2015/07/30(木) - 17:43
軽さと剛性の究極のバランスという、キャニオンが掲げるピュアレーシングバイクを具現化していた第3世代ULTIMATE CF SLX。2014年のジロ・デ・イタリア覇者のナイロ・キンタナ(モビスター)が、その乗り味を気に入っていたように、重量比剛性という面では、すでに高いレベルで完成されていた。
そこに、空力性能という新たなコンセプトを融合し、オールラウンドレーサーとして進化を果たした第4世代ULTIMATE(アルティメット)。それを可能にしたキャニオンが誇るテクノロジーを紹介していく。
キンタナを囲むキャニオンの開発首脳陣たち。マイクを握るのは、新型ULTIMATE開発責任者のセバスチャン・ホーファー氏
新型ULTIMATEの開発責任者であるセバスチャン・ホーファー氏がテクノロジーについて解説を行った
キーテクノロジーの「Dシェイプ」チューブ形状
フレームの横剛性を高めるためには、ヘッドチューブからダウンチューブにかけての剛性がカギを握る。ダウンチューブに大口径の四角断面チューブを採用していた第3世代は、フレーム単体780gの高い重量比剛性を追求した結果の形状であった。一方で、空力性能の面からは改善の余地があり、しかも、ダウンチューブは前方からの抵抗を受けやすい。そこで、第4世代では空力性能に優れる「Dシェイプ」チューブが新たに開発された。
高いねじれ剛性と空力性能を融合させた新開発のヘッドチューブ
FEMモデリングソフトウエアによる分析によりフレーム剛性の最適化が図られた 「第3世代から横幅を狭めることで、第4世代の空力性能は明らかに優れています。ただし、四角断面に比べると本質的に横剛性は低下します。そこで、空力性能において影響を受けにくいトップチューブとシートステイの横剛性を高めることで、フレーム全体として剛性を高めることにしました」と、ホーファー氏は説明する。
ダウンチューブの直径を狭めたことでBB〜チェーンステイにかけても横幅を狭める結果になった。その一方で、空力性能には比較的影響を受けないトップチューブ〜シートステイにかけて剛性を高めてきた。
四角断面のトップチューブとワイドなシートステイ、さらに改良されたシートチューブ接合部は横剛性を大きく向上。これにより、ダウンチューブとチェーンステイで失われた横剛性を相殺。
開発陣の狙いどおり、空力性能を手に入れながら、フレーム全体の重量比剛性は第3世代のレベルを維持することに成功した。
空力性能を高めるうえで、ヘッドチューブの最適化は大きなウエイトを占める。コラム径サイズは、上下1-1/8インチの非テーパードヘッドを採用し、ステアリング性能を高めている。
そのうえで、船首のような流線型とし、前面投影面積を最小限に抑える緩やかなアワーグラス形状にし空力性能を高めている。
新型では斜め前方からの風による抵抗を大幅に軽減していることがわかる
現行ARロードに採用されているエアロコクピットとは異なる新型が装着される(写真は2015年モデルARロードに 採用されているH11エアロコクピットCF)
また、現実世界で起こりうる風向きに対応するために、キャニオン独自の「ヨーアングル・ウェイト・ディストリビューション」テクノロジーを採用する。前方左右それぞれ20°の範囲を0.5°刻みで80もの測定値の平均を出すことで、総合的な空力性能を獲得した。
サドルからシートクランプまでの距離を長く取ることで、シートポストのしなり量を増加させた
シートステイ根本にある1箇所のネジにより固定
水平方向、垂直方向へのしなりにより快適性を確保する
樹脂製のハイブリッドインジェクション成型インサート 空力性能の獲得とともに、シートポスト周辺の快適性を向上させたことも新型ULTIMATEの注目ポイント。シートチューブ内部に搭載される新開発のインテグレーテッドシートポストクランプでシートポストを固定する新方式を採用。外付けシートクランプを廃し、固定位置を通常のクランプ位置よりも大幅に下げることに成功した。
その結果、サドルからシートクランプまでの距離を長く取ることによるシートポストのしなり量を確保。垂直方向のしなり量は15%増加、水平方向へは37%も増加している。身体を支えるサドルからシートポストにかけての快適性向上は、スムーズなライディングに直結する。
また、インテグレーテッドシートポストクランプによるトップチューブから流れるデザイン性は、空力性能と審美性にも優れる。防水シールを配し水や汚れの侵入を防ぐ処理が施されている。
ステアリングアクスルに近いケーブル出口は、スムーズなハンドルさばきを可能にする
これにより、ワイヤーラインを不用意に曲げることなくブレーキ操作時のフリクションフリーを実現する。また、ヘッドチューブ両側にはアルミニウム製のケーブルストッパーを配置。無理のない自然なケーブルルーティングはステアリング性能の向上をもたらす。
また、土ぼこりなどが溜まりやすいフロントディレイラーのシフトワイヤー出口部分は、ワイヤーを保護するラバー製の「スプラッシュガード」を装備。BB裏には、シフトワイヤーラインを安定させる専用のレールパーツが埋め込まれる。
ケーブル出口角度を浅く設計できる
フレームに確実に固定される樹脂製の専用パーツ
シフトケーブルの摩擦抵抗を低減し、滑らかなシフト操作へと導く
プラスチック製のワイヤー受け専用パーツ
このように、新型ULTIMATEは、ブレーキング性能とシフティング性能の向上を可能にするため、スモールパーツも独自設計で徹底した作り込みがなされている。
さらに、3つボルトで固定する2ピース構造から、2本留めの1ピース構造へと再設計されたリアディレイラーハンガーは、前作比で剛性を25%も向上。しかも、重量もわずかに軽量化を果たし11.5gとなった。ディレイラーハンガー部分の剛性向上は、リアのシフティング動作を正確でカッチリとしたフィーリングの提供や、外からの荷重に対してもハンガーの変形を防いでくれる。
次号ではナイロ・キンタナをはじめモビスターの選手たちとパンプローナ郊外で、新型ULTIMATE CF SLXを乗り込んだインプレッションを紹介しよう。
そこに、空力性能という新たなコンセプトを融合し、オールラウンドレーサーとして進化を果たした第4世代ULTIMATE(アルティメット)。それを可能にしたキャニオンが誇るテクノロジーを紹介していく。
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空力性能の獲得と重量比剛性の維持をめざした開発
スペインのパンプローナ郊外。丘の上に佇む老舗ホテルの一室で行なわれた新型ULTIMATEのプレゼンテーション。その冒頭、新型ULTIMATEの開発責任者であるセバスチャン・ホーファー氏は、「この2年間の開発は、空力性能の獲得という新たな挑戦でした。フレームの重量比剛性を高めるためには、チューブ径を広げることで実現できますが、空力性能には優れていません。細いチューブ形状は空力を高めますが、重量比剛性は低下してしまいます。重量比剛性を維持しながら空力性能を融合することは簡単ではありませんでした」と話した。
フレームの横剛性を高めるためには、ヘッドチューブからダウンチューブにかけての剛性がカギを握る。ダウンチューブに大口径の四角断面チューブを採用していた第3世代は、フレーム単体780gの高い重量比剛性を追求した結果の形状であった。一方で、空力性能の面からは改善の余地があり、しかも、ダウンチューブは前方からの抵抗を受けやすい。そこで、第4世代では空力性能に優れる「Dシェイプ」チューブが新たに開発された。
ダウンチューブに空力性能を求めトップチューブからシートステイの剛性を向上
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ダウンチューブの直径を狭めたことでBB〜チェーンステイにかけても横幅を狭める結果になった。その一方で、空力性能には比較的影響を受けないトップチューブ〜シートステイにかけて剛性を高めてきた。
四角断面のトップチューブとワイドなシートステイ、さらに改良されたシートチューブ接合部は横剛性を大きく向上。これにより、ダウンチューブとチェーンステイで失われた横剛性を相殺。
開発陣の狙いどおり、空力性能を手に入れながら、フレーム全体の重量比剛性は第3世代のレベルを維持することに成功した。
空力性能を高めるうえで、ヘッドチューブの最適化は大きなウエイトを占める。コラム径サイズは、上下1-1/8インチの非テーパードヘッドを採用し、ステアリング性能を高めている。
そのうえで、船首のような流線型とし、前面投影面積を最小限に抑える緩やかなアワーグラス形状にし空力性能を高めている。
前作比14%もの空気抵抗の低減を実現
第3世代と比較して、第4世代は45km/h走行時に、フレームセットで8%の空気抵抗の低減(7.4Wのパワーセーブ)を実現。さらに、新たに標準装備されるステム一体型ハンドル「エアロコクピット」(H36)も合わせると、なんと14%もの空気抵抗の低減(12.9W)に成功している。キーテクノロジーの「Dシェイプ」エアロチューブは、ダウンチューブはじめ、ヘッドチューブ、フロントフォーク、シートステイ、チェーンステイの各部に採用される。これは、フレームの空力性能を追求するため、高度な測定環境下での風洞実験によって導かれた結果だ。
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インテグレーテッドシートポストクランプが快適性を飛躍的に向上
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その結果、サドルからシートクランプまでの距離を長く取ることによるシートポストのしなり量を確保。垂直方向のしなり量は15%増加、水平方向へは37%も増加している。身体を支えるサドルからシートポストにかけての快適性向上は、スムーズなライディングに直結する。
また、インテグレーテッドシートポストクランプによるトップチューブから流れるデザイン性は、空力性能と審美性にも優れる。防水シールを配し水や汚れの侵入を防ぐ処理が施されている。
ワイヤールーティングを最適化しフリクションフリーを実現
バイクの完成度は細部パーツの作り込みにより差が生まれてくる。ブレーキワイヤーのフレーム出口には、ケーブルのフリクション低減を実現するスモールパーツ「ケーブルストッパー」を採用。トップチューブのブレーキケーブル出口には樹脂製のケーブルストッパーを配し、ワイヤーケーブル出口の角度をフレームに沿うように浅く設計。
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また、土ぼこりなどが溜まりやすいフロントディレイラーのシフトワイヤー出口部分は、ワイヤーを保護するラバー製の「スプラッシュガード」を装備。BB裏には、シフトワイヤーラインを安定させる専用のレールパーツが埋め込まれる。
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このように、新型ULTIMATEは、ブレーキング性能とシフティング性能の向上を可能にするため、スモールパーツも独自設計で徹底した作り込みがなされている。
さらに、3つボルトで固定する2ピース構造から、2本留めの1ピース構造へと再設計されたリアディレイラーハンガーは、前作比で剛性を25%も向上。しかも、重量もわずかに軽量化を果たし11.5gとなった。ディレイラーハンガー部分の剛性向上は、リアのシフティング動作を正確でカッチリとしたフィーリングの提供や、外からの荷重に対してもハンガーの変形を防いでくれる。
次号ではナイロ・キンタナをはじめモビスターの選手たちとパンプローナ郊外で、新型ULTIMATE CF SLXを乗り込んだインプレッションを紹介しよう。
提供:キャニオン・ジャパン photo/text:Kenji.Hashimoto 制作:シクロワイアード編集部