2010/12/29(水) - 13:55
テクノロジーを結集したTTバイクの神髄
ここ数年、各メーカーで熾烈な開発競争が繰り広げられるTTバイク。マスドロードに比べると需要は低く、開発コストを考えると採算は取りがたい。それでも各社が意欲的な製品を展開するのは、自社の開発力の高さを示すアイコンであるからにほかならない。そんなTTバイクシーンにおいて存在感を示しているのが「ディーン」だ。エアロロードのノアと同じく09年モデルで登場したこのバイクは、ノアとの技術共用により究極のエアロダイナミクスが追求される。
その柱となっているのは、オーバルコンセプト社と共同で開発される「R-Flowジェットフォイル」テクノロジー。今やリドレーの代名詞の1つでもあるエアロダイナミクス技術だ。フロントフォークとシートステーにスリットを設けることで、ホイール付近で起こる空気の乱流を抑え、約7.5%の空気抵抗削減を実現している。
そしてもう1つが「R-Surface」と呼ばれる加工。ヘッドチューブ、シートチューブ、ダウンチューブに表面を粒子状にした細いテープ状の加工を施すことで空気の流れが整流され、空気抵抗が約4%抑えられている。
もちろんエアロダイナミクスの追求はこれだけにとどまらず、その圧倒的なフォルムを見ても分かるが、フレーム形状の各部に工夫を凝らすことで高いレベルを実現している。フレーム形状のポイントを挙げればきりがないほど凝った作りだが、ディーンにおいて最も象徴的なのは、やはりフロントまわりだ。
「R-Flowジェットフォイル」テクノロジーを搭載するフォークは、圧倒的な幅を持った翼断面形状に仕上げられる。全長を短く設計したヘッドチューブは、空気を切り裂くように先端部分を鋭角に仕上げ、さらにフォークと一体化するようデザインされる。
そして、極めつけは逆付けされるセンタープル式のブレーキだろう。こうして、エアロダイナミクス性能において最重視される前衛投影面積を小型化されている。
フレームのリヤセクションに目を向けると、リヤタイヤの外郭に完全に沿うように形どられたシートチューブが印象的だ。シートステーとタイヤとのクリアランスは、正爪タイプのリヤエンドにハブ軸を奥まで押し込めば、タイヤとのクリヤランスは1㎜程しかないきわどい設計だ。加えてリヤブレーキはチェーンステーの裏側に装備するなど、とにかく推進力を妨げる空気の乱流は起こさないという徹底ぶりを見て取れる。
こうして出来上がったディーンのフォルムは、前後700Cサイズのホイールを装備しながらも、90年代前半までタイムトライアルモデルの常識だった前後異形のホイールを履いた、ファニーバイクを思わせるほど前衛的スタイルに仕上げられている。
一般的にタイムTTバイクはエアロダイナミクスという特化した性能を追求しているため、特に振動吸収性をはじめとする快適性を確保するのが難しいとされる。しかし、この点も犠牲にしていないのがディーンのもう1つの特徴といえるだろう。
50T、40T、30Tのカーボン素材を、フレーム各部の求められる要素に対して細かく使い分けるのがその1つ。そして、トップチューブはダウンチューブに比べて外径を落として快適性が高められる。さらに、インテグラルシートの部分は、シートチューブに対してオフセットさせたレイアウトにより、路面からの振動をライダーにダイレクトに伝えないようにするなどの工夫が見られる。
こうして最新の技術を余すことなく盛り込み、まさに現在のTTバイクの神髄ともいえるモデルがディーンである。
インプレッション
速さに繋がる自然なライディングフィール
特徴的な外観から扱いにくさを想像するが、それに反して実に乗りやすい。エアロダイナミクスを高めるために、前傾の強いライディングポジションを確保するように設計するTTバイクは、その性格上、どうしても荷重が前方に偏りがちになる。高出力の走りを行なうにはメリットもあるが、コーナリングをはじめ操作性で考えるとそれはデメリットとなる。このディーンにはそうした部分を感じない。自然とバイクの中心に乗ることができるので前後に荷重がしっかり分散され、コーナリングをはじめ横の動きに対して安定感が得られる。ハンドリングも軽いが節度のあるレベルで、急に切れ込んでゆく感覚はなく扱いやすい。特にTTバイクでは、DHポジションでコーナーに突っ込むことも必要とされるため、ハンドル操作に不安がないのは、大きなメリットと言えるだろう。
高出力で走り続けるTT用、しかもトッププロが乗るクラスのバイクだけあってフレーム剛性は高く、カッチリとしたペダリングフィールで踏み出しは非常に鋭い。ノアと同じように、グングンと加速したくなるフレームだ。大きな出力で踏むほどに魅力が増すフレームと言えるだろう。
ある程度のペダリングスキルとフィジカルレベルを持つライダーなら、自然と体の軸を意識できるライディング感覚を武器に、体幹部をバイクに据えて高出力のペダリングをしやすく速さに繋げられるはずだ。こうしてはまった時の高速巡航性の力強さは実に気持ちいい。ホイールとの相乗効果もあるが、時速40㎞以上での巡航走行は流れるようなスムーズさを体感できる。これがディーンの優れたエアロダイナミクスであり、TTバイクならではの快感だ。
そして、全体的に自然なライディングフィールなので、コーナーでの立ち上がりや、平地から緩斜面に入った時のダンシングへの切り替えなど、体勢を変えて加速するシーンでもスムーズに体が動き、加速に繋げられるのがいい。
乗り心地については、フレーム剛性が高いのでそれなりの突き上げ感はあるが、TTバイクとしては十二分に許容できる範囲に収まっている。それよりもトータルでの乗りやすさが追求されている点が、このディーンの最大の魅力と言えるだろう。リドレーの技術力の高さを存分に体感できる1台だ。
リドレー DEAN
PRICE | ¥378,000(税込) フレームセット |
FRAME | 50ton,40ton,30tonハイモジュラスカーボンファイバー |
WEIGHT | 1370g |
COLOR | 1113A |
SIZE | XS |
提供:JPスポーツグループ 企画/制作:シクロワイアード