2023/05/23(火) - 18:30
ついに開幕した日本最高峰のステージレース、ツアー・オブ・ジャパン。本特集では日本が誇るタイヤメーカー「iRC」がサポートする3チームに所属するトップ選手にフォーカスを当て、2023年大会に期すること、これまでとこれから、そしてタイヤのことについて話を聞いていく。
「ベルギー生まれのベルギー育ち。見た目は日本人ですが、中身はベルギー人です。天気が悪くても関係ないし、ハングリー精神に満ち溢れている」。橋川丈とはどんな選手?という筆者の問いに、画面向こうの若武者は、少しはにかんだ笑顔を浮かべながらそう答えた。
「日本人であって、日本人ではない」。日本でのロードレース経験は一切無く、来るツアー・オブ・ジャパンがその初陣。EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチームに所属する20歳の橋川丈(はしかわ・じょう)は、初日となった堺ステージのスタート台の上で、どのような景色を見たのだろうか。
橋川という苗字、そして彼の顔つきにピンとくるロードレースファンも少なくないはず。彼の父は1990年台にヨーロッパそして国内で活躍し、全日本プロ選手権優勝、ツール・ド・北海道総合優勝など数々の戦績を残した名選手・健さん。現在はベルギーに拠点を置き、幾多の選手を輩出してきた「チームユーラシア-iRC TIRE」の監督として若手育成に尽力する氏の元で橋川丈は育ち、(意外にも、つい3年前に)プロ選手となることを志した。
「父がプロだった時は一緒にレースを回っていましたが、ほとんどその記憶はなくて。気づいたらベルギーの家でいろんな日本人選手と一緒に過ごす日常があった(ユーラシアの選手は橋川家で共同生活しレース活動を行う)んです。だから僕が自転車に乗り始めたのも自然なことだった」と、橋川は振り返る。父からは選手になることを一度も求められたことはなく、今も変わらずプレッシャーなく応援してくれている、とも。
橋川がプロ選手を目指したのはコロナ禍の2020年。通う学校が半日のオンライン授業となり、時間がある午後はライドに出かける毎日。そんな中、かつて共に生活した中根英登さんがEFエデュケーション・イージーポスト入りするというニュースに心を動かされた。
「過去一番に心を動かされたことでした。中根さんはユーラシア、大学、NIPPO、そしてプロと少しずつステップアップした選手です。"僕でもいつかはワールドチームに入れるかもしれない"と勇気をもらったんです。それが気持ちの面での大きな変化でした」。
プロを目指すステップとして、アンダー17の1年目は個人登録でレースを体感し、ベルギーのアマチュアチームを経て2022年にはトップアマチュアチーム(EFC-L&R-AGS)に加入。野心に満ち溢れたベルギー人選手たちと切磋琢磨する中で経験を積み、そしてEFエデュケーション・NIPPOの監督を務める大門宏さんに自ら売り込み移籍を決めた。現在はツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアでステージ優勝し、2015年のロード世界選手権で3位に入った経験を持つラムナス・ナヴァルダスカス監督から多くを学んでいる最中だ。
家柄に加え、自転車競技熱の高いベルギー、コルトレイクという地域性。プロを目指した時期が遅くとも、おそらく地球上で最もロードレース文化の濃い環境で育った橋川は、どうレースを走ればいいのか、どのようにステップを踏めばいいのか、そして、プロ選手への道がいかに厳しいものなのかを深く理解している。
「ベルギーのレースは激しくシビアです。レース前からコースはもちろん風の把握まで予習を行い、作戦を立て、レースでは状況に応じて柔軟に計画を変えていく。人数が多く、全員がハングリーだからレースがキツい。勝つためには逃げに乗らなくてはならず、それには経験に基づいたレースを読む力が必要不可欠なんです」。
レースを読んで勝ち逃げに乗り、それから脚力で勝利を掴みにいく。それがプロを目指す上で求められる能力だと橋川は言い切る。自身も当初はレース展開に翻弄されていたものの、経験によって徐々に対応できるようになってきた、と自己評価を下す。橋川自身はクライマーだが、そのベースには悪天候や風をものともせず突き進むベルギーのレーススタイルが染み渡っている。
橋川の目標は、EFエデュケーション・NIPPOのチームメイトが全員抱いているのと同じように、ワールドチームに加入し、「新城(幸也)さんのように」一流選手として評価を得て長いキャリアを構築すること。その上でどのレースでどんな結果を残さなければいけないか、ということを把握し、プランを組み立てているという。
「ヨーロッパでプロを目指すのは、限りなく難しいこと。小さい時からずっと一緒に生活してきた先輩選手たちを見てきたからこそ、肌で理解しています。ヨーロッパでプロになった選手は数えるほどしかいませんから、どれだけ厳しい世界なのか、ということは分かっています。でも、僕は仲間たちと一緒にハードな練習を重ねることが好き。チームで練習して、世界中に遠征に行って、レースを走るという生活が本当に楽しい。こういうライフスタイルを送れる人はごく僅かですし、チャンスを与えてくれた、全ての人に感謝しています。だからこそ僕は夢に、目標に向かっていきたい」。
NIPPOがスポンサードするチームとiRCの関係は長く、そして深い。現在EFエデュケーション・NIPPOの選手たちはチューブレスモデルのFORMULA PRO、それも軽量モデルであるS-LIGHT(スーパーライト)を愛用中だ。
体重59kgの橋川は「タイヤは太い方がスムーズに走れるので好き」と28Cを選び、ドライで前5.5、後6.0、雨であればそこから0.5ずつ下げたセッティングで乗るという。そもそも父・健さんが運営するチームユーラシアはiRCとの関係が深く、橋川にとってiRCはアマチュア時代から慣れ親しんだタイヤなのだ。「FORMULA PROのS-LIGHTは数字的にも走りも軽く、ちょっと乗り込んだ時のグリップ感は本当に好き」という印象は、使い込んでいるからこそ出る言葉であるに違いない。
「チームとして強く、全体の経験値も高い」と、橋川はピンク色のジャージがひときわ目を引く今年のチームを評価する。
「アクセオンやクベカなど強力な育成チーム出身の選手が多く、若くてもすごく経験豊富で強いんです。MTB選手のアラン・ハースリー(南アフリカ)とは2週間ほど一緒に過ごしたんですが、すごく優しくて、それに普段の生活からすごくプロフェッショナルなんです。たとえば朝食だって自分のミキサーでスムージーを作ったり、全てもきちんと計算して栄養をとっている。たった2時間のリカバリーライドに出かけたときも、消費カロリー計算に基づいてしっかりと専用の補給食を摂ったり。僕はそのくらいの運動強度なら補給食は要らないと思っていたんですが...。細部に渡ってプロフェッショナルなので、とても参考になります」。
ツアー・オブ・ジャパン、そして連戦となるツール・ド・熊野に向けて、チームは橋川のほか、U23全日本王者の仮屋和駿、シクロクロス全日本王者の織田聖、山田拓海、そしてルカ・イェンニとフェリックス・スティリというスイス人選手2名をラインナップ。スプリントステージでは織田とスティリ、山岳ステージでは橋川やイェンニの活躍が期待される。
「日本で初めてのロードレースだから、楽しみです。ベルギーの自宅で一緒に暮らし、練習に連れて行ってもらっていた先輩選手と一緒に走ることになりますね」と橋川は言う。プレッシャーは一切なく、ヨーロッパで積んできた経験をもとに、ベルギー育ちの選手としてアグレッシブなレース運びをしたい、と、頼りがいのある言葉も飛び出した。
「ハイレベルなレースなので結果には結びつかないかもしれませんが、絶対にいい走りをしてやると燃えています。やる気は満タンです」。
FORMULA PRO HOOKLESS TUBELESS X-Guard
FORMULA PRO HOOKLESS TUBELESS READY S-LIGHT
橋川丈:ベルギーマインドを持つサラブレッド
「ベルギー生まれのベルギー育ち。見た目は日本人ですが、中身はベルギー人です。天気が悪くても関係ないし、ハングリー精神に満ち溢れている」。橋川丈とはどんな選手?という筆者の問いに、画面向こうの若武者は、少しはにかんだ笑顔を浮かべながらそう答えた。
「日本人であって、日本人ではない」。日本でのロードレース経験は一切無く、来るツアー・オブ・ジャパンがその初陣。EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチームに所属する20歳の橋川丈(はしかわ・じょう)は、初日となった堺ステージのスタート台の上で、どのような景色を見たのだろうか。
父は名選手・名監督、ごく自然に自転車に乗る環境があった
橋川という苗字、そして彼の顔つきにピンとくるロードレースファンも少なくないはず。彼の父は1990年台にヨーロッパそして国内で活躍し、全日本プロ選手権優勝、ツール・ド・北海道総合優勝など数々の戦績を残した名選手・健さん。現在はベルギーに拠点を置き、幾多の選手を輩出してきた「チームユーラシア-iRC TIRE」の監督として若手育成に尽力する氏の元で橋川丈は育ち、(意外にも、つい3年前に)プロ選手となることを志した。
「父がプロだった時は一緒にレースを回っていましたが、ほとんどその記憶はなくて。気づいたらベルギーの家でいろんな日本人選手と一緒に過ごす日常があった(ユーラシアの選手は橋川家で共同生活しレース活動を行う)んです。だから僕が自転車に乗り始めたのも自然なことだった」と、橋川は振り返る。父からは選手になることを一度も求められたことはなく、今も変わらずプレッシャーなく応援してくれている、とも。
中根英登さんのワールドチーム加入に心を動かされた
橋川がプロ選手を目指したのはコロナ禍の2020年。通う学校が半日のオンライン授業となり、時間がある午後はライドに出かける毎日。そんな中、かつて共に生活した中根英登さんがEFエデュケーション・イージーポスト入りするというニュースに心を動かされた。
「過去一番に心を動かされたことでした。中根さんはユーラシア、大学、NIPPO、そしてプロと少しずつステップアップした選手です。"僕でもいつかはワールドチームに入れるかもしれない"と勇気をもらったんです。それが気持ちの面での大きな変化でした」。
プロを目指すステップとして、アンダー17の1年目は個人登録でレースを体感し、ベルギーのアマチュアチームを経て2022年にはトップアマチュアチーム(EFC-L&R-AGS)に加入。野心に満ち溢れたベルギー人選手たちと切磋琢磨する中で経験を積み、そしてEFエデュケーション・NIPPOの監督を務める大門宏さんに自ら売り込み移籍を決めた。現在はツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアでステージ優勝し、2015年のロード世界選手権で3位に入った経験を持つラムナス・ナヴァルダスカス監督から多くを学んでいる最中だ。
「経験で勝ち逃げに乗り、脚力で結果を掴む」
家柄に加え、自転車競技熱の高いベルギー、コルトレイクという地域性。プロを目指した時期が遅くとも、おそらく地球上で最もロードレース文化の濃い環境で育った橋川は、どうレースを走ればいいのか、どのようにステップを踏めばいいのか、そして、プロ選手への道がいかに厳しいものなのかを深く理解している。
「ベルギーのレースは激しくシビアです。レース前からコースはもちろん風の把握まで予習を行い、作戦を立て、レースでは状況に応じて柔軟に計画を変えていく。人数が多く、全員がハングリーだからレースがキツい。勝つためには逃げに乗らなくてはならず、それには経験に基づいたレースを読む力が必要不可欠なんです」。
レースを読んで勝ち逃げに乗り、それから脚力で勝利を掴みにいく。それがプロを目指す上で求められる能力だと橋川は言い切る。自身も当初はレース展開に翻弄されていたものの、経験によって徐々に対応できるようになってきた、と自己評価を下す。橋川自身はクライマーだが、そのベースには悪天候や風をものともせず突き進むベルギーのレーススタイルが染み渡っている。
橋川の目標は、EFエデュケーション・NIPPOのチームメイトが全員抱いているのと同じように、ワールドチームに加入し、「新城(幸也)さんのように」一流選手として評価を得て長いキャリアを構築すること。その上でどのレースでどんな結果を残さなければいけないか、ということを把握し、プランを組み立てているという。
「ヨーロッパでプロを目指すのは、限りなく難しいこと。小さい時からずっと一緒に生活してきた先輩選手たちを見てきたからこそ、肌で理解しています。ヨーロッパでプロになった選手は数えるほどしかいませんから、どれだけ厳しい世界なのか、ということは分かっています。でも、僕は仲間たちと一緒にハードな練習を重ねることが好き。チームで練習して、世界中に遠征に行って、レースを走るという生活が本当に楽しい。こういうライフスタイルを送れる人はごく僅かですし、チャンスを与えてくれた、全ての人に感謝しています。だからこそ僕は夢に、目標に向かっていきたい」。
EFエデュケーション・NIPPOの走りを支えるiRCのFORMULA PRO
NIPPOがスポンサードするチームとiRCの関係は長く、そして深い。現在EFエデュケーション・NIPPOの選手たちはチューブレスモデルのFORMULA PRO、それも軽量モデルであるS-LIGHT(スーパーライト)を愛用中だ。
体重59kgの橋川は「タイヤは太い方がスムーズに走れるので好き」と28Cを選び、ドライで前5.5、後6.0、雨であればそこから0.5ずつ下げたセッティングで乗るという。そもそも父・健さんが運営するチームユーラシアはiRCとの関係が深く、橋川にとってiRCはアマチュア時代から慣れ親しんだタイヤなのだ。「FORMULA PROのS-LIGHTは数字的にも走りも軽く、ちょっと乗り込んだ時のグリップ感は本当に好き」という印象は、使い込んでいるからこそ出る言葉であるに違いない。
強いチームと臨むTOJと熊野。ベルギー仕込みのアグレッシブな走りを
「チームとして強く、全体の経験値も高い」と、橋川はピンク色のジャージがひときわ目を引く今年のチームを評価する。
「アクセオンやクベカなど強力な育成チーム出身の選手が多く、若くてもすごく経験豊富で強いんです。MTB選手のアラン・ハースリー(南アフリカ)とは2週間ほど一緒に過ごしたんですが、すごく優しくて、それに普段の生活からすごくプロフェッショナルなんです。たとえば朝食だって自分のミキサーでスムージーを作ったり、全てもきちんと計算して栄養をとっている。たった2時間のリカバリーライドに出かけたときも、消費カロリー計算に基づいてしっかりと専用の補給食を摂ったり。僕はそのくらいの運動強度なら補給食は要らないと思っていたんですが...。細部に渡ってプロフェッショナルなので、とても参考になります」。
ツアー・オブ・ジャパン、そして連戦となるツール・ド・熊野に向けて、チームは橋川のほか、U23全日本王者の仮屋和駿、シクロクロス全日本王者の織田聖、山田拓海、そしてルカ・イェンニとフェリックス・スティリというスイス人選手2名をラインナップ。スプリントステージでは織田とスティリ、山岳ステージでは橋川やイェンニの活躍が期待される。
「日本で初めてのロードレースだから、楽しみです。ベルギーの自宅で一緒に暮らし、練習に連れて行ってもらっていた先輩選手と一緒に走ることになりますね」と橋川は言う。プレッシャーは一切なく、ヨーロッパで積んできた経験をもとに、ベルギー育ちの選手としてアグレッシブなレース運びをしたい、と、頼りがいのある言葉も飛び出した。
「ハイレベルなレースなので結果には結びつかないかもしれませんが、絶対にいい走りをしてやると燃えています。やる気は満タンです」。
FORMULA PRO HOOKLESS TUBELESS RBCC
サイズ | 重量 | 空気圧 | 価格 |
700×25C | 275g | 500~800kPa、5.0~8.0kgf/cm2、73~115PSI | 9,240円 |
700×28C | 310g | 500~700kPa、5.0~7.0kgf/cm2、73~100PSI | 9,240円 |
700×30C | 340g | 450~600kPa、4.5~6.0kgf/cm2、65~90PSI | 9,240円 |
FORMULA PRO HOOKLESS TUBELESS X-Guard
(クロスガード)
サイズ | 重量 | 空気圧 | 価格 |
700×25C | 305g | 500~800kPa、5.0~8.0kgf/cm2、73~115PSI | 9,240円 |
700×28C | 345g | 500~700kPa、5.0~7.0kgf/cm2、73~100PSI | 9,240円 |
700×30C | 375g | 450~600kPa、4.5~6.0kgf/cm2、65~90PSI | 9,240円 |
FORMULA PRO HOOKLESS TUBELESS READY S-LIGHT
(スーパーライト)
サイズ | 重量 | 空気圧 | 価格 |
700×23C | 205g | 600~800kPa、6.0~8.0kgf/cm2、90~115PSI | 9,240円 |
700×25C | 220g | 500~800kPa、5.0~8.0kgf/cm2、73~115PSI | 9,240円 |
700×28C | 255g | 500~700kPa、5.0~7.0kgf/cm2、73~100PSI | 9,240円 |
700×30C | 275g | 450~600kPa、4.5~6.0kgf/cm2、65~90PSI | 9,240円 |
提供:iRC text:So Isobe photo:Sonoko Tanaka