニの監督を務めるルーカ・シントにその才能を見いだされてイタリアへ。同監督のアマチュアチームで走り、2009年にISD・ネーリ(現ヴィーニファンティーニ)でプロデビューしている。

ライバルたちから1分06秒失ってしまったライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ)ライバルたちから1分06秒失ってしまったライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ) photo:Kei Tsujiロシア国旗をもって登壇するマキシム・ベルコフ(ロシア、カチューシャ)ロシア国旗をもって登壇するマキシム・ベルコフ(ロシア、カチューシャ) photo:Riccardo Scanferla

ジルベッコを背中ポケットに入れて持って帰るジルベッコを背中ポケットに入れて持って帰る photo:Kei Tsuji
ちなみにベルコフは2日連続でフィニッシュラインを先頭で駆け抜けたことになる。前日の個人タイムトライアルを4番手でスタートしたベルコフは、3分前にスタートしたボブリッジと2分前にスタートしたガヴァッツィと1分前にスタートしたアドリアートをパス。サルターラに先頭でゴールした(ステージ64位)。

長い9日間の闘いを終えて、ジロはようやく1回目の休息日を迎える。選手たちはチームバスよりも早く移動出来るチームカーに乗って雨雲に覆われたアペニン山脈を越え、ヴェネト州のホテルに散らばった。休息日明けの第10ステージは、ジロ初登場のアルトピアーノ・デル・モンタジオにゴールする。最大勾配20%の難関山岳だ。

text&photo:Kei Tsuji in Firenze, Italy

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