2013/01/18(金) - 18:38
ヒルクライム用超軽量スペシャルバイクに最適なヘリウムSL
吉本:今回はリドレーの2013年ラインナップでも、とくに注目されるモデルに乗っていただいたわけですが、全体的にどのような印象を持たれましたか。浅見:どのモデルも性能のレベルがとても高くて、悪い部分を見つけるほうが難しいですね。そのなかでも、やはり話題性でいえばヘリウムSLですね。750gという超軽量、36万円ほどの価格は魅力的です。フォークも上下異径のステアリングコラムを採用して300gというのは、かなり軽量な部類です。
軽いバイクを作りたい要望があれば、まずこのバイクが思い浮かびます。あとは特殊な仕様がないのも良いですね。27.2㎜のオーソドックスなシートポストを使うのは、スペシャルな軽量パーツの選択肢も多いですから。ヘリウムSLをベースにすればライバルに負けない特別な軽量バイクができるでしょう。
吉本:軽さゆえのデメリットみたいなものはありますか?
浅見:やはりチューブが肉薄で固いのは、体に響く感覚があります。軽さゆえに動きは機敏なので、バイクをわずかながらに修正しながら走る感じはありますね。自分も以前、軽量なバイクに乗っていましたが、こうした感覚はつきものです。
吉本:やはりここまで軽いバイクになると、ある程度軽さとトレードオフするものがあるのは当然でしょう。それでもヘリウムSLの圧倒的に軽い加速は魅力ですね。
浅見:このフレームに超軽量ホイールを組み合わせて5㎏ぐらいのバイクを作ってみたいです。筋力で踏むのではなく、ペダルに脚を置くとその重みだけで進んじゃうみたいやつですね。
吉本:浅見さんのおっしゃる通り、ヒルクライムで使うのが絶好ですが、ロードレースを考えるならホイールセッティングなどで、指摘された気になる部分を消すのがいいかと。後輪にFFWD F6Rのようなリムハイトが高めのエアロホイールを履いて、前輪はF4Rのようなセッティングで。場合によっては80㎜クラスのリムハイトでもいいでしょう。するとある程度重心が下がって安定感と惰性が増すし、フルカーボンのディープリムだと重量増も小さくできるので、ヘリウムSLの加速の良さを大きくスポイルしないと思います。
浅見:確かに、それでバランスは保たれる感覚はありますね。
見事なダウンサイジングを果たしたヘリウム
吉本:次にヘリウムですが、ヘリウムSLとの違いなどはどんな部分ですか。浅見:ヘリウムSLは超軽量でヒルクライム向けというはっきりした目的を感じますが、ヘリウムのほうが安心感はあって、より広範囲のコースや用途に応えてくれるでしょう。楽しみ方のスタイルが固まっていないけれど、軽いバイクが欲しいというユーザーが手にしても、その後のいろいろな遊び方に対応できます。
吉本:ヘリウムSLは究極を目指したプロ機材という位置づけですから、ある程度使用者を選ぶのは仕方がないでしよう。対するヘリウムは日常使いできる軽量オールラウンダーといった位置づけでしょうか。
浅見:両者は素材を変えただけかと思いましたが、全くの別物ですね。
吉本:名前が同じ兄弟モデルだと、メーカーによっては素材だけ変えて少しだけ形をいじって発売することも多いのですが、ヘリウムSLは設計を一から行なっています。
ノアとノアRSの関係を見ても同じで、手間は掛かりますが、それを惜しまないリドレーはマニアックだし、真摯な物づくりをしていると感じます。一方のヘリウムは今回カーボン素材のトン数を落としていますが、だからといって乗り味に安価な雰囲気はなく、従来のヘリウムが持つ軽い走りも受け継がれています。
浅見:カーボンのトン数を下げても、剛性バランスをしっかり設計すれば走りが鈍くなることはないです。リドレーは一つのフレームでカーボン素材を細かく使い分けているのも特徴で、それがバランスに優れた剛性につながっているのでしょう。新しいヘリウムはカーボン素材のトン数を下げただけで、従来モデルの優れた剛性バランスは維持されているのでデメリットを感じないのでしょう。
吉本:重量増は堅牢性や耐久性の向上にもなりますし、上手く作られたフレームですね。価格もこなれてプライスパフォーマンスも素晴らしいです。平地も上りも軽さを感じながら走行でき、ロードレースでガンガン使ってみたいです。ヘリウムSLに比べるとややハンドリングがシャープな印象もありますが、問題はないと思います。
浅見:ハンドリングの差はコラム下側の径の違でしょう。ヘリウムSLが1-1/4インチ、ヘリウムは1-1/2インチなので、それが剛性に影響してハンドリングの差になっていますね。
レースを基準に考えられた快適性を持つフェニックス
浅見:ヘリウムSLの次に注目されるモデルといえば、やはりフェニックスですね。うちのお店(なるしまフレンド)のおすすめバイクの一つで、シマノ・105のコンポにシマノ・WH-R500のホイールを装備して19万5000円ほどで販売しています。ロードバイクを初めて購入する方にとって、フェニックスの格好いいルックスに、105を搭載して20万円以内に収まってしまうのは、かなり魅力的だと思います。吉本:ヘリウムもプライスパフォーマンは高いと感じましたが、フェニックスはそれ以上です。
浅見:ひと昔前は上位機種と下位機種でカラーリングに差がありましたけど、フェニックスはどう見てもクオリティは一緒ですよね。だから知らない人がフェニックスを見たら手ごろな価格のモデルどうかは分からないですよ。
吉本:よくも悪くもグレードが崩壊していますね(笑)。しかも走行性能も安さを感じさせないレベルにあるし、複雑な凝ったフレーム形状は高級感もある。格好だけで選んでしまっても問題ないぐらい。
フェニックスとヘリウムSLの登場によって、リドレーのラインアップはさらに良くなった印象を受けます。為替の関係もあるけど、ほかのモデルを見ても価格設定は全体的に下がっていますから、お買い得感はなおさらですね。
浅見:フェニックスはビジュアルだけのエントリーモデルではなく、性能もしっかりしています。リドレーのなかで最も快適性に優れているので、入門者の方がロングライドをはじめサイクリングに使うのはいいですね。もちろんレースに対応できる性能も備えています。実業団レースを走る選手でも、パワーがあってガチガチのフレームが好きな人以外、文句はないと思います。かっこいいし、性能も価格以上なので言う事なしです。
吉本:フェニックスは、北米のブランドによく見られるヘッドチューブを長くした、いわゆるコンフォートロードのジオメトリーは採用していません。あくまでもレーシングジオメトリーがベースで、振動吸収性の向上によって快乗り心地だけを高め、ロードレーサーの普遍的なキャラクターを残していますね。そこが自転車競技を国技にとするベルギーから生まれたブランドらしく、個人的には非常に好感がもてます。
距離の長いロードレースで使ってみたいノア
吉本:レーシングジオメトリーを譲らないフェニックスに見られるような、硬派なバイク作りしながらも、リドレーの物作りは柔軟性を備えています。今では用途に応じたバイクを提案するのは一般化していますが、リドレーは軽量なヘリウム、空力のノアというように、用途別のバイクを比較的早い段階で発売しました。今回は試乗できませんでしたが、空力を高めるためにブレーキをフレームに一体化させたノア・ファスト(インプレはこちら)を発表するなど、製品作りはかなりアグレッシブな面もありますね。
浅見:僕も乗ったことはありませんが、ノアファストは究極のエアロダイナミクスを追求したモデルですね。フレームに一体化されたブレーキシステムは、実質的な重量増はないので、それでエアロ効果が向上しているので理想的といえるでしょう。
吉本:ブレーキング性能は通常のタイプと少々フィーリングは異なりますが、実用面で不足はないです。それよりも、よくぞここまで作り込んだなという感じで、後に語られるようなインパクトを残したモデルでしょう。で、その元となるノアの性能はどうでしたか?
浅見:非常に好印象な一台でした。エアロバイクにありがちな横方向の弱さはなく、むしろしっかりしているのでダンシングなどでもグイグイ進む。縦方向の突き上げ感もなくて、エアロフレームなのに乗りやすく仕上げられている。
吉本:同感ですね。おそらくFスプリット構造の溝は、振動減衰にも効果があるのではないかと感じました。
浅見:溝があると表面積は1.2倍ぐらい広がるはずなので、振動減衰効果は確かに期待できるかもしれません。そしてノアのすばらしさを感じるのはスピードの伸びの良さです。とくにFFWD F6Rとの相性は抜群で、スピードがどこまでも伸びる感覚でした。でも、その前に自分の脚が上がってしまい打ち止めですけど……(笑)
吉本:脚力が許すのならアウターギヤ55Tとか付けてみたいぐらいで、トルクをかけて高速で走り続けるのが本当に楽しいバイクです。
浅見:ノアとヘリウムSLでカーペーサーを使って極限までスピードを上げたら、必ずノアの方が速いし、安定しているでしょうね。
吉本:軽量バイクは慣性が小さいので、常にペダルを踏んでいるような感覚ですが、ノアは平坦の集団内などでは脚を休めやすいですね。上りも距離が長く、急勾配でなければデメリットを感じることはないでしょう。
浅見:ノアはやはりツール・ド・おきなわのような距離の長いロードレースで使ってみたいです。速度の上げ下げが激しくないコースの方が得意なバイクですね。
吉本:レースだけでなく、セッティング次第でロングライドにも対応できると感じました。一般のライダーならコンパクトドライブのギヤを装備して淡々と踏むにはいいかも。エアロ形状なのでソロライドで速度が上がれば空力も期待できそうですし。もしも振動吸収性が気になればチューブラーを履けばいいでしょう。ノアは本格的なヒルクライム以外は、何でも対応できる性能があると感じました。
総括 クセのないジオメトリーによる性能、ルックスともに優れたバランスを持つ
吉本:今日乗った4台はどれも固有の魅力があり、これだけキャラクターが立っていると楽しいですね。浅見:軽さと空力、そして快適性に至るまで、すべてのユーザーを満たすラインナップを構成していると感じます。価格をみてもそうですね。
吉本:僕が感じるリドレーの魅力は、どのバイクもクセのない素直な走りで、乗ったときの重心位置を把握しやすいので安定感に優れることです。おそらく走行性能の元となるジオメトリーの設計に優れていて、その上で各モデルに応じた走行特性が追求されているが要因だと想像されます。そして、乗るとタイヤが路面をとらえる感覚が強く、路面が荒れたり、速度が増したりするほどにバイクの良さを感じることができます。
浅見:まずビジュアル的な部分ですけど、どのモデルもデザインがスマートな印象です。フレーム形状の見た目のバランスもいいですね。例えばノアは弓なりのトップチューブに対するフロントフォークの形状、フェニックスはエッジの立ったフレーム対するシャープなフォークなど、全体のまとまりがいいですね。
スローピングにしてもチューブの傾斜角がしっかりと角度も計算されていて、それも見た目のバランスの良さにつながっています。だから、お客様にバイクを納車するときでもピラーの出具合が自然と格好のいい状態になることも多いですね。
やはりクセがなくバランスに優れたジオメトリーは、性能面では大きなポイントになりますね。加えて、おそらく日本人よりも身体の大きなライダーが乗ってテストをしているはずですから、頑丈で安心感にも優れる印象を持ちます。
吉本:ライダーの体格だけでなく、リドレーのフレームには「テステッド・オン・パヴェ」のデカールが貼られている通り、厳しい条件でテストされているので頑丈なイメージはありますね。
リドレーに感じるのはスペック重視だけでなく、バイクを走らせているのはだれなのかという、当たり前のことを常に忘れることなくバイクを設計・テストされているような印象があります。
だからノア・ファストみたいな大胆なフレーム作りをしても破綻のない性能で、どのモデルも最新の設計を取り入れながらスマートな性能にまとめられているのではないでしょうか。やはりロードバイクの本質であるレースが身近にある国で、トッププロをはじめ多くのライダーによって開発されているバイクは、さすがだなと感じました。
編集:シクロワイアード 提供:ジェイピースポーツグループ