待ち合わせ場所はトレヴィーゾのど真ん中にあるシニョーリ広場。「勝ちまくっているチーム」の印象が強いライムグリーンのジャージに身を包んだ増田成幸がバイクに乗って颯爽と現れた。イタリアに拠点を置き、本格的に活動をスタートさせたJツアー年間チャンピオンに近況を聞く。

増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsuji「カリフォルニアでのチームプレゼンテーションの後、すぐにアルゼンチンのツール・ド・サンルイスに出場。そのままイタリアに入ってチームメイトと生活をスタートさせました」。カプチーノを傾けながら増田は渡欧の流れを振り返る。

「数週間前に今のトレヴィーゾのチェントロ(中心)に引っ越し、家族と一緒の生活をスタート出来た。これまでレースや引っ越しで慌ただしかったのですが、ようやく生活が落ち着きました」。トレーニングとレースに集中できる体制がようやく整った様子だ。

「先日ブリッツェンの廣瀬さん(廣瀬佳正GM)からメールが来て『元気か?こっちも頑張ってるからそっちも頑張れ』と背中を押され、元気になりました。別にそれまで元気がなかったわけじゃないですよ(笑)ちなみに、最近はまっているのがヴェネト特産のラディッキオ(チコリ)という野菜です。蒸して、オリーブオイルと塩をかけるだけですごく美味しい!」

増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsuji

渡欧後しばらくは、同じく今シーズンからチームに合流したミヘル・コッホ(ドイツ)とマティアス・クリセク(オーストリア)とともに、郊外の一軒家をシェアして生活していたという増田。「昔イタリアのアマチュアチームに所属していたマティアスからイタリアについて多くのことを学び、彼の知り合いとトレーニングに行くことも多いです」と言う。

ツール・ド・サンルイスで集団牽引役を務める増田成幸(キャノンデール・プロサイクリング)ツール・ド・サンルイスで集団牽引役を務める増田成幸(キャノンデール・プロサイクリング) photo:Tour de Sun luisピナレロの本社があることでも知られるトレヴィーゾの一帯は、これまで多くのプロ選手を輩出してきた。宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)が住むトスカーナにも多くの選手が住んでいるが、プロ選手の輩出数は伝統的にヴェネト州が最も多い。

コッピ・エ・バルタリ 第2ステージを走る増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)コッピ・エ・バルタリ 第2ステージを走る増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Riccardo Scanferla周辺には「その昔あの選手が走っていた」というような強豪アマチュアチームがごろごろある。リクイガスの体制を引き継ぐキャノンデールプロサイクリングの拠点もヴェネトにある。

「一人で走りたい時は一人で走れるし、みんなと走りたい時は連絡を取ればいくらでも集まることが出来る。トレヴィーゾからだと山まで少し距離がありますが、トレーニング環境はすごく良いですね。一緒に住んでいたマティアスやポーランド人のパテルスキー、ベテランのマウロ・ダダルト、CSFイノックスのサーシャ・モードロらとトレーニングすることが多いです」。

増田は現在ベルギーで活躍中のペーター・サガンとツール・ド・サンルイスでともに闘っている。若きチームリーダーについて増田は「めちゃくちゃ強いのですが、誰とでも気さくに絡んでくる選手」と表現する。ちなみにサガンは200km走ってもスプリントの出力が変わらないそうだ。

もちろん世界トップカテゴリーのUCIプロチームだけに、チームのサポート体制は充実している。同時にアンチドーピングの取り組みも目に見えて厳しいと言う。「体重測定やSRMのテストは頻繁に行ないます。チーム内でのアンチドーピングの取り組みは厳しく、一番最初のミーティングでもアンチドーピングについて念を押されましたし、先日のレース前にはチームドクターにヘマトクリット値の検査をされました」。

イタリアに渡ってから、すでに増田はトロフェオ・ライグエリアとローマ・マキシマ、そしてセッティマーナ・インテルナツィオナーレ・コッピ・エ・バルタリを走った。ライグエリアでは補給地点で落車してリタイア。左の頬にはその時の傷がまだ残る。「ニーバリの登りアタックを目の当たりにした」というローマ・マキシマでは、カルーゾのアシストをしながら第2集団でゴールした。

増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsuji3月20日から24日までの日程で行なわれたコッピ・エ・バルタリでは、バッソやモゼール、カルーゾという一軍に近いメンバーの中に増田が入った。結果はバッソが総合4位で、カルーゾがステージ優勝。増田は総合48位でゴールしている。

「コッピバルタリはコースも展開も厳しいレースでした。ステージレースを走ると、チームメイトやスタッフとの心の結びつきが強くなりますね。チームにとってはまずまずの結果だったと思いますが、自分の総合48位は全く自慢できるような順位ではありませんし、日々もっと縦横無尽に働けるようにならないと話にならない」。増田は自分のパワー不足に少し肩を落とす。

増田は頂上ゴールが設定された第3ステージで3分遅れのステージ40位。「監督には『まぁまぁ登れる選手』として捉えられていると思いますが、日々バッソのためのアシストも十分ではなかったし、まだまだパンチ力のあるアピールが足りない」と打ち明ける。

「でも、こんなチャンスはもう無いかも知れない。このチャンスを活かすも殺すも自分次第。平地でのパワー不足を感じていますが、筋肉を付けてそれを克服するよりも、登りの力を伸ばしたい。自分がキラリと光る何かを見せるためには登りだと感じています」。そう語る増田の次戦は、4月16日から19日まで開催されるジロ・デル・トレンティーノ。今シーズンは全日本選手権のために帰国を予定している。

text&photo:Kei Tsuji in Treviso, Italia
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