2012/03/14(水) - 17:53
BG FITのスペシャリスト3名によるフィッティングを受けた愛三工業レーシングチームのメンバー9名。実際のフィッティングの模様や、エーススプリンター西谷泰治のインプレッションをお届けする。
簡単な自己紹介を経て、マドセン氏とポスト氏が手分けして選手のフィッティングを一人一人行なっていく。必要に応じてプルーイット博士がチェックし、より医学的な見地からのアドバイスを与える方式でフィッティングは進められた。プルーイット博士を含め3人とも熱心なサイクリストであり、そのアドバイスは簡潔で具体的だ。
フィッティングに要する時間は一人につき2時間ほど。「フィッティングは一人一人異なる」という言葉通り、所要時間はライダーによって違ってくる。
結論から言って、劇的にポジションを変更した選手はいなかった。プルーイット博士は「プロ選手は、ほとんどの場合、自分自身のフォームを確立しているからこそ、今のポジションにいる。我々が行なうのは、細かい部分の調整であり、ライダーが力を出しやすく快適なポジションを実現すること」と話す。
9名のライダーはそれぞれ時間をかけてロードレースのフィッティングを受けた。盛一大と西谷泰治のみTTバイクのフィッティングも合わせて実施。具体的なフィッティングの流れを説明していこう。
選手は、自分がチームの中でどんな役割を担っているのか、例えばアシストなのかエースなのかを具体的に伝える。さらに脚質。つまりクライマーかスプリンターか、ルーラーかパンチャーかということまで事細かに伝えていく。
普段走るレースの路面状況は荒れているかスムーズなのか、そこまで細かく聞くことで、フィッターは選手のライディングを理解し、フィッティングのイメージを作り上げていく。
座骨幅、土踏まずの形状、かかとや膝の内反・外反、骨盤の位置、背骨の歪み、首や肩、股関節、ハムストリング、両脚の長さの差異、足首の柔軟性、片足スクワットによる膝のブレ、各所の筋肉量など、基本的な18項目に加え、何か身体的な特徴があれば徹底的にチェック。
マドセン氏によると、チェックポイントは多くて25項目。一見ライディングに関係ないと思われる箇所まで計測するが、プルーイット博士は「すべて理にかなった必要な項目」と話す。
次に選手はローラー台に乗り、身体をバイクに馴染ませるための暖気運転を行なう。その後フィッターが目と手でポジションをチェックする。一般的に用いられる膝と母指球の位置関係はもちろんのこと、サドルに左右の座骨がしっかりと乗っているか、上半身に余裕はあるか、などをチェック。
さらに、ブラケットを持った状態と下ハンドルで踏んでいる状態の2パターンを撮影。正面と真横から撮影されたペダリングフォーム映像をPCに取り込み、ポジションや関節のブレをチェックする。
愛三工業レーシングチームの選手たちの中で最も変更が多かったのはサドル。座骨幅とライディングスタイル、柔軟性に合わせたサドルを選び出し、快適にパワーを出すことの出来るポジションを求めていく。
そして土踏まずのアーチに合わせたフットベッド(インソール)の選択や、シューズとクリートの間のシム追加など、股関節と膝、足の先が一直線に上下運動する効率的なペダリングを求めていく。
フィッターの意見を一方的に強いるのではなく、相互に意見を交換してポジションを煮詰めていった。プルーイット博士の言葉も「無理強いせず、徐々に慣れていけばいい」と柔らかい。「しばらく試してダメなら元の状態に戻せば良い。幸い、シーズンインまで時間はある」。
「以前から身体が傾いているのではないかと気になっていた」と話すのは、エーススプリンターの西谷泰治。フィッターのポスト氏がアセスメントを行なった結果、左脚よりも右脚が短いことが判明。脚の長さの相違をカバーしようと腰の位置が歪み、左右不均等なペダリングになっていた。
まずはインソールを交換し、右シューズとクリートの間に3mmのシムを挿入。さらに左シューズのクリートを1mm後退させることで、左右のバランスを最適化した。最終的にサドル高を1mm上げ、ステムを10mm短くし、ローラー台で微調整を加えたのち終了。
その結果、サドル上での腰の動きが安定した。ペダリングに合わせて左右に振れていた腰が、ドーンと垂直に据えられている様子が素人目にも明らかなほどに。
西谷自身も「3mmのシムを装着したことを感じない。ペダリングがスムーズになった」と、効果をすぐに体感した様子。それまで頭の中で漂っていた「左右差」の違和感が専門家の目で解消されたことに安堵の表情を浮かべた。
「フィッティング直後からペダリングの違いが分かりました。セッティングは全く変更していません。平地では左シューズに入れたシムの有効性を感じませんでしたが、ゲンティンハイランドなどの急坂を上っている最中は、左右のバランスがとりやすく、トルクもかけやすかったです。効率よくペダリングできるので、勾配がきついところでもシッティングで回して上っていけます」
「効率の良いポジションになっていると思います。今までだと、前に大きく出して背中から踏みつけるようなペダリングだったので、大きく違います。スピードの強弱(インターバル時など)の時は、やはり楽なポジションなので回復は早いですね」
BG FIT施行の流れ
トレーニングキャンプ中の愛三工業レーシングチームの9名の選手たちが、少し緊張した面持ちでフィッティングルームに入ってくる。そこで首を長くして待っていたのは、前ページで紹介したアンディ・プルーイット博士、ショーン・マドセン氏、そしてアーロン・ポスト氏。簡単な自己紹介を経て、マドセン氏とポスト氏が手分けして選手のフィッティングを一人一人行なっていく。必要に応じてプルーイット博士がチェックし、より医学的な見地からのアドバイスを与える方式でフィッティングは進められた。プルーイット博士を含め3人とも熱心なサイクリストであり、そのアドバイスは簡潔で具体的だ。
フィッティングに要する時間は一人につき2時間ほど。「フィッティングは一人一人異なる」という言葉通り、所要時間はライダーによって違ってくる。
結論から言って、劇的にポジションを変更した選手はいなかった。プルーイット博士は「プロ選手は、ほとんどの場合、自分自身のフォームを確立しているからこそ、今のポジションにいる。我々が行なうのは、細かい部分の調整であり、ライダーが力を出しやすく快適なポジションを実現すること」と話す。
9名のライダーはそれぞれ時間をかけてロードレースのフィッティングを受けた。盛一大と西谷泰治のみTTバイクのフィッティングも合わせて実施。具体的なフィッティングの流れを説明していこう。
1. インタビュー
BG FITと言えばローラー台やフィッティング用具を駆使したフィッティングが真っ先に思い浮かぶが、それらの前提にあるのが選手とフィッターのインタビュー。これまでに経験した怪我の履歴や、痛み、違和感、ライディングスタイル、目標とする走りなど、事細かにフィッターは聞き出し、それらをiPadに手際よくメモしていく。選手は、自分がチームの中でどんな役割を担っているのか、例えばアシストなのかエースなのかを具体的に伝える。さらに脚質。つまりクライマーかスプリンターか、ルーラーかパンチャーかということまで事細かに伝えていく。
普段走るレースの路面状況は荒れているかスムーズなのか、そこまで細かく聞くことで、フィッターは選手のライディングを理解し、フィッティングのイメージを作り上げていく。
2. アセスメント
次に、選手の身体的な特徴をフィッターがチェックしていく。座骨幅、土踏まずの形状、かかとや膝の内反・外反、骨盤の位置、背骨の歪み、首や肩、股関節、ハムストリング、両脚の長さの差異、足首の柔軟性、片足スクワットによる膝のブレ、各所の筋肉量など、基本的な18項目に加え、何か身体的な特徴があれば徹底的にチェック。
マドセン氏によると、チェックポイントは多くて25項目。一見ライディングに関係ないと思われる箇所まで計測するが、プルーイット博士は「すべて理にかなった必要な項目」と話す。
3. ローラー台でのフィッティング
次に選手はローラー台に乗り、身体をバイクに馴染ませるための暖気運転を行なう。その後フィッターが目と手でポジションをチェックする。一般的に用いられる膝と母指球の位置関係はもちろんのこと、サドルに左右の座骨がしっかりと乗っているか、上半身に余裕はあるか、などをチェック。
さらに、ブラケットを持った状態と下ハンドルで踏んでいる状態の2パターンを撮影。正面と真横から撮影されたペダリングフォーム映像をPCに取り込み、ポジションや関節のブレをチェックする。
愛三工業レーシングチームの選手たちの中で最も変更が多かったのはサドル。座骨幅とライディングスタイル、柔軟性に合わせたサドルを選び出し、快適にパワーを出すことの出来るポジションを求めていく。
そして土踏まずのアーチに合わせたフットベッド(インソール)の選択や、シューズとクリートの間のシム追加など、股関節と膝、足の先が一直線に上下運動する効率的なペダリングを求めていく。
フィッターの意見を一方的に強いるのではなく、相互に意見を交換してポジションを煮詰めていった。プルーイット博士の言葉も「無理強いせず、徐々に慣れていけばいい」と柔らかい。「しばらく試してダメなら元の状態に戻せば良い。幸い、シーズンインまで時間はある」。
SPECIALIZED BG FIT CAMP - 鈴木謙一編
脚長の左右差を調整し、スムーズなペダリングを得た西谷泰治
ここで愛三工業レーシングチームの選手一人をピックアップし、フィッティングの手順やフィッティング後のインプレッションをお伝えしよう。「以前から身体が傾いているのではないかと気になっていた」と話すのは、エーススプリンターの西谷泰治。フィッターのポスト氏がアセスメントを行なった結果、左脚よりも右脚が短いことが判明。脚の長さの相違をカバーしようと腰の位置が歪み、左右不均等なペダリングになっていた。
まずはインソールを交換し、右シューズとクリートの間に3mmのシムを挿入。さらに左シューズのクリートを1mm後退させることで、左右のバランスを最適化した。最終的にサドル高を1mm上げ、ステムを10mm短くし、ローラー台で微調整を加えたのち終了。
その結果、サドル上での腰の動きが安定した。ペダリングに合わせて左右に振れていた腰が、ドーンと垂直に据えられている様子が素人目にも明らかなほどに。
西谷自身も「3mmのシムを装着したことを感じない。ペダリングがスムーズになった」と、効果をすぐに体感した様子。それまで頭の中で漂っていた「左右差」の違和感が専門家の目で解消されたことに安堵の表情を浮かべた。
西谷泰治インプレッション
フィッティング後、西谷はアジア選手権ロードレースで3位に入り、そしてツール・ド・ランカウイに出場。トレーニングやレースでの実践を経た今、改めてフィッティングの感触を聞く。「フィッティング直後からペダリングの違いが分かりました。セッティングは全く変更していません。平地では左シューズに入れたシムの有効性を感じませんでしたが、ゲンティンハイランドなどの急坂を上っている最中は、左右のバランスがとりやすく、トルクもかけやすかったです。効率よくペダリングできるので、勾配がきついところでもシッティングで回して上っていけます」
「効率の良いポジションになっていると思います。今までだと、前に大きく出して背中から踏みつけるようなペダリングだったので、大きく違います。スピードの強弱(インターバル時など)の時は、やはり楽なポジションなので回復は早いですね」
SPECIALIZED BG FIT CAMP - 西谷泰治編
提供:スペシャライズド・ジャパン 取材・編集:Kei Tsuji / シクロワイアード