4月17日から21日まで、アフリカ大陸の最南端の南アフリカで開催されたマザンシツアー(UCI2.2)。チームNIPPOデローザも参戦し、マウロ・リケーゼがステージ勝利を上げる活躍を見せた。チームに帯同した田中苑子フォトグラファーがレースを振り返る。

第5ステージ、集団の前方で走る福島晋一と中根英登(チームNIPPO・デローザ)第5ステージ、集団の前方で走る福島晋一と中根英登(チームNIPPO・デローザ) photo:Sonoko.Tanaka
沿道で子どもたちが南アフリカの伝統楽器ブブゼラで応援沿道で子どもたちが南アフリカの伝統楽器ブブゼラで応援 photo:Sonoko.Tanakaレース前に選手のマッサージをするジャンポール・バンジル監督(MTN・キュベカ・フィーダー)。アフリカの自転車競技発展を担う中心人物で、フランス人の元トラック選手レース前に選手のマッサージをするジャンポール・バンジル監督(MTN・キュベカ・フィーダー)。アフリカの自転車競技発展を担う中心人物で、フランス人の元トラック選手 photo:Sonoko.Tanaka


5日間の日程で開催されたマザンシツアー。“マザンシ”とは、現地の言葉で“南”という意味で、南アフリカを象徴する言葉として使われている。南半球に位置するため、現在は冬に向かっているというが、1年を通して温暖な気候が特徴で、レース期間中も天気がいいと30℃近くまで気温が上がった。

第4ステージ、ゴールスプリントに向けて集団のペースアップを図るチームNIPPO・デローザ第4ステージ、ゴールスプリントに向けて集団のペースアップを図るチームNIPPO・デローザ photo:Sonoko.Tanakaマザンシツアーは今年が初開催。南アフリカは、アフリカ大陸でもっとも自転車競技の歴史が長く、これまでも多くの国際レースが開催され、トップ選手をたくさん輩出しているが、現在、意外にも南アフリカで開催されるUCIカテゴリーのロードレースはこのマザンシツアーのみ。

悪天候のなかで開催された第4ステージ。コース横には大きな水たまりができる悪天候のなかで開催された第4ステージ。コース横には大きな水たまりができる photo:Sonoko.Tanakaヨハネスブルク郊外で開催された第5ステージヨハネスブルク郊外で開催された第5ステージ photo:Sonoko.Tanakaそのため今大会には大きな注目が集まり、6つの海外チームとナショナルチームを含む9つの南アフリカ籍チームがスタートラインに立った。2007年のツール・ド・フランスで南アフリカ人として初めてステージ優勝を挙げたロバート・ハンター(ガーミン・シャープ)がジロ・デ・イタリアに向けたトレーニングとしてナショナルチームで参戦し、大会に華を添えた。

その中には日本籍のチームNIPPOデローザも参戦。福島晋一、内間康平、中根英登、3人の日本人選手と昨年のツアー・オブ・ジャパンの総合優勝者であるフォルッナート・バリアーニ(イタリア)、スプリンターのマウロ・リケーゼ(アルゼンチン)、今年からチームに加入し、フランスのレースで1勝を挙げているレオナルド・ピニツォット(イタリア)というメンバー構成で、イタリアから飛行機を乗り継いで参戦した。

序盤のアタックに反応する内間康平(チームNIPPO・デローザ)序盤のアタックに反応する内間康平(チームNIPPO・デローザ) photo:Sonoko.Tanakaそして南アフリカといえば、南アフリカ籍のMTN・キュベカがアフリカのチームとして今季、初めてプロコンチネンタルチームに昇格したことも話題になった。

同チームはシーズン序盤から、ゲラルド・チオレックがミラノ〜サンレモを制すなどヨーロッパを中心に大活躍しているが、そんなチームの背景には、南アフリカにあるUCIワールドサイクルセンター・アフリカとの連携がある。

総合優勝を挙げたロバート・ハンター(南アフリカナショナル)総合優勝を挙げたロバート・ハンター(南アフリカナショナル) photo:Sonoko.Tanakaそこでは若いアフリカ人選手の育成を熱心に行っているが、今回はサイクルセンターに所属している選手から、WCCAミックスとMTN・キュベカ・フィーダーという2チームを編成。南アフリカ、エチオピア、ルワンダ、タンザニア、ナミビアの若い選手が国際レースで経験を積んだ。

南アフリカは過去にアパルトヘイト政策(人種隔離政策)を執っていたことが有名だ。現在も英語とともに公用語になっているローカル言語のアフリカーンス語は、オランダ語を軸にドイツ語やマレー語などが混ざっているという。それは、多くの民族がこの土地に住んできたバックグランドを意味している。

大航海時代からヨーロッパ人が南アフリカに訪れてケープタウンを開拓し、オランダ人を中心に移民が増えた。その後、19世紀になって、イギリス人が到来、ケープタウンがイギリスの植民地になり、しだいに南アフリカ全土がイギリスの支配下となりアパルトヘイト政策が進んだのだという。

94年にアパルトヘイト政策は廃止されたが、現在も失業率が高く、貧困や治安の悪化など多くの問題を抱えていることは事実。実際レース期間中にチームが盗難被害に遭ってしまった。

しかし、プラスのイメージもとても強い。サバンナの雄大な大地や、人懐っこい南アフリカ人たちの笑顔は、訪れるものを魅了させてくれる。大会のオーガナイゼーションも良く、経験豊富なスタッフにより、とても初開催とは思えないほどスムースだった。そして大会に関わるすべての人がフレンドリーで、会場では地元の青年たちのアカペラがBGM代わり。とても和やかな雰囲気のなかでレースは開催された。



第1ステージ 4月17日 164km
自然保護区の前を通過する選手たち。遠くにはキリンの姿も自然保護区の前を通過する選手たち。遠くにはキリンの姿も photo:Sonoko.Tanakaビッグファイブ(サイ、ヒョウ、ゾウ、バッファロー、ライオン)など多くの野生動物が生息するクルーガー国立公園のゲート前をスタートし、標高差約1200mの大きな山岳をめざすコースレイアウト。

山頂からゴールまでの約60kmは下りだが、独特なアップダウンに富んだ地形もあり、山岳で絞られた5選手が先行してゴール、後続集団に6分33秒の差を付けた。ステージ優勝を挙げたのはジュリアン・アントマルキ(フランス、ラポム・マルセイユ)、そしてロバート・ハンター(南アフリカ)、フォルッナート・バリアーニ(イタリア、チームNIPPO・デローザ)が同タイムで続いた。

結果
1位 ジュリアン・アントマルキ(フランス、ラポム・マルセイユ)
2位 ロバート・ハンター(南アフリカ、南アフリカナショナルチーム)
3位 フォルッナート・バリアーニ(イタリア、チームNIPPO・デローザ)



第2ステージ 4月18日 198km
コース横にはゆったりと暮らす牛たちがコース横にはゆったりと暮らす牛たちが photo:Sonoko.Tanaka大会最長距離となる第2ステージ。山岳ポイントが2カ所に設置されているものの、コース全体にアップダウンが多く、難易度の高いレイアウト。前半に6選手の逃げが決まったが、ゴールまで56km、2つ目の山岳で総合2位に付けるロバート・ハンターが単独でアタックを仕掛けた。

フォルッナート・バリアーニら総合上位の選手があとを追ったが、追い付けず。逆にハンターは残り25kmで先頭集団に合流し、残り10kmの地点で再度そこから単独で飛び出し、ゴールラインまで逃げ切るという圧巻の走りで総合首位に。総合2位となったジュリアン・アントマルキとは5分50秒差に。

結果
1位 ロバート・ハンター(南アフリカ、南アフリカナショナルチーム)
2位 デイヴィッド・マレー(南アフリカ、タソル・GT)
3位 クリスチャン・ハウス(イギリス、ラファ・コンドール)



第3ステージ 4月19日 149km
チームのエース、ロバート・ハンターのために集団をコントロールする南アフリカナショナルチームチームのエース、ロバート・ハンターのために集団をコントロールする南アフリカナショナルチーム photo:Sonoko.Tanaka比較的平坦基調となった第3ステージは、序盤に形成された逃げ集団から、終盤になっても福島晋一とホセ・ゴンサルヴェス(ポルトガル、ラポム・マルセイユ)がそれぞれ単独で果敢に逃げたが、福島が吸収されるとチームNIPPO・デローザの強力なペースアップにより、ラスト5kmでゴンサルヴェスを捕らえ、ゴールスプリントの展開に。

そして完璧なチームワークで、マウロ・リケーゼが、倉庫裏の狭い路地を回り込むようなテクニカルなスプリントを制し、嬉しいシーズン1勝目を挙げた。

結果
1位 マウロ・リケーゼ(アルゼンチン、チームNIPPO ・デローザ)
2位 ルーカス・リス(ドイツ、ラッドネット・ローズ)
3位 ノーラン・ホフマン(南アフリカ、タソル・GT)



第4ステージ 4月20日 166km
雨模様となり、気温も10度前後と冷え込んだ第4ステージ。スタート前1時間を切ってから、急きょ首都プレトリアに向かう区間の安全確保が十分でないとして、その区間がキャンセルとなり、山岳を含むループコースが1周回追加されることとなった。

第4ステージでロバート・ハンター(南アフリカナショナル)を下してステージ優勝を挙げたマウロ・リケーゼ(チームNIPPO・デローザ)第4ステージでロバート・ハンター(南アフリカナショナル)を下してステージ優勝を挙げたマウロ・リケーゼ(チームNIPPO・デローザ) photo:Sonoko.Tanaka
第4ステージでマウロ・リケーゼが2勝目を挙げたチームNIPPO・デローザ。レース後に健闘を喜ぶ第4ステージでマウロ・リケーゼが2勝目を挙げたチームNIPPO・デローザ。レース後に健闘を喜ぶ photo:Sonoko.Tanaka突然のコース変更だったが大きな混乱はなくレースは進み、山岳賞ジャージを着るデビッド・マリー(南アフリカ、タソル・GT)や中根英登らを含む11人の逃げが決まる。

イエロージャージを着るロバート・ハンターやチームNIPPO・デローザが積極的に動いて、最後の選手を残り8kmで吸収すると、この日もゴールスプリントに。先行で仕掛けたハンターと後ろから追うマウロ・リケーゼの一騎打ちとなり、僅差でマウロが2日連続のステージ優勝を達成した。

結果
1位 マウロ・リケーゼ(アルゼンチン、チームNIPPO ・デローザ)
2位 ロバート・ハンター(南アフリカ、南アフリカナショナルチーム)
3位 ノーラン・ホフマン(南アフリカ、タソル・GT)



第5ステージ 4月21日 123km
チームや関係者の宿泊施設となっているヨハネスブルク郊外のモンテカジノ(カジノを含む巨大な複合施設)からスタートし、野生動物のいる自然保護区での周回コースを3周して、またモンテカジノに戻るというコースレイアウト。

山岳ポイント手前でアタックをかける山岳賞リーダー、デビッド・マリー(南アフリカ、タソル・GT)山岳ポイント手前でアタックをかける山岳賞リーダー、デビッド・マリー(南アフリカ、タソル・GT) photo:Sonoko.Tanaka第5ステージ。集団前方で走るイエロージャージを着たロバート・ハンター(南アフリカナショナル)第5ステージ。集団前方で走るイエロージャージを着たロバート・ハンター(南アフリカナショナル) photo:Sonoko.Tanaka


残り3kmが緩やかな上りとなっており、スプリント勝負に持ち込むたいチームがペースアップを図るなか、ディラン・ジルデルストーン(南アフリカ、ウエストバール・BMC)が逃げ切った。総合順位は第2ステージから大きな変動はなく、ロバート・ハンターが栄えある第1回大会の優勝者に輝いた。チームNIPPOもフォルッナート・バリアーニが総合3位、マウロ・リケーゼがステージ2勝を挙げる好成績を残した。

結果
1位 ディラン・ジルデルストーン(南アフリカ、ウエストバール・BMC)
2位 Hichem Chaabane(アルジェリア、ヴェロクラブ・ソヴァック)
3位 ウェイロン・ウールコック(南アフリカ、チームボニタス)

ヨハネスブルク郊外、イタリアのフィレンツェをイメージしているというモンテカジノで開催された最終ステージのセレモニーヨハネスブルク郊外、イタリアのフィレンツェをイメージしているというモンテカジノで開催された最終ステージのセレモニー photo:Sonoko.Tanaka
国民的ヒーローのロバート・ハンター(南アフリカナショナル)が総合優勝。ミスアースと記念撮影国民的ヒーローのロバート・ハンター(南アフリカナショナル)が総合優勝。ミスアースと記念撮影 photo:Sonoko.Tanakaマザンシツアー2013、総合順位上位3選手の表彰台マザンシツアー2013、総合順位上位3選手の表彰台 photo:Sonoko.Tanaka


マザンシツアー2013個人総合成績
1位 ロバート・ハンター(南アフリカ、南アフリカナショナル) 19h42'31"
2位 ジュリアン・アントマルキ(フランス、ラポム・マルセイユ) +5'56"
3位 フォルッナート・バリアーニ(イタリア、チームNIPPO・デローザ) +6'02"
4位 イアン・マクレオド(南アフリカ、フェドグループ・アイテック) +6"05"
5位 ポール・ヴァンズェール(南アフリカ、ユーロップカーSA) +6'11"
6位 デビッド・マリー(南アフリカ、タソル・GT) +8'00"
16位 内間康平(チームNIPPO・デローザ) +19'54"
24位 中根英登(チームNIPPO・デローザ) +24'16"
53位 福島晋一(チームNIPPO・デローザ) +44'58"

山岳賞
デビッド・マリー(南アフリカ、タソル・GT)

ポイント賞
ロバート・ハンター(南アフリカ、南アフリカナショナル)

チーム総合成績
フェドグループ・アイテック(南アフリカ)


text&photo:Sonoko.Tanaka