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昨年「AGILEST(アジリスト)」を投入して、ロードモデルの中核を一新したパナレーサー。発売されるやいなやロードサイクリストの間で好評を得ているこのシリーズに、上位モデルとなる「AGILEST FAST(アジリストファスト)」が新たに加わった。同社の技術の粋を集めたこのフラッグシップの魅力を、これから3回の連載企画としてメーカーの声やライダーのインプレッションを通して紐解いていく。

パナレーサー史上最も小さな転がり抵抗 渾身のプレミアムレーシングモデル

パナレーサー渾身のレーシングタイヤ、AGILEST FAST。リリース以降大きな話題を集めた意欲作だ photo:Hao Moda

パナレーサーのハイエンドモデルであるAGILESTの品揃えは実に多彩だ。オールラウンドな性能の「AGILEST」、軽量で走りの軽さを持つ「AGILEST LIGHT」、タフさを求めた「AGILEST DURO」の3タイプがあり、サイズも23Cから32Cまで揃い、チューブドとチューブレスを選べる(タイプにより選択肢は異なる)。これだけ揃えれば、レースからロングライドまで多くのライダーの要望は叶えられそうだが、そこにあえてAGILEST FASTを投入したのはなぜだろうか? しかもAGILESTの登場から約1年半の短期間に――。
 
発売以降順調にセールスを伸ばしているAGILESTだが、ユーザーが増えると同時に製品に対する要望も寄せられるようになったという。そんな中でも最も多かった声が「より軽い転がり性能」だった。もちろんAGILESTは、前作RACE EVO4と比べ転がり抵抗は12%低減され、軽い転がり性能を実現するに至っていた。しかしながらAGILESTを使う国内トップチームの選手、〝速さ〟を重視する一般のサイクリストから挙がった声は、より軽い転がり感が欲しいというものだった。


AGILESTの開発時もそうだが、マーケットやユーザーのニーズに耳を傾け、それを的確に拾い上げた製品作りをモットーとするのが、企業ロゴをリニューアルしてからの新生パナレーサーである。同社ではAGILESTに寄せられた声を真摯に受け止め〝パナレーサー史上最小となる転がり抵抗〟を命題とし、〝速さ〟を極めるプレミアムなレーシングモデルAGILEST FASTの開発を開始した。

緻密な設計・開発の礎となる、自社製造のコンパウンド

コンパウンドも含めて全て自社製造。その持ち味を十分に活かしてAGILEST FASTは生まれた photo:Hao Moda

パナレーサーではAGILESTの誕生に際して「Panaracer Ratio(パナレーサーレシオ)」というロードタイヤを構成する上での〝黄金比〟を探し出し、それに基づきトレッドコンパウンドやケーシングなどの構成部材を新たにしている。AGILEST FASTの開発でもそれを礎としながら、さらなる転がり抵抗の低減を目指して再定義し、速さを生むための〝最速解〟を見つけ出す作業を行った。

開発陣の声を借りると、最速解を探るには地道な作業が繰り返されたという。今回の開発は、全くの新素材を投じて性能を向上させるような手法とは異なり、トレッド、ケーシング、耐パンクベルトなどを構成するパーツは、物質ベースで見ればAGILESTと変わらない。しかしながらトレッドならコンパウンドの配合比率を全く新しいものにしたり、ケーシング、耐パンクベルトなどはゴム素材に試行錯誤を加えたりと、転がり抵抗が小さくなるような方向性の基、タイヤを構成するパーツに細かな変更を積み上げて行くことでAGILEST FASTは最速解を求めたという。

つまりAGILEST FASTの開発作業は、最先端のカーボンフレームに例えるのなら、カーボン繊維のグレード自体は同じだが、プリプレグに含浸させるレジンの質やその量などを変えて性能を進化させているようなものと言えよう。そして緻密にして手間の掛かる今回の作業は、新たな開発手法が取り入れられ、これにより数々のパーツの組み合わせの高精度かつ短時間での検証が可能になり、それは開発の幅を広げ、高性能な製品作りに大きく貢献しているという。

パナレーサーの丹波工場ではコンパウンドの製造を行なっている。小回りの効く開発工程が理想を実現した photo:パナレーサー

さらに特筆すべきは、パナレーサーは本社にある工場で一からコンパウンドの練り上げができることだ。タイヤのほとんどの部材に使われるゴムの特性を、自社でコントロールできる自転車タイヤメーカーは、実は世界的に数少ない。それはカーボンフレームで例えるのなら原糸からプリプレグを作れるようなものである。これらをバックボーンとする高い技術がパナレーサーの製品作りの大きな武器であり、今回のAGILEST FASTの緻密な設計、さらにはその開発スピードに大きな役割を果たしているのは言うまでもない。

AGILESTから転がり抵抗を20%低減 隙のないレーシングタイヤへと進化

AGILEST FASTの根幹を成す、新開発の「ZSGアジャイルF-コンパウンド」 photo:So Isobe

こうした開発を経て、AGILEST FASTに新たに投入されたのが「Fマテリアル」。先にも少し触れているが、タイヤの構成パーツであるトレッド、ケーシング、耐パンクベルトの全ては新たに設計されたものだ。

それらを個別に見ると、トレッド部はコンパウンドの元となる具材の配合比率を新たにした「ZSG AGILE-F COMPOUND(ZSGアジャイルF-コンパウンド)」となり、転がり性能を低減しながらレースタイヤとして必要なハイグリップを両立。

ケーシングはAGILESTの柔軟性に優れる超軽量細密ナイロンコードをベースにしているが、コーティングするゴムを変更した「AGILE-F CASING(アジャイル-Fケーシング)」へと進化。しなやかさや耐久性、さらには軽量性を維持しながら、転がり抵抗の低減に大きく貢献している部分だという。

ケーシングはコーティングゴムを変更。あらゆる性能を押し上げる要因になったという photo:So Isobe

耐パンクベルトの「AGILE-F BELT(アジャイル-Fベルト)」は、ベルトの幅や肉厚はAGILESTから変わりないが、これもまた使用されるゴムを一新して、耐パンク性能を損なわず転がり抵抗低減を後押しする。

そして、これら3つのパーツの性能を最大限に引き出し、転がり抵抗の低減をさらなるレベルに引き上げる注目の技術が新たに採用された「エレクトロンビーム照射」だ。一般的には「電子線照射」という呼称で、電子を物質に入射することでその特性を改善したり、新しい機能を付加したりする効果があるという。

AGILEST FASTでは加硫前のケーシングにあらかじめ照射することでゴムの流動性が適切に制御されるという。そしてタイヤを加硫すると、それ以前に存在していたケーシングの凹凸が平滑になるという。これによりケーシングとトレッドゴムの密着度が高まり、ケーシングの繊維が整列しユニフォーミティ(真円度)が向上する。つまりは転がり抵抗の低減に大きな効果を発揮するのだ。

レーシングタイヤとして確実なレベルアップを遂げたAGILEST FAST。インプレッションは次章でお伝えする photo:Hao Moda

こうした数々の作り込みによりAGILEST FASTは、転がり抵抗をAGILESTに対して20%削減することに成功(社内試験による数値)。命題とした〝パナレーサー史上最も小さな転がり抵抗〟を実現するに至った。

もちろんレーシングタイヤに必要なグリップ性能は高いレベルを獲得しており、乗り心地や耐パンク性能などAGILESTで好評を得ていた性能の数々は、的確にそのレベルを受け継いでいるという。つまりAGILEST FASTは、大幅な転がり抵抗の低減によって性能のスパイダーチャートはより大きく正多角形に近づき、レーシングタイヤとしてのトータルバランスが大きく向上した、隙のない存在へと進化している。

また、今回は社内試験だけでなく、海外にある外部検査機関に依頼をして客観的な性能評価も実施した。その結果は、転がり感の高さで人気の高い某海外ブランドを凌駕する数値を記録しており、AGILEST FASTの性能は、まさに世界に誇れるレベルであると言えよう。

先んじてデビューしたAGILESTシリーズ。FASTが加わることでラインナップの拡充を果たした photo:Makoto.AYANO

冒頭にも述べたが、既存のAGILESTシリーズは幅広いラインナップによってレースからロングライドまで幅広い性能を発揮してきた。そこにレーシングパフォーマンスを限りなく追求したAGILEST FASTが加わり、これによりAGILESTシリーズはより広範なサイクリストの要求を満たし、盤石のラインナップが形成されたのも特筆すべき点だ。

今回チューブドタイプが700×25C、700×28Cのサイズで発売されたAGILEST FAST。当然ながらその先にはチューブレスレディの発売も予定されているという。パナレーサー史上最小となる転がり抵抗を手にし、レーシングタイヤとして隙のないハイパフォーマンスを反映させたプレミアムフラッグシップは、勝利を求め、速さに興奮を覚えるサイクリストたちの心を大きく揺さぶってくれることだろう。

パナレーサー AGILEST FAST

パナレーサー AGILEST FAST (c)パナレーサー

表記サイズETRTO重量推奨内気圧(kPa)税込参考価格
700X25C25-622230gMAX9809,900円
700X28C28-622250gMAX7509,900円
提供:パナレーサー text:Tsukasa Yoshimoto / photo:Hao Moda