2020/04/13(月) - 12:04
モデルチェンジを果たしたIRCのロード用チューブレスタイヤ「Formula Pro」。そのテクノロジーと性能に迫る本特集の第2弾は、さいたまディレーブの辻善光と高木三千成がインプレッションを語る。中核モデルの「RBCC」と耐パンクモデル「X-GUARD」の性能はいかに。
プロレースの現場では現在もチューブラーが主力ではあるが、一部でチューブレスをトライする動きも見られる。IRCがサポートを行っていたNIPPOヴィーニファンティーニもその1つだった。NIPPOの選手の中でもチューブラーかチューブレスかは好みで分かれていたものの、Formula Proは欧州レースの現場で揉まれてきたのは事実。チューブレスタイヤでは非常に稀有な経験を経ているタイヤと言っても過言では無いだろう。
本ページではそんなFormula Proの通常モデル RBCCとX-GUARDに焦点を当てる。コアテクノロジーと前作からの主要な変更点は前頁で紹介しているためそちらを参照してもらいたい。前頁で説明し切ることができなかった技術について解説した後、インプレッションに移る。
プロ選手が愛用する高性能チューブラータイヤには軽量でしなやかなラテックスチューブが使用されている。クリンチャーを使用する方でも、合計重量を軽く、タイヤの性能を発揮したい場合はラテックスチューブを組み合わせることがポピュラーな手段だ。
チューブレスタイヤはタイヤ自体に空気保持層を加えるため、インナーシールを含めたタイヤ全体で性能が求められる。IRCではしなやかで高反発な天然ゴム(NR)をベースとしたコンパウンドでインナーエアーシールを構成。テクノロジーの名は NR-TEX INNER AIR SEAL SYSTEM。従来のIASを100とすると、NR-TEXバージョンは-7%の転がり抵抗削減を実現している。
ラテックスチューブのようなインナーライナーであり、空気の自然漏洩もやや早くなるという。これはしなやかさ、低転がり抵抗を優先させた結果であり、チューブラータイヤのようにレース仕様として仕上げられているということだ。
2020年シーズンより活動を開始する新チーム「さいたまディレーブ」。今季はIRCからサポートを受けて、シーズン通してチューブレスタイヤのFormula Proを使用していくという。
辻 善光
5年ぶりにプロレースにカムバックするスプリンター。宇都宮ブリッツェンやチーム右京の創設期に参加し、チームに貴重な勝利をプレゼントしてきた勝利請負人だ。2014年に不整脈の影響で引退し、その後トレーナーとして活動。2020年は再びプロの最前線での活躍に期待がかかる。
高木三千成
高校の部活動で自転車競技を始めて今年で10年目。大学卒業後は那須ブラーゼン、東京ヴェントス、そして2020年シーズンはさいたまディレーブでJプロツアーを走る。2019年は全日本選手権個人タイムトライアル20位、第1回 JBCF維新やまぐちタイムトライアル4位、第2回 JBCF 広島クリテリウム10位というスピードマンだ。
辻:新型Formula Proは走りのスムースさ、路面への食いつき、軽さ、空気の抜けにくさどれを取ってもチューブラーに匹敵しています。僕は今までロードレースにはチューブラータイヤが良いと思い使い続けていましたが、チューブラーからそのままのフィーリングで乗り換えることができたので、かなり驚きました。
高木:ロード用チューブレスタイヤを本格的に使用するのは初めてだったんですが、ひと踏み目から転がりの軽さに感動しました。下りではペダリングをしている前走者と車間を開けていても、足を止めている僕の方がスピードに乗っていきます。多少は空気抵抗も関係していると思いますが。
辻:そうそう。レースでは武器になるよね。速いタイヤなので自分自身が速く、強くなったと勘違いしてしまうので、練習ではもう少し重いものをチョイスしても良いかも。ネガティブな部分を探すと、チューブレス用のホイールは構造上どうしても重量面でチューブラーには敵わないということかな。ただ、このタイヤを装着するとホイールの重量を感じさせないくらい軽やかに走ってくれる。
今、Formula Proを装着しているホイール(スコープ R5)は重量が1,595gありますが、僕のバイクを試乗した人たちも口を揃えて「重量の割には走りが軽い」と言うんですよ。僕は平坦系の選手でもともと重いホイールを好んで選んでいたのでポジティブな意見になることもありますが、そうではない人たちも同じ様なことを言うので不思議です。タイヤ自体の転がりの軽さや振動吸収性の良さが、ホイールの重量をカバーしてくれているんでしょう。ホイールセット自体は重いよね?
高木:そうですね。手に持った時はしっかりとした重量感が伝わってきます。Formula Pro以外のタイヤをつけていた時はダンシングでホイールの存在が気になりましたが、Formula Proの時は何故か軽量チューブラーのような印象さえします。ディスクブレーキ用ホイールも重い傾向があるので、もしかしたら同じように軽い走行感を味わえるかもしれませんね。
辻:僕の感覚では1,300g台のホイールを使っている時のイメージに近いんです。新型Formula Proを使い始めてから練習のアベレージ速度が上がりましたし、足を止めている間にわかりやすく減速していくことが無くなりました。
辻:モデル名を変えても良いんじゃないかなと思うくらい全く別物のタイヤになっていました。旧作は荒れた路面ではタイヤの食いつきが少し弱く、タイヤがポンポンと跳ねてしまい、正直あまり良い感触を得られていませんでした。一瞬でも跳ねてしまうとスピードの伸びが変わってきてしまい、レース本番では勝負を左右するので、スプリンターとしては気になる部分でした。
タイヤの跳ねを無くすために、旧型で乗り込んでいた時は空気圧を5.5気圧まで落としていました。そんな低圧でも走りが重くならず、練習仲間と同じようなスピード感で走れたので、いいタイヤだったんですけどね。
ただ新型は、7気圧まで上げてもタイヤが跳ねず、旧作の5.5気圧と同じようなフィーリングで走ることができます。さらに転がりが軽く感じられます。タイヤが跳ねないのでコーナリングでも安心できますし、タイヤがグリップし粘ってくれるような印象があります。正直、旧型を試していた頃はダウンヒルで「こわーい」って叫びながら下っていました。下りは得意な方なんですけど、練習仲間に千切られてしまうほどです。その経験をしていたので、今作の安心感などの進化は余計に感じられますね。
―どんな理由からタイヤが跳ねにくくなっていると思いますか。
辻:チューブレスタイヤは構造上強度がでるはずの物なので、ゴムの部分のしなりが重要になってくるはずです。旧作はゴムとケースが一体となり、フィーリングとしてはピンと張られているような感じでしたが、新作はピンと張られた層の上に、路面を捉えるための層が追加されている感覚があります。その路面と接する層だけが柔軟に動き、グリップにつながっているのでしょう。ケースは固定されていて動かないので、不安を感じることもありません。これがチューブラーに近い感じと言う理由です。
―ケースではなくゴムの柔軟性と言うと、コンパウンドの変更や追加された縦溝トレッドが効果を発揮しているのかと思いますが、これらの変更点の影響は感じますか。
辻:僕は元々縦溝トレッドのフィーリングが好みなので、旧型を使用した合宿後にIRCに要望を出そうと本当に思っていたんですよ。ただ合宿が終わったタイミングで知らされた新作を見たら既に縦溝が採用されていました(笑)。実際に使ってみると縦溝の有無で路面を捉える能力が全く違うので、このパターンには効果があると思います。縦溝も間隔が広すぎたり、狭すぎたりしても機能しないと思うので、絶妙に作られているのでしょう。
高木:前モデルは滑り出しを感じ取りにくかったですが、新型では滑り出しの雰囲気があり、そこからも微調整で立て直すことができます。限界に達するまでのコントロール感が増している気はします。コーナーが怖くなくなりましたね。
辻:直線を走っている時、ダンシングしている時は転がりの軽さが勝り、ハイグリップであることを感じないです。それはコーナーを曲がる時に倒した時にグリップ感が現れてきます。
高木:そうですね。曲がる時もグリップ力が欲しい時だけ、グリップ感が強くなります。40km/hから更に加速する時も路面を捉え続けるグリップ力があり、ロスすること無くスピードが乗っていきますね。
辻:いい意味で存在感がないタイヤなんですよ。タイヤがグリップしている感などがあるならば、それはグリップ力に特化しているということじゃないですか。僕はそれが無いタイヤが一番いいと思っていて、他社製品を引き合いに出すのは恐縮ですが、ヴィットリア CORSAのチューブラーは軽くも感じなければ、ハイグリップだとも思わせない、ただ不安じゃないし速い。Formula Proの新作はそれと同じなんです。どのようなシチュエーションでも良いし、誰でも使えるタイヤだと思います。
―辻さんは28Cのモデルも試されていますね。25Cと比較してどの様な印象を抱きましたか。
辻:細かい段差を気にせず走れるようになりますね。印象的だったのは、ひび割れが多い峠道を登った時のことです。タイヤ重量が増えたことで登りのタイムが落ちるかと思っていましたが、それどころかタイムが良くなる結果でした。
バイクが跳ねると推進力が奪われ減速するので、小さな凹凸を楽々乗り越えられる太いタイヤは、ひび割れ路面を走る時に減速が少ないのでしょう。それで結果として速く走れましたね。空気圧に関しては25mmと同じ設定で問題ないようです。
緩い下りでは25mm幅よりも28mmの方が速度の伸びがよく、足を休めることができるのもアドバンテージだと思います。群馬CSCでは必ず28mmを使いたいですね。他に28mmを選ぶとしたらマンホールが多いコースや、緩斜面が多いコースです。対して25mmは鈴鹿サーキットや広島森林公園のような路面がきれいなコースで使用したいです。
―実際にどのように扱っているか伺っていきたいと思います。先ほど辻さんは空気圧に関して今は7気圧とおっしゃられていましたが、現在の体重はどれくらいでしょうか。レースではどのような空気圧セッティングにしますか。
辻:今の体重は64kg。引退前に絞れていた時は61kgだったので、そのくらいまで落とせるはずです。レースでの空気圧は6.5気圧にするかな。昔はツール・ド・熊野の第1ステージでタイヤを滑らせるまで攻め込んでいましたが、歳を考えると無理はできないので、グリップ力を稼ぐ方向にする予定です。28mmに関しても25mmと同じ設定で問題ありません。
高木:僕は今60kgですが、試してみた中では6~6.5気圧ぐらいが個人的にフィーリングが良いと感じています。絞れば56kgほどになりますが、体重で空気圧を変えることは無く、レース会場の天候や路面状況で微調整する形です。斜度が30%近い激坂で試した時は非常に低圧に設定してみたんですが、登りと下りどちらでもタイヤのサイド部分が腰砕けになることなく、路面をしっかりと捉えてくれました。走りの軽さを求めて高圧に設定しても良いですし、トラクションや乗り心地を求めて低圧にセッティングしても良いでしょう。どの空気圧に設定しても良い幅の広さは魅力の1つです。
辻:一般ユーザーは空気圧って高めにセッティングしがちですよね。パンパンに空気を張り、パンクしたという報告はよくありますよ。チューブレスタイヤの場合は、クリンチャーのように低圧にセッティングしてもタイヤがよれず、低圧でも安心して乗ることができるので普段より低圧にセットしてトラブルの可能性を下げても良いでしょう。これもビードとリムの相性があると思いますが、今のスコープとIRCの組み合わせは問題なく、安全に乗ることができると感じています。
辻:周りからはチューブレスタイヤは装着しにくいと言われていましたが、ロード用チューブレスを扱うのは初めてでも素手で上げられました。取り付け時に石鹸水やワックスを使うと良いことを知らなかったので、最初の一本はその作業は行っていません。でもフロアポンプでビードを上げられましたし、その後エア漏れが過剰に発生することもありませんでした。ただ組み合わせ次第というところもあるのでしょうし、初めて装着作業を行う場合は誰かに習ったほうが良いと思います。
高木:僕もスコープのホイールは素手で嵌めることができましたが、マヴィックのCOSMIC PRO CARBON USTはタイヤレバーを使いました。それでも非常に力のいる作業でしたよ。
綾野(CW編集長):マヴィックに関して補足すると、USTの専用タイヤでもレバーを使う場合があるんだよね。マヴィックの中でもアルミリムの場合は手で簡単に装着できたりするから、本当に微妙な相性の問題としか言えないと思う。
―パンクした時はシーラントの効果に期待したほうが良さそうですね。
辻:チューブラーを使っていた時からなんですが、僕はライドにはIRCのファストリスポーンを2本だけしか持っていかないんですよ。ポンプも持ちません。大体のケースはファストリスポーンでパンクを直せますし、付属するアルミのバルブアダプターを使えばディーラーや整備工場、ガソリンスタンドなど車関係の施設にあるエアコンプレッサーで空気を充填できるようになります。仏式バルブに対応するポンプを持つ自転車屋は田舎には無いですし、数も圧倒的に少ないですから、クルマ屋さんを頼りにできれば心強いですよね。実際に僕は救われたことがあります。
―ビードを上げた後、タイヤからの空気抜けはどの程度起こるものでしょうか。
辻:1週間で1気圧程度でしょうか。ブチルチューブを使ったクリンチャーと同等でしょう。僕は毎日乗る前に空気圧をチェックしますが、抜けが少ないとポンピングの回数が少なくて済みますね。チューブレスタイヤは「朝になったら抜けている」と聞いていたので、そのイメージからすると全然抜けていないです。
高木:それでもトラブルを未然に防ぐという意味で、走り出す前に空気圧はチェックしたほうが良いでしょうね。
辻:どんなシチュエーションでもマッチして、誰でも使えるタイヤです。人によっては性能的に尖っている部分が欲しくなる人もいるかも知れませんが、そういう方は丈夫なX-GUARDや軽いS-LIGHTを視野に入れてもいいと思います。
プロとしてはタイヤへの信頼が重要です。タイヤを信頼できてないと勝てません。僕が現役の頃、広島森林公園サーキットで雨が降った時はタイヤのグリップ力が足りないチームだけが集団後方に取り残されることも普通に起きていました。タイヤで勝負が分かれてしまうんです。そういったことを考慮しても新型Formula Proは信頼に足るタイヤだと思いました。
―ありがとうございます。
この項でピックアップするのは耐パンク層「クロスガード」について。第1ページ目で紹介した新RBCCと上述したNR-TEX IASで構成される中心的モデルFormula Pro Tubeless RBCC。そこにクロスガードを加えたモデルがFormula Pro Tubeless X-GUARDだ。
クロスガードとは強度に優れるナイロン繊維を使用した40×40tpiのクロス織りメッシュ。これを左右のビード間の全面に挟み込むことで、ドライとウェット時ともにサイドカットの抵抗値を約40%向上させている。RBCCモデルと比較すると重量がやや増加するものの、ホビーライドで長期間に渡って使用したい場合は役に立ってくれる技術だ。
ちなみに今作のFormula ProではRBCCの耐摩耗性の進化により、トレッドを薄くすることに成功。RBCC、X-GUARDモデルいずれも20gほどの軽量化を達成している。今作のX-GUARDモデルは、前作RBCC比で重量のディスアドバンテージ無く、耐パンク性を獲得できたタイヤと言えるだろう。
剛性が高く、トレッドがしなやかという点はRBCCと似ていましたが、耐パンク層が加わったためか、タイヤ自体の剛性感は若干高くなっているような印象もあります。ただ、不快に繋がる硬さではなく、コーナーリングやダンシング時にかかる横方向の力に対し、しっかりしているタイヤだなと安心感を抱かせる硬さです。
加速時にはやや重さを感じますが、スピードを一定にして走る時は高速、低速どちらでも軽快に進んでくれます。コンパウンドの軽さや転がり抵抗の小ささが効いているのでしょう。巡航が得意なタイヤという印象ですね。空気圧が低いと重量の重さに気が付きやすくなるので、ワイドタイヤだからといって低めに設定するのではなく、いつも通りの設定でいいと思います。自分の適性空気圧はRBCCと同じ6.5barほどでした。
今回試したのは28Cということもあり、コーナリングで車体を傾けられる幅が広く、荒れた路面で受ける衝撃も25Cよりも穏やかでした。重量を気にするのであればX-GUARDの25C、RBCCの28Cを選んでも良いでしょう。
耐パンク層が設けられたことで、ホイールに装着する時に硬さを感じられるかなと思っていましたが、RBCCと同じように素手で簡単に嵌めることができました。チューブレスはホイールとの組み合わせで装着の難易度は変わってくるので、スコープのホイールとIRCのタイヤは相性が良かったのでしょう。
X-GUARDの美点は耐パンク層による安心感で、細かいことを気にせずガンガン走れるところです。サイクリングやブルベといったシチュエーションにマッチすると思います。また、練習はX-GUARDで、レースはRBCCといった使い方も良いでしょう。
全方位に進化したIRCのコアモデル「Formula Pro Tubeless RBCC」に迫る
プロレースの現場では現在もチューブラーが主力ではあるが、一部でチューブレスをトライする動きも見られる。IRCがサポートを行っていたNIPPOヴィーニファンティーニもその1つだった。NIPPOの選手の中でもチューブラーかチューブレスかは好みで分かれていたものの、Formula Proは欧州レースの現場で揉まれてきたのは事実。チューブレスタイヤでは非常に稀有な経験を経ているタイヤと言っても過言では無いだろう。
本ページではそんなFormula Proの通常モデル RBCCとX-GUARDに焦点を当てる。コアテクノロジーと前作からの主要な変更点は前頁で紹介しているためそちらを参照してもらいたい。前頁で説明し切ることができなかった技術について解説した後、インプレッションに移る。
転がり抵抗従来比-7%を実現するインナーエアーシール
プロ選手が愛用する高性能チューブラータイヤには軽量でしなやかなラテックスチューブが使用されている。クリンチャーを使用する方でも、合計重量を軽く、タイヤの性能を発揮したい場合はラテックスチューブを組み合わせることがポピュラーな手段だ。
チューブレスタイヤはタイヤ自体に空気保持層を加えるため、インナーシールを含めたタイヤ全体で性能が求められる。IRCではしなやかで高反発な天然ゴム(NR)をベースとしたコンパウンドでインナーエアーシールを構成。テクノロジーの名は NR-TEX INNER AIR SEAL SYSTEM。従来のIASを100とすると、NR-TEXバージョンは-7%の転がり抵抗削減を実現している。
ラテックスチューブのようなインナーライナーであり、空気の自然漏洩もやや早くなるという。これはしなやかさ、低転がり抵抗を優先させた結果であり、チューブラータイヤのようにレース仕様として仕上げられているということだ。
IRC Formula Pro Tubeless RBCC
サイズ | 重量 | 空気圧 | 価格 |
700×25C | 270g | 600~800kPa、6.0~8.0kgf/cm2、90~115PSI | 7,600円 |
700×28C | 315g | 550~700kPa、5.5~7.0kgf/cm2、80~100PSI | 7,600円 |
700×30C | 330g | 450~600kPa、4.5~6.0kgf/cm2、65~90PSI | 7,600円 |
さいたまディレーブが語る新型Formula Pro Tubeless RBCC
インプレライダープロフィール
2020年シーズンより活動を開始する新チーム「さいたまディレーブ」。今季はIRCからサポートを受けて、シーズン通してチューブレスタイヤのFormula Proを使用していくという。
辻 善光
5年ぶりにプロレースにカムバックするスプリンター。宇都宮ブリッツェンやチーム右京の創設期に参加し、チームに貴重な勝利をプレゼントしてきた勝利請負人だ。2014年に不整脈の影響で引退し、その後トレーナーとして活動。2020年は再びプロの最前線での活躍に期待がかかる。
高木三千成
高校の部活動で自転車競技を始めて今年で10年目。大学卒業後は那須ブラーゼン、東京ヴェントス、そして2020年シーズンはさいたまディレーブでJプロツアーを走る。2019年は全日本選手権個人タイムトライアル20位、第1回 JBCF維新やまぐちタイムトライアル4位、第2回 JBCF 広島クリテリウム10位というスピードマンだ。
「チューブラータイヤに匹敵する性能を持っている」辻善光
―さいたまディレーブがIRCのFormula Proをレースで使うと伺いました。実際にレースタイヤを使用してみてどのような印象を抱きましたか。辻:新型Formula Proは走りのスムースさ、路面への食いつき、軽さ、空気の抜けにくさどれを取ってもチューブラーに匹敵しています。僕は今までロードレースにはチューブラータイヤが良いと思い使い続けていましたが、チューブラーからそのままのフィーリングで乗り換えることができたので、かなり驚きました。
高木:ロード用チューブレスタイヤを本格的に使用するのは初めてだったんですが、ひと踏み目から転がりの軽さに感動しました。下りではペダリングをしている前走者と車間を開けていても、足を止めている僕の方がスピードに乗っていきます。多少は空気抵抗も関係していると思いますが。
辻:そうそう。レースでは武器になるよね。速いタイヤなので自分自身が速く、強くなったと勘違いしてしまうので、練習ではもう少し重いものをチョイスしても良いかも。ネガティブな部分を探すと、チューブレス用のホイールは構造上どうしても重量面でチューブラーには敵わないということかな。ただ、このタイヤを装着するとホイールの重量を感じさせないくらい軽やかに走ってくれる。
今、Formula Proを装着しているホイール(スコープ R5)は重量が1,595gありますが、僕のバイクを試乗した人たちも口を揃えて「重量の割には走りが軽い」と言うんですよ。僕は平坦系の選手でもともと重いホイールを好んで選んでいたのでポジティブな意見になることもありますが、そうではない人たちも同じ様なことを言うので不思議です。タイヤ自体の転がりの軽さや振動吸収性の良さが、ホイールの重量をカバーしてくれているんでしょう。ホイールセット自体は重いよね?
高木:そうですね。手に持った時はしっかりとした重量感が伝わってきます。Formula Pro以外のタイヤをつけていた時はダンシングでホイールの存在が気になりましたが、Formula Proの時は何故か軽量チューブラーのような印象さえします。ディスクブレーキ用ホイールも重い傾向があるので、もしかしたら同じように軽い走行感を味わえるかもしれませんね。
辻:僕の感覚では1,300g台のホイールを使っている時のイメージに近いんです。新型Formula Proを使い始めてから練習のアベレージ速度が上がりましたし、足を止めている間にわかりやすく減速していくことが無くなりました。
「前作とは全くの別物。モデル名が変わっていてもおかしくない」辻善光
―前作のFormula Proも使用していると思いますが、それと比べるとどのような印象がありますか。辻:モデル名を変えても良いんじゃないかなと思うくらい全く別物のタイヤになっていました。旧作は荒れた路面ではタイヤの食いつきが少し弱く、タイヤがポンポンと跳ねてしまい、正直あまり良い感触を得られていませんでした。一瞬でも跳ねてしまうとスピードの伸びが変わってきてしまい、レース本番では勝負を左右するので、スプリンターとしては気になる部分でした。
タイヤの跳ねを無くすために、旧型で乗り込んでいた時は空気圧を5.5気圧まで落としていました。そんな低圧でも走りが重くならず、練習仲間と同じようなスピード感で走れたので、いいタイヤだったんですけどね。
ただ新型は、7気圧まで上げてもタイヤが跳ねず、旧作の5.5気圧と同じようなフィーリングで走ることができます。さらに転がりが軽く感じられます。タイヤが跳ねないのでコーナリングでも安心できますし、タイヤがグリップし粘ってくれるような印象があります。正直、旧型を試していた頃はダウンヒルで「こわーい」って叫びながら下っていました。下りは得意な方なんですけど、練習仲間に千切られてしまうほどです。その経験をしていたので、今作の安心感などの進化は余計に感じられますね。
―どんな理由からタイヤが跳ねにくくなっていると思いますか。
辻:チューブレスタイヤは構造上強度がでるはずの物なので、ゴムの部分のしなりが重要になってくるはずです。旧作はゴムとケースが一体となり、フィーリングとしてはピンと張られているような感じでしたが、新作はピンと張られた層の上に、路面を捉えるための層が追加されている感覚があります。その路面と接する層だけが柔軟に動き、グリップにつながっているのでしょう。ケースは固定されていて動かないので、不安を感じることもありません。これがチューブラーに近い感じと言う理由です。
―ケースではなくゴムの柔軟性と言うと、コンパウンドの変更や追加された縦溝トレッドが効果を発揮しているのかと思いますが、これらの変更点の影響は感じますか。
辻:僕は元々縦溝トレッドのフィーリングが好みなので、旧型を使用した合宿後にIRCに要望を出そうと本当に思っていたんですよ。ただ合宿が終わったタイミングで知らされた新作を見たら既に縦溝が採用されていました(笑)。実際に使ってみると縦溝の有無で路面を捉える能力が全く違うので、このパターンには効果があると思います。縦溝も間隔が広すぎたり、狭すぎたりしても機能しないと思うので、絶妙に作られているのでしょう。
高木:前モデルは滑り出しを感じ取りにくかったですが、新型では滑り出しの雰囲気があり、そこからも微調整で立て直すことができます。限界に達するまでのコントロール感が増している気はします。コーナーが怖くなくなりましたね。
「コーナリング時にグリップ力を求める時だけ、タイヤが粘ってくれる」高木三千成
―ハイグリップなタイヤはゴムが路面にペターっと張り付くような印象があります。Formula Proもそのような感じがあるのでしょうか。辻:直線を走っている時、ダンシングしている時は転がりの軽さが勝り、ハイグリップであることを感じないです。それはコーナーを曲がる時に倒した時にグリップ感が現れてきます。
高木:そうですね。曲がる時もグリップ力が欲しい時だけ、グリップ感が強くなります。40km/hから更に加速する時も路面を捉え続けるグリップ力があり、ロスすること無くスピードが乗っていきますね。
辻:いい意味で存在感がないタイヤなんですよ。タイヤがグリップしている感などがあるならば、それはグリップ力に特化しているということじゃないですか。僕はそれが無いタイヤが一番いいと思っていて、他社製品を引き合いに出すのは恐縮ですが、ヴィットリア CORSAのチューブラーは軽くも感じなければ、ハイグリップだとも思わせない、ただ不安じゃないし速い。Formula Proの新作はそれと同じなんです。どのようなシチュエーションでも良いし、誰でも使えるタイヤだと思います。
―辻さんは28Cのモデルも試されていますね。25Cと比較してどの様な印象を抱きましたか。
辻:細かい段差を気にせず走れるようになりますね。印象的だったのは、ひび割れが多い峠道を登った時のことです。タイヤ重量が増えたことで登りのタイムが落ちるかと思っていましたが、それどころかタイムが良くなる結果でした。
バイクが跳ねると推進力が奪われ減速するので、小さな凹凸を楽々乗り越えられる太いタイヤは、ひび割れ路面を走る時に減速が少ないのでしょう。それで結果として速く走れましたね。空気圧に関しては25mmと同じ設定で問題ないようです。
緩い下りでは25mm幅よりも28mmの方が速度の伸びがよく、足を休めることができるのもアドバンテージだと思います。群馬CSCでは必ず28mmを使いたいですね。他に28mmを選ぶとしたらマンホールが多いコースや、緩斜面が多いコースです。対して25mmは鈴鹿サーキットや広島森林公園のような路面がきれいなコースで使用したいです。
―実際にどのように扱っているか伺っていきたいと思います。先ほど辻さんは空気圧に関して今は7気圧とおっしゃられていましたが、現在の体重はどれくらいでしょうか。レースではどのような空気圧セッティングにしますか。
辻:今の体重は64kg。引退前に絞れていた時は61kgだったので、そのくらいまで落とせるはずです。レースでの空気圧は6.5気圧にするかな。昔はツール・ド・熊野の第1ステージでタイヤを滑らせるまで攻め込んでいましたが、歳を考えると無理はできないので、グリップ力を稼ぐ方向にする予定です。28mmに関しても25mmと同じ設定で問題ありません。
高木:僕は今60kgですが、試してみた中では6~6.5気圧ぐらいが個人的にフィーリングが良いと感じています。絞れば56kgほどになりますが、体重で空気圧を変えることは無く、レース会場の天候や路面状況で微調整する形です。斜度が30%近い激坂で試した時は非常に低圧に設定してみたんですが、登りと下りどちらでもタイヤのサイド部分が腰砕けになることなく、路面をしっかりと捉えてくれました。走りの軽さを求めて高圧に設定しても良いですし、トラクションや乗り心地を求めて低圧にセッティングしても良いでしょう。どの空気圧に設定しても良い幅の広さは魅力の1つです。
辻:一般ユーザーは空気圧って高めにセッティングしがちですよね。パンパンに空気を張り、パンクしたという報告はよくありますよ。チューブレスタイヤの場合は、クリンチャーのように低圧にセッティングしてもタイヤがよれず、低圧でも安心して乗ることができるので普段より低圧にセットしてトラブルの可能性を下げても良いでしょう。これもビードとリムの相性があると思いますが、今のスコープとIRCの組み合わせは問題なく、安全に乗ることができると感じています。
「チームに供給されているホイールだと素手で装着できました」辻善光
―組み合わせといえば辻さんはTwitterに素手で嵌めている動画を投稿していましたね。(その投稿→こちら)辻:周りからはチューブレスタイヤは装着しにくいと言われていましたが、ロード用チューブレスを扱うのは初めてでも素手で上げられました。取り付け時に石鹸水やワックスを使うと良いことを知らなかったので、最初の一本はその作業は行っていません。でもフロアポンプでビードを上げられましたし、その後エア漏れが過剰に発生することもありませんでした。ただ組み合わせ次第というところもあるのでしょうし、初めて装着作業を行う場合は誰かに習ったほうが良いと思います。
高木:僕もスコープのホイールは素手で嵌めることができましたが、マヴィックのCOSMIC PRO CARBON USTはタイヤレバーを使いました。それでも非常に力のいる作業でしたよ。
綾野(CW編集長):マヴィックに関して補足すると、USTの専用タイヤでもレバーを使う場合があるんだよね。マヴィックの中でもアルミリムの場合は手で簡単に装着できたりするから、本当に微妙な相性の問題としか言えないと思う。
―パンクした時はシーラントの効果に期待したほうが良さそうですね。
辻:チューブラーを使っていた時からなんですが、僕はライドにはIRCのファストリスポーンを2本だけしか持っていかないんですよ。ポンプも持ちません。大体のケースはファストリスポーンでパンクを直せますし、付属するアルミのバルブアダプターを使えばディーラーや整備工場、ガソリンスタンドなど車関係の施設にあるエアコンプレッサーで空気を充填できるようになります。仏式バルブに対応するポンプを持つ自転車屋は田舎には無いですし、数も圧倒的に少ないですから、クルマ屋さんを頼りにできれば心強いですよね。実際に僕は救われたことがあります。
―ビードを上げた後、タイヤからの空気抜けはどの程度起こるものでしょうか。
辻:1週間で1気圧程度でしょうか。ブチルチューブを使ったクリンチャーと同等でしょう。僕は毎日乗る前に空気圧をチェックしますが、抜けが少ないとポンピングの回数が少なくて済みますね。チューブレスタイヤは「朝になったら抜けている」と聞いていたので、そのイメージからすると全然抜けていないです。
高木:それでもトラブルを未然に防ぐという意味で、走り出す前に空気圧はチェックしたほうが良いでしょうね。
「レースで使用できるほど信頼できるタイヤ」辻善光
―最後に新型Formula Pro Tubeless RBCCはどのようなタイヤと言えるでしょうか。辻:どんなシチュエーションでもマッチして、誰でも使えるタイヤです。人によっては性能的に尖っている部分が欲しくなる人もいるかも知れませんが、そういう方は丈夫なX-GUARDや軽いS-LIGHTを視野に入れてもいいと思います。
プロとしてはタイヤへの信頼が重要です。タイヤを信頼できてないと勝てません。僕が現役の頃、広島森林公園サーキットで雨が降った時はタイヤのグリップ力が足りないチームだけが集団後方に取り残されることも普通に起きていました。タイヤで勝負が分かれてしまうんです。そういったことを考慮しても新型Formula Proは信頼に足るタイヤだと思いました。
―ありがとうございます。
耐パンク層を加えた高耐久モデル「X-GUARD」
この項でピックアップするのは耐パンク層「クロスガード」について。第1ページ目で紹介した新RBCCと上述したNR-TEX IASで構成される中心的モデルFormula Pro Tubeless RBCC。そこにクロスガードを加えたモデルがFormula Pro Tubeless X-GUARDだ。
クロスガードとは強度に優れるナイロン繊維を使用した40×40tpiのクロス織りメッシュ。これを左右のビード間の全面に挟み込むことで、ドライとウェット時ともにサイドカットの抵抗値を約40%向上させている。RBCCモデルと比較すると重量がやや増加するものの、ホビーライドで長期間に渡って使用したい場合は役に立ってくれる技術だ。
ちなみに今作のFormula ProではRBCCの耐摩耗性の進化により、トレッドを薄くすることに成功。RBCC、X-GUARDモデルいずれも20gほどの軽量化を達成している。今作のX-GUARDモデルは、前作RBCC比で重量のディスアドバンテージ無く、耐パンク性を獲得できたタイヤと言えるだろう。
サイズ | 重量 | 空気圧 | 価格 |
700×25C | 300g | 600~800kPa、6.0~8.0kgf/cm2、90~115PSI | 7,600円 |
700×28C | 345g | 550~700kPa、5.5~7.0kgf/cm2、80~100PSI | 7,600円 |
700×30C | 370g | 450~600kPa、4.5~6.0kgf/cm2、65~90PSI | 7,600円 |
Formula Pro Tubeless X-GUARDインプレッション
「X-GUARDは巡航が得意なタフなタイヤ」高木三千成
剛性が高く、トレッドがしなやかという点はRBCCと似ていましたが、耐パンク層が加わったためか、タイヤ自体の剛性感は若干高くなっているような印象もあります。ただ、不快に繋がる硬さではなく、コーナーリングやダンシング時にかかる横方向の力に対し、しっかりしているタイヤだなと安心感を抱かせる硬さです。
加速時にはやや重さを感じますが、スピードを一定にして走る時は高速、低速どちらでも軽快に進んでくれます。コンパウンドの軽さや転がり抵抗の小ささが効いているのでしょう。巡航が得意なタイヤという印象ですね。空気圧が低いと重量の重さに気が付きやすくなるので、ワイドタイヤだからといって低めに設定するのではなく、いつも通りの設定でいいと思います。自分の適性空気圧はRBCCと同じ6.5barほどでした。
今回試したのは28Cということもあり、コーナリングで車体を傾けられる幅が広く、荒れた路面で受ける衝撃も25Cよりも穏やかでした。重量を気にするのであればX-GUARDの25C、RBCCの28Cを選んでも良いでしょう。
耐パンク層が設けられたことで、ホイールに装着する時に硬さを感じられるかなと思っていましたが、RBCCと同じように素手で簡単に嵌めることができました。チューブレスはホイールとの組み合わせで装着の難易度は変わってくるので、スコープのホイールとIRCのタイヤは相性が良かったのでしょう。
X-GUARDの美点は耐パンク層による安心感で、細かいことを気にせずガンガン走れるところです。サイクリングやブルベといったシチュエーションにマッチすると思います。また、練習はX-GUARDで、レースはRBCCといった使い方も良いでしょう。
提供:IRC 制作:シクロワイアード編集部