今回のブレインバイクに来日したサーヴェロの首脳陣たち。本章では注目を集めるCシリーズの開発ストーリーを、サーヴェロ創業者で現代表を務めるフィル・ホワイト氏と、チーフエンジニアであるグラハム氏に聞いた。

「ここ数年で自転車の楽しみ方は変化した」

ーホワイト代表、サイクルモードに続く来日ですが、今回の印象はいかがでしたか?

ホワイト氏:日本のディーラーと直接話ができる機会を持つことができて良かった。サーヴェロに対する印象や、スモールサイズの要求など、今回のツアーでは日本を初めとするアジアならではのニーズも聞くことができたし、これからのサーヴェロにとって有益な旅となったよ。

代表であるフィル・ホワイト氏をはじめ、主要メンバーが来日した代表であるフィル・ホワイト氏をはじめ、主要メンバーが来日した
ーそれは良かった。さて、私自身カリフォルニアの発表会でCシリーズをテストした際はその走りに驚かされました。快適性と走りの軽さのバランスが非常に高かったのですが、サーヴェロにとっては難しいチャレンジだったのではないですか?

フィル・ホワイトサーヴェロ代表フィル・ホワイトサーヴェロ代表 サーヴェロの新たな境地を切り拓くCシリーズサーヴェロの新たな境地を切り拓くCシリーズ Photo: Jered Gruber2007年のパリ〜ルーベに投入された特別マシン2007年のパリ〜ルーベに投入された特別マシン photo:Makoto.Ayanoホワイト氏:C3の開発は、サーベロ社の従来の価値観や歴史などを抜きにして始まった。プロチームの使うレーシングバイクばかりではなく、とても快適な、ラグジュアリーなバイクを作ってみたかったんだ。

サーヴェロには2003年にチームCSCとパートナーシップを組んで以来ずっとプロレースと密接に関わってきた。クラシックレースの石畳やダートを攻略するには、太いタイヤを装着できるフレーム設計が必要だが、チームからのリクエストもありクラシックレースを勝てるバイクが欲しかったが、当時はまだそこまで重要と捉えていなかったんだ。

しかし最近はサイクリストのスタイルがここ数年で大きく変わってきた。今まではレースやいかに速く長い距離を走るかが中心だった。そう、サーヴェロ自体がそうだったように。でも今やグランフォンドやロングライドが脚光を浴び、「グラベルロード」というカテゴリーも確立した。プロチーム以外にも、ディーラーからワイドタイヤに対応するモデルの開発を要求されたりもしたんだ。25Cがメジャーになったけど、さらに太いタイヤを履ければ良いと考えた。また、チームには泥つまりや快適性向上のためにホイールベースを伸ばし、タイヤクリアランスを広げた特別モデルを供給していたので、Cシリーズを作るための下地は整っていたと言える。 

でもグラベルロードは未舗装路向けで、ロードバイクは舗装路向け。市場を見渡しても、これら全てを一台でこなせるバイクは存在しなかった。だからディスクブレーキやスルーアクスルといった新しい技術を用いて、自分たちで作ってしまった。これが「グラベルロードとレースバイクの中間」たるCシリーズが生まれた経緯なのさ。

Cシリーズの完成度そのものには、私たち自身とても満足している。今までレースバイクをロングライド用として使っていたサイクリストなら、絶対にその良さを理解してくれると自負しているよ。

ー数年前には快適性を重視した「RS」がリリースされましたが、それとは全くフォルムが異なりますね?

グラハム氏:RSシリーズは快適性を高めつつ、プロ選手の使用にも応える性能を与えたモデル。設計した年代もコンセプトも異なりますが、Cシリーズ開発に当たり参考には取り入れています。例えばベンドしたシートステー。RSではリアバックの内側に入り込むよう曲げを持たせましたが、Cシリーズは曲げが外向きです。これはディスクブレーキの位置を確保するためで、また、シートチューブとの交点を下げたことでリアバック全体を板バネのように動かし、振動吸収性を大幅に高めています。これはRSには無かった発想です。

サーヴェロのテクノロジーについて語るエンジニアチーフのグラハム氏サーヴェロのテクノロジーについて語るエンジニアチーフのグラハム氏
もちろんディスクブレーキに合わせて投入したスルーアクスルも新しいシステムです。構造体として強度が出せるし、独自の構造でこれまでのスルーアクスルが慢性的に抱えていた問題にも対応しています。ブレーキローター径は140mmと160mm、フラットマウントもポストマウントも使えるようにしつつ、長いチェーンステーで正しいチェーンラインを導き出すのは難しいチャレンジでした。

ホワイト氏:それに加えて、チューブの形状も一新している。名称こそ伝統の「スクオーバル」だが、前作の「スクオーバル2」をより扁平化させた「スクオーバルIPC」という断面形状を用いたんだ。これによって柔軟性を大きく増すことができた。ジオメトリー的にパリ〜ルーベなどのプロレースへの投入は難しいけれど、次に繋がるエポックメイキングなバイクに仕上がった。

「F1同等レベルのカーボン技術が我々の強み」

グラハム・シュライブ氏グラハム・シュライブ氏 「間違いなくディスクブレーキはより一般的になる」「間違いなくディスクブレーキはより一般的になる」 Photo: So.IsobeートレックはIsoSpeed、スペシャライズドはゼルツなど、構造体として衝撃を吸収していますが、これらをどう考えていますか?

グラハム氏:最近で最も話題を呼んだのはトレックのIsoSpeedです。非常に斬新で素晴らしいアイディアだと思いましたが、どうしても重量がかさんでしまう。だから私たちはギミックを用いずフレーム形状とカーボンの積層(レイアップ)で勝負をしようと考えました。

ホワイト氏:我々が技術的に最も得意とするのはカーボンレイアップ。提携先の工場に丸投げするメーカーも少なくないが、サーヴェロは社内に何人ものスペシャリストを抱えているんだ。フォーミュラワンで用いられているレベルのカーボンテクノロジーは既に社内でも保有しているし、この部分では他社の追随を許さない。

ーディスクブレーキは今後、より一般的になると考えていますか?

ホワイト氏:なる。間違いなくそうなると考えている。今はアマチュアを含めてほとんどのレーサーがカーボンホイールを使っているだろう?雨でブレーキを掛けた時のことを思い出して欲しい。間違いなく止まらなかったはず。ブレーキの本質は止まることだ。どんなコンディションでも確実に制動力を発揮する油圧ディスクブレーキが絶対に良い。

それに加え、ディスクブレーキにすればリム設計の自由度が飛躍的に高まる。ブレーキ熱によるタイヤやリムのバーストを考慮せずに済むので軽量なカーボンリムができ、ディスクローターの重量増を補うことができるんだ。だから今後はディープリムがより普及するだろう。

「良き道はいつも振り返った先にある」

ー今回のブレインバイクではサーヴェロのスタッフも全員が日本でのライドを楽しんだんですよね?

ホワイト氏:そう。20kmほどのショートライドだったけれど、会場周辺の道をライドしたよ。意外と幹線道路はトラックが多く、道もかなりひび割れているので少しストレスだったけれど、脇道を見つけて田んぼ脇の未舗装路に入ったりした。全くストレスも無くかなり楽しむことができた。

C5を手に取るフィル・ホワイト代表(右)と、グラハム氏C5を手に取るフィル・ホワイト代表(右)と、グラハム氏
つまり、良き道はいつも振り返った先にある。僕らサーヴェロのスタッフたちもトロントで新しいルートを開拓したり、クラシックレースごっこをしたり楽しんでいる。そういう遊び方にベストなのがCシリーズなんだ。今回僕らも少々だが日本の地を走って、Cシリーズにとってベストな道がたくさんあると気づいた。日本のサイクリストにも、Cシリーズに乗ってどんどんと新しいルートにチャレンジしてほしいと思う。

提供:東商会 text : 磯部聡 制作:シクロワイアード編集部