スペイン・ベニカシムでの試乗を終え、新型REACTO開発チームにマイクを向けた。そこで語られたのは、スペック表の数字だけでは決して推し量ることのできないメリダというブランドの「恐ろしいほどの実直さ」と、再び世界の頂点へと返り咲こうとする「静かな執念」だった。

メリダR&Dセンターを統括するベンジャミン・ディーマー氏。REACTOのグローバルローンチで話を聞くことができた photo:So Isobe
「新しい自転車を開発して2年も経てば、サポートチームや一般ユーザーも含めて、たくさんの『XXを改善してほしい』『もっとXXXでなきゃいけない』といった要望が出るものですが、第4世代のREACTOに関してはそういったものがあまりありませんでした。だからこそ慎重に、納期に追われず、できる限り良いバイクを作り上げようと決めました。2020年、2021年のことでした」。
ゆっくりと、噛み締めるように質問に答えてくれたのは、ドイツにあるメリダR&Dセンターを統括するベンジャミン・ディーマー氏だ。メリダ開発部門のトップであり、新型REACTOの開発統括を担当した彼に話を聞くのは、およそ1年前に来日したとき以来のこと。新型REACTOの開発はどのようなものだったのか。あなたたちメリダにとって、REACTOはどんな存在なのだろうか。
ベンジャミン氏曰く、今回一番頭を悩ませたのは、最新エアロバイクとしてのバランスをどこに置くかということ。もっと軽量なバイクはあるし、もっと空力的に優れているバイクもある。それは間違いのないこと。でもREACTOは究極のレースバイクとして、あらゆる要素を詰め込み、完璧なバランスを追い求めたバイクです。REACTOはエアロロードですが、空力だけじゃない」と続ける。

エアロロードとしてのバランスに重点が置かれた。 平坦はもちろん、山岳も、ダウンヒルも、一台でこなせるレースバイクとして。 photo:MERIDA BIKES
確かにサーヴェロのS5やファクターのONE、コルナゴのY1Rsといった奇抜なエアロロードは機材ギークたちの目を釘付けにするが、それはメリダが切り込む領域ではない。扱いやすく、トレンドを取り込みつつも普遍的であることが大切、と、今回話を聞いた全てのプロダクトマンは口を揃える。
スペシャライズドやトレック、直接的なライバル関係にあるジャイアント然り、現代のバイク開発にはホイールとのトータル開発が欠かせないが、メリダは依然プロスペックのオリジナルホイールには踏み出していない。横風を受け流す能力が突出していたというレイノルズとの共同開発によってフォークレッグやダウンチューブなどホイールとフレームが密接に影響しあう部分を特に作り込んだというものの、完成車ラインナップからも推察できる通り、同社製ホイールを組み合わせることをユーザーに強要しない。あくまで「パーツ選択はユーザー側にあるべき」という姿勢を崩さないからだ。

風洞実験で用いられたテスト用モデル。3Dプリンタ製のシェルを交換して実験を繰り返したという photo:So Isobe

チーフデザイナーを務めるマーティン・シュトゥッツ氏による解説 photo:So Isobe 
こちらはシートチューブのカットアウト有無で数値がどう変化したかを示した図。ホイールにピッタリと沿わせても大きな差はなく、軽量化を優先するに至ったという photo:So Isobe
REACTOの開発スケジュールの中で、風洞施設は合計4回足を運び、様々なプロトタイプ形状を取っ替え引っ替えして試した。「あのヘッドチューブとダウンチューブの組み合わせはどうか、あのフォークレッグとあのダウンチューブの組み合わせはどうか...。その度にチーフデザイナーのマーティン・シュトゥッツが微調整を加えていくのです。アルミの骨格に3Dプリンターで作った"ガワ"を被せて様々な形状をテストできる実験モデルを作りましたが、あのおかげでたくさんのテストが可能になりました」。
なかでも開発陣の頭を悩ませたのはコックピットだったという。ハンドルバーは空力に最も影響するセクションであり、REACTOのために専用設計したハンドルが必要不可欠だと考えていたからだ。最も狭いもので290mmという「TEAM CW 1P」コックピットは、エアロを求めるマテイ・モホリッチを筆頭にバーレーン・ヴィクトリアスの選手たちが実際にリクエストしたサイズだったが、UCIの新ルールに基づいてレース使用は禁じられた。しかし「UCIレースではなくとも速さを追い求めるユーザーに向けて」と開発を続け、ラインナップに加えることを決めたという。
「また、バイク全体をもっと軽く作ることもできましたが、軽さはその反作用として乗り味や安定性、ひいては安全性を失うことにも直結します。開発段階ではもう少し軽量だったものの、実走行で時速80kmに達するダウンヒルで少し不安定だという意見が出ました。そこでフォークやヘッド周りに50gのカーボン積層を追加してハンドリングの不安感をなくすという選択をしたのです。結果としてREACTOはREACTOのまま、純粋な正統進化を果たしました。我々自身が乗ってもこれはREACTOの進化版だとはっきりと感じ取れる仕上がりです」。

新型REACTOを駆り、昨年のツール・ド・フランスで活躍したレニー・マルティネス(フランス) photo:CorVos
正式デビューを前に、新型REACTO(のプロトタイプ)は2025シーズン中盤からすでに実戦投入され、ツール・ド・フランスではレニー・マルティネス(フランス)が山岳賞ジャージを争い、ブエルタではトースタイン・トレーエン(ノルウェー)にマイヨロホをもたらした。さらにバーレーンとメリダの最終レースとなったジャパンカップでマルティネスが独走勝利を飾ったことも記憶に新しい。
これほど早いタイミングでの実戦投入にはメリダの明確な戦略があった。それは2027年、2028年シーズンを見据えたワールドツアーへの復帰だ。
「我々としては、あえて早い段階から"ノイズ"を残したかったのです。プロトタイプが活躍すれば、それはプロトンの選手たちの目に留まる。他チームの選手同士であのREACTOは良いらしいぞと噂が回れば、その印象はずっと良くなる。そしてそれが、次のチームとのスポンサー契約に結びつくからです。我々にとって世界トップレースは最高のテストフィールドです。売上に繋げるというよりも、少しでも優れた製品を作るために彼らの声は必要だからです」。

2025年ブエルタでマイヨロホを獲得したトースタイン・トレーエン(ノルウェー) photo:A.S.O. 
ジャパンカップで独走勝利したレニー・マルティネス(フランス) photo:Makoto AYANO

レニー・マルティネス(フランス)のジャパンカップ優勝を支えたメリダの新型REACTO。この時点でプロトタイプだったと言う photo:So Isobe
「もし今、我々にワールドチームとのパートナーシップが続いていれば、今年はSCULTURAの出番はゼロになっていたでしょう」とディーマー氏は胸を張る。事実、プロトタイプの新型REACTOはSサイズでパワーメーターやペダルを含めても6.6〜6.8kgという重量に収まっていたという。重量規制に達するほど軽く、空力性能で圧倒するREACTOがレース機材として選ばれない理由はない。昨年のツールでは、供給の都合で一部のエース級選手のみが新型を旧型と乗り分ける状態にあったが、それでも全ステージの9割以上でREACTO(旧型含む)が選ばれていたという。プロレースの現場では、平均勾配が6〜8%までであれば軽量モデルよりもエアロモデルが好まれる。山岳コースであっても登りっぱなしということはまず無く、必ず下りと平坦が混ざってくるからだ。
この「エアロ思考」は、今やプロの世界だけではなく、ホビーユーザーにまで深く浸透している。「SCULTURAのクラシックな走りとルックスも魅力的ですが、『速さ』を基準に選ぶならREACTOであることに間違いはありません。先代の弱点だった重量を大幅に克服した今、たとえヒルクライムだけであっても、平均勾配が5%程度であればREACTOの方が良い選択肢なのです。日本のようなヒルクライム大国においてもその優位性は大きいと思います」とも。

最終形状に近いCF5グレードのサンプル。2025年11月の表記があることから、バーレーンの実戦テストを経てなお調整が続けられていたことが分かる photo:So Isobe
ロードレースの世界では今、サドルを極限まで前に出す「前乗り」が完全に主流となっている。当然、新型開発にあたってはジオメトリーの刷新が予想されたが、メリダはREACTOのジオメトリーを積極的に変えることはしなかった。変化したのは、コンポーネントメーカーからの要請による微細なアップデートや、ゼロセットバックのシートポストを基準にした程度に留まる。
「シマノやスラムの要請を受けてチェーンステー長を408mmから410mmへと延長しましたが、我々のテストでは2mmの延長が走行性能に大きな差を生むことはなかったため、タイヤクリアランスを確保する意味でもこの変更を受け入れましたが、そのほかの基本的な『タッチポイント』は一切変えていません。前乗り全盛期となって久しいプロレースの現場でも、昨年の時点でバーレーン・ヴィクトリアスの選手たちから改善要求が出ることはありませんでした。REACTOはもともと、安定感と鋭いハンドリングのバランスに定評があります。優れたバランスを保つバイクであれば、前乗りポジションによる荷重移動の変化にも十分に耐えうるのです」。

スペインのグローバルローンチで新型REACTOを試す筆者。剛性感溢れる走りは登りも全く不得意としない photo:Jan Piątkiewicz/Bikeshow.cc

「本当に好まれるレーシングバイクとは何か、を基礎から考えて作った」と言う photo:So Isobe 機材スポーツのブランドとして真に大切なことは何か。華やかな広告宣伝費を投じて世界チャンピオンを囲い込むことだけが正解ではなく、どこでも純正の補修部品を手に入れることができ、トラブルの際もすぐに直せるサポート体制の構築することだとディーマー氏は断言した。
この「製品第一主義」と、地に足のついた実直な姿勢こそが新型REACTOの根幹にある。先に述べたように度肝を抜く造形のバイクではなく、アグレッシブでありながらも、あくまで「ノーマルなロードバイク」の範疇に収まること。「確かにクールなデザインは魅力的ですが、それが時に意味を持たない造形に繋がり、構造を複雑化させ、最終的にはユーザーフレンドリーさを損なう原因にもなります。だからこそ、我々はあえて空力上のメリットがあるDシェイプのステアリングチューブ(コラム)も使いませんでした」。
「Dシェイプコラムはすでに一般化しましたが、それでも熟練のメカニックが細心の注意を払って組まないとケーブルの取り回しが極めて難しい。フル内装化が進む現代において丸断面ですらメンテナンスは厄介なのに、特殊形状はなおさらです。メリダとしては、ユーザーはもちろん、メンテナンスを担うショップにとってもフレンドリーで、長持ちする製品を作るべきだと考えています」。
今や、どのメーカーのトップモデルも「軽くて速い」のは当たり前だ。しかし、その「速さ」を維持するためのコストや、製品としての持続可能性はどうだろうか。ディーマー氏は言葉を続ける。
「専用設計の特殊なベアリングは10年後も供給されるでしょうか? 複雑極まりない構造をきちんと整備できる人が何人いるでしょうか?我々が常に念頭に置いているのは商品としての分かりやすさ、そしてずっと手元に置いておける耐久性と汎用性です。ショップフレンドリーかつユーザーフレンドリーであること。それは、最新の空力性能を追求することと同じくらい、我々にとって大切なテーマなのです」。

CF5フレームに105 DI2をセットした「REACTO 6000(768,900円)」と、CF3フレームに機械式105をセットした「REACTO 4000(429,000円)」。価格上昇の波に抗えないといえど、メリダらしいコストパフォーマンスは未だ健在だ photo:So Isobe
今回の取材で痛感したのは、彼らのワールドツアーへの復帰への意思と、メリダが究極に真面目で実直なブランドであるということだ。今回「200Wの壁」を突破したのはテストバイクとして乗ったエアロ組みの「ONE」完成車だが、彼らは様々な完成車の風洞実験や重量の数値を公開しているし、(重たい、という印象を抱かせがちな)CF3グレードのフレーム重量も公開している。ここまで細かい情報開示は他のブランドにはない。
整備性への配慮も含め、メリダの「ユーザーへの誠実さ」は業界随一。それはおそらく、ドイツに拠点を置く開発陣の、どこまでも実直な気質に起因しているのだろう。「もっとメリダのやっていることはアピールされててもいいのに」と筆者は常々思っている。
「追い求めたのはエアロロードとしてのバランス」

「新しい自転車を開発して2年も経てば、サポートチームや一般ユーザーも含めて、たくさんの『XXを改善してほしい』『もっとXXXでなきゃいけない』といった要望が出るものですが、第4世代のREACTOに関してはそういったものがあまりありませんでした。だからこそ慎重に、納期に追われず、できる限り良いバイクを作り上げようと決めました。2020年、2021年のことでした」。
ゆっくりと、噛み締めるように質問に答えてくれたのは、ドイツにあるメリダR&Dセンターを統括するベンジャミン・ディーマー氏だ。メリダ開発部門のトップであり、新型REACTOの開発統括を担当した彼に話を聞くのは、およそ1年前に来日したとき以来のこと。新型REACTOの開発はどのようなものだったのか。あなたたちメリダにとって、REACTOはどんな存在なのだろうか。
ベンジャミン氏曰く、今回一番頭を悩ませたのは、最新エアロバイクとしてのバランスをどこに置くかということ。もっと軽量なバイクはあるし、もっと空力的に優れているバイクもある。それは間違いのないこと。でもREACTOは究極のレースバイクとして、あらゆる要素を詰め込み、完璧なバランスを追い求めたバイクです。REACTOはエアロロードですが、空力だけじゃない」と続ける。

確かにサーヴェロのS5やファクターのONE、コルナゴのY1Rsといった奇抜なエアロロードは機材ギークたちの目を釘付けにするが、それはメリダが切り込む領域ではない。扱いやすく、トレンドを取り込みつつも普遍的であることが大切、と、今回話を聞いた全てのプロダクトマンは口を揃える。
スペシャライズドやトレック、直接的なライバル関係にあるジャイアント然り、現代のバイク開発にはホイールとのトータル開発が欠かせないが、メリダは依然プロスペックのオリジナルホイールには踏み出していない。横風を受け流す能力が突出していたというレイノルズとの共同開発によってフォークレッグやダウンチューブなどホイールとフレームが密接に影響しあう部分を特に作り込んだというものの、完成車ラインナップからも推察できる通り、同社製ホイールを組み合わせることをユーザーに強要しない。あくまで「パーツ選択はユーザー側にあるべき」という姿勢を崩さないからだ。
コックピットの苦悩、走りのバランス調整



REACTOの開発スケジュールの中で、風洞施設は合計4回足を運び、様々なプロトタイプ形状を取っ替え引っ替えして試した。「あのヘッドチューブとダウンチューブの組み合わせはどうか、あのフォークレッグとあのダウンチューブの組み合わせはどうか...。その度にチーフデザイナーのマーティン・シュトゥッツが微調整を加えていくのです。アルミの骨格に3Dプリンターで作った"ガワ"を被せて様々な形状をテストできる実験モデルを作りましたが、あのおかげでたくさんのテストが可能になりました」。
なかでも開発陣の頭を悩ませたのはコックピットだったという。ハンドルバーは空力に最も影響するセクションであり、REACTOのために専用設計したハンドルが必要不可欠だと考えていたからだ。最も狭いもので290mmという「TEAM CW 1P」コックピットは、エアロを求めるマテイ・モホリッチを筆頭にバーレーン・ヴィクトリアスの選手たちが実際にリクエストしたサイズだったが、UCIの新ルールに基づいてレース使用は禁じられた。しかし「UCIレースではなくとも速さを追い求めるユーザーに向けて」と開発を続け、ラインナップに加えることを決めたという。
「また、バイク全体をもっと軽く作ることもできましたが、軽さはその反作用として乗り味や安定性、ひいては安全性を失うことにも直結します。開発段階ではもう少し軽量だったものの、実走行で時速80kmに達するダウンヒルで少し不安定だという意見が出ました。そこでフォークやヘッド周りに50gのカーボン積層を追加してハンドリングの不安感をなくすという選択をしたのです。結果としてREACTOはREACTOのまま、純粋な正統進化を果たしました。我々自身が乗ってもこれはREACTOの進化版だとはっきりと感じ取れる仕上がりです」。
プロトンに「ノイズ」を与えたかった、と彼は言う

正式デビューを前に、新型REACTO(のプロトタイプ)は2025シーズン中盤からすでに実戦投入され、ツール・ド・フランスではレニー・マルティネス(フランス)が山岳賞ジャージを争い、ブエルタではトースタイン・トレーエン(ノルウェー)にマイヨロホをもたらした。さらにバーレーンとメリダの最終レースとなったジャパンカップでマルティネスが独走勝利を飾ったことも記憶に新しい。
これほど早いタイミングでの実戦投入にはメリダの明確な戦略があった。それは2027年、2028年シーズンを見据えたワールドツアーへの復帰だ。
「我々としては、あえて早い段階から"ノイズ"を残したかったのです。プロトタイプが活躍すれば、それはプロトンの選手たちの目に留まる。他チームの選手同士であのREACTOは良いらしいぞと噂が回れば、その印象はずっと良くなる。そしてそれが、次のチームとのスポンサー契約に結びつくからです。我々にとって世界トップレースは最高のテストフィールドです。売上に繋げるというよりも、少しでも優れた製品を作るために彼らの声は必要だからです」。



「もし今、我々にワールドチームとのパートナーシップが続いていれば、今年はSCULTURAの出番はゼロになっていたでしょう」とディーマー氏は胸を張る。事実、プロトタイプの新型REACTOはSサイズでパワーメーターやペダルを含めても6.6〜6.8kgという重量に収まっていたという。重量規制に達するほど軽く、空力性能で圧倒するREACTOがレース機材として選ばれない理由はない。昨年のツールでは、供給の都合で一部のエース級選手のみが新型を旧型と乗り分ける状態にあったが、それでも全ステージの9割以上でREACTO(旧型含む)が選ばれていたという。プロレースの現場では、平均勾配が6〜8%までであれば軽量モデルよりもエアロモデルが好まれる。山岳コースであっても登りっぱなしということはまず無く、必ず下りと平坦が混ざってくるからだ。
この「エアロ思考」は、今やプロの世界だけではなく、ホビーユーザーにまで深く浸透している。「SCULTURAのクラシックな走りとルックスも魅力的ですが、『速さ』を基準に選ぶならREACTOであることに間違いはありません。先代の弱点だった重量を大幅に克服した今、たとえヒルクライムだけであっても、平均勾配が5%程度であればREACTOの方が良い選択肢なのです。日本のようなヒルクライム大国においてもその優位性は大きいと思います」とも。

ロードレースの世界では今、サドルを極限まで前に出す「前乗り」が完全に主流となっている。当然、新型開発にあたってはジオメトリーの刷新が予想されたが、メリダはREACTOのジオメトリーを積極的に変えることはしなかった。変化したのは、コンポーネントメーカーからの要請による微細なアップデートや、ゼロセットバックのシートポストを基準にした程度に留まる。
「シマノやスラムの要請を受けてチェーンステー長を408mmから410mmへと延長しましたが、我々のテストでは2mmの延長が走行性能に大きな差を生むことはなかったため、タイヤクリアランスを確保する意味でもこの変更を受け入れましたが、そのほかの基本的な『タッチポイント』は一切変えていません。前乗り全盛期となって久しいプロレースの現場でも、昨年の時点でバーレーン・ヴィクトリアスの選手たちから改善要求が出ることはありませんでした。REACTOはもともと、安定感と鋭いハンドリングのバランスに定評があります。優れたバランスを保つバイクであれば、前乗りポジションによる荷重移動の変化にも十分に耐えうるのです」。
「普通」であることの矜持。10年後を見据えたユーザーフレンドリー


この「製品第一主義」と、地に足のついた実直な姿勢こそが新型REACTOの根幹にある。先に述べたように度肝を抜く造形のバイクではなく、アグレッシブでありながらも、あくまで「ノーマルなロードバイク」の範疇に収まること。「確かにクールなデザインは魅力的ですが、それが時に意味を持たない造形に繋がり、構造を複雑化させ、最終的にはユーザーフレンドリーさを損なう原因にもなります。だからこそ、我々はあえて空力上のメリットがあるDシェイプのステアリングチューブ(コラム)も使いませんでした」。
「Dシェイプコラムはすでに一般化しましたが、それでも熟練のメカニックが細心の注意を払って組まないとケーブルの取り回しが極めて難しい。フル内装化が進む現代において丸断面ですらメンテナンスは厄介なのに、特殊形状はなおさらです。メリダとしては、ユーザーはもちろん、メンテナンスを担うショップにとってもフレンドリーで、長持ちする製品を作るべきだと考えています」。
今や、どのメーカーのトップモデルも「軽くて速い」のは当たり前だ。しかし、その「速さ」を維持するためのコストや、製品としての持続可能性はどうだろうか。ディーマー氏は言葉を続ける。
「専用設計の特殊なベアリングは10年後も供給されるでしょうか? 複雑極まりない構造をきちんと整備できる人が何人いるでしょうか?我々が常に念頭に置いているのは商品としての分かりやすさ、そしてずっと手元に置いておける耐久性と汎用性です。ショップフレンドリーかつユーザーフレンドリーであること。それは、最新の空力性能を追求することと同じくらい、我々にとって大切なテーマなのです」。

今回の取材で痛感したのは、彼らのワールドツアーへの復帰への意思と、メリダが究極に真面目で実直なブランドであるということだ。今回「200Wの壁」を突破したのはテストバイクとして乗ったエアロ組みの「ONE」完成車だが、彼らは様々な完成車の風洞実験や重量の数値を公開しているし、(重たい、という印象を抱かせがちな)CF3グレードのフレーム重量も公開している。ここまで細かい情報開示は他のブランドにはない。
整備性への配慮も含め、メリダの「ユーザーへの誠実さ」は業界随一。それはおそらく、ドイツに拠点を置く開発陣の、どこまでも実直な気質に起因しているのだろう。「もっとメリダのやっていることはアピールされててもいいのに」と筆者は常々思っている。
提供:メリダ | text&photo:So Isobe