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昨年発表されて以来、レーサーをはじめ〝速さ〟に興奮を覚えるロードサイクリストの心を捉えたパナレーサー AGILEST FAST。このモデルに待望のチューブレスレディ版TLRがついに登場した。開発者へのインタビューと実走インプレッションで、メーカー史上最速を謳う製品の裏側とその走りを探る。

パナレーサー AGILEST FAST TLR 見る角度によりラベルカラーが変化する photo:Makoto AYANO

2022年のデビュー以来、サイクリストから高い支持を得てきたパナレーサーのレーシングタイヤ"AGILEST"シリーズ。その中でも、究極の高性能を目指して開発されたプレミアムフラッグシップモデルが"AGILEST FAST"だ。(昨年デビュー時の特集記事

そして今夏、AGILEST FASTに待望のチューブレスレディモデルが追加された。パナレーサーをして「最速傑作」と言わしめる、同社史上最小の転がり抵抗を実現した次世代レーシングTLRタイヤとして、AGILEST FAST TLRが誕生した。

パナレーサー AGILEST FAST TLR (※パナレーサー試験機での数値に基づき作成)

具体的な数値で示すと、AGILEST FAST TLRはベーシックモデルとなるAGILEST TLRと比較し、約10%も転がり抵抗を削減することに成功したという。一方、レーシングタイヤに求められるグリップも大きく向上しており、同条件でのテスト下におけるスリップ量を大きく削減。更にロングライフ性能も約18%向上し、3,000kmの走行試験に耐える結果を残した。

スピード、グリップ、耐久性。レーシングタイヤに求められる性能をこれまでにない高いレベルでバランスしたハイパフォーマンスTLRタイヤに、AGILEST FAST TLRは仕上がったという。

パナレーサー AGILEST FAST TLR 耐摩耗性について

この背景にあるのは、AGILEST FAST TLRのために開発された"Fマテリアル"の存在だ。クリンチャーモデルにも既に投入されたFマテリアルだが、パナレーサーはこのTLRモデルのためにAGILE-F LAYERとZSG AGILE-FX COMPOUNDという2つの新たなFマテリアルを開発した。

AGILE-F LAYERは、ケーシングの内側サイドウォール部分に配置されるレイヤーで、この新構造により耐パンク性を損なわずに転がり抵抗の削減に成功しており、更にはよりしなやかな乗り味と高いエア保持力にも貢献する。

ケーシング自体はクリンチャーモデルと共通のAGILE-F CASINGを採用。柔軟性に優れた超軽量の極細ナイロンコードを高密度に織り上げることで、高い耐パンク性能と軽量性を両立している。

ブラックレインボーカラーがあしらわれるパッケージ。タイヤのロゴラベルも妖しく光る photo:Hao Moda

このケーシングに組み合わせられるのがTLRモデルに最適化して開発された新コンパウンド"ZSG AGILE-FX COMPOUND"によるトレッドだ。パナレーサー史上最小の転がり抵抗値を実現したプレミアムコンパウンドが実現したのは、走りの軽さだけではない。トレッドへの異物付着を軽減することでパンクリスクを大幅に低減。さらにはウェットグリップの改善にも大きく貢献しているという。

そして、タイヤの製造工程においては加硫前の電子線照射によって分子間に予備架橋を行うことで、ゴムの流動性を制御。加熱を伴う加硫工程においても形状や寸法を保持し、ケーシングとゴムの密着性を向上させることで真円度を高め、転がり抵抗低減につなげている。

タイヤの装着を容易にする「ビードロック」構造。ビード素材自体は同社の従来TLRモデルから変わらないが、金型に工夫を凝らして最適なビード形状としている photo:Hao Moda

また、パナレーサーの新たな"BEAD LOCK"テクノロジーを搭載することで、チューブレス運用のハードルを大きく引き下げている。リムへの脱着を容易にしつつ、フロアポンプでもビードが上がりやすくするこのテクノロジーは、より多くのサイクリストにとってAGILEST FAST TLRを身近にするだろう。

これまでのテクノロジーを結集し開発されたAGILEST FAST TLR。同シリーズのアイコンカラーである「ブラックレインボー」がラベルおよびパッケージに採用され、プレミアムかつレーシーな雰囲気を醸し出す。サイズおよび重量は、700×25C(255g)、700×28C(275g)、700×30C(295g)となる。

開発者インタビュー+インプレッション

今回はAGILEST FASTシリーズから引き続き開発を担当した高見俊樹さんと、広報担当の三上勇輝さんに製品についての開発ストーリーを伺うとともに実走インプレッションを行った。インプレを担当するのは前回のAGILEST FASTでもインタビューとインプレを担当したジャーナリストの吉本司。同銘柄でありながらチューブドとTLRのタイプの違いも意識しつつテストライドを行った。

吉本 司(よしもと つかさ) プロフィール

自転車ジャーナリスト 吉本 司(よしもと つかさ) photo:Hao Moda

フリーランスの自転車ジャーナリスト。自転車歴は40年近いベテランで、ランドナー、ロード、MTBに至るまで数々の車歴とライド体験を元に、機材の解説のインプレッション、市場動向に至るまで幅広い視点で記事を届ける。

パナレーサーのタイヤも主要なロードモデルは試乗または購入の経験があり、チューブドタイプのAGILEST FASTでもインタビューとインプレを担当した。身長186㎝/体重74㎏。 なおテストライド車両とした愛車はスペシャライズドAETHOS+シマノULTEGRAホイール。

一切の妥協をせず、TLR版に適した専用設計を展開

〝最速傑作〟というPOPからは製品に対する自信の程がうかがえる photo:Makoto AYANO

ここ数年でタイヤのチューブレスレディ(TLR)化が急速に進んでいるロードレースシーン。今年のツール・ド・フランスで、参加22チーム中TLRを使っていたのは20チーム。かつての定番であったチューブラータイヤの採用は2チームで、もはや風前の灯火(ともしび)。今や速さを極めたいと考えるライダーにとってTLRタイヤは絶対の存在とも言えるだろう。

そんなドラスティックな変化を見せるロードタイヤの状況において、パナレーサーはフラッグシップと位置づけるAGILEST FASTシリーズに、ついにTLR版の「AGILEST FAST TLR」を投入してきた。昨年の初夏にチューブドタイプが発売され、その走りの軽さに多くのロードサイクリストが魅了された同シリーズに、TLR仕様が投入されるのは必然のことだったが、気が付けば1年近い時がたっての登場である。

パナレーサー広報担当の三上勇輝さん 自身も相当走り込むサイクリストだ photo:Makoto AYANO

「FASTが登場した当初からTLR版の必要性は十分に認識しており、研究・開発を行っていました。ただ(FASTに)多くの新技術を投入したこともあり、それをTLR版に落とし込むのには少し時間を要しました。楽に作るのなら既存(チューブド版)のケーシングやコンパウンドでも可能だったと思いますが、そこは妥協をせずにTLRモデルとして最良のものを作るために、新しく設計したコンパウンドやコード(ケーシングに使われる繊維)を採用しました」と語るのは、パナレーサーのマーケティング担当である三上勇輝さんだ。

ケーシングの積層を工夫し、空気の保持と転がり抵抗を低減

「AGILEST FAST」では、走行時に起こるヒステリシスロス(ゴムの変形によるエネルギー消費)を抑えることでパナレーサー史上最小の転がり抵抗値を追求している。その〝最速解〟のために、独自の「Fマテリアル」という新素材を展開し、トレッドゴムからケーシングに至るタイヤの構成部材を新たに開発した。そしてもちろんAGILEST FAST TLRも、チューブドモデルのコンセプトをベースにしながらTLR化している。

AGILESTシリーズの製品開発に携わる技術課の高見俊樹さん。自身もサイクリストである photo:Makoto AYANO

ケーシング自体はAGILEST FASTにも使われる柔軟性に優れた超軽量極細コードを高密度で折り込み、耐久性と軽性をバランスさせた「アジャイル-Fケーシング」だが、TLR版では「アジャイル-Fレイヤー」という新たなケーシング構造を採用。これにより空気の保持性と転がり抵抗の低減を両立している。製品開発に携わる技術課の高見俊樹さんは、その具体的な構造を以下に説明する。

「タイヤの両サイド(サイドケーシングの部分)に空気を保持する層を設けていますが、トレッド下にはそれがありません。トレッドはそれ自体で空気を保持できるからです。サイド部分だけで空気が抜けないようにするという構造は、パナレーサーのロードモデルでは初めてです。一部のグラベルモデルには採用しているのですが、その知見をフィードバックして、今回採用しました」

AGILEST FAST TLRのタイヤの両サイドには空気を保持する層を設けるが、トレッド下にはそれが無い photo:Makoto AYANO

高見さんによれば、ケーシングなど基本的にタイヤ本体の構成部材は、その積層数が少ないほど転がり抵抗を低減できるという。そして、先述したAGILEST FASTにおける最大のコンセプトであるヒシリシスロスの低減は、変形する物の総量をどれだけ減らせるかが重要となるという。インナーチューブがないTLRは、空気を保持するためにタイヤ本体を構成する部材の積層がチューブドよりも多くなり、当然ながら変形するものの総量も増える。そこでAGILEST FAST TLRでは、トレッド下部の空気の保持層を省いた「アジャイル-Fレイヤー」というケーシング構造を採用し、ヒステリシスロスを抑えて、転がり抵抗の低減を図っている。

パナレーサー史上最速のロードタイヤ

AGILEST FAST TLRも他の製品同様、兵庫県丹波市で製造される。開発から製造まで国内で行うため、きめ細やかにして精度の高い製品作りが可能になっている photo:Makoto AYANO

このケーシング構造にプラスして、今回は新たに開発したトレッドコンパウンド「ZSGアジャイアル-FXコンパウンド」を組み合わせることで転がり抵抗を低減している。また、このコンパウンドはそれだけでなく、グリップ性能の向上も追求している。

そして、「アジャイル-Fレイヤー」と「ZSGアジャイアル-FXコンパウンド」のコンビネーションを、最大限引き出すのがAGILEST FASTで投入された新技術「エレクトロンビーム照射」(電子線照射)だ。その詳しい効果は、スペースの都合上割愛するが(昨年公開したAGILEST FASTの開発者インタビューを参考にされたし)、この工程を加えるとタイヤに加硫処理をした段階でケーシングの表面が平滑になり、タイヤの余分な変形、つまりヒステリシスロスが抑制され、転がり抵抗の低減につながる。

兵庫県丹波市のパナレーサー本社工場で生産されたばかりのパナレーサー AGILEST FAST TLR photo:Hao Moda

こうして新構造のケーシング、新設計のトレッドコンパウンド、そしてエレクトロンビームという3つのキーテクノロジーにより、AGILEST FAST TLRは、AGILEST TLRに対して転がり抵抗を約10%、またAGILEST FASTと比べても15%ほど、転がり抵抗を低減することに成功している。そして、AGILEST FASTと同じように、パナレーサーでは今回も海外の第三者機関に転がり抵抗値の試験を依頼。同社が開発のベンチマークとした、転がり抵抗が小さいことで評判の他社製品を凌ぐ結果を得ているという。まさにAGILEST FAST TLRは、世界基準の〝速さ〟を手にし、その〝FAST〟という名にふさわしい実力を手にしているのだ。

転がり抵抗のみならず、全方位でしっかりと進化

主張しすぎずクールなラベルデザインがバイクとのマッチングを選ばない photo:Hao Moda

「変形するものの総量をどれだけ減らせるかによって転がり抵抗は良くなるのですが、それをやりすぎると今度は耐パンク性や他の部分に不具合が生じてきます。なので、それらとのバランスを見ながら、なおかつ転がるタイヤに仕上げていくという作業が大切なところですね」と、高見さんと三上さんのお二人はタイヤ作りの難しさを語る。

そうした観点からAGILEST FAST TLRは単に軽い転がり性能だけでなく、TLRタイヤとしてのトータルバランスもしっかり追求している。新設計のトレッドコンパウンドは、先にも記した通りグリップ性能を高めているが、それだけでなくトレッドに対する異物の付着も大幅に軽減する。

異物の付着を低減するトレッドは、パンクのリスクを抑えてくれるはずだ。さらにこのトレッドは、ライフ性能もAGILESTTLRに対して18%向上している点も見逃せない(想定するライフ距離は3000㎞)。最新のレーシングロードタイヤは、トレッドの摩耗が早いので、こうした進化はホビーサイクリストにとってとても実用的な進化である。

トレッドはスリックタイプだが、表面にはしぼ加工が施されている photo:Hao Moda

TLRタイヤといえば、ビードが上がりにくいなど、作業性の悪さを危惧する人も少なくないが、AGILEST FAST TLRでは、「ビードロック」の仕様がそんな不安を取り除いてくれる。これは、すでにAGILEST TLRやグラベルモデルのGRAVELKINGのTLRシリーズにも採用される実績十分の構造だ。ビード部の形状に工夫を凝らすことで、リムへの装着が容易に行えるようになり、なおかつプロアポンプで簡単にビードを上げることが可能になっている。

そして、気になる重量については700×28Cサイズで275g。同サイズのAGILEST TLRより25g重くなるが、そもそもAGILEST TLRはTLRタイヤとしてかなり軽い部類。しかもAGILEST FAST TLRはAGILEST TLRよりもトレッドを肉厚に設計することで耐パンク性能や摩耗性が高められており、それとトレードオフと考えれば、この重量も納得だろう。

高速域ではタイヤの存在を忘れさせるかのような流れる走りに快感を覚える photo:Hao Moda

さらに言えばライバルとなる他社製品と比べて、AGILEST FAST TLRは5~15g程度軽量に仕上げられている。チューブド版のAGILEST FASTでは、他社製品と比べて重量が若干重いことを指摘するサイクリストもいたが、TLRではそうした点もしっかり克服している。また、展開されるタイヤサイズについても、今後のロードレーシングシーンでも定番ともなり得る30Cを追加した25C、28Cの3種類となり、より多様なユーザーニーズに応えている。

パナレーサー AGILEST FAST TLR ロゴデザインも今風のテイストだ photo:Hao Moda

TLR化によってパナレーサー史上最速の速さをだけでなく、ユーザービリティまで含めた全方位で大きく進化したAGILEST FAST TLRは、同社のフラッグシップとしての魅力を、これまで以上に輝かせる存在と言っていいだろう。次のパートでは、その実力を探るべく自転車ジャーナリストの吉本司がインプレッションをお届けしよう。

チューブドタイヤのような感覚で装着できる

最新ロードホイールは、もはやTLRタイヤの性能を基準にして性能が最適化されている。製品にもよるが、TLRで乗った方が明らかに走行性能の優位性を感じることも決して少なくない。そんな時代に突入すると、普段オンロードではチューブドタイヤを履く筆者も、もはやTLRを導入するしかないと考える今日この頃である。

シマノ・アルテグラのホイールに装備して試乗をした。4.5Barのエアを充填した際の実測タイヤ幅は29.3㎜だった photo:Hao Moda

とはいえ、TLRはリムとの相性でタイヤのビードが上がりにくい、空気が抜ける、コンプレッサーやエアチャンバー付きのフロアポンプが必要だとか、いろいろな雑音も聞こえてくるので、二の足を踏みたくなるものである。そんな筆者と同じ思いのサイクリストは、決して少なくないだろう。

しかし今回AGILEST FAST TLRの試乗に際して、タイヤを自らの手ではめてみたのだが、先述のような心配は皆無だった。シーラントを充填する手間はあるにせよ、装着にタイヤレバーもいらなければ、ビードを上げる作業も一般的なフロアポンプで行える。セットしたホイールがシマノ製ということもあるが、これだけ容易なら、何ら臆することなく導入できる。ちなみに知人のメカニックに話を聞いても、パナレーサーは装着が簡単だという。同社では運用面にもかなりの重きを置いてTLRタイヤを開発しているというが、やはり「ビードロック」の効果はだてではなかった。

タイヤの存在を忘れさせる静寂な走り

コーナリングではタイヤの変形も自然なので、グリップ感をつかみやすく安心感に優れている photo:Hao Moda

さて、肝心な走行性能の前に話が長くなったが、本題へと進もう。おおよそ1年前にAGILEST FASTに乗った感覚は、今でも鮮明に記憶に残っており(その模様は特集記事へ)、その転がりの軽さと滑らかさ、そして性能のバランスの高さに感心させられたものである。レース派に人気の某欧州ブランドのあのタイヤよりも個人的には好みであり、しばらくTPUチューブを組み合わせて、気持ちよくライドに出かけていた。

レーサーの場合、体感として速さを得られるかというのが優れたタイヤ選びの条件になるだろうが、筆者のようなノンレースのサイクリストは、それもさることながら、いかに気持ち良く走ることができるかというのが、タイヤ選びにおける要件となる。AGILEST FAST TLRは、このタイヤが最も目指す〝速さ〟もそうだが、〝快感〟という点においてもしっかり進歩を遂げている。

大きな荷重が掛かった時でもタイヤがしっかりと反発してくれるので、トルク感がしっかりあるので力強い走行感が生まれる photo:Hao Moda

AGILEST FAST TLRの特長である転がりの軽さは、走り出すと瞬時に直感的に伝わってくるほど明確なレベルとして進化している。そして、タイヤの中にチューブがない雑味のない転がりの軽さと滑らかさ。この上なく真円度の高いものが抵抗感なく転がり、加速をするときれいに速度が上がっていく。この加速の良さは、抑えられた質量も理由の一端ではあるが、それよりも圧倒的に抵抗の少ない転がりに起因するものだ。大げさな言い回しかもしれないが、タイヤが路面からわずかに浮いているかのように、すっーとバイクが動いていく。

そして、それが等速巡航(ロードバイクの実用速度域である時速30㎞台中盤以上)に入るとさらに極まり、まるでタイヤの存在を忘れるかのように不思議な感覚が得られるのだ。恐らくタイヤに掛かる荷重と、それを跳ね返す力が上手くバランスされているのだろう。当然のことながら減衰も早いのでバイクは無駄に跳ねることもなく、乗り心地にも優れる。それ故にペダリングは安定してライドに集中できる。レーサーにとっては集団内で脚を休めることができ、逃げを打つような場合でも無駄脚を使わず効率的な走りにひと役買ってくれるだろう。

滑らかで上品な転がり感を持つ走りは、マイペースで走るようなライドにも落ち着きを与えてくれる photo:Hao Moda

一方、筆者のようなサイクリストにとっては、この浮遊感のある走りは刺々しさや軽薄さがなく上品でもある。したがって速さは得られるのに、ペダルを強制的に踏まされる感覚はない。まるでゾーンに入ったかのようにライダーとバイクの一体感が自然に生み出され、走りに集中できる。その感覚がこの上なく気持ちいいのだ。

性能バランスの高さが極められている

ウエットな路面でも腰高な印象を持つことはないので、安心感は高い photo:Hao Moda

〝タイヤの存在を忘れる〟と聞くと、コーナリングにおけるグリップ性能やトラクションといった性能に対して不安や物足りなさを抱くかもしれない。しかし、そうした心配は無用だ。コーナリングでのグリップ感は、アジリストTLRほどの超絶にして、ホビーサイクリストにとってオーバースペックと思えるほどのレベルとまでは至らないまでも、全くもって不足はない。

チューブドタイプよりもタイヤの変形がより素直で、路面に刺さっていくような感覚が強いので、グリップ感も得やすい。コーナリングのアールに従って自然にバイクを倒やすいので、安心感にも優れている。AGILEST FAST TLRは軽い転がりだけでなく、コーナリング性能にもしっかりと進化を感じることができるので、下りも存分に楽しめるタイヤと言っていいだろう。

ウエットな路面での走りも良好だが、グリップ感はノーマルのAGILESTのほうが上か photo:Hao Moda

そして、ダンシングでの加速や急登といったタイヤに大きな負荷が掛かる状況においても、AGILEST FAST TLRの走りの輝きが鈍ることはない。AGILEST FASTでも感じたことだが、大きな荷重に対して変形したタイヤの戻りのスピードが適切なので、路面をしっかりと捉えてトルク感を生みやすい。上りで腰を下ろして後輪荷重が増すような状況となっても、走りの軽さは大きく失われない。今回は荒れた路面や、濡れているような峠道にも連れ出して試乗を試みたが、そうした路面でも不安はなく、しっかりと路面を捉えてくれる。特長である軽い転がり感だけでなく、高いトラクション性能も平坦から上りまで維持されている。

いつの時代のロードタイヤは、しなやかさが性能を追求する上で重要な要素の一つとされるが、近年の太幅・低圧・TLRというドラステックな変化によって、それをよりうまくマネジメントできるかがポイントになっていると言えよう。それはフレームで言うところのペダリングの入力でBBがウイップしても、その戻りが速ければペダリングや走りの鈍さを感じにくい良質なしなりという領域に似ている。

上りでもテンポを維持しやすく、ダンシングでのトルク感も十分だ photo:Hao Moda

そしてAGILEST FAST TLRは、タイヤの変形とその戻りというしなやかさのマネジメントが実に秀逸な印象を受ける。それがトレッドが常に路面を離さないような安定感を生み、転がりの軽さ、トルク感の強さ、乗り心地の良さ、コーナリングの安心感へとつながってくる。

以前にAGILEST FASTを試乗した際、個々の性能の高さはもちろんだが、それらが絶妙に融合してライダーが扱いやすい高性能が演出されていることから〝高性能がライダーの手の中にある〟と記した。AGILEST FAST TLRはその魅力をベースにしながら、全ての性能が引き上げられている。

奥多摩のマイナー林道を走る。速いだけでなく、しなやかさによって荒れた路面も快適だ photo:Hao Moda

〝FAST〟という名を冠しているものの、AGILEST FAST TLRは決して速さを求めるレーサーだけのものではない。ロングライド、ヒルクライム、ブルベ、上り下り、コーナリングなど、オンロードのライディングであれば全ての領域において、あらゆるシーン、あらゆるレベルのサイクリストが走りの快感を得ることのできるロードタイヤである。

ロードバイクシーンの主流が脱レースになった今こそ、その楽しみの神髄である〝速さ〟を強く感じさせながらも、懐の深い楽しみを与えてくれるAGILEST FAST TLRのようなタイヤこそが必要とされているのだろう。TLR化によってそのメリット最大限に引き出し確実に進化したその性能は、AGILESTシリーズのフラッグシップに相応しい存在である。

パナレーサー AGILEST FAST TLR

パナレーサー AGILEST FAST TLR photo:Makoto AYANO


サイズ/重量700×25C(255g)、700×28C(275g)、700×30C(295g)
価格12,100円(税込)


シールスマートEX

パナレーサー シールスマートEX(120ml) photo:Makoto AYANO

AGILEST FAST TLRと組み合わせることで最高の性能を発揮するシーラント、シールスマート EXもモデルチェンジを果たした。配合するクルミ殻パウダーを最適化することで、高いシール性能はそのままにバルブから注入可能となった。

容量/価格120ml/880円(税込)、500ml/2,420円(税込)、1000ml/4,400円(税込)
提供:パナレーサー text:Tsukasa Yoshimoto photo:Hao Moda