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イタリア本社取材で体感した、名門のプライドと革新の真髄。ウィリエール最新のフラッグシップモデル「Filante SLR ID2」を現地インプレッションした。並み居るライバルを凌駕する、異次元の進み感。イタリアン・レーシングバイクの新たな到達点をフルボリュームでお届けします。

ウィリエール、ミケ、プロロゴ。3社を巡るイタリア取材記

年明け早々の1月後半に再びイタリアを目指して機上の人となった。今回の取材旅のコーディネイターは、「モニュメントを制する旅」連載でお馴染みの「キット北村」こと服部産業株式会社の北村圭介さん。北村さんが20年にも渡って関係を築き上げてきた3社―ウィリエール、ミケ、プロロゴの本社取材を敢行し、最新モデルをテストしつつ、各社首脳陣へのインタビューや、製品が生まれる過程を見て学ぶことが今回の目的だ。

筆者にとって2度目の訪問となったウィリエール本社。北イタリア、ロッサノ・ベネトに拠点を置く photo:So Isobe
ウィリエールのCEO兼R&Dチーフのミケーレ・ガスタルデッロ氏と、服部産業株式会社の北村圭介さん。その、昔に服部産業が贈った出世兜が飾られていた photo:So Isobe


ウィリエールをはじめ、3社の本社内部も訪問。製造現場のレポートやインタビューは続編にて photo:So Isobe

伝統と最新のテクノロジーを体感する、1週間に及んだ濃いイタリア現地取材。シクロワイアードではこれから4編に渡り、ウィリエールとミケ、プロロゴのブランドヒストリーや最新モデルを深掘りしながらお届けする。Vol.1ではまずウィリエールが昨年末にデビューさせたばかりの新型エアロレーシングモデル「Filante SLR ID2」のインプレッションから紹介したい。

ロッサノ・ベネトのウィリエール本社を訪問、Filante SLR ID2をテスト

ウィリエール本社の展示スペース。最新モデルから、過去栄光のプロバイクまでが一堂に集まる photo:So Isobe

ロッサノ・ベネトに位置するウィリエールの本社を訪ねたのは今回が2度目で、サンマリノで開催されたVerticale SLRの発表会も含めれば3度目。赤いブランドカラーをあしらった本社の扉をくぐると、広報担当者はもちろん、R&Dチームのトップであるクラウディオ・サロモーニ氏や、会社を率いるガスタルデッロ三兄弟など、いつものメンバーがいつものように迎えてくれて、いつものウィリエールがそこにあった。

世界的な有名イタリアンブランドのひとつに数えられるウィリエールは、第二次世界大戦後のモータリゼーションの変化で一度会社を閉じているものの、リノ・ガスタルデッロ氏によって復活。サイクリング中の交通事故で亡くなったリノ氏の跡を継いだ三人の息子が、他社のように巨大資本の傘下に入ることなく会社を率いている。それゆえに、社内に漂うのはイタリアらしい「ファミリーカンパニー感」だ。アットホームで柔らかい空気感と、高品質なバイクを生み出すR&Dチーム、そして気品に満ち溢れた美しいデザイン。その「伝統と最新、そして美しさ」にこそ、彼らの魅力の本質がある。

昨年10月にフルモデルチェンジしたFilante SLR ID2。ミケの最新鋭カーボンホイール「DEVA RD 62」と共にテストした photo:So Isobe

今回の取材記の目玉である「Filante SLR ID2(フィランテ SLR ID2)」は、2025年10月25日に発表され、デリバリーが始まってまだ間もないウィリエールの最新フラッグシップモデル。クラウディオ氏率いる開発陣が「空気抵抗を最小限に抑えつつ、重量と剛性のバランスを極める」という命題を掲げ、UCIワールドチームであるグルパマFDJユナイテッドと共同開発したバイクには、シュテファン・キュングのために開発したタイムトライアルバイク「Supersonica SLR」で得た空力ノウハウが落とし込まれている。
先代比で空気抵抗を13.6%減。フレーム重量は860gで据え置きながら、ボトムブラケット周辺部の剛性を7.49%向上。チェーンステー長を伸ばして安定感を高めたという、まさに「トッププロの要求に応えた」プロスペック。

ウィリエール本社で対面した「グロスカーボン」カラーのFilante SLR ID2は、曲線を多く用いたしなやかで優雅な佇まい。直線で構成されがち、あるいはマッシブな造形になりがちな現代エアロロードとは少し異なる曲線美は、美しい艶のブラックカラーと相まって丁寧に磨き上げられた高級ピアノのようだ。このバイクに、まだ量産体制に入っていないミケの最新鋭カーボンホイール「DEVA RD 62」をアッセンブル。グルパマFDJの選手が駆るチームスペックのバイクを試す機会に恵まれた。

進み感にひたすら驚く

昨年の男女ジロ・デ・イタリアにも登場した激坂「ムーロ・ディ・カ・デル・ポッジオ」とその周辺でバイクをテストした photo:Keisuke Kitamura

僕はバイクインプレッションを行うとき、なるべく今走っている感触を記録するために、走りながらマイクに向かって印象を録音するようにしている。帰国後に音声ファイルを開いたとき、録音データの自分の声が開口一番、興奮気味に伝えていたのは「すごく進む、なんだコレ。びっくりした」という言葉だった。

フレーム重量860gと決して軽量とはいえないのだが、入力に対して軽やかに加速するフィーリングが凄まじい。エアロバイクにありがちな重さ、つまり単純な重量や、剛性によって一定以上のパワーで踏み込まないと重たく感じるフィーリングがなく「踏んだら踏んだだけ」という言葉以上に加速する。

20%勾配に及ぶポッジオ序盤区間。エアロセットアップであることを感じさせないほどバイクが前に進む photo:Keisuke Kitamura

走りのフィーリングを噛み砕いていくと、当然ながら硬い。グルパマFDJの選手たちがツール・ド・フランスなどトップレースを戦う機材なのだから当然なのだが、その上でバランスが良いことが特筆される。BBが硬い、ヘッド周りが硬いといった局所的な硬さにストレスを感じることが一切なく、フォークエンドからリアエンドまでバイク全体が優れたバランスの上に成り立っている。

そして、平坦や下りはとんでもなく速い。「これだけ踏んでいるから、これだけスピードが乗るよね」という自分の中のイメージを軽く上回ってくる。サクッと踏んだだけで35km/h、エアロポジションを取れば45km/hもあっという間だ。スピードメーターの数字の回り方がとにかく速い上に、脚を止めてもなおスピードが落ちていかない。

この官能的なまでの加速感に貢献しているのがミケの最新ホイール「DEVA RD 62」だ。既存モデルの「KLEOS RDシリーズ」も決して悪くないが、このDEVAはネクストレベル。完全自社製造のハブと超軽量リムをカーボンスポークで繋いだペア1375gのホイールは62mmというディープリムながら、重量は50mmハイトの「KLEOS RD 50」よりも軽く、挙動がクイック。空力はさることながら、バイクとホイールの挙動のマッチングがとにかく良い。

文句なしにマジで良い、ウィリエールらしいバランスは健在

乗り手を昂らせてくれるフィーリングがずっと続く。スピードの伸び止まり感は皆無だ photo:Keisuke Kitamura

一時代を作った名機Centoシリーズや、軽量モデルのZero SLRと後継機のVerticale SLRもそうだったし、先代Filante SLRに乗る我らがシクロワイアード編集長・綾野も認めている通り、ウィリエールのバイクは過剛性とは無縁で、いつでも乗りやすく、上質な走りを身上としてきた。このFilante SLR ID2とDEVA RD 62のコンビネーションも、300ワット付近からボトムブラケット周りが鋭く反発するようにしなり、その返りでスルスルと伸び止まり感無くスピードが乗っていく。ライダーの気分を高揚させてくれるフィーリングがあらゆる速度域で長く続くのだ。

それに、しなりを伴わないような低出力で流している時ですら軽くペダルが回り、進む感覚が圧倒的に強いことにも驚かされた。「エアロロードは一定以上の体力レベルがないと無理」と思っている人こそ、このバイクに乗ったら驚くだろう。レースバイクであり、もちろんレース的な走らせ方をした時こそが一番に光るものの、硬いレースバイクに慣れている人であれば、高揚感を味わえる週末サイクリングの友としても優秀な選択肢になるはずだ。

ハンドリングは特徴的。「立ち」が強い一方でコーナリングはビシッと決まる photo:Keisuke Kitamura

ハンドリングには特徴がある。癖というほどではないが、少し「立ち」が強い。つまり自転車がまっすぐ立とうとしていて、直進している時に気を遣わなくていい。でも一方でコーナリングはビシッと決まる。車体は操作に対してスカーンと寝て、狙ったラインをトレースしてくれる。さらにバンク中もヒラヒラしてリカバリーが効くというか、余裕があるのだ。立ちが強いのにヒラヒラ動く。一見矛盾するようなこの感覚が、抜群のオンザレール感と機敏さを生んでいるのだ。それに加えてやはり前乗り前提のジオメトリーだからだろう、ブラケットを持って、エアロポジションでハンドルに体重を預けるような乗り方をしていても、不安感は一切なかった。

テストバイクに装着していたのは30Cのヴィットリア CORSA PRO、それもクリンチャー仕様だったが、それでも荒れた石畳(パヴェ)を難なくこなす乗り心地の良さに舌を巻いた。ただしヒラヒラと挙動が軽いので、より自分がこの車体とホイールをマイバイクにするなら、32cへのサイズアップを考えるかもしれない。走りのデメリットは一切なく、強いてあげるならフレームセットで1,045,000円(税込、それでもイタリア各社のトップモデルと同価格帯だ)という価格と、握った時に滑りやすく感じた専用エアロボトル(これは一般的なボトルに替えることをお勧めする)くらいだ。

目覚ましい走りに貢献するミケのDEVA RD 62ホイール。62mmハイトでペア1375gと非常に軽い photo:Keisuke Kitamura

撮影も含めてポッジオを合計4往復。当然ながらけっこう脚にくる photo:Keisuke Kitamura
先行するクルマから撮影してくれた北村さん。ワインディング撮影で気持ち悪くなってしまい小休止... photo:So Isobe


その戦闘力は超トップレベル。レースバイクだけに留まらない走りに感動した photo:Keisuke Kitamura

日本市場で一般的にレースバイクとしてまず思いつくのはスペシャライズドのS-WORKS TARMAC SL8だし、イタリアで言えばピナレロのDOGMA F、コルナゴのV5Rsといったところだろう。それはプロレースでの活躍ぶりを見ても周知の通り。しかし、このFilante SLR ID2とDEVA RD 62のコンビネーションは本気で走る。この「進み感」は、ライバルブランドのトップモデルと比べても遜色ないどころか、むしろ上を行っている気さえする。

「あれ、喋りながら登っていたら、あっという間に頂上に着いちゃったな」。録音データの最後にはそんな自分の声が残っていた。激硬で乗りにくい自転車なら、こうはいかない。重たいものをかき混ぜているような踏み心地ではなく、速い上に、シャキッとしたフィーリングが終始続く。「ウィリエールってあんまりレースのイメージないよね」と思っている人こそ、今後全国各地で開催されるという試乗会でこの驚きを味わってほしいと思う。

Filante SLR ID2 販売ラインアップ

ウィリエール FILANTE SLR ID2(特別色:ロイヤルブルー)※下記基本価格より+275,000円(税込) (c)Wilier

ウィリエール FILANTE SLR ID2(特別色:パールブロンズ)※下記基本価格より+110,000円(税込) (c)Wilier
ウィリエール FILANTE SLR ID2(特別色:ホワイト)※下記基本価格より+110,000円(税込) (c)Wilier


ウィリエール FILANTE SLR ID2(グレー) (c)Wilier
ウィリエール FILANTE SLR ID2(グロスカーボン) (c)Wilier



フレームセット

フレームHUS-MODカーボン+L.C.P.(液晶ポリマー):860g ±2%
フォークHUS-MODカーボン+L.C.P.(液晶ポリマー):380g ±5%
カラーグロスカーボン、グレー《受注発注》
サイズXS、S、M、L、XL
付属品Wilier F-BAR ID2 CARBON ステム一体型カーボンハンドルバー、GARMIN/wahoo専用マウント、専用カーボンシートポスト、専用エアロボトルケージ&ボトル
備 考電動式変速機専用フレーム、最大タイヤサイズ:34mm、付属シートポストセットバック幅:0mm
基本価格1,045,000円(税込)

完成車ラインアップ

SUPER RECORD 13完成車《受注発注》DURA-ACE DISC Di2完成車ULTEGRA DISC Di2完成車
基本価格2,640,000円(税込)1,936,000円(税込)1,727,000円(税込)
ヘッドパーツ専用パーツ
ハンドルバーWilier F-BAR ID2 CARBON
サドルprologo
NAGO PAS R4
prologo
SCRTCH M5
prologo
SCRTCH M5
シートポスト専用パーツ
コンポーネントCAMPAGNOLO
SUPER RECORD 13
SHIMANO
DURA-ACE Di2
SHIMANO
ULTEGRA Di2
ホイールMICHE
KLEOS RD 50
タイヤVittoria
CORSA PRO 28C
Panaracer
AGILEST FAST 28C

Filante SLR ID2の絶対的な競争力。では、この「数字を超えた官能的な走り」は、いかなる思想から生み出されたのか。次回、Vol.2では創業120周年を目前に控えたウィリエール本社を深掘り。ガスタルデッロ兄弟、そしてR&Dを統括するサロモーニ氏が語る、Filante SLR ID2の開発ストーリーと、イタリアン・クラフトマンシップの真髄に迫る。
提供:服部産業 / Text:So Isobe