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前作RL8Dから3年、日本のアンカーが完全新作となるエンデュランスロード、RE8を発表した。エンデュランスロードの本懐である快適性や安心感はそのままに、RPシリーズの開発で得られた「速く走るための技術」を加えたという注目作である。vol.2では、前作RL8DやRP8との比較を通して、RE8の実力を見極める。

RE8の見た目を考察する

シャープなスタイリング。フレーム形状とグラフィックの相乗効果がRE8を光らせる photo:Nobuhiko Tanabe

広報写真を見て「なかなか悪くなさそうだな」と思っていたRE8、実物は想像以上に好印象だった。概要でも触れたが、エンデュランスロードというイメージからするとずっとシャープなスタイリングに加え、山の稜線をイメージしたというグラフィックが効いている。

結局のところ、これは「フレームのメインカラーとサブカラーの境目をどう処理するのか」という話に過ぎない。その境目を幾何学的なラインとするモデルが多いなか、RE8では無規則でゆらぎのあるラインにした、というだけだ。しかしそれでここまで温かみを感じさせる印象になるのかと驚く。「このバイクが経験させてくれそうな世界」を上手く表現していると思う。

山の稜線をイメージしたというグラフィック。シャープで、それでいて創造性豊かなデザインだ

よくよく考えれば、シートチューブとトップチューブでは天地の色が逆になってしまっているのだが(シートチューブは山が淡色で空部分が濃色、トップチューブはその逆。ちなみにオーシャンネイビーのみフレームカラーの濃淡が逆転)、実物を見るとちゃんとシートチューブは空が濃い青に見え、トップチューブは山のほうが濃い緑に見えて違和感はない。もちろんこれは主観に過ぎないが、スポーツバイクのグラフィックとしては出色の出来だ。

その走りは、どこまでも滑らか

あらゆる挙動が滑らかで、スムーズ。それでいて踏みやすい

試乗車はオーシャンネイビーの105Di2完成車。走りの第一印象は、なにもかもがスムーズであることだ。加速も、巡航も、コーナリングも、ダンシングも、ギクシャクした挙動が全くない。「クランク機構で脚の往復運動を回転運動に変換してチェーンリングでチェーンを引っ張ってスプロケを介して後輪を回転させて地面とタイヤの摩擦で推進力を得ている」というメカメカしい感覚がいい意味で希薄で、脚を動かせばただただスムーズに進んでいく。しかし、「滑らかだがどこか軽薄でスカスカした走り」ではなく、身の詰まった滑らかさという気がする。芯があって頼もしいスムーズさだ。

フレームの剛性が適度に抑えられているので、入力したトルクに応じてハンガーが素直にたわみ、ペダルがスッと落ちていく。かといってパワーが無駄になっている感じもないから、結果として加速は「鈍い」ではなく「適度に鋭く力強い」という印象になる。その理由はアンカーが長年取り組んでいる「心地いいペダリングフィールと高い動力伝達性の両立」が上手くいっている(=絶妙なる剛性感)ということになるのだろう。

RE8の「疲れにくさ」は、今まで乗ってきた自転車の中でトップ5に入ると感じる

素晴らしいのは「脚へのストレスの少なさ」だ。ペダルに与えた力に対して、脚に残る疲労が少ない。もちろん生理学的にはこれはおかしな話で、同じパワーを発揮したら同じだけ疲れるはずなのだが、実際にはやたらと脚に疲労感が残るフレームがあれば、いくら走っても疲れにくいフレームもある。RE8の「疲れにくさ」は、今まで乗ってきた自転車の中でトップ5に入ると思う。

スペックに表れないこういう部分がよくできている自転車は、なにをやっても不満がないことが多い。路面からの衝撃もよく緩和されており、快適性は非常に高いが、腑抜けエンデュランスロードにありがちなゆるゆるとした低周波振動は一切なく、緩衝機構を搭載したバイクのように不自然なフィーリングにもなっていない。振動の減衰が早いので下りでも挙動が安定している。

登坂のダンシングも非常にナチュラル。脚当たりも優秀で、どこまでも登っていけそうだ

ハンドリングも申し分ない。街中の交差点をいくつか抜けてみると、重心が低くなったような感覚があり、よく安定しているのに踊るように自由自在にバイクが泳ぐ。登坂のダンシングも非常にナチュラルで、前述した疲れにくさと相まって、ダンシングでどこまでも上っていけそうだ。レーシングバイクのような大トルクに対する爆発力はないが、そういう刹那の走りを重視しないのであれば、これぞ万能バイクだ、と快哉を叫びたくなる。

同グレードRP8との比較

前作RL8D、そして同グレードのレーシングモデルRP8と乗り比べた

ブリヂストンサイクルの担当者は、同社における同価格帯モデルであるRP8も比較対象として用意してくれていた。RE8と比べると、RP8は硬くてシャープ。ハンドリングも機敏で、まさにレーシングバイクといった風情。高速への伸びは明らかにRP8に分があるが、そんな走りを求めないのであれば人車一体感や快適性はRE8のほうが高い。もちろん、RP8でロングライドはできるし、RE8でレースもできるだろうが、上手く作り分けられていると思う。

まぁRP8とRE8の比較の結果は乗る前から分かっていた。両車間でコンセプトが明確に分かれており、作り手がそうなるように作っているはずだから。

個人的に気になっていたのは前作RL8Dとの違いだ。だから広報担当者が運転してきたハイエースの中に、RE8と並んで同サイズのRL8Dが積まれていることを発見したときには、心の中で小躍りした。

前作RL8Dとの比較

3車種を乗り比べるとその違いが良く分かる。その上でRE8が持つ、コンセプト通りの走りを味わうことができた

RL8Dは数年前に試乗したが、忌憚なく褒められる自転車だった。その肝はやはり剛性感で、当時の試乗記には「ゼロスタートはふんわり軽やか。鋭くはないのだが、しなりとしなり戻りと加速Gのバランスが絶妙で、実際は低速域の加速で鈍いと感じる人は少ないと思う。緩斜面での剛性感もどこまでも優しげだ。しかし、パワーが無駄になっているような嫌な変形ではなく、隔靴掻痒感はない。(中略) この“嫌な硬さがまったくないのに、パワーロスもない”という走りが、プロフォーマット以降のアンカーの特徴でもある」と書いた。

エアロになって高剛性化したというRE8で、その味わいが消えていなければいいなと思っていたが、RL8Dの「品よく優しい走り」はRE8にも健在だった。

RL8Dと比べるとRE8は明らかに剛性が上がっており、走りのしっかり感が増しているのに、不思議なことにマイルドな脚当たりはそのまま。単純な剛性や軽さや空力抵抗を進化させるのも簡単なことではないのかもしれないが、心地いいペダリングフィールと動力伝達性を両立させることはそれらの数倍難しい仕事だろう。RE8では、その両立レベルがRL8Dよりも確実に上がっている。アンカーの持つ「自転車と人間との親和性を高める技術」の底上げを実感する。

エンデュランスロードの意識改革を

RE8は「アンカーらしいエンデュランスロード」の現代解釈版。週末ライドを楽しむ方にとっての良い選択肢になるはず

最後に、アルテグラDi2完成車に採用されるカーボンホイール(DTスイス・ERC1400)でも走らせてもらった。エントリーグレードのホイールに惑わされずにフレームそのものの実力を測るためである。純正ホイールはDTスイスのP1800で、重量はあるものの走りそのものは悪くないが、ERC1400にすると、当然だが加速も巡航性も登坂能力もワンランク上がる。動きがシャープになるだけでなく、振動の減衰感含めてバイクの振る舞いが洗練される。素晴らしいフラットライドだ。この感じならハイエンドホイールでも難なく履きこなしてビシッと走ってくれるだろう。

プロフォーマット以前から続くアンカーの伝統である「優しいペダリングフィール」「人車一体感」「疲れにくさ」。エアロになって剛性が上がったRE8でも、その美点は薄まっていなかった。しかも現代車としてちゃんと速く、しっかりと快適だった。

疲労感が少なく、どこまでも走れる感覚に陥る。紛れもなく「僕たちの」ロードバイクだ

ハイエンドレーシングバイクが高価格化すると共に、一般サイクリストにとって手に余る物体になりつつある今は、「よくできたエンデュランスロードこそ一般サイクリストのためのベスト」と言ってもいい時代である。どうしても派手でシャープなレーシングバイクに目が行きがちで、エンデュランスロードはサイドメニューという風潮が抜けきらないが、我ら自転車乗りの意識も変えなければならない。現代のエンデュランスロードこそ、「僕らのための自転車」である。

そもそも、「レーシングバイク=ロードバイクの主流」で、それに対して「エンデュランスロード=長距離ライド特化型バイク」がある、という図式が認識としてもう古い。レーシングバイクの先鋭化が進んでいる今は、「レーシングバイク=一握りのレーサーのためのバイク」で、「ロードバイク=かつてエンデュランスロードと呼ばれた一般サイクリストに最適なオンロード用スポーツバイク」と考えを改めるべきだ。

優秀な走りが光るRE8。エンデュランスロードの意識改革をもたらすきっかけになるかもしれない

コンセプト、価格、見た目とグラフィック、そして走り。その全てが「僕らのための自転車」としてよくまとまっているRE8が、その意識の改革のきっかけになってくれるかもしれない。



次章では、ブリヂストンサイクル本社で行った開発担当者インタビューをお届けする。なぜグラベルではないのか?苦労した点は?速さと快適性のバランスは?など、さまざまな疑問をぶつけた。
text&Yukio Yasui
photo:Nobuhiko Tanabe