CONTENTS
ロードレーサー用チューブレスタイヤを牽引するジャパンブランド「IRC」。そのトップモデルである「フォーミュラPRO」シリーズがモデルチェンジを果たした。チューブレスタイヤの歴史ともいえるモデルの歴史と開発の過程を見てみよう。

ロード用チューブレスの歴史を築いてきたIRC

初のフルモデルチェンジを果たしたIRC Formula PRO TUBELESSシリーズ初のフルモデルチェンジを果たしたIRC Formula PRO TUBELESSシリーズ photo:Makoto.AYANO
ロードレーサー用チューブレスタイヤがデビューしたのは今から遡ること9年前。フランスのハッチンソンとジャパンブランドであるIRCがほぼ同時にチューブレスタイヤをリリース。チューブラーとクリンチャーに並ぶ、新たな存在としてチューブレスという選択肢が生まれた。

それから現在に至るまで、チューブレス対応ホイール、そしてロード用チューブレスタイヤを製造するブランドは年々増加しており、ハイエンドなプロダクトに絞ってみればクリンチャータイヤと遜色ないレベルにまでその選択肢は広がってきている。

多数の競合他社が参入してきたとはいえ、リーディングブランドたるIRCがロード用チューブレスタイヤ市場において見せる存在感は極めて大きい。それはデビュー以来、フォーミュラプロシリーズの進化のためにIRCの開発陣がたゆまぬ努力を重ねてきた結果である。

9年の歴史の中で進化し続けてきたIRCのロード用チューブレスタイヤ

新型Formula PRO TUBELESSの開発に大きくコミットしたプロコンチネンタルチーム「NIPPOヴィーニファンティーニ」新型Formula PRO TUBELESSの開発に大きくコミットしたプロコンチネンタルチーム「NIPPOヴィーニファンティーニ」 (c)Sonoko TANAKA
少し歴史を振り返ろう。2007年のデビュー当時、初代フォーミュラプロはコンパウンド別にHCとSCの2種類が用意された。そして、第2世代として走りの軽さを追求した「トップシークレット」がデビュー。内側のシールゴムを天然ゴム系素材に置き換えると同時にトレッドにも特殊なゴムを採用し、走行抵抗を低減した尖ったモデルだった。ただ、転がりの軽さと引き換えに雨天時のグリップが低くなってしまうという面も抱えていたという。

そんなトップシークレットのネガを潰しつつ生まれたのが「ライト」である。第3世代といえるこのモデルはトレッドゴムは通常仕様に戻しつつ、ケーシングのアングルを工夫することで、転がりの軽さとグリップを両立。そして先代となる4代目はケーシング密度を180TPIに引き上げることで大幅な軽量化を達成。それまで300g台だったチューブレスタイヤを一気に250gまでダイエットすることに成功したのだ。

NIPPOからのフィードバックでフルモデルチェンジを果たした新型Formula PRO

トップレースの現場でIRCのタイヤとともに活躍するNIPPOヴィーニファンティーニトップレースの現場でIRCのタイヤとともに活躍するNIPPOヴィーニファンティーニ (c)Sonoko TANAKA
チームカーに積まれたスペアタイヤの半数以上がフォーミュラプロチューブレスだチームカーに積まれたスペアタイヤの半数以上がフォーミュラプロチューブレスだ レース前にコースについてスタッフと打ち合わせをするチームユーラシアIRCの橋川健監督レース前にコースについてスタッフと打ち合わせをするチームユーラシアIRCの橋川健監督 photo:Sonoko TANAKA


このように、アップデートを続けることで性能の向上を図り続けてきたフォーミュラプロシリーズだが、今回のフルリニューアルに際しては金型やケーシング、トレッドゴムに至るまでありとあらゆる要素が刷新されることとなった。その背景には、プロコンチネンタルチームであるNIPPOヴィーニファンティーニとの密接な協力関係がある。

軽量なホイールが使用できる関係で、チューブラータイヤが好まれる傾向があるレース現場にも関わらず、NIPPOヴィーニファンティーニは実戦でもチューブレスタイヤを投入。多くの成績を挙げるとともに、貴重なフィードバックを開発陣にもたらしてくれたという。

スリックから杉目のトレッドパターンへ

伝統的な杉目のトレッドパターンを採用し、コントロール性を高めた伝統的な杉目のトレッドパターンを採用し、コントロール性を高めた photo:Makoto.AYANO選手たちが実際にテストしていたプロトタイプ 既にサイドにまでトレッドパターンが配置されていることがうかがえる選手たちが実際にテストしていたプロトタイプ 既にサイドにまでトレッドパターンが配置されていることがうかがえる


選手からのリクエストの中でも代表的なものが、今回採用されたトレッドパターンだ。これまでのモデルでは、実験データにおいて絶対的なグリップ力が上回っているという理由からスリックを採用していたというが、選手からはピークのグリップが落ちてもトレッドをつけて欲しいというリクエストがあったという。

雨天時のグリップ感をより信頼できるものへと進化させることに成功した雨天時のグリップ感をより信頼できるものへと進化させることに成功した 土砂降りのスタート地点で。NIPPOヴィーニファンティーニの選手はFormula Proシリーズを使用する土砂降りのスタート地点で。NIPPOヴィーニファンティーニの選手はFormula Proシリーズを使用する photo:Makoto.AYANOトップレースの現場で戦う選手たちにとっては、転がり抵抗が低く、データ上で優秀なグリップを発揮するタイヤよりも、挙動をつかみやすく、安心して下りを攻めることのできるタイヤこそが必要とされるのだ。

それは、実験での数値だけでは出てこない、リアルな「感覚」からくる信頼性がレースの現場では極めて大切だということだ。

トレッドパターンの採用について、「ライダーなら皆が経験したことがある、気持ちに"ビビリ"が現れた瞬間に身体が固まり、急にコーナーの壁側へ吸い込まれていくあの感覚。実験データの数字だけでは分からない改善部分が選手からのフィードバックで現れた典型的な例ですね。」と話すのはNIPPOの福井響メカニック。

新フォーミュラシリーズに採用されるのはセンタースリックの杉目パターン。ライダーの持つグリップの感覚と実際に滑り出す感覚を近づけられるようにテストを重ねることで、いくつものパターンの中から採用に至ったもの。そのトレッドパターンをサイド部分にまで採用することで、深いバンク角でも安心して倒しこむことができる感覚を実現した。

選手からの信頼につながるチューブレスタイヤの耐パンク性能

そして、レース機材としてもう一つ重要なものが、トラブルフリーということ。石畳や簡易舗装など、タイヤにとっては過酷な条件が揃っている欧州のレースにおいては、チューブレスタイヤの持つ耐パンク性能の高さはとても大きな武器となる。サイドまで回り込んだトレッドはその意味においても大きなメリットをもたらしてくれた。

グラベル区間が連続するストラーデビアンケでノートラブルだった唯一のチームがIRCのサポートするNIPPOヴィーニファンティーニだ ※ライダーはリカルド・スタキオッティグラベル区間が連続するストラーデビアンケでノートラブルだった唯一のチームがIRCのサポートするNIPPOヴィーニファンティーニだ ※ライダーはリカルド・スタキオッティ (c)Bettiniphoto
NIPPOヴィーニファンティーニが2015年から2年連続で参戦した「ストラーデビアンケ」において、タイヤにまつわるトラブルが全く発生しなかった唯一のチームであることは、特筆すべき実績といえるだろう。「無駄なエネルギーを浪費することなく、本来の仕事に集中できることは大きなメリットとなっている」と、チームのアシスト陣には特に好評を得ているという。

選手の感覚に近いグリップ感と高い耐パンク性能で、現場の選手たちから多大な信頼を獲得することに成功した新型「フォーミュラプロ」。そのラインアップは米ヌカをコンパウンドに採用した高いグリップを誇るオールラウンドモデル「RBCC」と、重量と転がり抵抗の低減を図った「Light」、そして耐パンクメッシュを全面に貼りめぐらせた「X-Guard」の3種類だ。

次回からは、この3つのタイヤを元プロロードレーサーである宮澤崇史さんのインプレッションと共に紹介していこう。

IRC Formula PRO TUBELESS RBCC

IRC Formula PRO TUBELESS RBCCIRC Formula PRO TUBELESS RBCC photo:Makoto.AYANO
シリーズのベーシックモデルに位置づけられるのが「Formula PRO TUBELESS RBCC」。米ヌカを原材料の一部とするIRC独自のコンパウンド「RBCC」によって、ドライからウェットまでシチュエーションを問わず優れた走行性能とグリップ力を発揮するタイヤだ。700×23C、700×25C、700×28Cの3サイズがラインアップ。レースからロングライド、トレーニングまで様々なシーンに対応してくれるだろう。

スペック

形式チューブレス
コンパウンドRBCC
ビードフォルディング
サイズ(重量/推奨気圧)・700×23C(255g/6.0~8.0bar)
・700×25C(275g/6.0~8.0bar)
・700×28C(320g/5.5~7.0bar)
価格7,600円



IRC Formula PRO TUBELESS Light

IRC Formula PRO TUBELESS LightIRC Formula PRO TUBELESS Light photo:Makoto.AYANO
「Formula PRO TUBELESS Light」は、その名のとおり軽量性にフォーカスしたモデルで、ロード用チューブレスタイヤとしては軽量な245g(700×23C)をマーク。同時に断面形状の最適化やトレッドのワイド化などの改良により、走行性能、耐パンク性、扱いやすさが向上している。サイズは700×23C、700×25C、700×28Cの3種類。ロードレースやヒルクライムにオススメだ。

スペック

形式チューブレス
ビードフォルディング
サイズ(重量/推奨気圧)・700×23C(245g/6.0~8.0bar)
・700×25C(265g/6.0~8.0bar)
・700×28C(300g/5.5~7.0bar)
価格7,600円



IRC Formula PRO TUBELESS X-Guard

IRC Formula PRO TUBELESS X-GuardIRC Formula PRO TUBELESS X-Guard photo:Makoto.AYANO
「Formula PRO TUBELESS X-Guard」は、耐パンク性を重視したエンデュランスモデル。40x40tpiメッシュの耐パンクガードでタイヤ全体を覆うことで信頼性を高めている。サイズは700×25Cと700×28Cの2種類で、ブルベイベントや荒れた路面を走るレースなどに最適である。

スペック

形式チューブレス
耐パンクベルトX-Guard
ビードフォルディング
サイズ(推奨気圧)・700×25C(300g/6.0~8.0bar)
・700×28C(340g/5.5~7.0bar)
価格7,600円



インプレライダーのプロフィール

宮澤崇史宮澤崇史 宮澤崇史(みやざわたかし)

高校卒業後、イタリアのチームに所属しロードレーサーとしての経験を積む。しかし23歳の時に母に肝臓の一部を生体移植で提供、成績振るわず戦力外通告によりチーム解雇される。その後フランスで単独活動、オリンピック出場や 日本チャンピオン、アジアチャンピオンなど実績を重ねる。イタリアのアミーカチップス、ファルネーゼヴィーニを経て34歳の時にUCIプロチーム サクソバンクに所属。在籍中にリーダージャージ(個人総合時間賞)・ポイントジャージ(スプリントポイント賞)に日本人選手として唯一袖を通した。18年間の海外レース活動を経て、2014年に引退。現在はチームマネジメントやコーチング、スポーツサイクリング関連のアドバイザーやメディア出演など多方面で活躍。
提供:IRC 制作:シクロワイアード編集部