第111回パリ〜ルーベ(UCIワールドツアー)が4月7日、フランス北部を舞台に開催される。本命ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)は3度目の優勝を果たすことが出来るのか?別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は5度目の出場だ。

合計27区間・52.6kmのパヴェが選手を襲う

パリ〜ルーベ2013コースマップパリ〜ルーベ2013コースマップ photo:A.S.O.「クラシックの女王」と呼ばれるパリ〜ルーベは今年で開催111回目。第1回大会が行なわれたのは、近代オリンピックと同じ1896年。格式の高いクラシックレースとして、独特の地位を誇っている。

「女王」またの名を「北の地獄」。他のレースでは決して見ることが出来ない荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のレースだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。

パリ北部のコンピエーニュをスタートする254.5kmのコースはほぼフラット。平野部を縫うようにして、パヴェ区間を選びながら、ベルギー国境近くのルーベを目指す。

レース前半の約100kmは快適なアスファルト舗装路が続く。しかし、そこからゴールまで、休むまもなくパヴェ区間(セクター)が登場する。ゴール地点ルーベに至るまで、合計で27のパヴェ区間が登場。その総延長は52.6kmに及び、レース後半部の3分の1がパヴェに覆われている計算になる。

森を直線的に貫くアランベール森を直線的に貫くアランベール photo:Makoto Ayanoパヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」で、石と石の間の土は風雨によって浸食。鋭く角の立った石や段差がパンクや落車を引き起こす。毎年少しずつ修復が加えられているが、中には規則性を失って波打ったものや、陥没した穴もある。

砂埃を巻き上げてプロトンが進む砂埃を巻き上げてプロトンが進む photo:Makoto Ayanoこれほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ない。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。

登場する27のパヴェ区間は、それぞれ長さが200mから3700mまで様々。その長さや路面の荒れ具合に応じて、難易度が1〜5までランク付けされている。

中でも有名なのが、難易度5つ星のアランベール、モンサン・ぺヴェル、そしてカルフール・ド・ラルブル。いずれも全長が2kmを超え、その路面は特に荒い。

「アランベールの森」を貫く直線的なアランベールがゴールの96km手前に登場する。アランベールの全長は2400mで、その路面は荒れ放題。ここからレースはぐんぐん加熱して行く。

終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度4の3区間(シソワン・ブルゲル、ブルゲル・ワヌエン、カンファナン・ぺヴェル)を越えた後に登場するカルフール・ド・ラルブルだ。長さ2100mのこの難所を越えると、ゴールまで残り15km。その後の3区間の難易度は低く、カルフール・ド・ラルブルで勝負が決まる可能性が高い。

荒れたパヴェレースの最後を締めくくるのは、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でゴールラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。

パリ〜ルーベ2013コースプロフィールパリ〜ルーベ2013コースプロフィール photo:A.S.O.

登場するパヴェ27区間(セクターNo.・地点km・名称・長さ・難易度)
27 98.5km Troisvilles à Inchy 2200m ☆☆☆
26 105km Viesly à Quiévy 1800m ☆☆☆
25 107.5km Quiévy à Saint-Python 3700m ☆☆☆☆
24 112.5km Saint-Python 1500m ☆☆
23 120km Vertain à Saint-Martin-sur-Écaillon 2300m ☆☆☆
22 130km Verchain-Maugré à Quérénaing 1600m 
21 133km Quérénaing à Maing 2500m ☆☆☆
20 136.5km Maing à Monchaux-sur-Écaillon 1600m ☆☆☆
19 149.5km Haveluy à Wallers 2500m ☆☆☆☆
18 158km Trouée d'Arenberg(アランベール) 2400m ☆☆☆☆☆
17 163.5km Wallers à Hélesmes 1600m ☆☆☆
16 170.5km Hornaing à Wandignies-Hamage 3700m ☆☆☆☆
15 178km Warlaing à Brillon 2400m ☆☆☆
14 181.5km Tilloy à Sars-et-Rosières 2400m ☆☆☆
13 188km Beuvry-la-Forêt à Orchies 1400m ☆☆☆
12 193km Orchies 1700m ☆☆☆
11 199km Auchy-lez-Orchies à Bersée 2600m ☆☆☆
10 205km Mons-en-Pévèle(モンサン・ぺヴェル)3000m ☆☆☆☆☆
9 211km Mérignies à Avelin 700m ☆☆☆
8 214.5km Pont-Thibaut à Ennevelin 1400m ☆☆☆
7 220.5km Templeuve (Moulin de Vertain) 500m ☆☆
6a 227km Cysoing à Bourghelles 1300m ☆☆☆☆
6b 229.5km Bourghelles à Wannehain 1100m ☆☆☆☆
5  234km Camphin-en-Pévèle 1800m ☆☆☆☆
4  236.5km Carrefour de l’Arbre(カルフール・ド・ラルブル)2100m ☆☆☆☆☆
3  239km Gruson 1100m ☆☆
2  246km Willems à Hem 1400m ☆
1  253km Roubaix 300m ☆

本命カンチェラーラにシャヴァネルやフィニーらが挑む

ロンド・ファン・フラーンデレンを制したファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)ロンド・ファン・フラーンデレンを制したファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード) photo:Cor Vos1週間前のロンド・ファン・フラーンデレンで落車したディフェンディングチャンピオンのトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)は、その後の検査で肋骨にヒビが入っていることが判明。連覇が懸かったパリ〜ルーベを欠場することが決まった。ロンド2位のペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)もアルデンヌ・クラシックに集中するためパリ〜ルーベに出場しない。

シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Kei.Tsujiボーネンとサガンの欠場が決まった今、優勝候補の筆頭は間違いなくファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)だろう。カンチェラーラは2006年と2010年に優勝しており、ムセーウやモゼール、メルクスに並ぶ3度目の優勝を目指す(史上最多はデフラミンクとボーネンの4勝)。

昨年バッランを下して2位に入ったセバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー)昨年バッランを下して2位に入ったセバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー) photo:Makoto Ayano昨年不運なクラシックシーズンを送ったカンチェラーラは、今シーズン完全に復活を遂げた。ミラノ〜サンレモは3位に終わったが、ベルギーのE3ハレルベークロンド・ファン・フラーンデレンでライバルたちを蹴散らす独走勝利。圧倒的なパワーを示した。

テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji2010年のパリ〜ルーベでは何と48kmを独走。アタックを決めて独走のスイッチが入ってしまえば、どれだけ後続が協力しても追いつけないと思わせるほどカンチェラーラの力は飛び抜けている。

別府史之(オリカ・グリーンエッジ)別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji唯一懸念されるのは、水曜日にベルギーで開催されたシュヘルデプライスで落車し、左臀部を打ち付けたこと。さらに木曜日のコース試走中にも落車し、同じ箇所を打った。カンチェラーラ本人は落車の影響は少ないと話しているが、長時間にわたって石畳を走るパリ〜ルーベでは何が起こるか分からない。100%力を発揮出来る状態でないことは確かだ。

ボーネンに代わってオメガファーマ・クイックステップのリーダーを務めるのがシルヴァン・シャヴァネル(フランス)だ。シャヴァネルの最高位は2009年の8位。今年はVDKドリダーフス・デパンヌで総合優勝している。好調のステイン・ファンデンベルフ(ベルギー)や元シクロクロス世界王者のゼネク・スティバル(チェコ)、そしてニキ・テルプストラ(オランダ)らがシャヴァネルを支える。

なお、地元フランス人の優勝者は1997年のフレデリック・ゲドン以降1人も出ていない。フランス人が表彰台にも登らない状況が長らく続いていたが、昨年セバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー)が2位に絡んで風穴を開けた。シャヴァネルやテュルゴー、ヨアン・オフルド(フランス、FDJ)、ストゥヴ・シェネル(フランス、アージェードゥーゼル)らが地元フランスの期待を背負う。

パリ〜ルーベに集中するためにロンドを欠場したテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)も注目の存在だ。フィニーは2009年から2年連続でパリ〜ルーベ・エスポワール(U23レース)で優勝している。昨年エリートレースに初出場して15位。石畳を走るために例年より重い体重で挑むと言う。BMCには他にも、2度の表彰台経験者トル・フースホフト(ノルウェー)やダニエル・オス(イタリア)、フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー)らが揃っており、チームとしてカンチェラーラ包囲網を敷く。

ロンド3位のユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)や、これまでのクラシックレースで積極的な走りを見せているハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)、2009年大会2位のフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)、3度の表彰台経験者フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)、そしてラース・ボーム(オランダ、ブランコプロサイクリング)らも勝負に絡んでくるだろう。スカイプロサイクリングはイアン・スタナード(イギリス)とエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)をエースに据える。

日本からは別府史之(オリカ・グリーンエッジ)が5度目の出場を果たす。2011年にフミは日本人選手として初めてパリ〜ルーベを完走。ロンドでは終盤の勝負どころまでエースをサポートし、アシストとしての仕事をやり遂げた。スチュアート・オグレディ(オーストラリア)やルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)らとともに、引き続きセバスティアン・ラングヴェルト(オランダ)をサポートすることになるだろう。

text:Kei Tsuji