2021/04/30(金) - 12:02
今年3月に創業100周年を迎えたシマノ。同社の柱となるバイシクルコンポーネント事業は世界的なシェアを誇ることは皆さんもご存知のことだろう。しかし同様に、ロード用ペダル「SPD-SL」とシューズラインナップも注目せずにはいられない存在だ。今回の特集ではプロロード選手をはじめとしたロードバイカーの目線からその魅力と進化を紐解いていく。まずはフラッグシップシューズであるRC9を徹底解剖する。
ジャパンメーカーらしく日本人にフィットする足型、パワーを余すところなく伝える剛性、細部に至る緻密な作り込みなど、プロはもちろんトップアマチュアの多くに愛用されているシマノのハイエンドロードシューズ。その価値を一気に押し上げたのが2016年にデビューしたS-PHYRE RC9だ。2018年にはマイナーチェンジが加えられて第2世代へと進化。さらに2020年、フルモデルチェンジとなる第3世代が新登場し、より一層「戦うシューズ」としての完成度が高められた。
フルモデルチェンジにより進化した部分は多岐にわたる。アッパーはメイン部分のマイクロファイバーに加え、前足部分に強化メッシュを配置し、2種類の素材を使い分けることでフィット感、柔軟性、剛性、通気性というシューズに求められるあらゆる性能が向上した。
土踏まず部分まで回り込み、ソールまで包み込むような画期的設計の「360°サラウンドラップアッパー」を採用することで、アッパー自体がアウトソールの一部になり、一体感や安定性などを向上させながらも軽量化を実現した。
ヒールカップのデザインは、ペダリングにおける足の動きの研究やペダリングモニターによる分析で得られた知見を基に改良が加えられた「アンチツイストスタビライザー」仕様に。ねじれに対する強さを発揮するように設計されており、スプリントのようなハイパワーで加速する場面でもシューズがしっかり足をサポートしてくれる。
ソールの剛性指数はこれまで同様にシマノシューズラインナップの中で最高の「12」の設定ながら、カーボンプレートにエアインテークを設けるほか、形状やクリート装着ガイドラインなどのデザインにアップデートが加えられている。
また、クロージャーシステムも前作同様に2つのBOAダイヤル使用を継続しているが、ダイヤルは“IP1”から“Li2”へとアップデート。前作よりも薄型に作られたLi2ダイヤルは、落車などに巻き込まれた際に破損の可能性を低減させているほか、締め付け方向と緩め方向のどちらにも1ノッチずつ調整が可能で、ライド中でも細かい調整が行いやすくなっている。
― お二人のシマノシューズ歴から伺ってもいいですか?
横塚:僕が自転車競技を始めたのが大学3年生の時なのですが、初めて買ったのがシマノシューズでした。その後、チームが変わり他メーカーのシューズを履いた時期を経てシマノシューズに戻ってきましたが、シマノシューズって人を選ばない良さがあると思います。誰が履いてもいいと言ってくれる良さがあると僕は感じています。ひと通りシューズを履いてきましたけど、僕はシマノシューズが一番好きですね。
小野寺:僕は宇都宮ブリッツェンに入ってからずっとシマノシューズなので、もう6年くらいになります。最初に履いたのはSH-R321で、その後、RC9のデビューの時に履いて、それ以降はRPシリーズやRC9Tに浮気していましたが、ずっとシューズはシマノですね。なので、間が少し抜けていますけど、新作のRC9を履いてみて、その正常進化を実感できますね。
― 実際に第3世代RC9を履いてみた印象を、それぞれ聞かせてください。
横塚:ひと言で言うと「硬い」という印象があります。前作のRC9を履いた時にすごいフィット感を感じて、足全体を包み込んでくれるような感覚がありましたが、新モデルはそれを維持しつつ、シューズ全体の剛性が上がっていると感じました。個人的に好きな部分が、アッパーの先端部分の強度が前作よりも上がっていて、かなり強い強度で踏み込んだ時にも、足先がよれない感覚がしっかりとあることです。
小野寺:僕は前作を履いていないので比較のコメントはできないのですが、新作のRC9を履いた時に「痒い所に手が届くシューズだな」と思いました。全体的に機能美が増したというか、いろいろなところが良い意味で進化していると感じました。僕がシューズで一番重要視しているポイントが踵のホールド感なんです。新作のRC9はカップ自体がしっかりしていて高さもあり、もがいたりする場面でもしっかりホールドしてくれると思います。
― 具体的にどの部分がホールド感の向上につながっていると思いますか?
小野寺:今まで、足裏の部分って一体のソールだったと思うのですが、それが今回、アッパーの素材が包み込むような形になっているので、踵以外のホールド感が増しているというのも感じますし、この別個になっている踵部分のカップもしっかりと剛性があるというのが一番のポイントだと思います。
― 踵の部分で言うと、内側のグリッパーの作りが前作と変わっていると思うのですが?
小野寺:この部分に関してはチーム内でも賛否両論あったのですが…。前作の鮫肌のようなざらざらした生地をアキレス腱の触れる部分に採用していたのに対し、新作はプリントされたグリッパーとともに両サイドから挟み込んでホールドするようになりました。個人的にはこっちの方が好きですね。前作までだと生地と一体になっているので使っていくとヘタリが出てきてグリップ力の低下を感じていましたが、新作は別体で貼り付ける構造になっていて、キュッと挟んでくれる感覚はアップしていると思います。
横塚:僕も個人的に、前作の素材は連日乗り込んでいると痛みを感じることがあったのですが、新作はゴムで素材も優しくなったので履き心地が向上したと感じますし、かつ、抑えてくれる感覚は残してくれているので、小さいポイントかもしれませんがしっかり選手目線で作ってくれているなと感じました。
小野寺:足を引き上げる時の踵のカパカパ感がどれだけ抑制できるかというのが、僕がシューズの評価で一番重要視しているポイントです。新作のRC9は今までのシマノシューズの中でもピカイチだと思います。
横塚:横にブレる動きも少なくなったと感じますね。軽く・速く回している時はいいのですが、しっかりトルクを掛けてペダリングする時にシューズが脱げないホールド感というのはとても大事だと思います。新モデルはその部分が向上していると思いますね。
― 横塚選手はつま先部分の剛性が上がっていると話していましたが、生地を見るとかなり薄手ですよね?
横塚:触った感じは生地はそれほど分厚いわけではないんですが…。前作だと、つま先部分がメッシュ生地と変わらない感じだったのですが、新作は触ってみてもしっかりと硬くなっているのが分かります。前作は3、4カ月使って個人的にいい感じに馴染んできたなという時に、つま先部分のヘタリも同時に出てきてしまって。「もう少しつま先部分を固めて欲しいなぁ」と思っていたところ、新作ではしっかりと改善されていて、それがすごく嬉しかったです。
先ほども言いましたが、高強度やスプリントでもがいた時にしっかりとホールドしてくれるという感覚がありますし、長い距離を走っていてもフィット感も変わらない。新作にはそうした好印象があります。
― 横塚選手は、他にシューズに対するこだわりはありますか?
横塚:長い距離を走っても最初に履いた時と感覚が変わらないことですね。やっぱり、走っているうちに痛くなるとか、違和感が出るのが一番嫌なので。そういう感覚は、このシューズを履くようになってなくなりました。アッパーからソールの裏まで全体的にひとつと感じるような素材で作られているから。
トラックシューズは「袋縫い」という方法で作られているじゃないですか? あの、足全体を包んでダイレクト感がある感覚に近いうえに、強度もしっかりとある。快適性と剛性の部分を両立してくれているという点で、新作のRC9は僕がシューズに求めているものにマッチしていると感じました。
― 小野寺選手はスプリンターですが、同じような意見でしょうか?
小野寺:同じですが、重視しているポイントがつま先と踵の違いなのかな、と。あと、僕が個人的に面白いと感じたのが、足首側のクロージャーベルト裏にある段差ですね。
― アッパーに刻まれたこのギザギザの筋ですね。
小野寺:そうです、このギザギザが面白いと思って。これってこのモデルから採用されたと思うのですが、この数本の筋があることで、上のBOAダイヤルを締めた時にベルトがズレなくなって安定するんです。これも高負荷でもがいた時の安定感に一役買っていると思いますね。前作だと、特に引き足を使うと滑る感じがあったのが、新作はこのギザギザのお陰でよりダイレクト感が向上したように思います。
横塚:一番感じるのは、BOAダイヤルを締めた時でしょうか。今まではアッパーの上の部分だけが押さえ付けられるという感覚だったのが、底からもしっかりと持ち上げられて全体的に締まってくれる。それがすごく気持ちいいですね。
小野寺:その点に関しては、まったく同じ感覚ですね。比較になるかわかりませんが、RC9Tの方はアッパーが硬い感じでできていたので、上からプレスされるような締め付けでした。それに対して新作のRC9は円状に包み込むように締まってくれるので、僕たちがレースのような高強度で走る時に安心感もありますし、快適性も兼ね備えていると感じます。
― 一般的なアウトソールでは無いことで、剛性面など不利な点を感じることはありませんか?
横塚:剛性不足を感じることはありませんね。むしろ、フィット感が増したことで、よりダイレクトに自分の力が伝わってくれるので、体感的には剛性が上がったようにすら感じます。それでいて前作よりも少し重量が軽くなっているので、前作のクオリティからさらに軽くできるのか! と好印象です。
小野寺:中にしっかり芯が通っているので、僕もこの構造になったからといって柔らかくなったという印象はまったくないです。
― ソールの剛性という点で言うと、超高剛性が苦手という人もいると思うのですが、ハイパワーを出力するプロのお二人はやはり硬い方がいいですか?
小野寺:硬さはペダリングのパワー伝達に直接繋がってくる部分だと思うのですが、僕は硬さはそれほど重視していなくて。どちらかというと、僕はソールが描くカーブの形状の方を重視しています。変わっているか定かではありませんが、前作からはアウトソールの部分に形状の変化がある思うんですよね。もしかすると前作よりもわずかに踵の上がったハイヒール傾向になっているのかな? と思っていたので、僕としては好みの形状ですね。
横塚:僕もアウトソールは硬い方がいいですね。ただ、欲張りな話ですが、硬さと快適性は両立していて欲しいので、そこはどうしても天秤にかける必要があって、片方を取るともう片方が犠牲になる印象がありました。新作のRC9は硬さを保ちつつ快適性を上げてくれているので不満はありませんし、僕が求める硬さは十分に持っていると思います。
― 快適性という面で、BOAダイヤル採用シューズは締めていくとダイヤルが食い込んで痛いというような意見もあり、それ故にシマノはクッション性のあるS-PHYREソックスを出していたりもします。このシューズはどうですか?
小野寺:BOAの裏部分ですよね。僕個人の意見としては、ここが食い込んで痛いという感覚はないです。前のモデルではBOAが当たると言う選手もいましたが、新作ではそれを言う選手は居ませんね。
横塚:僕も、感じたことはないです。痛みが出る方であれば、S-PHYREソックスを試してみても良いかも知れませんね。
― 新作のRC9はBOAダイヤルも変わっていますが、新型で良い点はありますか?
小野寺:レース中でも簡単に締め付けの調整ができるのはいいですね。あと、若干ダイヤルの高さも低くスリムになりましたよね? 空力性能にどこまで差が出るかは分かりませんが、スタイリッシュになったと思います。
― BOAのレースは前足部の通し方を変更できますが、使っていますか?
小野寺:僕は場面によってよく変えますね。長距離、例えばツール・ド・おきなわのようなレースを走る時にはこっちの大回りで通して、短距離とか僕がスプリントをするという時には引っ掛け方を変えてより締め付けを良くして使い分けています。季節によっても締め付け具合(心地)が変わるので、先端部分で調整したりしてますね。2つのBOAダイヤル以外に微調整の機能があるのは嬉しいですね。
横塚:僕も一通りの締め方を試してみましたが、使っているのは好みの1パターンだけです。
― このシューズはパンチング加工やソール裏に通気孔を備えるなど工夫もされていますが、通気性に関してはいかがですか?
小野寺:いいと思います。前作までの形状を見ても、今作の方が通気性は良くなっていることが分かる形状ですし、実際に履いてみても冬場に少し寒かったので(笑)。
横塚:通気性に関して、これまで特に不満に感じたことはないですね。今後、暑くなった時や、僕らのチームは例年だと暑いアジアのレースを走るので、その時にどう感じるかが重要です。酷暑でどう感じるかは、これから判断したいところです。
―プロ選手はスタックハイトを気にされていると思うのですが、お二人はどういう意見がありますか?
横塚:シマノのシューズは初代S-PHYRE RC9になってからスタックハイトがさらに低くなっている印象がありますが、僕はとにかくペダルに近い、それこそ裸足で踏んでいるような感覚に近い方が嬉しいです。その点でSH-RC902モデルは気に入っているので、この設計は今後も継続していただけると嬉しいですね。
小野寺:僕は横塚選手ほどスタックハイトを気にしてはいませんが、確かにシマノのRCシリーズは極限まで削っているという印象があります。スタックハイトが高いとそれ以下にはできませんが、低ければいろいろなセッティングが可能になります。それぞれの人に合わせて、セッティングの幅を持たせてくれているのではないかと思います。
― お二人ともデュラエースのペダルを使用していますが、ペダルもスタックハイトが低く作られています。
小野寺:ペダルもやはり、軸に近いところに踏み込む部分がきているので、スタックハイトという意味ではRC9とセットにすることでかなりダイレクト感が増しますし、本当に足でペダル軸を踏んでいるような感触が得られる組み合わせだと僕は思います。
横塚:シマノ製品に一貫して言えることですが、本当に作りがしっかりしていると感じます。何かが緩むとか、ガタつくという感覚が一切ないのがシマノペダルの好きなところで。これも選手によって分かれると思うのですが、他社ペダルは自由度が高くても、その反面、しっかり抑えが効かないと感じる選手もいて。僕はペダルにしっかり留めておいて欲しいタイプなので、シマノペダルは軸に近いしダイレクト感があるところも含めて、僕は気に入ってますね。
― このシューズはクリートの調整幅が広いですよね。この、調整幅が広いことによって得られるメリットはありますか?
小野寺:調整幅はとても広いですね。ベースの位置も変えられますし。クリートの調整って100人100通りあって、チーム内でもさまざまです。赤いシムをずらして踵寄りにする人もいますし、標準の調整幅でつま先寄りにする人もいます。そういった意味で、調整幅が広くて自由度が高いのはプラスだと思います。
― 横塚選手と小野寺選手でクリートの位置がずい分違いますね。
横塚:今日持ってきたシューズはまだ調整していないのですが、僕はかなり前めに置いてますね。
小野寺:逆に、僕は踵寄りですね。
― それぞれ、そのセッティングの理由は?
横塚:ここ数年のトレンド的にクリートは踵寄りになってきていて、僕もそれに倣って昨年ぐらいまで踵寄りにしてみてたのですが、どうも僕には合わなくて。それで、自分の感覚を信じてつま先寄りに戻してみたら、出力も出るのでつま先寄りになりました。こればかりは乗り方、回し方によっても変わるので、一概にこれが正解ということはないと思います。
小野寺:僕は過去に膝を壊したことがあって、それから膝に負担をかけないことが一番ということで踵寄りのクリート位置になりました。昨年、スペイン遠征の際にカルロス・サストレさん(ツール・ド・フランス2008覇者)にフィッティングしてもらった時に、かなりつま先寄りに直されて。しばらく乗ってはみたのですが、やはり感触が合わなくて踵寄りに戻しました。僕の場合は踵寄りの方が出力も出るしスプリントもかかるので、踵寄りですね。
横塚:さっき、シューズのつま先意識か踵意識かという話になりましたけど、このクリートも関係しているのかもしれないですね。僕と小野寺くんで意識している場所が違ったから。
小野寺:確かに。その意識の差がクリートのセッティングに出るのかもしれないし、逆にクリートのセッティングがそうだからシューズの意識する部分が違うのかもしれないですね。
― 他に、新作のRC9で気に入っている部分はありますか?
小野寺:僕が一番嬉しかったのはこの色ですね。ラインナップにこの赤色が加わってくれたことは素直に嬉しいです。限定とはいえ、こうやって好みの色が出てくれたことは嬉しいです。
横塚:選手目線からは外れるかもしれませんが、デザイン性の部分で前作からさらにカッコ良くなっているのは好印象です。ロゴやヒールカップのデザインも、走っていて光を反射して映えるなぁ、と写真を見て思いました。全体的にキラキラしていて、個人的に好きですね。あと、前作と同じサイズでこのシューズを供給してもらったのですが、前作よりもわずかにスリムになった印象がありました。前作モデルからの買い替えを検討しているという人は、1回は試し履きした方がいいと思います。
小野寺玲
フィニッシュ時のド派手な「オノデライダーポーズ」で老若男女問わず多くのファンを持つ選手。宇都宮ブリッツェン下部育成チームのブラウブリッツェンを経て那須ブラーゼンでプロデビュー。2016年から所属する宇都宮ブリッツェンではゴールスプリントを任されることが多く、ホームレースの宇都宮クリテリウムでは2018年から4連覇中。タイムトライアルでも非凡な才能を見せ、2017年にはアジア選手権U23個人T.Tで優勝を飾っている。
横塚浩平
自転車競技を始めたのは大学時代と遅かったものの、そこからメキメキと頭角を現した実力派。一発のパンチ力に定評があり、リオモ・ベルマーレ レーシングチームに所属していた2017年にはチャレンジサイクルロードレース、Jプロツアー「やいた片岡ロードレース」、ジャパンカップオープンレースで優勝を飾り、翌2018年から現チームであるチーム右京に移籍。2019年の全日本選手権では終盤に形成された先頭3人グループに残る走りを見せ、3位に入った。
新技術採用で正常進化 第3世代ハイエンドロードシューズS-PHYRE RC9
ジャパンメーカーらしく日本人にフィットする足型、パワーを余すところなく伝える剛性、細部に至る緻密な作り込みなど、プロはもちろんトップアマチュアの多くに愛用されているシマノのハイエンドロードシューズ。その価値を一気に押し上げたのが2016年にデビューしたS-PHYRE RC9だ。2018年にはマイナーチェンジが加えられて第2世代へと進化。さらに2020年、フルモデルチェンジとなる第3世代が新登場し、より一層「戦うシューズ」としての完成度が高められた。
フルモデルチェンジにより進化した部分は多岐にわたる。アッパーはメイン部分のマイクロファイバーに加え、前足部分に強化メッシュを配置し、2種類の素材を使い分けることでフィット感、柔軟性、剛性、通気性というシューズに求められるあらゆる性能が向上した。
土踏まず部分まで回り込み、ソールまで包み込むような画期的設計の「360°サラウンドラップアッパー」を採用することで、アッパー自体がアウトソールの一部になり、一体感や安定性などを向上させながらも軽量化を実現した。
ヒールカップのデザインは、ペダリングにおける足の動きの研究やペダリングモニターによる分析で得られた知見を基に改良が加えられた「アンチツイストスタビライザー」仕様に。ねじれに対する強さを発揮するように設計されており、スプリントのようなハイパワーで加速する場面でもシューズがしっかり足をサポートしてくれる。
ソールの剛性指数はこれまで同様にシマノシューズラインナップの中で最高の「12」の設定ながら、カーボンプレートにエアインテークを設けるほか、形状やクリート装着ガイドラインなどのデザインにアップデートが加えられている。
また、クロージャーシステムも前作同様に2つのBOAダイヤル使用を継続しているが、ダイヤルは“IP1”から“Li2”へとアップデート。前作よりも薄型に作られたLi2ダイヤルは、落車などに巻き込まれた際に破損の可能性を低減させているほか、締め付け方向と緩め方向のどちらにも1ノッチずつ調整が可能で、ライド中でも細かい調整が行いやすくなっている。
シマノ S-PHYRE RC9
第3世代S-PHYRE RC9 トッププロが語る生の声
今回、第3世代へとフルモデルチェンジしたS-PHYRE RC9のインプレッションを伺ったのは、チーム右京 相模原の横塚浩平と宇都宮ブリッツェンの小野寺玲。「シマノシューズには誰が履いてもいいと言ってくれる良さがある」(横塚浩平)
― お二人のシマノシューズ歴から伺ってもいいですか?
横塚:僕が自転車競技を始めたのが大学3年生の時なのですが、初めて買ったのがシマノシューズでした。その後、チームが変わり他メーカーのシューズを履いた時期を経てシマノシューズに戻ってきましたが、シマノシューズって人を選ばない良さがあると思います。誰が履いてもいいと言ってくれる良さがあると僕は感じています。ひと通りシューズを履いてきましたけど、僕はシマノシューズが一番好きですね。
小野寺:僕は宇都宮ブリッツェンに入ってからずっとシマノシューズなので、もう6年くらいになります。最初に履いたのはSH-R321で、その後、RC9のデビューの時に履いて、それ以降はRPシリーズやRC9Tに浮気していましたが、ずっとシューズはシマノですね。なので、間が少し抜けていますけど、新作のRC9を履いてみて、その正常進化を実感できますね。
― 実際に第3世代RC9を履いてみた印象を、それぞれ聞かせてください。
横塚:ひと言で言うと「硬い」という印象があります。前作のRC9を履いた時にすごいフィット感を感じて、足全体を包み込んでくれるような感覚がありましたが、新モデルはそれを維持しつつ、シューズ全体の剛性が上がっていると感じました。個人的に好きな部分が、アッパーの先端部分の強度が前作よりも上がっていて、かなり強い強度で踏み込んだ時にも、足先がよれない感覚がしっかりとあることです。
小野寺:僕は前作を履いていないので比較のコメントはできないのですが、新作のRC9を履いた時に「痒い所に手が届くシューズだな」と思いました。全体的に機能美が増したというか、いろいろなところが良い意味で進化していると感じました。僕がシューズで一番重要視しているポイントが踵のホールド感なんです。新作のRC9はカップ自体がしっかりしていて高さもあり、もがいたりする場面でもしっかりホールドしてくれると思います。
― 具体的にどの部分がホールド感の向上につながっていると思いますか?
小野寺:今まで、足裏の部分って一体のソールだったと思うのですが、それが今回、アッパーの素材が包み込むような形になっているので、踵以外のホールド感が増しているというのも感じますし、この別個になっている踵部分のカップもしっかりと剛性があるというのが一番のポイントだと思います。
― 踵の部分で言うと、内側のグリッパーの作りが前作と変わっていると思うのですが?
小野寺:この部分に関してはチーム内でも賛否両論あったのですが…。前作の鮫肌のようなざらざらした生地をアキレス腱の触れる部分に採用していたのに対し、新作はプリントされたグリッパーとともに両サイドから挟み込んでホールドするようになりました。個人的にはこっちの方が好きですね。前作までだと生地と一体になっているので使っていくとヘタリが出てきてグリップ力の低下を感じていましたが、新作は別体で貼り付ける構造になっていて、キュッと挟んでくれる感覚はアップしていると思います。
横塚:僕も個人的に、前作の素材は連日乗り込んでいると痛みを感じることがあったのですが、新作はゴムで素材も優しくなったので履き心地が向上したと感じますし、かつ、抑えてくれる感覚は残してくれているので、小さいポイントかもしれませんがしっかり選手目線で作ってくれているなと感じました。
小野寺:足を引き上げる時の踵のカパカパ感がどれだけ抑制できるかというのが、僕がシューズの評価で一番重要視しているポイントです。新作のRC9は今までのシマノシューズの中でもピカイチだと思います。
横塚:横にブレる動きも少なくなったと感じますね。軽く・速く回している時はいいのですが、しっかりトルクを掛けてペダリングする時にシューズが脱げないホールド感というのはとても大事だと思います。新モデルはその部分が向上していると思いますね。
― 横塚選手はつま先部分の剛性が上がっていると話していましたが、生地を見るとかなり薄手ですよね?
横塚:触った感じは生地はそれほど分厚いわけではないんですが…。前作だと、つま先部分がメッシュ生地と変わらない感じだったのですが、新作は触ってみてもしっかりと硬くなっているのが分かります。前作は3、4カ月使って個人的にいい感じに馴染んできたなという時に、つま先部分のヘタリも同時に出てきてしまって。「もう少しつま先部分を固めて欲しいなぁ」と思っていたところ、新作ではしっかりと改善されていて、それがすごく嬉しかったです。
先ほども言いましたが、高強度やスプリントでもがいた時にしっかりとホールドしてくれるという感覚がありますし、長い距離を走っていてもフィット感も変わらない。新作にはそうした好印象があります。
― 横塚選手は、他にシューズに対するこだわりはありますか?
横塚:長い距離を走っても最初に履いた時と感覚が変わらないことですね。やっぱり、走っているうちに痛くなるとか、違和感が出るのが一番嫌なので。そういう感覚は、このシューズを履くようになってなくなりました。アッパーからソールの裏まで全体的にひとつと感じるような素材で作られているから。
トラックシューズは「袋縫い」という方法で作られているじゃないですか? あの、足全体を包んでダイレクト感がある感覚に近いうえに、強度もしっかりとある。快適性と剛性の部分を両立してくれているという点で、新作のRC9は僕がシューズに求めているものにマッチしていると感じました。
― 小野寺選手はスプリンターですが、同じような意見でしょうか?
小野寺:同じですが、重視しているポイントがつま先と踵の違いなのかな、と。あと、僕が個人的に面白いと感じたのが、足首側のクロージャーベルト裏にある段差ですね。
― アッパーに刻まれたこのギザギザの筋ですね。
小野寺:そうです、このギザギザが面白いと思って。これってこのモデルから採用されたと思うのですが、この数本の筋があることで、上のBOAダイヤルを締めた時にベルトがズレなくなって安定するんです。これも高負荷でもがいた時の安定感に一役買っていると思いますね。前作だと、特に引き足を使うと滑る感じがあったのが、新作はこのギザギザのお陰でよりダイレクト感が向上したように思います。
「360°サラウンドラップ構造は安心感と快適性を兼ね備えている」(小野寺玲)
―アッパーが下から回り込んでくるという感覚は、実際に感じられるものですか?横塚:一番感じるのは、BOAダイヤルを締めた時でしょうか。今まではアッパーの上の部分だけが押さえ付けられるという感覚だったのが、底からもしっかりと持ち上げられて全体的に締まってくれる。それがすごく気持ちいいですね。
小野寺:その点に関しては、まったく同じ感覚ですね。比較になるかわかりませんが、RC9Tの方はアッパーが硬い感じでできていたので、上からプレスされるような締め付けでした。それに対して新作のRC9は円状に包み込むように締まってくれるので、僕たちがレースのような高強度で走る時に安心感もありますし、快適性も兼ね備えていると感じます。
― 一般的なアウトソールでは無いことで、剛性面など不利な点を感じることはありませんか?
横塚:剛性不足を感じることはありませんね。むしろ、フィット感が増したことで、よりダイレクトに自分の力が伝わってくれるので、体感的には剛性が上がったようにすら感じます。それでいて前作よりも少し重量が軽くなっているので、前作のクオリティからさらに軽くできるのか! と好印象です。
小野寺:中にしっかり芯が通っているので、僕もこの構造になったからといって柔らかくなったという印象はまったくないです。
― ソールの剛性という点で言うと、超高剛性が苦手という人もいると思うのですが、ハイパワーを出力するプロのお二人はやはり硬い方がいいですか?
小野寺:硬さはペダリングのパワー伝達に直接繋がってくる部分だと思うのですが、僕は硬さはそれほど重視していなくて。どちらかというと、僕はソールが描くカーブの形状の方を重視しています。変わっているか定かではありませんが、前作からはアウトソールの部分に形状の変化がある思うんですよね。もしかすると前作よりもわずかに踵の上がったハイヒール傾向になっているのかな? と思っていたので、僕としては好みの形状ですね。
横塚:僕もアウトソールは硬い方がいいですね。ただ、欲張りな話ですが、硬さと快適性は両立していて欲しいので、そこはどうしても天秤にかける必要があって、片方を取るともう片方が犠牲になる印象がありました。新作のRC9は硬さを保ちつつ快適性を上げてくれているので不満はありませんし、僕が求める硬さは十分に持っていると思います。
― 快適性という面で、BOAダイヤル採用シューズは締めていくとダイヤルが食い込んで痛いというような意見もあり、それ故にシマノはクッション性のあるS-PHYREソックスを出していたりもします。このシューズはどうですか?
小野寺:BOAの裏部分ですよね。僕個人の意見としては、ここが食い込んで痛いという感覚はないです。前のモデルではBOAが当たると言う選手もいましたが、新作ではそれを言う選手は居ませんね。
横塚:僕も、感じたことはないです。痛みが出る方であれば、S-PHYREソックスを試してみても良いかも知れませんね。
― 新作のRC9はBOAダイヤルも変わっていますが、新型で良い点はありますか?
小野寺:レース中でも簡単に締め付けの調整ができるのはいいですね。あと、若干ダイヤルの高さも低くスリムになりましたよね? 空力性能にどこまで差が出るかは分かりませんが、スタイリッシュになったと思います。
― BOAのレースは前足部の通し方を変更できますが、使っていますか?
小野寺:僕は場面によってよく変えますね。長距離、例えばツール・ド・おきなわのようなレースを走る時にはこっちの大回りで通して、短距離とか僕がスプリントをするという時には引っ掛け方を変えてより締め付けを良くして使い分けています。季節によっても締め付け具合(心地)が変わるので、先端部分で調整したりしてますね。2つのBOAダイヤル以外に微調整の機能があるのは嬉しいですね。
横塚:僕も一通りの締め方を試してみましたが、使っているのは好みの1パターンだけです。
― このシューズはパンチング加工やソール裏に通気孔を備えるなど工夫もされていますが、通気性に関してはいかがですか?
小野寺:いいと思います。前作までの形状を見ても、今作の方が通気性は良くなっていることが分かる形状ですし、実際に履いてみても冬場に少し寒かったので(笑)。
横塚:通気性に関して、これまで特に不満に感じたことはないですね。今後、暑くなった時や、僕らのチームは例年だと暑いアジアのレースを走るので、その時にどう感じるかが重要です。酷暑でどう感じるかは、これから判断したいところです。
「裸足で踏んでいるような感覚に近いスタックハイト。好みなので有難い」(横塚浩平)
―プロ選手はスタックハイトを気にされていると思うのですが、お二人はどういう意見がありますか?
横塚:シマノのシューズは初代S-PHYRE RC9になってからスタックハイトがさらに低くなっている印象がありますが、僕はとにかくペダルに近い、それこそ裸足で踏んでいるような感覚に近い方が嬉しいです。その点でSH-RC902モデルは気に入っているので、この設計は今後も継続していただけると嬉しいですね。
小野寺:僕は横塚選手ほどスタックハイトを気にしてはいませんが、確かにシマノのRCシリーズは極限まで削っているという印象があります。スタックハイトが高いとそれ以下にはできませんが、低ければいろいろなセッティングが可能になります。それぞれの人に合わせて、セッティングの幅を持たせてくれているのではないかと思います。
― お二人ともデュラエースのペダルを使用していますが、ペダルもスタックハイトが低く作られています。
小野寺:ペダルもやはり、軸に近いところに踏み込む部分がきているので、スタックハイトという意味ではRC9とセットにすることでかなりダイレクト感が増しますし、本当に足でペダル軸を踏んでいるような感触が得られる組み合わせだと僕は思います。
横塚:シマノ製品に一貫して言えることですが、本当に作りがしっかりしていると感じます。何かが緩むとか、ガタつくという感覚が一切ないのがシマノペダルの好きなところで。これも選手によって分かれると思うのですが、他社ペダルは自由度が高くても、その反面、しっかり抑えが効かないと感じる選手もいて。僕はペダルにしっかり留めておいて欲しいタイプなので、シマノペダルは軸に近いしダイレクト感があるところも含めて、僕は気に入ってますね。
― このシューズはクリートの調整幅が広いですよね。この、調整幅が広いことによって得られるメリットはありますか?
小野寺:調整幅はとても広いですね。ベースの位置も変えられますし。クリートの調整って100人100通りあって、チーム内でもさまざまです。赤いシムをずらして踵寄りにする人もいますし、標準の調整幅でつま先寄りにする人もいます。そういった意味で、調整幅が広くて自由度が高いのはプラスだと思います。
― 横塚選手と小野寺選手でクリートの位置がずい分違いますね。
横塚:今日持ってきたシューズはまだ調整していないのですが、僕はかなり前めに置いてますね。
小野寺:逆に、僕は踵寄りですね。
― それぞれ、そのセッティングの理由は?
横塚:ここ数年のトレンド的にクリートは踵寄りになってきていて、僕もそれに倣って昨年ぐらいまで踵寄りにしてみてたのですが、どうも僕には合わなくて。それで、自分の感覚を信じてつま先寄りに戻してみたら、出力も出るのでつま先寄りになりました。こればかりは乗り方、回し方によっても変わるので、一概にこれが正解ということはないと思います。
小野寺:僕は過去に膝を壊したことがあって、それから膝に負担をかけないことが一番ということで踵寄りのクリート位置になりました。昨年、スペイン遠征の際にカルロス・サストレさん(ツール・ド・フランス2008覇者)にフィッティングしてもらった時に、かなりつま先寄りに直されて。しばらく乗ってはみたのですが、やはり感触が合わなくて踵寄りに戻しました。僕の場合は踵寄りの方が出力も出るしスプリントもかかるので、踵寄りですね。
横塚:さっき、シューズのつま先意識か踵意識かという話になりましたけど、このクリートも関係しているのかもしれないですね。僕と小野寺くんで意識している場所が違ったから。
小野寺:確かに。その意識の差がクリートのセッティングに出るのかもしれないし、逆にクリートのセッティングがそうだからシューズの意識する部分が違うのかもしれないですね。
― 他に、新作のRC9で気に入っている部分はありますか?
小野寺:僕が一番嬉しかったのはこの色ですね。ラインナップにこの赤色が加わってくれたことは素直に嬉しいです。限定とはいえ、こうやって好みの色が出てくれたことは嬉しいです。
横塚:選手目線からは外れるかもしれませんが、デザイン性の部分で前作からさらにカッコ良くなっているのは好印象です。ロゴやヒールカップのデザインも、走っていて光を反射して映えるなぁ、と写真を見て思いました。全体的にキラキラしていて、個人的に好きですね。あと、前作と同じサイズでこのシューズを供給してもらったのですが、前作よりもわずかにスリムになった印象がありました。前作モデルからの買い替えを検討しているという人は、1回は試し履きした方がいいと思います。
インプレライダー・プロフィール
小野寺玲
フィニッシュ時のド派手な「オノデライダーポーズ」で老若男女問わず多くのファンを持つ選手。宇都宮ブリッツェン下部育成チームのブラウブリッツェンを経て那須ブラーゼンでプロデビュー。2016年から所属する宇都宮ブリッツェンではゴールスプリントを任されることが多く、ホームレースの宇都宮クリテリウムでは2018年から4連覇中。タイムトライアルでも非凡な才能を見せ、2017年にはアジア選手権U23個人T.Tで優勝を飾っている。
横塚浩平
自転車競技を始めたのは大学時代と遅かったものの、そこからメキメキと頭角を現した実力派。一発のパンチ力に定評があり、リオモ・ベルマーレ レーシングチームに所属していた2017年にはチャレンジサイクルロードレース、Jプロツアー「やいた片岡ロードレース」、ジャパンカップオープンレースで優勝を飾り、翌2018年から現チームであるチーム右京に移籍。2019年の全日本選手権では終盤に形成された先頭3人グループに残る走りを見せ、3位に入った。
提供:シマノセールス 文:小森信道 写真:綾野真