2011年のツール・ド・フランスでBMCレーシングのカデル・エヴァンスをマイヨジョーヌに導いたのがBMCのフラッグシップモデル SLR01だった。その流れをくむレーシングバイクがRM01だ。
SLR01とRM01の外観を一見しただけでその違いを見つけるのは難しい。グラフィックが違うことを抜きにすれば、シートステーの仕様がわずかに異なるだけだからだ。SLR01では振動吸収性を高めるTCCテクノロジーが採用されているが、RM01では採用が見送られている。ちなみに、前三角の仕様はSLR01とRM01ではまったく同じだという。2012年モデルのRM01は、アルテグラ仕様の完成車販売のみ。フレームカラーはレッドだ。
次にRM01のディテールとテクノロジーを見ていこう。
コストダウンをはかりつつ、TCCテクノロジーも採用

ここで改めてTCCテクノロジーについて復習しよう。
TCCテクノロジーとは、シートポスト、フロントフォークのそれぞれ後ろ側に振動吸収性に優れたマルチディレクショナルカーボンを配置し、その他の部分に剛性に優れたユニディレクショナルカーボンを配することで、軽さと剛性、振動吸収性を高いレベルで両立しようというもの。シートポスト、フロントフォークが適度にしなることで、荒れた路面での快適性を高める効果がある。
シートステーのTCCを省略することで、快適性に関してはRM01はSLR01に比べて劣るという見方もできるかもしれない。しかし、RM01のフロントフォークやシートポストにはTCCが採用されており、ライダーへのダメージを抑え、レース後半の勝負所において最高のパフォーマンスを発揮させようという意図が見て取れる。
では、なぜRM01ではシートステーのTCCの採用を見送ったのか? 理由はコストダウンにあるという。
また、フロントフォークに関してもTCCテクノロジーのキモであるマルチディレクショナルカーボンの材質を見直し、より安価な素材でコストダウンを達成しつつ、上位モデルと同レベルの衝撃吸収性能を獲得することに成功している。





これらのコストダウンは、完成車価格に現れている。アルテグラDi2仕様のSLR01が52万5000円であるのに対し、アルテグラ仕様のRM01はおよそ37万円と、15万円ほどの差がある。コンポやアッセンブルされるパーツの違いはあるにせよ、グッと手の届きやすい価格を実現している。
BMCの象徴iSCを継承、フレームの前三角はSLR01と同仕様
RM01のフレームは、構造に関してはシートステー以外の部分はSLR01と共通である。言い換えれば、ハンドリングや剛性感に大きな影響を与えるフレームの前三角に関しては、両者は同じ仕様であるとも言える。たとえば、BMCの象徴とも言えるテクノロジーのiSCは、RM01でも継承されている。コンピューターシミュレーションによって軽さ・剛性の高さ、快適性を高い次元で兼ね備えたフレームを設計するこのテクノロジーによって、RM01はSLR01に匹敵する高い戦闘力を獲得している。
BB周りはダウンチューブ、シートチューブとの接合部をBB幅いっぱいまで拡大し、プレスフィット方式のBB86を採用することで最大限に剛性を保ちつつ、軽量化にも成功している。これはSLR01と同様の構造だ。クランクセットの選択が限られるBB30とは違い、最も大きなシェアを誇るシマノのコンポーネントに対応している点は、多くのライダーにとってメリットといえるだろう。



細部の仕様もぬかりない。カーボン製のドロップアウトを採用して軽量化を進めているほか、テーパードタイプのフロントフォークを採用してハンドリング性能を高めている。これらはいずれも上位モデルのSLR01にも採用されているものだ。もちろん、フレームジオメトリーはSLR01と共通だ。
RM01はハイエンドモデル並みの戦闘力を、より手ごろな価格で実現したレーシングマシーンなのだ。
BMC RM01
スペック

フレーム | iSCフルカーボン+カーボンドロップアウト+BB86 |
フォーク | RMオリジナル TCCフルカーボン |
メインコンポ | シマノ・アルテグラ |
カラー | レッド |
価格 | 367,500円※写真の仕様は国内仕様とは異なります |
インプレッション
「日本のロードレースに最適な1台 コスパも魅力」 岩島啓太
CW:フレームの第一印象はいかがでしたか?三宅:これは剛性の塊ですね。すごいです。特にヘッド周りの剛性が高く、下りのブレーキング時にも安定した挙動を示していたのが印象的でした。ただ、脚がなくなるとツライかもしれませんね。
岩島:確かに剛性は高いですね。SLR01よりもRM01の方が硬さが際だっているように感じました。パワーのある人には向いているのではないでしょうか。僕はSLR01よりはこちらの方が好みですね。
CW:相当剛性が高そうですね。
三宅:個人的にはヘッド周りとリア三角のたくましさを感じました。特にリア三角の"しっかり感"が際だっているので、「剛性が高く、乗り手を選ぶ」と感じたのかもしれません。
岩島:でもRM01が特別に剛性が高いかというと、そうではないと思います。もし剛性を数値化したら、数字上の剛性はSLR01もRM01も同じぐらいなんじゃないかと感じました。

CW:SLR01と比べるとやや快適性に欠けると言うことでしょうか?
三宅:レース用のバイクとしては必要十分な快適性は備えていると思います。シートポストが前後にしなるのは感じられたので、脚がある人ならロングライドもこなせるでしょう。ただ、ツーリングやロングライドをより快適に走るためのバイクではなく、あくまでレーサー向けの味付けがなされていると感じました。
岩島:路面からの突き上げはSLR01よりRM01の方がより強く感じられますが、これはシートステーにTCCを採用していないからでしょう。細かな振動もより多く伝わってきます。このあたりが“硬い”という印象を与える原因なのでは。ただ、レーシングバイクとしては振動吸収性が悪いわけではありません。シートポストにはTCCが採用されているため、サドルにどかっと座ったときには大きな振動を吸収してくれると感じました。
「剛性の塊、明らかにレーサー向け」 三宅和真
CW:走行性能全般に関してはいかがでしたか?三宅:走りが軽いですね。アッセンブルされている個々のパーツがいいのはもちろん、全体としてのバランスもいいからでしょう。個人的には特に上りで軽さを感じました。ダンシングでもシッティングでもどちらでも進みますね。あと、ヘッド周りの剛性の高さによるものか、ハンドリングも素直ですね。
岩島:どっしりと安定感があるのが印象的でしたね。下りをハイスピードで攻めても安心感があります。路面の段差に不意に乗り上げてしまっても、体が浮いて怖い思いをすることがないほどで、この点はアドバンテージといえるのではないでしょうか。
CW:ショップスタッフとしての目線でこのバイクのおすすめポイントは?
三宅:価格を見ると、性能比の割安感はありますね。
岩島:コンポーネントに信頼性の高いシマノ・アルテグラを採用した完成車で36万円というのは安いですね。それに、アッセンブルされているパーツがレースで使うには申し分ない。コンポやホイールはもちろん、ステムやハンドルといった小物まで手を抜いていないと思います。

三宅:ちょっと気になったのは、コンポーネントがアルテグラのワイヤー式変速のみで完成車販売しかない点です。完成車販売なら、SLR01のようにほかのコンポーネントが選べるとなおよいですね。フレーム販売があれば一番いいのですが……。
CW:おすすめの用途は?
三宅:これはもう明らかにレーサー向けですね。レース志向の強い人が、クリテリウムのような短距離の厳しさが求められるレースに使うイメージですね。重量が軽いので、ヒルクライムにもいいと思います。脚がある人ならロングライドにも使えるかも。
岩島:レース全般にいいですね。日本のレースに多い短距離系のレースには非常に向いていると思います。価格も比較的お手ごろなので、練習でもレースでも安心してガンガン使えますね。学生レーサーや実業団レーサーがハードに使い倒すのにぴったりかもしれません。
編集:シクロワイアード 提供:フタバ商店