2023/05/16(火) - 19:30
いよいよ日本最高峰のステージレース、ツアー・オブ・ジャパンが目前に迫った。本特集では日本が誇るタイヤメーカー「iRC」がサポートする3チームに所属するトップ選手にフォーカスを当て、2023年大会に期すること、これまでとこれから、そしてタイヤのことについて話を聞いていく。
まず紹介するのは、キナンレーシングチーム所属7年目のベテラン、トマ・ルバだ。2021年大会で個人総合2位に入り、エースとして、あるいは重要アシストとして責を担うフレンチクライマーは、新体制となり大きく若返りを果たしたチーム内でますます頼れるリーダー格となっている。2019年にはフランスから日本へと生活拠点を移し、日本との接点を強める彼に話を聞いた。
「最初はバスケットボール選手を目指していたんだ。13歳までプロを夢見て没頭していた」。キャリアの出発点について聞いた時、トマからは意外な言葉が飛び出した。「でも、おじいさんが大の自転車好きで、夏休みに一緒にツール・ド・フランスを観戦したんだ。これがきっかけで自転車に乗り始め、2年後にはロードレース一本に絞っていた」。
地元のクラブチームを経てプロヴァンスのトップアマチュアチームに入り、順調にレベルアップする中でコフィディスのスタジエ(研修生)に。「関係の良かったコフィディスに入れるはずが、最終的にチームは別の選手を獲った。ビジネス的なことか分からないけれど、とにかく走れるチームが無くなってしまった。その時にブリヂストンがフランス拠点のロードチームを持ち、ヨーロッパ選手を探していると聞いたのですぐに連絡したんだ。すぐ連絡が返ってきたよ」と、トマは当時を振り返る。それが今にまで至る、彼のキャリアの大きな分岐点だった。
「最初は結果が出ればヨーロッパチームに戻りたいと思っていたけれど、1,2年ですっかり考え方が変わったんだ。とにかく実力至上主義の向こうのチームでは、チーム入りできても結果次第ですぐクビを切られる可能性があって神経をすり減らしてしまう。チームメイトだって、仲間であり、でもそれ以上にライバルだ。でも、アジア、日本のチームだったら少しリラックスして選手生活を送ることができるんだ。何より選手としてレースが大好きだから、今の生活が大好きだし、満足している。もしずっと向こうで続けていたら、とっくの昔に引退しているかもしれないね」
「日本に住み、トレーニングして、レースを走る生活が本当に楽しい」と言うトマ。37歳となった今も選手生活を止める気は無く、できる限りキャリアを積み重ねたい、そして引退後は日本に残って、恩返しとして若手を育てる仕事に就きたい、とも。
その数実に6名。メンバーの半分を入れ替えるという、大幅なメンバー刷新を行ったキナンレーシングチーム。海外勢では2019年のツール・ド・熊野でトマと激戦を演じたクライマーのドリュー・モレと、2019年のツアー・オブ・タイランドで総合優勝、昨年の熊野でステージ優勝したオールラウンダーのライアン・カバナ(共にオーストラリア)を加入させている。
さらに日本勢も山本元喜と畑中勇介、そして新城雄大という従来の中心メンバーはそのままに、トップスプリンターの孫崎大樹、ジュニア時代からタイトルを総なめにしてきた津田悠義らも加入。大幅な戦力補強を図ると同時に若返りも果たすこととなった。トマは今年のチームを「全体の戦力が本当に強い。あらゆる場面で勝ちを狙える構成」と評価する。
クライマーであるトマは、特に厳しい山岳コースでドリュー、そしてライアンの新加入組とタッグを組む。オセアニアやアジアレースを戦ってきた二人とチームメイトになるのは初めてだが、「彼らとはずっと同じレースを走ってきたし、よく言葉を交わす間柄だったんだ。だから初戦でもチームワークに問題はなかったし、彼らと一緒に走れることが嬉しい」と言う。
「iRCタイヤの、そしてASPITE PROで最も気に入っているのはグリップ感。それに耐久性もバッチリだ。今季はニュージーランドの開幕戦も豪雨だったし、日本でのレースも前半戦は雨が多かった。そんな状況でも安心して攻め込めるし、パンクもかなり少なかった。総合的にかなり良いタイヤだと思う」と、トマ自身もASPITE PROに太鼓判を押す。
しかし、そうは言っても長いキャリアの中ずっと親しんだチューブラーからの変更。クリンチャータイヤをレースユースすることに疑問はなかったのだろうか。
「もちろん最初に聞いた時は少し戸惑った。僕は古いライダーだし(笑)、ずっとチューブラーの乗りやすさがレースでは最高だと思っていたから。でも新しいASPITE PROはさっき言った通りとても満足している良いタイヤだ。今までのイメージが変わったし、レースを走るたびに信頼感は高まっているよ。僕のようなGC(総合成績狙い)ライダーは一度のトラブルで成績を落としてしまう。だからASPITE PROの安心感はすごく安心材料になる」。
「古いベテラン選手」と自ら皮肉る通りかどうかは分からないが、トマはASPITE PRO S-LIGHTの25Cをドライで7.5気圧、ウェットコンディションではもう少し下げ、7気圧前後で乗るという。
「今年最大の目標はツール・ド・熊野。そしてもちろん直前のツアー・オブ・ジャパン」とトマは力強く言い切った。「特に熊野はチームのホームレースだし、TOJでいい走りができれば熊野もコンディションを維持して臨めるはず」。チームはツアー・オブ・ジャパンに向けてトマ、ドリュー、ライアンのほか、孫崎と山本、そして津田というメンバーを発表。トマにとってツアー・オブ・ジャパンは2022年総合3位、2021年総合2位、2018年はマルコス・ガルシアの総合優勝をサポートしながら自身も総合3位に入るなど、特に相性が良いレースだ。
「何度も言うけれど、とにかく今年はチームが強く、特に走りのタイプや、年齢層も含めてバランスの取れたメンバー構成になった。チーム戦力で言えば、僕が所属してきた中で一番かもしれない。山でも強いし、集団スプリントで勝つこともできる。僕自身はライアンやドリューと一緒に総合成績やステージを目指していくことになるだろう」。
昨年3勝を挙げたトマだが、今年はアシスト役を担っていたことも重なり、自身の勝利や表彰台獲得には未だ手が届いていない。しかしインタビューを行ったツアー・オブ・ジャパンの事前合宿ではコンディションを十分に高めることができ、大一番に向けて準備は上々だという。
キナンの一員として迎える6回目のツアー・オブ・ジャパン。トマは「強い」チームと共に、好感触を持って重要なステージレース2連戦に挑む。
トマ・ルバ:頼れるベテランクライマー
まず紹介するのは、キナンレーシングチーム所属7年目のベテラン、トマ・ルバだ。2021年大会で個人総合2位に入り、エースとして、あるいは重要アシストとして責を担うフレンチクライマーは、新体制となり大きく若返りを果たしたチーム内でますます頼れるリーダー格となっている。2019年にはフランスから日本へと生活拠点を移し、日本との接点を強める彼に話を聞いた。
「最初はバスケ選手。祖父の影響でロードレースへ」
キナンレーシングチームに所属して7年。その前のブリヂストン時代を含めれば、日本チーム所属歴は実に11年に及ぶ。もうすっかり国内レースでお馴染みの存在となったトマ・ルバは、フランス南西部の街、ポー出身のベテラン選手。ピレネー山脈に近いこの街出身の彼が、山岳を得意とするクライマーとなったのは、ごく自然な流れだったのかもしれない。「最初はバスケットボール選手を目指していたんだ。13歳までプロを夢見て没頭していた」。キャリアの出発点について聞いた時、トマからは意外な言葉が飛び出した。「でも、おじいさんが大の自転車好きで、夏休みに一緒にツール・ド・フランスを観戦したんだ。これがきっかけで自転車に乗り始め、2年後にはロードレース一本に絞っていた」。
地元のクラブチームを経てプロヴァンスのトップアマチュアチームに入り、順調にレベルアップする中でコフィディスのスタジエ(研修生)に。「関係の良かったコフィディスに入れるはずが、最終的にチームは別の選手を獲った。ビジネス的なことか分からないけれど、とにかく走れるチームが無くなってしまった。その時にブリヂストンがフランス拠点のロードチームを持ち、ヨーロッパ選手を探していると聞いたのですぐに連絡したんだ。すぐ連絡が返ってきたよ」と、トマは当時を振り返る。それが今にまで至る、彼のキャリアの大きな分岐点だった。
「最初は結果が出ればヨーロッパチームに戻りたいと思っていたけれど、1,2年ですっかり考え方が変わったんだ。とにかく実力至上主義の向こうのチームでは、チーム入りできても結果次第ですぐクビを切られる可能性があって神経をすり減らしてしまう。チームメイトだって、仲間であり、でもそれ以上にライバルだ。でも、アジア、日本のチームだったら少しリラックスして選手生活を送ることができるんだ。何より選手としてレースが大好きだから、今の生活が大好きだし、満足している。もしずっと向こうで続けていたら、とっくの昔に引退しているかもしれないね」
「日本に住み、トレーニングして、レースを走る生活が本当に楽しい」と言うトマ。37歳となった今も選手生活を止める気は無く、できる限りキャリアを積み重ねたい、そして引退後は日本に残って、恩返しとして若手を育てる仕事に就きたい、とも。
メンバーの半数を入れ替えて臨む2023年「今年のチームはすごく強い」
その数実に6名。メンバーの半分を入れ替えるという、大幅なメンバー刷新を行ったキナンレーシングチーム。海外勢では2019年のツール・ド・熊野でトマと激戦を演じたクライマーのドリュー・モレと、2019年のツアー・オブ・タイランドで総合優勝、昨年の熊野でステージ優勝したオールラウンダーのライアン・カバナ(共にオーストラリア)を加入させている。
さらに日本勢も山本元喜と畑中勇介、そして新城雄大という従来の中心メンバーはそのままに、トップスプリンターの孫崎大樹、ジュニア時代からタイトルを総なめにしてきた津田悠義らも加入。大幅な戦力補強を図ると同時に若返りも果たすこととなった。トマは今年のチームを「全体の戦力が本当に強い。あらゆる場面で勝ちを狙える構成」と評価する。
クライマーであるトマは、特に厳しい山岳コースでドリュー、そしてライアンの新加入組とタッグを組む。オセアニアやアジアレースを戦ってきた二人とチームメイトになるのは初めてだが、「彼らとはずっと同じレースを走ってきたし、よく言葉を交わす間柄だったんだ。だから初戦でもチームワークに問題はなかったし、彼らと一緒に走れることが嬉しい」と言う。
クリンチャータイヤのレースユースはキャリア初「考えを改めさせられた」
キナンレーシングチームは今年、レースタイヤをチューブラーモデルから、iRCの新型クリンチャータイヤ「ASPITE PRO」に主軸を切り替えるという大きな変革をみた。昨年までチューブラータイヤを使い続けていたトマも、バイクのチームサプライブランドの変更に伴いテストユースを経てASPITE PROユーザーに。長いキャリアの中で初めてクリンチャーを実戦投入することになった。「iRCタイヤの、そしてASPITE PROで最も気に入っているのはグリップ感。それに耐久性もバッチリだ。今季はニュージーランドの開幕戦も豪雨だったし、日本でのレースも前半戦は雨が多かった。そんな状況でも安心して攻め込めるし、パンクもかなり少なかった。総合的にかなり良いタイヤだと思う」と、トマ自身もASPITE PROに太鼓判を押す。
しかし、そうは言っても長いキャリアの中ずっと親しんだチューブラーからの変更。クリンチャータイヤをレースユースすることに疑問はなかったのだろうか。
「もちろん最初に聞いた時は少し戸惑った。僕は古いライダーだし(笑)、ずっとチューブラーの乗りやすさがレースでは最高だと思っていたから。でも新しいASPITE PROはさっき言った通りとても満足している良いタイヤだ。今までのイメージが変わったし、レースを走るたびに信頼感は高まっているよ。僕のようなGC(総合成績狙い)ライダーは一度のトラブルで成績を落としてしまう。だからASPITE PROの安心感はすごく安心材料になる」。
「古いベテラン選手」と自ら皮肉る通りかどうかは分からないが、トマはASPITE PRO S-LIGHTの25Cをドライで7.5気圧、ウェットコンディションではもう少し下げ、7気圧前後で乗るという。
「ツアー・オブ・ジャパン、そしてツール・ド・熊野で結果を」
「今年最大の目標はツール・ド・熊野。そしてもちろん直前のツアー・オブ・ジャパン」とトマは力強く言い切った。「特に熊野はチームのホームレースだし、TOJでいい走りができれば熊野もコンディションを維持して臨めるはず」。チームはツアー・オブ・ジャパンに向けてトマ、ドリュー、ライアンのほか、孫崎と山本、そして津田というメンバーを発表。トマにとってツアー・オブ・ジャパンは2022年総合3位、2021年総合2位、2018年はマルコス・ガルシアの総合優勝をサポートしながら自身も総合3位に入るなど、特に相性が良いレースだ。
「何度も言うけれど、とにかく今年はチームが強く、特に走りのタイプや、年齢層も含めてバランスの取れたメンバー構成になった。チーム戦力で言えば、僕が所属してきた中で一番かもしれない。山でも強いし、集団スプリントで勝つこともできる。僕自身はライアンやドリューと一緒に総合成績やステージを目指していくことになるだろう」。
昨年3勝を挙げたトマだが、今年はアシスト役を担っていたことも重なり、自身の勝利や表彰台獲得には未だ手が届いていない。しかしインタビューを行ったツアー・オブ・ジャパンの事前合宿ではコンディションを十分に高めることができ、大一番に向けて準備は上々だという。
キナンの一員として迎える6回目のツアー・オブ・ジャパン。トマは「強い」チームと共に、好感触を持って重要なステージレース2連戦に挑む。
iRC ASPITE PROシリーズ スペック
iRC ASPITE PRO RBCC
サイズ | 重量 | 空気圧 | 税込価格 |
700×25C | 220g | 90~115PSI | 7,480円 |
700×28C | 250g | 80~100PSI | 7,480円 |
700×30C | 275g | 75~100PSI | 7,480円 |
iRC ASPITE PRO S-LIGHT
サイズ | 重量 | 空気圧 | 税込価格 |
700×25C | 200g | 90~115PSI | 7,480円 |
700×28C | 220g | 80~100PSI | 7,480円 |
700×30C | 245g | 75~100PSI | 7,480円 |
提供:iRC text:So Isobe photo:Syunsuke Fukumitsu