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2017年シーズン、ロット・スーダルと現ユンボ・ヴィズマのスプリンターが着用していたヘルメット「Bullet(バレット)」がいよいよ日本でも発売されることとなった。現在はBullet 2.0 AFとアップデートが加えられた最新モデルの詳細を紐解いていこう。

フルーネウェーヘンのスプリントを支えるセミエアロ「Bullet 2.0」

タイム差1秒以下で勝敗が決するスプリント。選手たちはライバルよりも1mmでも前でフィニッシュラインを通過するべくトレーニングを積み重ねている。バイクやウェアを始めとする各機材メーカーも選手を勝たせるべく、エアロダイナミクスを追求したプロダクトの開発の努力を惜しまない。そのような極限の世界において、ヘルメットにも空力という考えが反映されるのは必然だ。

2019年シーズン開幕直後から2勝を挙げているディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)2019年シーズン開幕直後から2勝を挙げているディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ) (c)CorVos
ヘルメットにおいてエアロダイナミクスの追求はシェルのベンチレーションホールを廃し、空気を綺麗に後方へ流すことが主な手段となっている。特に、タイムトライアルに用いられているヘルメットは快適性を犠牲にしてでも、1秒を稼ぐための空力を最優先する設計となっている。

しかし長くとも1時間程度で終わるタイムトライアルならばともかく、競技時間が4時間にも及ぶロードレースでは、ヘルメット内部に熱がこもり続けるのを我慢し続けることは難しく、またパフォーマンスへも悪影響を与える。そこで各社はロードレース用ヘルメットとして、可能な限りエアロダイナミクスを犠牲にしない丸みを帯びたシェルに、幾つかのベンチレーションホールを設けたモデルを開発している。

レイザーはこれまでZ1のベンチレーションホールを塞いだバージョンを選手に供給していたが、2017年シーズンよりBulletシリーズを選手に供給。2019年にはBullet 2.0へとすぐにアップデートが加えられた。ツール・ド・フランスでディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)がステージ2連勝を果たした時のヘルメットと言えば印象に残っている方もいるだろう。日本では遂にBullet 2.0のアジアンフィットモデルが販売開始となる。

フランダースバイクバレーの風洞で生まれたエアロシェイプ

エアロダイナミクスを重視した作りのBullet 2.0 AFエアロダイナミクスを重視した作りのBullet 2.0 AF
Bullet 2.0 AFは楕円形を半分に切ったような流線型のシェルデザインを採用したモデル。表面は空気の流れを導くかのように数カ所に段差があるデザインとなっている。また、後端部が切り落とされたようなデザインは頭を下げた時の空気抵抗の増加を防ぐとともに、ヘルメット内部から熱気の排出を促してくれる。

Bullet 2.0 AFの生まれ故郷となるのが、「フランダースバイクバレー」。レイザーを始めとするベルギーの自転車企業が出資して設立された施設で何度も風洞実験を重ね、最適化されたデザインが与えられている。具体的な数値は公表されていないものの、フルーネウェーヘンが僅差のスプリントで勝利を挙げていることからも空力は期待できそうだ。

空気の流れを妨げるものが無いようなスリークなシェル形状空気の流れを妨げるものが無いようなスリークなシェル形状
単純な丸形ではなく、後頭部が独創的な形状となっている単純な丸形ではなく、後頭部が独創的な形状となっている 後頭部は大胆な切り欠きが設けられている後頭部は大胆な切り欠きが設けられている

そしてBullet 2.0 AFに付属しているマグネット式レンズを使用すれば、タイムトライアル用ヘルメットを用意せずとも頭部周辺のエアロダイナミクスを追求することができる。顔の半分を覆うため通気性など犠牲にする面もあるが、クリテリウムやTT競技など短距離短時間のレースで活躍してくれるはずだ。このレンズはUCIルールでは使用が認められていないパーツのため、もし使用したい場合は参加するレースのルールを試合前に確認しておく必要がある。

走行中にレンズが不要だと感じた場合は、頭頂部に固定しておくことも可能。ヘルメットの曲線にフィットするレンズ形状であり、ヘルメットの空力を阻害しにくくなっているデザインだ。また、頭頂部に取り付けるため、通気口や排気口を通る空気の流れを妨げにくい。

レンズが付属されているためエアロを重視した使い方もできるレンズが付属されているためエアロを重視した使い方もできる
レンズはヘルメット後方、エアロを阻害しないように装着できるレンズはヘルメット後方、エアロを阻害しないように装着できる 付属するレンズは22g付属するレンズは22g


必要不可欠な通気性を確保するテクノロジー AIR SLIDE

先に述べたように競技時間の長いロードレースにおいて通気性は必要不可欠、かつ重要な性能の1つ。Bullet 2.0 AFでは、ベンチレーションホールを設けることはもちろん、AIR SLIDE(エアースライド)というテクノロジーを投入することで、通気性とエアロダイナミクスの両立を目指した。

AIR SLIDEはヘルメット前頭、中央部に配されたスライダーのこと。スライダーを上げると前頭部分にベンチレーションホールが生まれ、下げるとベンチレーションが閉じる至ってシンプルなシステムだ。見ての通りAIR SLIDEは空力と通気性どちらかの性能を優先させる仕組みであり、片手でスライダーを操作することができる。快適に過ごしたいレース序盤はスライダーを上げた状態で、ライバルよりも1秒でも前へ進む、1ワットでも空気抵抗を削減したい場面ではスライダーを下げた状態といった使い方が主になる。

Bullet 2.0 AFの肝となるテクノロジーは中央部のAIR SLIDEBullet 2.0 AFの肝となるテクノロジーは中央部のAIR SLIDE
スライドを上げるとベンチレーションホールが現れる。内側の銀色のシャッターも開いているスライドを上げるとベンチレーションホールが現れる。内側の銀色のシャッターも開いている
AIR SLIDEは前後のパーツで構成されており、標準で付属する前2種類、後ろ2種類のパーツでヘルメットの性格を変えるカスタマイズが可能となっている。各パーツは通気口が設けられているか否かの違いであり、文字通り通気口が備えられたパーツはヘルメットの快適性を向上させることができる。一方で通気口無しのパーツは軽量性に優れている上、スリークなデザインがさらなるエアロダイナミクス向上を期待させるものだ。

前側の通気口ありパーツは、中にスライダーの動きに合わせて可動するシャッター(中に見える銀色の部分)が備え付けられており、AIR SLIDEを上げるとそのシャッターも開くというユニークな構造となっている。通気口なしバージョンと比較するとヘルメット内側に流れ込む空気の量は非常に多いはずだ。

通気性への配慮はAIR SLIDEだけではなく、ヘルメット内側のシェル形状にも表れている。Bullet 2.0 AFは深めの溝が設けられており、頭から発した熱と湿気が通気口から流入した新鮮な空気によって後ろへ押し出されやすくなっている。メインとなるエアチャネルはAIR SLIDE内側の中央部となる。前頭部から排気口まで一直線で繋がっており、高い通気性を期待させる。後頭部の長いシェルは、ヘルメット後方で発生する乱気流が排気を妨げないようにするためだろう。

メインパーツのシャッター付き前スライド(33g)メインパーツのシャッター付き前スライド(33g) 軽量性、エアロダイナミクスを重視したい場合はシャッターなしのを選べる(20g)軽量性、エアロダイナミクスを重視したい場合はシャッターなしのを選べる(20g)

後頭部のエアインテークは通気性に大きな影響を与えている(20g)後頭部のエアインテークは通気性に大きな影響を与えている(20g) 後方パーツも通気口がないバージョンが用意されている(15g)後方パーツも通気口がないバージョンが用意されている(15g)

メインのチャネルが額(シェルの縁)まで貫かれていることもBullet 2.0 AFの通気性向上に貢献している。ヘルメットと頭が接し熱がこもりやすい額部分に風の通り道を設けることで、熱がこもりにくくなっているはずだ。このチャネルのおかげでAIR SLIDEを閉じた状態でもある程度の通気性は期待できるだろう。

Mサイズの帽体単体(AIR SLIDEシステムを除く)の重量は307g。AIR SLIDE(前パーツ)のシャッターありは33g、シャッターなしは20g、AIR SLIDE(後パーツ)の通気口ありは20g、通気口なしは15gという重量スペックとなっている。レンズは22gだ。紹介した写真の各パーツは全て付属しているのも嬉しい。好みや走行スタイル、シチュエーションに合わせてカスタマイズが可能だ。

安全性やフィット感を大切にするレイザー

Bullet 2.0 AFはロールシスではなくダイヤル式のアジャスターを採用する。このアジャスターにはボタン電池で稼働する赤色LEDリアライトが内蔵されており、購入した直後から点灯可能となっている。レーシングモデルながら、被視認性を考慮するところからレイザーの安全性に関する姿勢を感じ取れるはずだ。また、レイザーを象徴するテクノロジーの1つ、額で心拍数を計測できるLIFE BEAMにも対応。

パッドに使用される素材は吸汗速乾性、抗菌性に優れるX STATICだパッドに使用される素材は吸汗速乾性、抗菌性に優れるX STATICだ 後頭部をしたから支えるようなブラケットが備えられている後頭部をしたから支えるようなブラケットが備えられている

また、帽体はBlade AF、Century AFと同様にアジアンフィットが採用されている。アジアンフィットは横幅が+3.4%サイズアップ、縦幅が-2.8%サイズダウンされ、丸型頭に適した形状となっている。計5種類のモデルが用意されるレイザーのラインアップの内3種類もアジアンフィット仕様となり、アジアン・フレンドリーなブランドとして位置づけても良さそうだ。

予想を上回る通気性を備えたエアロヘルメット

Bullet 2.0 AFを試したCW編集部の藤原Bullet 2.0 AFを試したCW編集部の藤原
Bullet 2.0 AFは、Z1やCentury AF、Blade AFといったヘルメットと比較すると、高速巡航できる脚力のサイクリストにうってつけのヘルメットだ。このヘルメットが至上命題とするエアロダイナミクスと通気性の恩恵を最も感じられるのは、やはり高速域となる。空力に関しては、コンピューター上での計算を生身の人間がそのまま感じることは難しいが、空気抵抗はスピードの増加とともに大きくなるものであるため、ハイスピード走行している時にエアロシェイプのメリットを享受できるはずである。

フランダースバイクバレーの風洞実験を経て生み出されているBullet 2.0は、従来のラインアップよりも空力性能に優れているからこそレースに投入されている。そうでなければ選手たちはより軽いZ1を使うはずだ。具体的な数値を見なくともレースにおける彼らの選択を見れば、Bullet 2.0の空力性能の高さは示されているとも言えよう。

スライダーは手で簡単に操作することができるスライダーは手で簡単に操作することができる ヘルメット後方と頭部が接触しない作りとなっているヘルメット後方と頭部が接触しない作りとなっている


これはもちろんエアロ効果がわかりにくいと言うことではない。例えば、一昔前のエッジのたったデザインのヘルメットであればシェル外側に空気の流れや風切り音を感じるが、Bullet 2.0の場合、それらは一切ない。エアロダイナミクスの効果を何ワットの低減、何グラムのドラッグ量低下と定量的に感じることは難しいが、これが空力の良いヘルメットなのだろうという感触は得られる。もちろんアイウェアなどが空気を乱している可能性もあるが、それを考慮しても帽体周辺は非常に良いエアロダイナミクスを期待できる。

AIR SLIDEに留まらないBullet 2.0 AFのベンチレーション

次に通気性について。AIR SLIDEを開けると風がヘルメットに吹き込んでくるわけだが、風を風として認識できたのは30km/hほどで走行している時からだった。低速で巡航していると「エアロヘルメットであるし、これだけ通気性があれば良い方だろう」とそんな気持ちだが、スピードを上げると「思っていたよりも風を感じる」とイメージが変わっていた。

Bullet 2.0 AFは一見すると通気性を犠牲にしているように見えるが、実際は想像した以上に風を感じられる。AIR SLIDE(シャッター付き)を開けた状態では、単純に空間が開く額部分より、シャッター部分のほうが空気が流れ込んでくる。熱がこもっている場所に直接風が当たるため、涼しさを感じられるのだ。

中央を走る溝によって頭部の熱を後方へと送っている中央を走る溝によって頭部の熱を後方へと送っている
最も不思議に感じたポイントはベンチレーションホールが設けられていない部分。具体的にはシェル外側のLAZERステッカーが貼られている部分にあたる。ここで何故か風の流れを感じることができるのだ。この部分に設けられている浅めの窪みが排気用のベンチレーションホールに接続しているのだが、見た目以上に効果を発揮しており、エアロ系ヘルメットにも関わらず熱がこもらないという印象を与えているのだろう。

次点で興味深い通気性を感じたのは頭頂部のベンチレーション。この通気口は頭に直接風を当てる部分ではないにも関わらず、空気の流れを感じるのだ。おそらくシェル外側の気流を引き込んでいるのだろう。AIR SLIDEを閉じたときの方が後頭部の気流を感じやすいため、額部分から取り込んだ空気を頭頂部から流れ込んだ空気が掻き出しているのだと考えられる。

この通気性に大きく貢献しているのは額から後頭部まで貫く中央のチャネルだ。このチャネルが設けられていることで、額もしくはAIR SLIDEのベンチレーションから取り込まれた空気は、ヘルメット内で留まることなく後方へと流れていく。新鮮な空気がヘルメットに入り快適さを感じるだけではなく、ストレスの原因を減らす方向の通気性を備えていると言ってもよいだろう。

通気口のない溝も通気性に貢献しているようだ通気口のない溝も通気性に貢献しているようだ 額部分は大きな溝が設けられている額部分は大きな溝が設けられている

アジャスターにはLEDリアライトが仕込まれているアジャスターにはLEDリアライトが仕込まれている ボタン電池式となっており、交換の際はLEDこと引き出すボタン電池式となっており、交換の際はLEDこと引き出す

付属しているAIR SLIDEのオプションパーツによって通気性が変わるのは面白いギミックであり、購入した方はぜひ一度各組み合わせを試して、好みの状態を把握しておくと良いだろう。AIR SLIDE前方パーツをシャッターがないものに切り替えると、ベンチレーション開放状態では控えめな空気流入に切り替わる。エアロヘルメットのイメージに近い通気性を再現していたのはこの状態だ。相対的に見ると、シャッター付きパーツの通気性の良さが際立つ結果となった。

AIR SILDE後部パーツは、前段で通気を生み出していると説明したが、ベンチレーションを閉じた状態にしても、実感として大きな差は生じなかった。空気が流れている感覚は薄れ、頭頂部付近に熱がこもる感覚はあるのだが、先述したような「エアロ系ヘルメットってこうだよね」という先入観の枠に入っている程度。

後頭部のエアホールも通気性に貢献している後頭部のエアホールも通気性に貢献している

アジアンフィットは典型的丸型頭に救いの手を差し伸べる

最後にヘルメットには欠かせないフィット感について。テストしたのはカブトの(S/M)サイズがベストフィットというCW編集部・藤原(頭囲58cm)。典型的丸型頭であり、少し横幅が広い欧州モデルですらこめかみ辺りに痛みを感じるため、ヘルメットの選択肢はいつも限られている。

そんな筆者でもBullet 2.0 AFは鉢周り、前頭において形状がピタリと頭にマッチ。頭に点で当たる部分がなく、面で当たるため痛みなどは発生しない。帽体が深く、バスケットが頭の形状にフィットする設計されていることもあり、頭が包み込まれているような感覚を受け、非常に強い安心感を覚える。

後方の切欠きから排出される空気は背中の方に流れていくようだ。ヘルメット後方LAZERロゴ部分のシェルが頭と触れていないことが、通気口の様子からわかるだろう後方の切欠きから排出される空気は背中の方に流れていくようだ。ヘルメット後方LAZERロゴ部分のシェルが頭と触れていないことが、通気口の様子からわかるだろう
フィット感良し、通気性良し、見た目良しと三方良しのBullet 2.0 AF。エアロ系ヘルメットだからある程度の快適性は犠牲にする人には、驚きを与えてくれるはず。ベストマッチするシチュエーションは限られるプロダクトであるが、フルーネウェーヘンの勝利を支えた性能は確かなもの。エアロダイナミクスを求めるライダーにこそマッチしたスペシャルなヘルメットである。

Bullet 2.0 AF プロ選手のスプリントと安全に貢献するエアロ系フラッグシップ

レイザー Bullet 2.0 AF(レッド)レイザー Bullet 2.0 AF(レッド) (c)シマノ
レイザー Bullet 2.0 AF(ホワイト)レイザー Bullet 2.0 AF(ホワイト) (c)シマノレイザー Bullet 2.0 AF(マットブラック)レイザー Bullet 2.0 AF(マットブラック) (c)シマノ

サイズM、L
カラーマットブラック、ホワイト、レッド
価格27,000円(税抜)
提供:シマノセールス 文&写真:藤原岳人 写真:綾野真