2015/08/19(水) - 18:09
2015年のツール・ド・フランスで総合表彰台2位と3位を獲得し、チーム総合時間賞も手中に収めた世界最強チームのモビスター。2度目の新人賞となったエースのナイロ・キンタナによる山岳ステージでの積極果敢なアタックは今年のツールのハイライトになった。
そんな彼らの活躍を支えるキャニオンが、ツール・ド・フランス直前に、チームの本拠地であるスペイン北東部のパンプローナで発表した「第4世代ULTIMATE CF SLX」。本編ではモビスターの選手とともに走ったテストライドの様子とバイクの特性、テストライド後に訪れたチーム本拠地の様子をお届けする。
キンタナやダウセット、イサギーレといったモビスターを代表する選手とテストライドを行う
モビスターのチームカーがテストライドのサポートをしてくれた
バイクの特性を正確につかむため、セッティングには余念がない
テストに臨むジャーナリスト30名の新型ULTIMATE CF SLXが並べられている
午前中のプレゼンテーションが終わると、世界各国から集まった走り屋系ジャーナリストたちは、ホテルのエントランスに用意された新型バイクを手にとり、サドル位置を調整するなどテストライドに備えた。一人ひとりに事前にヒアリングされたサイズのバイクが用意された。身長171cmの私のバイクは、トップチューブ長525mmのXSサイズ。適性サイズのバイクでテストすることが、バイクの特性を正確につかみやすいのは言うまでもない。
ホテルの前に集まったジャーナリスト約30名、モビスターの選手、さらにキャニオンの首脳陣を含めた総勢50名。全員で記念撮影を終えると、いよいよテストライドのスタート。テストコースは、パンプローナの郊外の峠越えを含む約60km。平坦の高速巡航、クラミング、ダウンヒルとすべてのシーンを体験するには最適なコースだ。
ダンシング時に感じやすい重量は微塵も感じさせない
パンプローナ郊外で平坦の高速巡航、クラミング、ダウンヒルとすべてのシーンを体験
休憩中にはキンタナや、現在はキャニオンで働く元プロロードレーサー、エリック・ツァベルともバイクについてディスカッションできた BBまわりから伝わるペダリングのフィーリングは前作の第3世代ほどハードではない。エアロダイナミクスの向上のために新開発されたDシェイプチューブを採用したことにより、フレームの剛性バランスを再設計した第4世代。第3世代よりもBBまわりの剛性は抑えられているように感じられる。反面、トップチューブからシートステイにかけて剛性を高めたことでフレーム全体の剛性レベルは前作同等。数値では同じ剛性レベルでも、各所の剛性の味付けを変えたことで、第3世代よりもペダリング入力時のフィーリングは多少ソフトな方向へと着地したようだ。
実は、スペインに入る前、日本で前作のULTIMATE CF SLXを気が済むまで乗り込んでいた。第3世代はBBまわりのフィーリングがかなり硬めで、良くも悪くもダイレクト。いわゆる踏めば踏むほど加速感を得られるバイクだった。第4世代のクライミング性能については後述するが、第3世代のバイクで出場した今年のMt.富士ヒルクライム(距離24km)では1時間6分だったが、高いトルクをBBまわりの高い剛性で受け止めるフィーリングが印象に残っていた。
第4世代ではペダリングフィールがソフトなのに、高い重量比剛性に支えられたペダリングパワーが推進力へと変換されるまでの反応は鋭い。足への負担を軽減しながらも加速感を得られるフレームへの昇華を実感する。長時間にわたり高いトルクのペダリングが可能になることは明らかだ。
45〜50km/hほどの高速域で、より空力の効果を感じられる
平坦区間の途中でモビスターの選手たちが一気にペースアップをして集団は中切れを起こした。その際、しばらく前方集団へのドッキング役をしたが、45〜50km/hともなると、より空力の効果を感じられた。これまでよりも高速巡航の持続時間が延びることは、実際のレースの局面で粘ることができ、高速集団の中でも有利に立ち回れることを意味する。
高速域でのバイクの直進安定性も優秀で、リラックスして高いトルクをかけやすい。第3世代のポジションは少々アップライトで腰高な印象があったが、第4世代はバイクの安定性も向上して、明らかに高速巡航が得意になっている。
モビスターの選手を先頭に世界各国のジャーナリストは、新型ULTIMATE CF SLXのテストを行った
パンプローナ郊外の峠でヒルクライム性能を試した 集団はいよいよ峠へと差し掛かる。日頃からモビスターの選手たちがトレーニングで走る約5kmの上り坂で、クライミング性能をじっくりと堪能する。登り口から、シッティングで徐々にトルクをかけていきながらペースを刻む。高い重量比剛性に支えられたフレームは、上りでもパワーロスを感じさせない。剛性バランスを再設計してエアロチューブを採用しても、反応の鋭さは健在だ。第3世代同様に1時間から1時間半ほどのヒルクライムレースで使いたくなった。
ダンシングも小気味のよいリズムを刻みやすい。エアロダイナミクスに優れるバイクは、ダンシング時に往々にして重量を感じやすくなるが、フレーム単体で780gを実現している第4世代にはそれを微塵も感じさせない。実に軽快なクライミング性能を見せてくれた。
中盤からは、2〜3人のジャーナリストとモビスターの選手たちで峠のピークへ向けてさらに加速。最後は恐れ多くも、キンタナと並走しながら先頭でライドを楽しんだ。「平地も速くなってバランスがよくなったけど、しっかりと上ってくれるバイクだね!」とキンタナ。まさにコメント通りのバイクに仕上がっていると感じながら峠のピークを迎えた。
シートポストのしなりは目視で確認できるほど。サドルとお尻の接触を一定に保ち、スムーズなペダリングをもたらす 峠の下りでは、平坦区間同様に空気の抜けのよさを感じ、高い空力性能を再確認できた。もうひとつのポイントは、第3世代よりも随分とバイクの安定感が増していることだ。エアロフレームにも関わらず、下りでの安心感は、レースを志すライダーはもちろん、ビギナーにも大きなアドバンテージなる。この安定感は、このあと紹介する快適性によってもたらされる部分も大きい。
実は今回のテストライドでもっとも印象的だったことが、シートポストのしなりによって生み出される高い快適性だ。第4世代に投入されたテクノロジーのうちハイライトでもあるインテグレーテッドシートポストクランプ(テクノロジーの詳細はVoL.2を参照)。降車状態で意図的にサドルに手をかけて体重を乗せるだけで、シートポストのしなりを目視できるレベルだ。
これはライド中に身体へと伝わる微振動を緩和する役割を果たしてくれる。サドルに座った状態のまま段差を通過すると、その衝撃を緩和するサドルの沈み込みを感じることができた。このしなりは、サドル位置が不安定になるのではない。むしろ、どのような路面コンディションでもシートポストが身体との緩衝材の役割を担い、サドルとお尻の接触を一定に保ち、スムーズなペダリングをもたらしてくれる。
重量比剛性を損なうことなくエアロダイナミクス性能を向上 photo:Kenji.Hashimoto
最後に、モビスターの選手たちとのテストライドでは、第4世代の進化を十分に感じることができた。高い重量比剛性によってもたらされる反応性の良さは、空力性能を追求した第4世代でもしっかりと継承されていた。そして、新たな投入されたテクノロジーの狙いも確実に感じることができた。
登坂性能、空力性能、快適性をも手に入れた第4世代の進化は著しい。ヒルクライムレースだけでなく、長距離のロードレースやロングライドまで、幅広いユーザーを満足させるオールラウンドバイクに仕上がっていると言える。その進化の過程には、一貫してピュアレーシングバイクとしての立場を明確にするキャニオンの理念が息づいている。
パンプローナ郊外の工場地帯にモビスターの本拠地が構えられている
また、倉庫一角のガラス張りの部屋には、選手たちが使用するキャニオンのSPEEDMAX(TTバイク)が整然と保管される。その数はざっと70台。同じようにULTIMATEやAEROADがあるのだから、その多さに驚かされる。メカニックルームでは、ちょうど専属のメカニックがレースを終えたバイクを、次のレースに向けてメンテナンスしていた。チームは、まずこの倉庫で機材の準備など長期遠征の準備を整えてから世界中のレース現場へと向かっていくのだ。
倉庫の奥には、1980年から続くチームの巨大パネルが雑然と置かれていた。現在の前身であるレイノルズ・チーム時代、ツール・ド・フランスを5連覇したミゲル・インデュラインが在籍したバネスト時代など、スペイン自転車競技の隆盛期とともにあったチームの歴史を垣間見ることができた。
チームがキャニオンのバイクに乗り始めたのは2014年から。ULTIMATE CF SLXは、名門の系譜を引き継ぎ世界最強チームとの呼び声高いモビスターとの連携の中で生まれたバイクであり、既にツールでは大きな活躍を見せてくれた。これからも世界最高峰の舞台で選手の走りを支えることは、想像に難くない。
本社1階の巨大倉庫は選手たちの移動バス、機材バス、監督・コーチらが乗車するチームカーが並ぶ
70台ものSPEEDMAX(TTバイク)が整然と並べられている
バイクの保管スペースなど至る所にトロフィーが置かれている
倉庫の一角にあるメカニックエリアでは専属のメカニックがバイクの調整を行っていた
そんな彼らの活躍を支えるキャニオンが、ツール・ド・フランス直前に、チームの本拠地であるスペイン北東部のパンプローナで発表した「第4世代ULTIMATE CF SLX」。本編ではモビスターの選手とともに走ったテストライドの様子とバイクの特性、テストライド後に訪れたチーム本拠地の様子をお届けする。
豪華メンバーと60kmの山岳ライドへ
今回のメディアキャンプでは、日頃からULTIMATE CF SLXと、AEROADに乗るモビスターチームの選手との豪華テストライドが予定されていた。メンバーは、ナイロ・キンタナをはじめ、アワーレコード世界記録を更新したアレックス・ダウセット、モビスター一筋15年のイマノル・エルビーティ、ヨン・イサギーレなど6選手。世界最強チームのモビスターの中核をなす、なんとも豪華なメンバーだ。



午前中のプレゼンテーションが終わると、世界各国から集まった走り屋系ジャーナリストたちは、ホテルのエントランスに用意された新型バイクを手にとり、サドル位置を調整するなどテストライドに備えた。一人ひとりに事前にヒアリングされたサイズのバイクが用意された。身長171cmの私のバイクは、トップチューブ長525mmのXSサイズ。適性サイズのバイクでテストすることが、バイクの特性を正確につかみやすいのは言うまでもない。
ホテルの前に集まったジャーナリスト約30名、モビスターの選手、さらにキャニオンの首脳陣を含めた総勢50名。全員で記念撮影を終えると、いよいよテストライドのスタート。テストコースは、パンプローナの郊外の峠越えを含む約60km。平坦の高速巡航、クラミング、ダウンヒルとすべてのシーンを体験するには最適なコースだ。
ペダリング入力はソフトだが、反応は鋭い
ここからは、テストライドをしながら感じた新型の特性を綴っていこうと思う。まずは、バイクと身体のリズムを調和させながら走り始める。いわゆる足慣らしをしながら序盤の平坦区間を進む。モビスターの選手が先頭を走る集団は40km/hほどで進んだが、この中でシッティングとダンシングを織り交ぜながら、時に集団から外れて単独での加速を試みた。その中で感じたことは、期待通りのフレーム剛性と加速力だ。


実は、スペインに入る前、日本で前作のULTIMATE CF SLXを気が済むまで乗り込んでいた。第3世代はBBまわりのフィーリングがかなり硬めで、良くも悪くもダイレクト。いわゆる踏めば踏むほど加速感を得られるバイクだった。第4世代のクライミング性能については後述するが、第3世代のバイクで出場した今年のMt.富士ヒルクライム(距離24km)では1時間6分だったが、高いトルクをBBまわりの高い剛性で受け止めるフィーリングが印象に残っていた。
第4世代ではペダリングフィールがソフトなのに、高い重量比剛性に支えられたペダリングパワーが推進力へと変換されるまでの反応は鋭い。足への負担を軽減しながらも加速感を得られるフレームへの昇華を実感する。長時間にわたり高いトルクのペダリングが可能になることは明らかだ。
期待以上の空力性能
巡航性能は大きく進化を遂げている。エアロコクピット(H36・ステム一体型ハンドル)が標準装備されたフレームは、ひとたび加速すれば、高いスピード域を持続しやすく、風の抜けのよさも体感できた。第3世代よりも14%も空力性能を高めたフレームの効果は期待以上だ。
平坦区間の途中でモビスターの選手たちが一気にペースアップをして集団は中切れを起こした。その際、しばらく前方集団へのドッキング役をしたが、45〜50km/hともなると、より空力の効果を感じられた。これまでよりも高速巡航の持続時間が延びることは、実際のレースの局面で粘ることができ、高速集団の中でも有利に立ち回れることを意味する。
高速域でのバイクの直進安定性も優秀で、リラックスして高いトルクをかけやすい。第3世代のポジションは少々アップライトで腰高な印象があったが、第4世代はバイクの安定性も向上して、明らかに高速巡航が得意になっている。
第3世代から継承されたクライミング性能


ダンシングも小気味のよいリズムを刻みやすい。エアロダイナミクスに優れるバイクは、ダンシング時に往々にして重量を感じやすくなるが、フレーム単体で780gを実現している第4世代にはそれを微塵も感じさせない。実に軽快なクライミング性能を見せてくれた。
中盤からは、2〜3人のジャーナリストとモビスターの選手たちで峠のピークへ向けてさらに加速。最後は恐れ多くも、キンタナと並走しながら先頭でライドを楽しんだ。「平地も速くなってバランスがよくなったけど、しっかりと上ってくれるバイクだね!」とキンタナ。まさにコメント通りのバイクに仕上がっていると感じながら峠のピークを迎えた。
目視で確認できるレベルのシートポストのしなり

実は今回のテストライドでもっとも印象的だったことが、シートポストのしなりによって生み出される高い快適性だ。第4世代に投入されたテクノロジーのうちハイライトでもあるインテグレーテッドシートポストクランプ(テクノロジーの詳細はVoL.2を参照)。降車状態で意図的にサドルに手をかけて体重を乗せるだけで、シートポストのしなりを目視できるレベルだ。
これはライド中に身体へと伝わる微振動を緩和する役割を果たしてくれる。サドルに座った状態のまま段差を通過すると、その衝撃を緩和するサドルの沈み込みを感じることができた。このしなりは、サドル位置が不安定になるのではない。むしろ、どのような路面コンディションでもシートポストが身体との緩衝材の役割を担い、サドルとお尻の接触を一定に保ち、スムーズなペダリングをもたらしてくれる。
キャニオンの理念が息づくオールラウンドバイク

最後に、モビスターの選手たちとのテストライドでは、第4世代の進化を十分に感じることができた。高い重量比剛性によってもたらされる反応性の良さは、空力性能を追求した第4世代でもしっかりと継承されていた。そして、新たな投入されたテクノロジーの狙いも確実に感じることができた。
登坂性能、空力性能、快適性をも手に入れた第4世代の進化は著しい。ヒルクライムレースだけでなく、長距離のロードレースやロングライドまで、幅広いユーザーを満足させるオールラウンドバイクに仕上がっていると言える。その進化の過程には、一貫してピュアレーシングバイクとしての立場を明確にするキャニオンの理念が息づいている。
名門の歴史を引き継ぐモビスターの本拠地を訪問
今回のライドの最後にはモビスターの本拠地を訪問した。本拠地は、パンプローナ郊外の工場地帯の一角にある。ライセンス所持者であるアバラカスポーツ(ABARCA Sports)本社の1階にある巨大倉庫。そこには、レースを戦う選手たちの移動バス、機材バス、監督・コーチらが乗車するチームカーがズラリと並ぶ。
また、倉庫一角のガラス張りの部屋には、選手たちが使用するキャニオンのSPEEDMAX(TTバイク)が整然と保管される。その数はざっと70台。同じようにULTIMATEやAEROADがあるのだから、その多さに驚かされる。メカニックルームでは、ちょうど専属のメカニックがレースを終えたバイクを、次のレースに向けてメンテナンスしていた。チームは、まずこの倉庫で機材の準備など長期遠征の準備を整えてから世界中のレース現場へと向かっていくのだ。
倉庫の奥には、1980年から続くチームの巨大パネルが雑然と置かれていた。現在の前身であるレイノルズ・チーム時代、ツール・ド・フランスを5連覇したミゲル・インデュラインが在籍したバネスト時代など、スペイン自転車競技の隆盛期とともにあったチームの歴史を垣間見ることができた。
チームがキャニオンのバイクに乗り始めたのは2014年から。ULTIMATE CF SLXは、名門の系譜を引き継ぎ世界最強チームとの呼び声高いモビスターとの連携の中で生まれたバイクであり、既にツールでは大きな活躍を見せてくれた。これからも世界最高峰の舞台で選手の走りを支えることは、想像に難くない。




提供:キャニオン・ジャパン photo/text:Kenji.Hashimoto 制作:シクロワイアード編集部