2023/03/17(金) - 18:00
キャノンデールが開催した新型SuperSix EVOの国際発表会。プレゼンを受けた翌日には、本社開発スタッフやEFエデュケーション・イージーポストのプロ選手と共にテストライドに出る機会に恵まれた。走るのは、ヨーロッパにおけるサイクリングメッカ、ジローナの郊外。全開で峠を駆け上がり、注目モデルの走りをフルに堪能することができた。
外観から受けるのは「シャープ」という印象だ。先代EVOはやや角が丸まったデザインだったが、新型はフロント三角を中心に各チューブの角が立ち、いかにもエアロロード然とした見た目に変化した。削ぎ落とされたシートチューブ下部、シートステー、薄く扁平したトップチューブなど素人目にも無駄のないデザイン。51という小さなサイズでも見た目が破綻しないのは日本ユーザーにとって歓迎すべきポイントだろう。
そしてなんと言っても、新型SuperSix EVOのウリの一つが美しいペイントだ。このテストバイクもセカンドグレードとはいえ、カーボン地にクリアレッドを重ねたペイントは実に太陽の下で映えるもの(日本展開が無いのが実に惜しい)。LAB71グレードのクリアパープル然り、全モデルに奢られるヘアライン仕立てのメタル調ロゴ然り、新型SuperSix EVOからは、細部に至るまでキャノンデール開発陣の意気込みや自信のほどが伝わってくる。
ジローナで開催されたSuperSix EVO発表会には総勢30名ほどのジャーナリストが招待され(Youtuberの姿が多かったことに時代を感じる)、日程をずらした4ウェーブに分かれてプレゼンとテストライドが行われた。走るのは緩やかな峠を含む、80km/800mアップの行程だ。
ライドにはキャノンデール開発陣のほか、EFエデュケーション・イージーポストのトム・スクーリー(ニュージーランド)とウーカシュ・ヴィシニオウスキ(ポーランド)、そして女子チームのエリザベス・バンクス(イギリス)が同行。彼らには、すでに1月から実戦投入している新型EVOの話を聞くことができた(インタビューは続編にて)。
乗り出してすぐに感じたのは、満ち溢れるような剛性感だった。見た目にもボリュームを増したヘッドチューブやフロントフォーク、そしてダウンチューブといった、いわゆる前三角の部分がかなり硬く、それは一漕ぎ、ふた漕ぎしただけで歴然と分かるほど。EFの選手も「乗り味がシャープで加速が気持ちいい」と口を揃えるほどであり、ダンシングやコーナリングなどでは極めて機敏だ。
完成車でジャスト7kgの軽量オールラウンダーだが、誤解を恐れず言えば走りのキャラクターはかなりエアロロード寄りだ。しなりを活かした走りではなく、どっしりと大股で構え、細身のリアバックと物理的な軽さ、そして機敏なハンドリングで軽快感をプラスするタイプ。厳しく言えばゼロ発進時に僅かな重さを感じた(注:帰国後に試乗したLAB71モデルはこの重さを一切感じなかった)が、一度走り出してしまえば、そこからの踏み込みや、速度を乗せてからの巡航は極めてスムーズであり、これこそ新型EVOを走らせる上での醍醐味と言える部分。
「高剛性」と聞くと、体力無尽蔵のプロ向けバイクというイメージが先行してしまうが、不思議と新型SuperSix EVOにその気配は感じない。もちろんピュアレーシングバイクゆえ、性能を引き出すなら脚力があるに越したことはないし、キャノンデールが誇るエンデュランスモデルのSYNAPSEのような優しさはないけれど、ペダリングの重さや引っ掛かりがなく、軽く力を入れただけでもスッと気持ちよく前に出る。
コースにはアウターで踏み抜く系の登り(5%程度)が含まれていたが、速度を繋ぐためのパワーをかけたダンシングにも的確に反応してくれるし、スプリントした時のパワーロスは一切感じない。軽量モデル特有のヒラヒラ感(そう、2世代前までのEVOのような)は無いものの、正しいペダリングを心がければシッティングでも面白いように進んでくれるのだ。
もう一つ感心したのが空力性能の高さだ。開発陣の説明によればSystemSixに迫るエアロダイナミクスを獲得しているというが、特に35km/hあたりからは踏み込んだ以上にスピードが乗る。車体重量や剛性よりもずっと感覚的な部分ではあるものの、前走者との距離を縮める時だったり、エアロポジションを取って単独走している時、簡単にその効果を実感できるレベルだ。
先代EVOはケーブルやブレーキホースがヘッドチューブ上側の大きな穴からフレームに入るという、やや甘さを感じざるを得ない設計だったものの、新型ではいよいよスマートなフル内装化が実現したこともあって視覚的な効果も強い。現にEFチームでは新型EVOへの機材移行が完了しており、ド平坦レースを除いてSystemSixの出番はかなり減少しているのだそう。
峠の下り区間はアールの小さなコーナーが連続するツイスティなものだったが、剛性を増したというフロントフォークはビタッと狙ったラインをトレースし、さらに切り込んでも安定感は一切削がれない。先述したように走りのキャラクターはエアロロードに近いが、倒し込みの軽さは軽量バイクのそれ。細かい切り返しも軽く、そこには従来キャノンデールが歴代EVO開発で培ってきた経験値が注ぎ込まれていることを感じる。
細い三角断面のステアリングコラムだからといって不安感は一切ないし、ハンドルを持ち上げて左右に切った時にもブレーキホースやケーブルが引っかかっている感覚はなく(接触摩耗を防ぐためにコラム巻かれたInnegra繊維も効いているはず)、今まで筆者が触ってきた内装式ロードバイクの中でトップクラスにハンドル操作が軽い。キャノンデール開発陣が「スーパーナチュラルハンドリング」と胸を張る理由の一つには、優れた内部構造も貢献しているのだろう。
歴代EVOのオーナーやファンであれば「マイクロサスペンション(SAVEチェーンステー)はどこへ?」と疑問を持つことだろう。
先代モデルまで投入されてきた同機構が、プレゼンの全日程を通してフィーチャーされることはなかった。プロダクトマネージャーのサム・エバート氏に問うと「当然今まで培ってきたノウハウは投入しているけれど、今はフレームの柔軟性を上げるよりもタイヤで快適性を担保すべきという考えに変わっている」という答え。乗り心地と低い転がり抵抗を両立した高性能ワイドタイヤの急速浸透が、ロードバイク開発の方向性を変えた好例と言えそうだ。
筆者はマイバイクとしてTopstone Carbon Leftyを所有しているが、新型EVOもそれと同じにようにシートポストがよく動き、路面からの大きな振動をいなしているように感じる。快適性の大きな部分はタイヤやシートポストに仕事をさせ、フレームそのものは走りに振る。新型EVOについて開発者に聞き、乗り込む時間が増えるほどに、モダンなロードバイク設計の意図を汲み取ることができた。
キャノンデールの新型主力モデルの走りにケチのつけようなんて一切なかったし、帰国後に30分ほどテストさせて頂いたLAB71グレードは、40gというフレーム重量差を遥かに上回るレベルで走りが軽く、登りだろうが下りだろうが、ありとあらゆる場面で一レベルも二レベルも上を行く、キレた走りを堪能することができた(走りを基準に選ぶならば絶対にLAB71を推す)。
強いて難を言えば、レーサー目線でジオメトリーを見た時に、ライバルモデルよりもややハンドル位置が上がることが挙げられるだろうか(54サイズのスタックは555mm)。低いポジションにこだわる方にとってはステムとハンドルセッティングを熟慮する必要があるのかもしれない。
新型EVOは、ホリゾンタル時代のEVOのイメージを払拭する高剛性ファストマシンだ。その魅力が最も輝くのはレースコースや仲間との競り合いだが、タイヤのセッティング次第でグランフォンドやサンデーライドにも対応する懐の広さがある。スペインでの試乗はわずか半日しかなかったけれど、終始"良いペース"で走り、トッププロ選手や開発陣と言葉を交わしたことで新型EVOを深く掘り下げることができたのだった。
ジローナで新型SuperSix EVO Hi-MODを試す
テストバイクとして用意されたのは、LAB71に次ぐハイクラスモデルとなるSuperSix EVO Hi-MODのスラムRED eTAP完成車(Hi-MOD 1/国内展開なし)だ。話題のMOMO(モモ)とコラボレーションしたハンドルこそ付かないが、同時開発された50mmハイトのHollowGram 50 R-SLホイールで武装したルックスは実に戦闘的。重量はペダルレスでジャスト7kg。ボリュームを増したルックスも相まって、手に持つと予想以上に軽い。外観から受けるのは「シャープ」という印象だ。先代EVOはやや角が丸まったデザインだったが、新型はフロント三角を中心に各チューブの角が立ち、いかにもエアロロード然とした見た目に変化した。削ぎ落とされたシートチューブ下部、シートステー、薄く扁平したトップチューブなど素人目にも無駄のないデザイン。51という小さなサイズでも見た目が破綻しないのは日本ユーザーにとって歓迎すべきポイントだろう。
そしてなんと言っても、新型SuperSix EVOのウリの一つが美しいペイントだ。このテストバイクもセカンドグレードとはいえ、カーボン地にクリアレッドを重ねたペイントは実に太陽の下で映えるもの(日本展開が無いのが実に惜しい)。LAB71グレードのクリアパープル然り、全モデルに奢られるヘアライン仕立てのメタル調ロゴ然り、新型SuperSix EVOからは、細部に至るまでキャノンデール開発陣の意気込みや自信のほどが伝わってくる。
ジローナで開催されたSuperSix EVO発表会には総勢30名ほどのジャーナリストが招待され(Youtuberの姿が多かったことに時代を感じる)、日程をずらした4ウェーブに分かれてプレゼンとテストライドが行われた。走るのは緩やかな峠を含む、80km/800mアップの行程だ。
ライドにはキャノンデール開発陣のほか、EFエデュケーション・イージーポストのトム・スクーリー(ニュージーランド)とウーカシュ・ヴィシニオウスキ(ポーランド)、そして女子チームのエリザベス・バンクス(イギリス)が同行。彼らには、すでに1月から実戦投入している新型EVOの話を聞くことができた(インタビューは続編にて)。
満ち溢れる剛性感。しかし嫌味を感じない
乗り出してすぐに感じたのは、満ち溢れるような剛性感だった。見た目にもボリュームを増したヘッドチューブやフロントフォーク、そしてダウンチューブといった、いわゆる前三角の部分がかなり硬く、それは一漕ぎ、ふた漕ぎしただけで歴然と分かるほど。EFの選手も「乗り味がシャープで加速が気持ちいい」と口を揃えるほどであり、ダンシングやコーナリングなどでは極めて機敏だ。
完成車でジャスト7kgの軽量オールラウンダーだが、誤解を恐れず言えば走りのキャラクターはかなりエアロロード寄りだ。しなりを活かした走りではなく、どっしりと大股で構え、細身のリアバックと物理的な軽さ、そして機敏なハンドリングで軽快感をプラスするタイプ。厳しく言えばゼロ発進時に僅かな重さを感じた(注:帰国後に試乗したLAB71モデルはこの重さを一切感じなかった)が、一度走り出してしまえば、そこからの踏み込みや、速度を乗せてからの巡航は極めてスムーズであり、これこそ新型EVOを走らせる上での醍醐味と言える部分。
「高剛性」と聞くと、体力無尽蔵のプロ向けバイクというイメージが先行してしまうが、不思議と新型SuperSix EVOにその気配は感じない。もちろんピュアレーシングバイクゆえ、性能を引き出すなら脚力があるに越したことはないし、キャノンデールが誇るエンデュランスモデルのSYNAPSEのような優しさはないけれど、ペダリングの重さや引っ掛かりがなく、軽く力を入れただけでもスッと気持ちよく前に出る。
コースにはアウターで踏み抜く系の登り(5%程度)が含まれていたが、速度を繋ぐためのパワーをかけたダンシングにも的確に反応してくれるし、スプリントした時のパワーロスは一切感じない。軽量モデル特有のヒラヒラ感(そう、2世代前までのEVOのような)は無いものの、正しいペダリングを心がければシッティングでも面白いように進んでくれるのだ。
中速域からの伸び、的確なコーナリング
もう一つ感心したのが空力性能の高さだ。開発陣の説明によればSystemSixに迫るエアロダイナミクスを獲得しているというが、特に35km/hあたりからは踏み込んだ以上にスピードが乗る。車体重量や剛性よりもずっと感覚的な部分ではあるものの、前走者との距離を縮める時だったり、エアロポジションを取って単独走している時、簡単にその効果を実感できるレベルだ。
先代EVOはケーブルやブレーキホースがヘッドチューブ上側の大きな穴からフレームに入るという、やや甘さを感じざるを得ない設計だったものの、新型ではいよいよスマートなフル内装化が実現したこともあって視覚的な効果も強い。現にEFチームでは新型EVOへの機材移行が完了しており、ド平坦レースを除いてSystemSixの出番はかなり減少しているのだそう。
峠の下り区間はアールの小さなコーナーが連続するツイスティなものだったが、剛性を増したというフロントフォークはビタッと狙ったラインをトレースし、さらに切り込んでも安定感は一切削がれない。先述したように走りのキャラクターはエアロロードに近いが、倒し込みの軽さは軽量バイクのそれ。細かい切り返しも軽く、そこには従来キャノンデールが歴代EVO開発で培ってきた経験値が注ぎ込まれていることを感じる。
細い三角断面のステアリングコラムだからといって不安感は一切ないし、ハンドルを持ち上げて左右に切った時にもブレーキホースやケーブルが引っかかっている感覚はなく(接触摩耗を防ぐためにコラム巻かれたInnegra繊維も効いているはず)、今まで筆者が触ってきた内装式ロードバイクの中でトップクラスにハンドル操作が軽い。キャノンデール開発陣が「スーパーナチュラルハンドリング」と胸を張る理由の一つには、優れた内部構造も貢献しているのだろう。
ワイドタイヤで快適性を担う新世代のロードレーサー
歴代EVOのオーナーやファンであれば「マイクロサスペンション(SAVEチェーンステー)はどこへ?」と疑問を持つことだろう。
先代モデルまで投入されてきた同機構が、プレゼンの全日程を通してフィーチャーされることはなかった。プロダクトマネージャーのサム・エバート氏に問うと「当然今まで培ってきたノウハウは投入しているけれど、今はフレームの柔軟性を上げるよりもタイヤで快適性を担保すべきという考えに変わっている」という答え。乗り心地と低い転がり抵抗を両立した高性能ワイドタイヤの急速浸透が、ロードバイク開発の方向性を変えた好例と言えそうだ。
筆者はマイバイクとしてTopstone Carbon Leftyを所有しているが、新型EVOもそれと同じにようにシートポストがよく動き、路面からの大きな振動をいなしているように感じる。快適性の大きな部分はタイヤやシートポストに仕事をさせ、フレームそのものは走りに振る。新型EVOについて開発者に聞き、乗り込む時間が増えるほどに、モダンなロードバイク設計の意図を汲み取ることができた。
キャノンデールの新型主力モデルの走りにケチのつけようなんて一切なかったし、帰国後に30分ほどテストさせて頂いたLAB71グレードは、40gというフレーム重量差を遥かに上回るレベルで走りが軽く、登りだろうが下りだろうが、ありとあらゆる場面で一レベルも二レベルも上を行く、キレた走りを堪能することができた(走りを基準に選ぶならば絶対にLAB71を推す)。
強いて難を言えば、レーサー目線でジオメトリーを見た時に、ライバルモデルよりもややハンドル位置が上がることが挙げられるだろうか(54サイズのスタックは555mm)。低いポジションにこだわる方にとってはステムとハンドルセッティングを熟慮する必要があるのかもしれない。
新型EVOは、ホリゾンタル時代のEVOのイメージを払拭する高剛性ファストマシンだ。その魅力が最も輝くのはレースコースや仲間との競り合いだが、タイヤのセッティング次第でグランフォンドやサンデーライドにも対応する懐の広さがある。スペインでの試乗はわずか半日しかなかったけれど、終始"良いペース"で走り、トッププロ選手や開発陣と言葉を交わしたことで新型EVOを深く掘り下げることができたのだった。
筆者プロフィール
磯部聡(シクロワイアード編集部)
CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。キャノンデールの海外発表会には3度(EVOx2とTopstone)出席し、過去にはSlateの特集記事を企画・執筆。SuperXとTopStone Carbon Leftyを所有するなど、キャノンデールのドロップハンドルオフロードモデルを偏愛。
CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。キャノンデールの海外発表会には3度(EVOx2とTopstone)出席し、過去にはSlateの特集記事を企画・執筆。SuperXとTopStone Carbon Leftyを所有するなど、キャノンデールのドロップハンドルオフロードモデルを偏愛。
提供:キャノンデール・ジャパン | text:So Isobe