2024/09/06(金) - 10:00
前作RL8Dから3年、日本のアンカーが完全新作となるエンデュランスロード、RE8を発表した。エンデュランスロードの本懐である快適性や安心感はそのままに、RPシリーズの開発で得られた「速く走るための技術」を加えたという注目作である。前作RL8DやRP8との比較インプレッション、開発陣へのインタビューなどを通し、アンカー渾身の新作に迫る。
完全新作の発表という目出度い出来事を扱う記事をネガティブな書き出しで始めるのは本望ではないが、日本のアンカーは一時期、ディスクブレーキ化と空力性能重視という世の流れから後れを取ったかに見えた。欧米メーカーがディスクブレーキ化したエアロロードをガンガン発売していた数年前、アンカーはリムブレーキのRS9~RS9sを旗艦に据えたままで、ディスクロードもミドルグレード以下に2モデルのみ、という状態だったのだ。いくら日本市場専売ブランドとはいえガラパゴスになりすぎるのもマズいんじゃ……という老婆心を吹き飛ばしたのは、RP9である。
2021年に発表されたそのレーシングバイクは、性能を追求するレーサーや「いい走り」を求めるサイクリストに大きな支持を得た。筆者の肌感では、「日本のメーカーだから応援したい」「アンカーならいろんな面で安心」という安直なナショナリズムではなく、「欧米トップブランドのハイエンドモデルと比してもなおRP9に魅力を感じた」という人が多かったように思う。それは、基本的に日本市場のみをターゲットとするアンカーが、世界のトップブランドと肩を並べた瞬間だった。次いでミドルグレードであるRP8も送り出し、ロードバイク市場においてアンカーというブランドの完全復権を印象付ける。
レーシングバイクの刷新に成功したら、次はエンデュランスロードだろう。なにせ、2024年8月時点でアンカーのラインナップにあるエンデュランスロードは、エントリーグレードのRL6Dと、2018年にデビューしたRL8をディスクブレーキ化したRL8D。そのRL8も元をたどれば2016年デビューのRL9に行きつく。現行RL系は、近年のアンカーが設計の基盤として用いているプロフォーマットのメリットが発揮された快作だったが、生き馬の目を抜くロードバイク界において8年は如何ともしがたいほど長い。
しかしRE8、写真を見ると、なんだかエンデュランスロードっぽくない。長距離を快適に走ることを任務とするそれらは、見た目から鈍重なイメージを受けることも多い。しかしRE8はシャープでモダンで、ヘッドチューブが長いことを除けば万能レーシングバイクのような出で立ちである。
RE8のコンセプトを聞くと謎が少し解けた。それは「全てのホビーライダーに、レースバイクのテクノロジーを」というもので、具体的にはRPシリーズの開発で得られた空力や剛性バランスなど「速く走るための技術」と、安心して長距離をこなせる「エンデュランス性」の融合である。
ディスクブレーキ専用となったフレームは、RPシリーズのヘッドを伸ばしてスローピングを強くした、という印象。ヘッドチューブ周辺の形状など、実際RPシリーズとの共通点は多い。これは、RPシリーズの定評ある空力性能をできるだけ受け継ぐためだ。
フォークブレードとメインチューブはカムテールで、ドロップドシートステーを採用し、ケーブル類は内蔵する。その結果、30km/h時の空気抵抗は、前作RL8D比で85%まで削減されているという。あくまでCFDの解析結果による数字だが、これは必要パワーが3.9W減ったことを意味する。ちなみにRP9の空力性能はRL8D比で81%なので、RE8が主張する「RPシリーズ並みの空力性能」は決して過大広告ではないだろう。
この“30km/h”という数字に注目していただきたい。多くのメーカーは、空気抵抗削減効果をアピールするとき、プロレースのスピード域ということで45km/h時で表示することが多いが、RE8は30km/h。空気抵抗は速度の2乗(計算条件によっては3乗)に比例して増えていくのだから、しれっと45km/h時の数値を出せば、さらにRL8Dとの差が大きくなり、より大きなインパクトを与えられたはずだ。それなのにアンカーはRE8のコンセプトを考慮して現実的な条件としている。相変わらず真面目だ。30km/hなら、RE8が想定しているユーザーが実際に出せる速度であり、「3.9W減」は我々にとって絵空事ではない。
電動コンポーネントのシフトケーブルとブレーキホースは、空力性能とミニマルな外観を実現するために専用ステム下側を経由してヘッドチューブからフレーム内部へと通す構造だ。なお機械式変速コンポーネントを搭載する場合はノーマルステムを使用することになる。
また、シートポストは真円(27.2mm径)を採用するなど、ポジション自由度やユーザビリティが非常に高いことも評価できる。スペック面での商品力より、長期的な運用やユーザーの使い勝手を考えた結果だろう。
長距離を快適に走ることを想定し、同価格帯のレーシングバイクであるRP8より剛性は下げられているが(RP8比で85%)、RL8Dと比較すると37%の剛性アップを果たしており、空力面に加えて剛性面でも「レーシングバイク譲りの性能」を実現しているという。ちなみに、ライドフィールを決定づける剛性バランスはRPシリーズを踏襲している。また、ドロップドシートステーを採用したことで、シートポスト上端における柔軟性(変形量)はRP8比で3倍以上となり、エンデュランスロードに必須となる快適性も重視されている。
フレームセット重量は1480gと発表されているが、これはフォーク、ヘッドパーツ、エンド、シートクランプを含んだ数字で、フレーム単体だと1010gとなる(サイズ450、無塗装)。なお、前作となるRLシリーズには、当初RL9というリムブレーキ仕様のハイエンドモデルがラインナップされていたが、新作には“9”は存在せず、RE8がトップモデルとなる。
ちなみに、RLシリーズの“L”はLuxuryだったが、REの“E”はExtend(拡げる、拡張する)を意味する。これは、「走れるエリア、走れる道が拡がっていく」という想いを込めたものだという。正式発表前に公開されたティーザー写真では泥で汚れたカットが使用されていたため、「グラベルロードなのでは?」という憶測も飛んだようだが、グラベルユースは想定しておらず、純粋なエンデュランスロードとして開発されている。しかし十分なタイヤクリアランスが与えられており、車名の通り従来のエンデュランスロードより走るフィールドは広そうだ。
グラフィックもRE8の特徴の一つ。基本的には2色の塗り分けだが、色の境目に遠くの山の稜線が重なる様子をグラデーションとして取り入れている。カラーはオーシャンネイビー、フォレストカーキ、ストーングレーの3色。
次の一手は、エンデュランスロード
完全新作の発表という目出度い出来事を扱う記事をネガティブな書き出しで始めるのは本望ではないが、日本のアンカーは一時期、ディスクブレーキ化と空力性能重視という世の流れから後れを取ったかに見えた。欧米メーカーがディスクブレーキ化したエアロロードをガンガン発売していた数年前、アンカーはリムブレーキのRS9~RS9sを旗艦に据えたままで、ディスクロードもミドルグレード以下に2モデルのみ、という状態だったのだ。いくら日本市場専売ブランドとはいえガラパゴスになりすぎるのもマズいんじゃ……という老婆心を吹き飛ばしたのは、RP9である。
2021年に発表されたそのレーシングバイクは、性能を追求するレーサーや「いい走り」を求めるサイクリストに大きな支持を得た。筆者の肌感では、「日本のメーカーだから応援したい」「アンカーならいろんな面で安心」という安直なナショナリズムではなく、「欧米トップブランドのハイエンドモデルと比してもなおRP9に魅力を感じた」という人が多かったように思う。それは、基本的に日本市場のみをターゲットとするアンカーが、世界のトップブランドと肩を並べた瞬間だった。次いでミドルグレードであるRP8も送り出し、ロードバイク市場においてアンカーというブランドの完全復権を印象付ける。
レーシングバイクの刷新に成功したら、次はエンデュランスロードだろう。なにせ、2024年8月時点でアンカーのラインナップにあるエンデュランスロードは、エントリーグレードのRL6Dと、2018年にデビューしたRL8をディスクブレーキ化したRL8D。そのRL8も元をたどれば2016年デビューのRL9に行きつく。現行RL系は、近年のアンカーが設計の基盤として用いているプロフォーマットのメリットが発揮された快作だったが、生き馬の目を抜くロードバイク界において8年は如何ともしがたいほど長い。
エンデュランスモデルにも「速さ」を
2024年9月、アンカーは完全新作をアンヴェールする。その名はRE8。RL8Dの後継車となるエンデュランスロードである。これでアンカーは、レーシングバイクとエンデュランスロードを両車とも新世代へと移行させたことになる。しかしRE8、写真を見ると、なんだかエンデュランスロードっぽくない。長距離を快適に走ることを任務とするそれらは、見た目から鈍重なイメージを受けることも多い。しかしRE8はシャープでモダンで、ヘッドチューブが長いことを除けば万能レーシングバイクのような出で立ちである。
RE8のコンセプトを聞くと謎が少し解けた。それは「全てのホビーライダーに、レースバイクのテクノロジーを」というもので、具体的にはRPシリーズの開発で得られた空力や剛性バランスなど「速く走るための技術」と、安心して長距離をこなせる「エンデュランス性」の融合である。
ディスクブレーキ専用となったフレームは、RPシリーズのヘッドを伸ばしてスローピングを強くした、という印象。ヘッドチューブ周辺の形状など、実際RPシリーズとの共通点は多い。これは、RPシリーズの定評ある空力性能をできるだけ受け継ぐためだ。
フォークブレードとメインチューブはカムテールで、ドロップドシートステーを採用し、ケーブル類は内蔵する。その結果、30km/h時の空気抵抗は、前作RL8D比で85%まで削減されているという。あくまでCFDの解析結果による数字だが、これは必要パワーが3.9W減ったことを意味する。ちなみにRP9の空力性能はRL8D比で81%なので、RE8が主張する「RPシリーズ並みの空力性能」は決して過大広告ではないだろう。
この“30km/h”という数字に注目していただきたい。多くのメーカーは、空気抵抗削減効果をアピールするとき、プロレースのスピード域ということで45km/h時で表示することが多いが、RE8は30km/h。空気抵抗は速度の2乗(計算条件によっては3乗)に比例して増えていくのだから、しれっと45km/h時の数値を出せば、さらにRL8Dとの差が大きくなり、より大きなインパクトを与えられたはずだ。それなのにアンカーはRE8のコンセプトを考慮して現実的な条件としている。相変わらず真面目だ。30km/hなら、RE8が想定しているユーザーが実際に出せる速度であり、「3.9W減」は我々にとって絵空事ではない。
電動コンポーネントのシフトケーブルとブレーキホースは、空力性能とミニマルな外観を実現するために専用ステム下側を経由してヘッドチューブからフレーム内部へと通す構造だ。なお機械式変速コンポーネントを搭載する場合はノーマルステムを使用することになる。
また、シートポストは真円(27.2mm径)を採用するなど、ポジション自由度やユーザビリティが非常に高いことも評価できる。スペック面での商品力より、長期的な運用やユーザーの使い勝手を考えた結果だろう。
「フィールドを広げる自転車」
長距離を快適に走ることを想定し、同価格帯のレーシングバイクであるRP8より剛性は下げられているが(RP8比で85%)、RL8Dと比較すると37%の剛性アップを果たしており、空力面に加えて剛性面でも「レーシングバイク譲りの性能」を実現しているという。ちなみに、ライドフィールを決定づける剛性バランスはRPシリーズを踏襲している。また、ドロップドシートステーを採用したことで、シートポスト上端における柔軟性(変形量)はRP8比で3倍以上となり、エンデュランスロードに必須となる快適性も重視されている。
フレームセット重量は1480gと発表されているが、これはフォーク、ヘッドパーツ、エンド、シートクランプを含んだ数字で、フレーム単体だと1010gとなる(サイズ450、無塗装)。なお、前作となるRLシリーズには、当初RL9というリムブレーキ仕様のハイエンドモデルがラインナップされていたが、新作には“9”は存在せず、RE8がトップモデルとなる。
ちなみに、RLシリーズの“L”はLuxuryだったが、REの“E”はExtend(拡げる、拡張する)を意味する。これは、「走れるエリア、走れる道が拡がっていく」という想いを込めたものだという。正式発表前に公開されたティーザー写真では泥で汚れたカットが使用されていたため、「グラベルロードなのでは?」という憶測も飛んだようだが、グラベルユースは想定しておらず、純粋なエンデュランスロードとして開発されている。しかし十分なタイヤクリアランスが与えられており、車名の通り従来のエンデュランスロードより走るフィールドは広そうだ。
グラフィックもRE8の特徴の一つ。基本的には2色の塗り分けだが、色の境目に遠くの山の稜線が重なる様子をグラデーションとして取り入れている。カラーはオーシャンネイビー、フォレストカーキ、ストーングレーの3色。
フレームサイズは390~480の4種類。前作の6種類より減ってはいるが、適応身長の重なりを少なくし、より選びやすくした結果だという。
ラインナップはアルテグラDi2完成車、105Di2完成車、機械式105完成車で、重量はそれぞれ7.4kg、8.5kg、8.9kg(サイズ450mmの場合)。また、フレームセットも用意される。発売は10月下旬の予定。RE8がユーザーの手に届くのももうすぐだ。
次章では、前作であるRL8Dや、同価格帯のレーシングバイクRP8と比較しながら、RE8の走りをじっくりと堪能し、皆さまにお伝えする。
ラインナップはアルテグラDi2完成車、105Di2完成車、機械式105完成車で、重量はそれぞれ7.4kg、8.5kg、8.9kg(サイズ450mmの場合)。また、フレームセットも用意される。発売は10月下旬の予定。RE8がユーザーの手に届くのももうすぐだ。
ULTEGRA DI2 | 105 DI2 | 105 | フレームセット | |
カラー | ||||
サイズ | ||||
コンポーネント | ULTEGRA Di2 R8150 | 105 Di2 R7150 | 105 R7100 | - |
ホイール | DT SWISS ERC1400 45mm | DT SWISS P1800 DISC | SHIMANO WH-RS171 | - |
タイヤ | EXTENZA R1X 28C | EXTENZA R2X 32C | EXTENZA R2X 32C | - |
ハンドル | ANCHOR CARBON AEROBAR φ31.8 | ALUMINIUM φ31.8 | ALUMINIUM φ31.8 | - |
ステム | ANCHOR AERO STEM | ANCHOR AERO STEM | ALUMINIUM | - |
シートポスト | ANCHOR CARBON φ27.2 | ALUMINIUM φ27.2 | ALUMINIUM φ27.2 | - |
サドル | FIZIK TERRA ARGO X1 | SELLE ITALIA X3 | SELLE ITALIA X3 | - |
税込価格 | 935,000円 | 489,000円 | 379,000円 | 320,000円 |
次章はインプレッション
次章では、前作であるRL8Dや、同価格帯のレーシングバイクRP8と比較しながら、RE8の走りをじっくりと堪能し、皆さまにお伝えする。
text&Yukio Yasui
photo:Nobuhiko Tanabe
photo:Nobuhiko Tanabe