京都産業大学ではこの時期、アメリカと沖縄で遠征合宿をしている。カリフォルニアへは今年、愛三工業の2名も参加して各種レースに出場。レベルの高いレースに洗礼を受けつつも、彼らは前を見て走り続ける。

「黄金時代を僕らの手で再び」

NewYorkピザ。サイズがアメリカン!NewYorkピザ。サイズがアメリカン! photo:Takeshi TANIGUCHI京都産業大学が北カリフォルニアへの短期遠征を始めて今回で5回目の遠征になる。ほぼ毎年行っている遠征だが、今回は大きく違く点が二つある。一つは毎年8月を遠征期間に選んでいたのを3月に移行した事(シーズン途中ではなくシーズン前に時期をずらした)。これにより開幕時に他の選手より高いコンディションを手に入れる事が出来る。

やっぱりランスはヒーロー。自転車屋にいろいろディスプレイやっぱりランスはヒーロー。自転車屋にいろいろディスプレイ photo:Takeshi TANIGUCHIこの広島県崇徳高校出身の2名が2月12日に日本を出発し、カリフォルニアはシリコンバレーに拠点を置き、3月25日まで活動する。彼らは現地在住の中村氏宅にお世話になり、そこを拠点にトレーニングしている。毎年中村氏にはいくら感謝してもしたりない。

シリコンバレーといえば誰もが知るApple、Google、Yahoo!と誰もが知る企業が本社を置く地域で有名だが、サイクリングもまたこの地では盛んなスポーツの一つであると言える。週末になれば100人規模のサイクリング集団と数回すれ違うことも珍しくない(ともすれば暴走行為とも取られがちなのでいろいろ問題点も抱えている。ヨーロッパだけが自転車の国ではない事をこの地域は教えてくれる)

エントリーとライセンスチェックとサインはまとめて1回でエントリーとライセンスチェックとサインはまとめて1回で photo:Takeshi TANIGUCHIボク(中央・谷口武史)の後ろにいるガーミンのジュニア選手が優勝ボク(中央・谷口武史)の後ろにいるガーミンのジュニア選手が優勝 photo:Mark NAKAMURA



クラブチームに義務付けられる年一回のレース開催

ツール・ド・北海道個人総合優勝2回のエリック・ウォルバーグ氏とツール・ド・北海道個人総合優勝2回のエリック・ウォルバーグ氏と photo:Takeshi TANIGUCHI今回彼らが走るのはUCI下のような大きなレースではない。この地域のクラブチームには年一回のレース開催が義務付けられており、北カリフォルニアのカレンダーはそれだけで埋め尽くされる。日本のように高体連・学連・実業団という概念はなく、全ての選手はカテゴリーのみで区別される。

そしてそのカテゴリーはProを頭に1~5まである。レース未経験者は5から階段を登りはじめ、レース結果によりカテゴリーを上げることが出来るし、また上ることを義務化される。そしてコンチネンタル登録以上はまとめてProカテゴリーとなっている。


木守望が早くも1勝を挙げる

ディヌーバクリテリウム 木守望(愛三工業レーシングチーム)優勝ディヌーバクリテリウム 木守望(愛三工業レーシングチーム)優勝 photo:Mark NAKAMURAずっといい天気。ステージレース前日ずっといい天気。ステージレース前日 photo:Takeshi TANIGUCHI




そして4日間のステージレースへ
メルコクレジットユニオン サイクリングクラシックMerco Credit Union Cycling Classic 

4日間のステージレースで、1日目に135kmのロードレース、2日目20kmのタイムトライアル、3日目80kmのクリテリウム、4日目190kmのロードレース。国際ライセンスを所持してさえいれば参加料を支払うだけで西海岸のプロ選手たちと走る事ができる。チーム単位での出場ではないので個人で参加できる事が魅力のひとつ。しかし、他のチームは8人ほどで参加してくるので勝負するには複数人での参加は絶対条件。

第1ステージ スタート前第1ステージ スタート前 photo:Mark NAKAMURA第1ステージ 135kmロードレース

初日、1周20km程の周回を7周するロードレース。2kmほどの緩い登り以外に勝負するポイントは見当たらない。こうなると数で勝負してくるチームは有利。平塚選手と木守選手で有力と思われるアタックに反応し流れに乗ろうとするも、数で押すビッセルチームの前に敗北。

初めて見るチームジャージに愛三工業の選手たちも翻弄されてしまった。京都産業大の2名は序盤で遅れ、完走が精一杯。なんとか次の日に進む事が出来たが、『周りの選手たちに気後れしている。走らせてもらっているような感覚』と谷口。それでは集団の中でリラックスなど出来ない。鍵本も『シーズン序盤でまだ乗り込みが足りていないことが分かった』と。

第2ステージ個人TT 谷口武史(京都産業大学)第2ステージ個人TT 谷口武史(京都産業大学) photo:Mark NAKAMURA第2ステージ 20km個人タイムトライアル

片道10kmの緩いアップダウンを繰り返す直線を一往復。TTバイクはおろか、ディープホイールもDHバーの用意もままならない状態でスタート(鍵本選手以外はDHバー無し)。自分の力が露呈する真実のレース。この日は木守選手でトップから4分、平塚選手で約5分。京都産業大の二人に至っては6分の遅れを取った。『機材の重要性、タイムトライアルポジションでの練習がもっと必要』と谷口は言う。

1kmにつき18秒遅れてしまう選手と同じレースで走るなど、愚の骨頂とも思えるが、逆に良い機会を与えてもらったくらいに開き直るしかない。ちなみに日本人4名は女子選手にも45歳以上のマスターズの選手にも大きく後れを取った。決して弱くない彼らだがタイムトライアルには不慣れだ。日本でももっと個人タイムトライアルを開催する必要があると感じる。


第3ステージスタート前第3ステージスタート前 photo:Mark NAKAMURA第3ステージ 80kmクリテリウム
7つのコーナーを持つ1周2kmのコースを40周する。個人の能力でははるかに上を行く選手たちにも、クリテリウムとなれば話は変わってくる(かと思えた)。スプリンターである木守選手は序盤道路の段差でブラケットが歪んでしまい走行不能。ニュートラルに上手く伝わらず除外されてしまった。クリテリウムを苦手とする谷口も序盤の加速に付いていけない。

スタートして15分で両選手は明日へ進む事が出来なくなった。平塚選手と鍵本は集団のなかで位置取りに苦戦しながらチャンスを伺う。鍵本はクリテリウムの流れに乗ることが非常に上手くなってきている。まだまだ勝負には加われないが成長して来ている事が頼もしい。この日はクリテリウム全米チャンピオンのKen Hansonが優勝を飾り大会を盛り上げた。

『スピードに慣れると逆にアメリカのクリテの方が走りやすく感じる』と鍵本。『何が何でも集団にくらいつこうとする意欲に欠けていた。一番大事な事が準備出来ていなかった』とレース後反省の弁は谷口。


第4ステージ第4ステージ photo:Mark NAKAMURA第4ステージ 192kmロードレース
平坦基調なレースで38kmを5周する192km。平塚選手が何度もアタックを試み、また逃げ集団にブリッジするが、どれも決め手に欠け集団ゴール。鍵本は1周目に道路の継ぎ目でパンク。勝負が始まる前に姿を消すこととなった。

『こんなことになるならスタートから全開で走っていればよかった。悔しい』と鍵本。小柄な平塚選手は孤軍奮闘で大集団のゴールスプリントに参加するも18位。これで愛三工業の2人のアメリカ遠征が終了した。


苦労から自信へ、大学生2人

これからシーズンが始まるわけだが、3月4月のレースはどれだけの準備をしてこれたかが問われる時期。愛三工業の両名が日本に帰ってからの走りが、この3週間の遠征が有意義なものだったのかどうかの答えになる。是非彼らには各々が納得できる走りを期待する。

今日まで全くいいところの無かった京都産業大の二人だが、成長が無いわけではない。二人とも集団での位置取りには臆する事が無くなってきているし、ほんの少しの英会話の上達もみられる。なにより苦労を重ねている事でわずかな自信が芽生え始めてきている。

『もっと強くなり早く日本のレースで結果を出したい』と鍵本は意気込む。このあとまだ3週間滞在する彼らは4月7日のチャレンジロードが日本に戻って最初のレースになる。昨年とは違った2人の走りに期待がかかる。


リザルト

メルコクレジットユニオン サイクリングクラシックカテゴリー プロ/1/2
第1ステージ 135km(12.5マイル周回)
1. GAIMON Phillip BISSELL Pro Cycling 3.11'46"
2. CARLSEN Kirk 3.12'41" 55"
3. JACQUES-MAYNES Benjamin Jamis-Hagen Berman 3.12'41"
25. 平塚吉光(愛三工業レーシングチーム) 3.13'01"
34. 木守望(愛三工業レーシングチーム) 3.13'01"
121. 鍵本大地(京都産業大学) 3.38'41" 26'55"
134. 谷口武史(京都産業大学) 3.45'36" 33'50"

第2ステージ 20km個人TT(12マイル)
1. JACQUES-MAYNES Benjamin Jamis-Hagen Berman .24'36"760
2. HAGA Chad Optum p/b Kelly Benefit Strategies .24'41"310 5"
3. ZIRBEL Tom Optum p/b Kelly Benefit Strategies .24'41"900 ...
101. 木守望(愛三工業レーシングチーム)28'39"360 4'03"
124. 平塚吉光(愛三工業レーシングチーム)29'30"510 4'54"
132. 谷口武史(京都産業大学)30'34"940 5'58"
135. 鍵本大地(京都産業大学)30'46"280 6'10"

第3ステージ 80km(0.9マイル周回)
1. HANSON Ken Optum p/b Kelly Benefit Strategies 1.23'25" 10"
2. VON NACHER Fabrizio CashCall Mortgage 1.23'25" 6"
3. SWEDBERG Benjamin California Giant/Specialized 1.23'25" 4"
73. 平塚吉光(愛三工業レーシングチーム) 1.23'25"
120. 鍵本大地(京都産業大学) 1.25'27" 2'02"
dnf 木守望(愛三工業レーシングチーム)
dnf 谷口武史(京都産業大学)

第4ステージ
 192km(24マイル周回)
1. SMITH Dion Full Circle powered by Pure Gear 4.11'34" 10"
2. HANSON Ken Optum p/b Kelly Benefit Strategies 4.11'34" 6"
3. HOLLOWAY Daniel Team Mike's Bikes p/b Incase 4.11'34" 4"
18. 平塚吉光(愛三工業レーシングチーム) 4.11'34"
dnf 鍵本大地(京都産業大学)


text:Ken AKITA edit:Hideaki TAKAGI
photo:Mark NAKAMURA,Takeshi TANIGUCHI