2023/10/31(火) - 18:30
70年超の歴史の中で積み重ねてきた自転車タイヤの知見に、エレクトロンビーム照射といった新技術も導入し、パナレーサー史上最小の転がり抵抗を実現したという「AGILEST FAST(アジリストファスト)」。特集ページの第2回目となる今回は、そのライディングパフォーマンスについて、ジャーナリストの吉本司、そして選手の声を通じてお伝えしよう。
フリーランスの自転車ジャーナリスト。自転車歴は40年近いベテランで、ランドナー、ロード、MTBに至るまで数々の車歴とライド体験を元に、機材の解説のインプレッション、市場動向に至るまで幅広い視点で届ける。パナレーサーのタイヤも主要となるロードモデルは、試乗または購入した経験がある。身長186㎝/体重74㎏。
今やレースに興じるロードサイクリストは少数派だ。多くは週末にグループやソロでのライドを楽しんでいる。かくいう筆者(吉本司)もそんな一人である。〝レース〟という言葉は、遙か昔に置いてきたけれど、サドルにまたがれば、峠で呼吸を荒げて、平地や下りで風を切り、折りに触れ速さを求めている。それはロードバイクにとって〝速さ〟は不変の正義であり、そこにライディングの快感が凝縮されているからだ。
でも、それが義務だったり、何かに強いられたりは嫌なのだ。あくまで自由に自発的に。現代のサイクリストが求める快感とは、絶対値でも相対値でもなく自らの中にある速さだ。だから私は今コンペティティブロードでありながら〝争うことを主題としない〟スペシャライズド・エートスを選んだ。最新のピュアレースバイクは「速く走れと」背中を強く押してきて、どこか速さが義務になる。ロードライディングの快感はバイクと対話し、ライダーの心と体が一体となった時に最高の瞬間となる。私が機材に求めているのは、何にもとらわれない〝自由な速さ〟へといざなってくれる存在である。
そんな価値観において、私が今、気になっているタイヤが、パナレーサーの最新作「AGILEST FAST(アジリストファスト)」である。このタイヤが目指した同社史上最高の転がりの軽さとは、〝速さ〟を最も直感的に味わえる要素だと言えよう。その魅力を確かめるべく、私は小さな峠へと一人ペダルを踏むことにした。
夏の強い朝日を受けてブラックレインボーカラーのAGILEST FASTのロゴが輝いている。サイズは28Cだ。10年前に「25Cなんていらない」と言っていたが、でも今はこれが自分のミニマムサイズ。もはや30Cすら望んでいる。なぜなら今も昔も変わらず、私が自転車に乗るもう一つのテーマは道探しだからだ。ライドに出れば常にサイクリングに最適な道を探し、峠では枝道に侵入し、そのまま未舗装の林道を走ることもいとわない。
これまで数え切れないほどバイクやパーツを試してきたが、タイヤはもとより新しいパーツを迎え入れる時は、ファーストインプレッションが大切だ。往々にして心を揺さぶられる製品は、最初に直感的な良さを得られるものである。走り出して耳に入るロードノイズから想像すると、AGILEST FASTはケーシングが肉薄であることを想像させる。しかし肉薄・軽量なモデルの出足とは少々毛色が異なり、タイヤの接地面にかかる圧力が小さいような印象で、路面の上を滑るかのように〝するり〟と軽くホイールが転がり出す。ファーストインプレッションは、いい予感しかない。
そして等速巡航に入っても、真円度の高いものが滑らかに軽く、きれいに淀みなく回り続ける感覚に長けている。しかも軽く流している時でも、ギヤの倍数をかけて進む時でも、そのフィーリングは著しく変わることはなく、常に流れるような感覚に包まれて走り抜けることができる。気が付けば私は、向かい風だというのに、自分の脚力を顧みずシフトアップをし、川沿いの平坦路で自然とスピードを求め、体を伝う風と過ぎゆく景色に快感を覚えていた。
峠が近づくにつれ交通量は少なくなり、田舎道になってくる。当然ながら時に路面も荒れている。ケーシングが薄手で転がりが軽いタイヤでは、走行感が腰高だったり、荒れた路面で弾かれやすいこともあるが、AGILEST FASTはそうした素振りを見せにくい。タイヤの動きに粘りのようなものがあるのか、減衰も的確に働き、路面の凹凸を埋めてくれるかのような印象もあり、接地感に不安を覚えることもない。そしてこの特性は駆動方向にも効いてくる。カーボンフレームで言うのなら踏みしろがあるような感覚で、トルク抜けが少なくタイヤが路面を蹴る力も良好で、パワーをかけた時の推進力もチューブドモデルとしては高レベルだ。
パナレーサーのロードタイヤといえば歴代、グリップ力の高さに定評があり、AGILESTもまた抜群の安心感を誇っている。AGILEST FASTは、転がりの軽さに振った特性ゆえに、AGILESTと比べてしまうとグリップ力は及ばないかもしれないが、不安をかき立てられるようなことはない。もちろんグリップ力は高いに越したことはないが、それよりも大切なのはグリップ感をライダーが得やすいかだ。この点においては粘りのあるケーシングの雰囲気と、タイヤのトレッド部周辺がしっかりしていて、そこには微妙な踏みしろのようなものがあることで功を奏している。ゆえにハンドリングは転がりの軽さの割に落ち着いているし、コーナリングの挙動も素直。不足のないグリップ感により、コーナーでしっかりタイヤを路面に押せる感覚もあるので的確にトレースできる。
とかく速さというと加速方向の話が目に留まりがちだが、安心・安全性が担保されていなければ速さは成り立たない。転がり抵抗の軽さがありながらも安定感やクリップ感といった、走りの安心感に繋がる部分を失っていないというのも、AGILEST FASTの評価すべき点だ。
AGILEST FASTの重量を目にした際、同サイズ(28C)のAGILESTよりも40g重いことが気になっていた。おそらくそう思う人も多いことだろう。いよいよ峠へと突入し、そんなことが頭をよぎる。上りの序盤は勾配7〜8%の緩斜面が続く。上り始めなので脚はまだフレッシュで、ケイデンスも維持できている。AGILEST FASTは後輪荷重になる上りでも、タイヤにかかる荷重に対する反発感が適切なためか、転がりの軽さはあまり失わず、滑らかにバイクが進んで行く。シッティングほぼ9割で上りをこなす私は、このフィーリングはケイデンスを維持しやすく、無駄な力を使わずにすむ。上りが苦手な私としてはとてもありがたい。
上りも後半になると勾配がきつくなり、ケイデンスが落ち、サイコンから目を背けたくなる絶望的な速度になってゆく。そんなときにタイヤの重量云々は、正直よく分からなかった。でもそれは明確なデメリットが少ないということだろう。それはともかく、自分が上りで頑張れる領域では、AGILEST FASTの重量はハンディになるどころか、メリットの方が多いように思う。
峠のピークに達して東屋の椅子に腰掛ける。息を整え、渇いた喉を潤すためにボトルの水を口に入れる。そしていったん冷静になって考えてみるとAGILEST FASTの重量は、ライバルメーカーの同グレードとさして変わらないことを思い出す。つまりAGILEST自体が軽いのだ。AGILEST FASTがAGILESTの重量だったら、その走りはどうかと考えた。あくまでも私の想像だが、恐らくケーシングやトレッドがより薄いと感じるので、安定感やグリップ感、そして上りのようにタイヤに大きく荷重がかかる場面での転がりの軽さも得にくいのではなかろうか。やはりこの重量は意味があり、闇雲に軽さを追求しなかったことも、AGILEST FASTの走行性能を構成する上で隠れた秘密になっているのではなかろうか。
いつの時代もタイヤはロードバイクの性能を大きく左右するパーツだ。とりわけ最近は、その重要性が高まっていると言えよう。ディスクブレーキの大きな制動力を受け止めるのはもちろん、運動性能の向上が留まるところを知らないコンペティティブロードの走りを、的確にコントロールするにもタイヤに掛かる負担は大きくなり、より高性能な製品が求められている。
タイヤの〝高性能〟とは、一体何だろうか。個別に挙げるとグリップ、トラクション、転がりの軽さ、乗り心地、耐パンク性だが、それらの集合体として現れる結果が〝ライダーが意のままに走れること〟として表れる。必要なロードインフォメーションが得られ、タイヤとの間で深い対話ができるのが良い製品の条件であり、それがすなわち速さや安全性に繋がってゆく。
かつてハイエンドのロードタイヤは〝レーサー〟だけのものだったが、今は違う。ロードバイクのライドエクスペリエンスは、レースからロングライドをはじめとするいわば〝サイクリング〟という層がより大きなボリュームゾーンとなった。でありながら私も含めて一般サイクリストの多くは、コンペティティブロードをはじめとする運動性能の高いモデルに乗っている。
そんな時代にあってロードタイヤに求められるのは、先に挙げた個別の性能のそれぞれに優れていることもそうだが、それをどうバランスさせるか。つまりはいかに扱いやすい高性能があるかだ。私が愛車であるエートスに惚れているのは、高性能が自分の手の内にあり、バイクと密接な対話ができることだ。AGILEST FASTにもそんなシンパシーを強く感じるのだ。峠を下り終え、家路へと向かう平坦路で、軽やかにして滑からに転がるAGILEST FASTに身を任せ、ライディングの快感に浸りつつ、そんなことを考えるのだった。
28Cのモデルをトレーニングとレース合わせて1500㎞程乗りました。タイヤ選びで重視するのは転がりの軽さで、コンチネンタル・GP5000をベンチマークにしてそれを使っていますが、AGILEST FASTの転がりの軽さは遜色ないレベル、最近乗った中では気に入ったタイヤです。JBCFの石川ロードレースで優勝した時にも使っていましたが、やはりレースのような力が拮抗した場面で最後に抜け出すことができたのは、体感的な転がりの軽さだけではないのでしょう。コーナリングでも癖はなく、重量も気になりません。アジリストは転がりに重い印象があったので、そこが改善されて性能のバランスは良くなりましたね。また、海外の製品と比べて価格も抑えられていますし、手に入れやすいのも利点です。クリンチャー派の高性能レースタイヤとして良い選択肢でしょう。
そもそもアジリストの転がり性能には満足していましたが、それでもAGILEST FASTに乗ると確実に軽さが感じられます。しかもただ転がりが軽いだけでなく、速度が伸びて行く感覚もしっかりあるので、長距離のロードレースでも脚を残せるでしょう。25Cサイズで乗りましたが、トレッドにはクッション性があり、ケーシングは薄手でありながらトレッドとケーシングの境がしっかりしているのでコーナリングでのよれも少なく、乗り心地も25Cとしては良いレベル。下りは圧倒的なグリップ力でコーナリングフォースをねじ伏せるような感覚ではありませんが、下りの得意な自分が乗っても十分満足できます。転がり性能を高めながらトータルバランスに優れたレーシングモデルで、コーナーなどで速度が落ちにくいコースのロードレースで使うとアドバンテージは大きいでしょう。
転がりが軽くコーナーでもしっかり踏ん張ってくれる
端的に言うと縦方向の剛性がしっかりしていて、横方向にしなやかな印象です。したがって直線時の転がりがとても軽くて、アタックに反応する際の最初の動き、クリテリウムのコーナリングでの立ち上がり加速で有利なはずですし、上りでのダンシングにおいてもバイクの振りに軽さを感じながら走れます。そしてAGILESTよりもしなやかな印象なので、乗り心地もいいです。そのため初めて乗った時は、コーナーに入る初動でやや車体の動きにやや遅れがあるように感じましたが、それも慣れの問題。車体を倒し込んでもコーナーのボトムでしっかり粘ってくれるので安心感もあるので、タイトコーナでもしっかり攻められますね。全体的に変な癖がなくてとても扱いやすいですし、アジリストよりもレースで有利となる性能が向上しているので、AGILEST FASTの走りは気に入っています。
ライダー紹介:吉本 司(よしもと つかさ)
フリーランスの自転車ジャーナリスト。自転車歴は40年近いベテランで、ランドナー、ロード、MTBに至るまで数々の車歴とライド体験を元に、機材の解説のインプレッション、市場動向に至るまで幅広い視点で届ける。パナレーサーのタイヤも主要となるロードモデルは、試乗または購入した経験がある。身長186㎝/体重74㎏。
不変の快感、"速さ"を求めて
今やレースに興じるロードサイクリストは少数派だ。多くは週末にグループやソロでのライドを楽しんでいる。かくいう筆者(吉本司)もそんな一人である。〝レース〟という言葉は、遙か昔に置いてきたけれど、サドルにまたがれば、峠で呼吸を荒げて、平地や下りで風を切り、折りに触れ速さを求めている。それはロードバイクにとって〝速さ〟は不変の正義であり、そこにライディングの快感が凝縮されているからだ。
でも、それが義務だったり、何かに強いられたりは嫌なのだ。あくまで自由に自発的に。現代のサイクリストが求める快感とは、絶対値でも相対値でもなく自らの中にある速さだ。だから私は今コンペティティブロードでありながら〝争うことを主題としない〟スペシャライズド・エートスを選んだ。最新のピュアレースバイクは「速く走れと」背中を強く押してきて、どこか速さが義務になる。ロードライディングの快感はバイクと対話し、ライダーの心と体が一体となった時に最高の瞬間となる。私が機材に求めているのは、何にもとらわれない〝自由な速さ〟へといざなってくれる存在である。
そんな価値観において、私が今、気になっているタイヤが、パナレーサーの最新作「AGILEST FAST(アジリストファスト)」である。このタイヤが目指した同社史上最高の転がりの軽さとは、〝速さ〟を最も直感的に味わえる要素だと言えよう。その魅力を確かめるべく、私は小さな峠へと一人ペダルを踏むことにした。
自然と速さを追求したくなる
夏の強い朝日を受けてブラックレインボーカラーのAGILEST FASTのロゴが輝いている。サイズは28Cだ。10年前に「25Cなんていらない」と言っていたが、でも今はこれが自分のミニマムサイズ。もはや30Cすら望んでいる。なぜなら今も昔も変わらず、私が自転車に乗るもう一つのテーマは道探しだからだ。ライドに出れば常にサイクリングに最適な道を探し、峠では枝道に侵入し、そのまま未舗装の林道を走ることもいとわない。
これまで数え切れないほどバイクやパーツを試してきたが、タイヤはもとより新しいパーツを迎え入れる時は、ファーストインプレッションが大切だ。往々にして心を揺さぶられる製品は、最初に直感的な良さを得られるものである。走り出して耳に入るロードノイズから想像すると、AGILEST FASTはケーシングが肉薄であることを想像させる。しかし肉薄・軽量なモデルの出足とは少々毛色が異なり、タイヤの接地面にかかる圧力が小さいような印象で、路面の上を滑るかのように〝するり〟と軽くホイールが転がり出す。ファーストインプレッションは、いい予感しかない。
そして等速巡航に入っても、真円度の高いものが滑らかに軽く、きれいに淀みなく回り続ける感覚に長けている。しかも軽く流している時でも、ギヤの倍数をかけて進む時でも、そのフィーリングは著しく変わることはなく、常に流れるような感覚に包まれて走り抜けることができる。気が付けば私は、向かい風だというのに、自分の脚力を顧みずシフトアップをし、川沿いの平坦路で自然とスピードを求め、体を伝う風と過ぎゆく景色に快感を覚えていた。
失うことのない安心感
峠が近づくにつれ交通量は少なくなり、田舎道になってくる。当然ながら時に路面も荒れている。ケーシングが薄手で転がりが軽いタイヤでは、走行感が腰高だったり、荒れた路面で弾かれやすいこともあるが、AGILEST FASTはそうした素振りを見せにくい。タイヤの動きに粘りのようなものがあるのか、減衰も的確に働き、路面の凹凸を埋めてくれるかのような印象もあり、接地感に不安を覚えることもない。そしてこの特性は駆動方向にも効いてくる。カーボンフレームで言うのなら踏みしろがあるような感覚で、トルク抜けが少なくタイヤが路面を蹴る力も良好で、パワーをかけた時の推進力もチューブドモデルとしては高レベルだ。
パナレーサーのロードタイヤといえば歴代、グリップ力の高さに定評があり、AGILESTもまた抜群の安心感を誇っている。AGILEST FASTは、転がりの軽さに振った特性ゆえに、AGILESTと比べてしまうとグリップ力は及ばないかもしれないが、不安をかき立てられるようなことはない。もちろんグリップ力は高いに越したことはないが、それよりも大切なのはグリップ感をライダーが得やすいかだ。この点においては粘りのあるケーシングの雰囲気と、タイヤのトレッド部周辺がしっかりしていて、そこには微妙な踏みしろのようなものがあることで功を奏している。ゆえにハンドリングは転がりの軽さの割に落ち着いているし、コーナリングの挙動も素直。不足のないグリップ感により、コーナーでしっかりタイヤを路面に押せる感覚もあるので的確にトレースできる。
とかく速さというと加速方向の話が目に留まりがちだが、安心・安全性が担保されていなければ速さは成り立たない。転がり抵抗の軽さがありながらも安定感やクリップ感といった、走りの安心感に繋がる部分を失っていないというのも、AGILEST FASTの評価すべき点だ。
重量増は気にならない
AGILEST FASTの重量を目にした際、同サイズ(28C)のAGILESTよりも40g重いことが気になっていた。おそらくそう思う人も多いことだろう。いよいよ峠へと突入し、そんなことが頭をよぎる。上りの序盤は勾配7〜8%の緩斜面が続く。上り始めなので脚はまだフレッシュで、ケイデンスも維持できている。AGILEST FASTは後輪荷重になる上りでも、タイヤにかかる荷重に対する反発感が適切なためか、転がりの軽さはあまり失わず、滑らかにバイクが進んで行く。シッティングほぼ9割で上りをこなす私は、このフィーリングはケイデンスを維持しやすく、無駄な力を使わずにすむ。上りが苦手な私としてはとてもありがたい。
上りも後半になると勾配がきつくなり、ケイデンスが落ち、サイコンから目を背けたくなる絶望的な速度になってゆく。そんなときにタイヤの重量云々は、正直よく分からなかった。でもそれは明確なデメリットが少ないということだろう。それはともかく、自分が上りで頑張れる領域では、AGILEST FASTの重量はハンディになるどころか、メリットの方が多いように思う。
峠のピークに達して東屋の椅子に腰掛ける。息を整え、渇いた喉を潤すためにボトルの水を口に入れる。そしていったん冷静になって考えてみるとAGILEST FASTの重量は、ライバルメーカーの同グレードとさして変わらないことを思い出す。つまりAGILEST自体が軽いのだ。AGILEST FASTがAGILESTの重量だったら、その走りはどうかと考えた。あくまでも私の想像だが、恐らくケーシングやトレッドがより薄いと感じるので、安定感やグリップ感、そして上りのようにタイヤに大きく荷重がかかる場面での転がりの軽さも得にくいのではなかろうか。やはりこの重量は意味があり、闇雲に軽さを追求しなかったことも、AGILEST FASTの走行性能を構成する上で隠れた秘密になっているのではなかろうか。
高性能が自分の手の内にある
いつの時代もタイヤはロードバイクの性能を大きく左右するパーツだ。とりわけ最近は、その重要性が高まっていると言えよう。ディスクブレーキの大きな制動力を受け止めるのはもちろん、運動性能の向上が留まるところを知らないコンペティティブロードの走りを、的確にコントロールするにもタイヤに掛かる負担は大きくなり、より高性能な製品が求められている。
タイヤの〝高性能〟とは、一体何だろうか。個別に挙げるとグリップ、トラクション、転がりの軽さ、乗り心地、耐パンク性だが、それらの集合体として現れる結果が〝ライダーが意のままに走れること〟として表れる。必要なロードインフォメーションが得られ、タイヤとの間で深い対話ができるのが良い製品の条件であり、それがすなわち速さや安全性に繋がってゆく。
かつてハイエンドのロードタイヤは〝レーサー〟だけのものだったが、今は違う。ロードバイクのライドエクスペリエンスは、レースからロングライドをはじめとするいわば〝サイクリング〟という層がより大きなボリュームゾーンとなった。でありながら私も含めて一般サイクリストの多くは、コンペティティブロードをはじめとする運動性能の高いモデルに乗っている。
そんな時代にあってロードタイヤに求められるのは、先に挙げた個別の性能のそれぞれに優れていることもそうだが、それをどうバランスさせるか。つまりはいかに扱いやすい高性能があるかだ。私が愛車であるエートスに惚れているのは、高性能が自分の手の内にあり、バイクと密接な対話ができることだ。AGILEST FASTにもそんなシンパシーを強く感じるのだ。峠を下り終え、家路へと向かう平坦路で、軽やかにして滑からに転がるAGILEST FASTに身を任せ、ライディングの快感に浸りつつ、そんなことを考えるのだった。
高岡亮寛さん(RX BIKE 代表)
クリンチャー派の高性能レースタイヤとして良い選択肢
28Cのモデルをトレーニングとレース合わせて1500㎞程乗りました。タイヤ選びで重視するのは転がりの軽さで、コンチネンタル・GP5000をベンチマークにしてそれを使っていますが、AGILEST FASTの転がりの軽さは遜色ないレベル、最近乗った中では気に入ったタイヤです。JBCFの石川ロードレースで優勝した時にも使っていましたが、やはりレースのような力が拮抗した場面で最後に抜け出すことができたのは、体感的な転がりの軽さだけではないのでしょう。コーナリングでも癖はなく、重量も気になりません。アジリストは転がりに重い印象があったので、そこが改善されて性能のバランスは良くなりましたね。また、海外の製品と比べて価格も抑えられていますし、手に入れやすいのも利点です。クリンチャー派の高性能レースタイヤとして良い選択肢でしょう。
三船雅彦さん(マッサエンタープライズ代表)
速度が落ちにくいロードレースでアドバンテージがある
そもそもアジリストの転がり性能には満足していましたが、それでもAGILEST FASTに乗ると確実に軽さが感じられます。しかもただ転がりが軽いだけでなく、速度が伸びて行く感覚もしっかりあるので、長距離のロードレースでも脚を残せるでしょう。25Cサイズで乗りましたが、トレッドにはクッション性があり、ケーシングは薄手でありながらトレッドとケーシングの境がしっかりしているのでコーナリングでのよれも少なく、乗り心地も25Cとしては良いレベル。下りは圧倒的なグリップ力でコーナリングフォースをねじ伏せるような感覚ではありませんが、下りの得意な自分が乗っても十分満足できます。転がり性能を高めながらトータルバランスに優れたレーシングモデルで、コーナーなどで速度が落ちにくいコースのロードレースで使うとアドバンテージは大きいでしょう。
小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
転がりが軽くコーナーでもしっかり踏ん張ってくれる
端的に言うと縦方向の剛性がしっかりしていて、横方向にしなやかな印象です。したがって直線時の転がりがとても軽くて、アタックに反応する際の最初の動き、クリテリウムのコーナリングでの立ち上がり加速で有利なはずですし、上りでのダンシングにおいてもバイクの振りに軽さを感じながら走れます。そしてAGILESTよりもしなやかな印象なので、乗り心地もいいです。そのため初めて乗った時は、コーナーに入る初動でやや車体の動きにやや遅れがあるように感じましたが、それも慣れの問題。車体を倒し込んでもコーナーのボトムでしっかり粘ってくれるので安心感もあるので、タイトコーナでもしっかり攻められますね。全体的に変な癖がなくてとても扱いやすいですし、アジリストよりもレースで有利となる性能が向上しているので、AGILEST FASTの走りは気に入っています。
提供:パナレーサー text:Tsukasa Yoshimoto / photo:Hao Moda