2021/12/24(金) - 19:04
北海道のど真ん中に位置する大雪山系。多くの峠を有する中でも旭川と北見をつなぐ石北峠へ、バス車載とE-BIKEを駆使して、元ポタガールの小島智香さんとサイクルライフナビゲーターの絹代さんがチャレンジ。紅葉ライドはいつのまにやらちょっとエクストリームな冒険に……?
北海道北見市の西部に位置する石北峠。標高は1,050mとそう高くはないが、峠の展望台からは、大雪山や遠く阿寒の山々、峠を取り巻く樹海を望め、取り巻く植生は、本州での標高3,000m相当のものを楽しめるとあって、人気のある観光スポットだ。
この峠の秋の紅葉(黄葉)は、特にすばらしく、絶景だと言われる。四季折々の景観を楽しめ、勾配もゆるく、非常に走りやすいため、地元のローディーには人気のヒルクライムルートだ。だが、北見市中心街からは距離があり、勾配がゆるい分走行距離が長く、一般層にはハードルが高かった。
そこで、自転車搭載が可能となった北海道北見バスにE-BIKEを載せ、最寄りのバス停からトライができるなら、広い層が秋の絶景を堪能できるのではないかと思いつき、試してみることになった。
決行時期は10月中旬。緊急事態宣言の解除を待った影響で、ベストのタイミングからは少し遅くなってしまったが、色づいた葉は、ギリギリ持ち堪えているとの事前情報があった。
北見バスターミナルから、北見バスの温根湯・留辺蘂運動公園線に乗り、終点の「道の駅おんねゆ温泉」まで約33km、60分。ここから石北峠までは約35kmある。往復70kmという距離は、ビギナーにとっては確かに長い。だが、ラスト10kmまでの勾配は非常にゆるく、帰路はダウンヒルから下り基調のルートが続くため、実際は意外なほど走りやすいのだ。それでいて達成感は満点!この距離の長さと最後の本格的なヒルクライム区間という課題をE-BIKEで解決できれば、誰にでも走れるのではないだろうか。
今回一緒に走ってくれるのは、元ポタガールの小島智香さん。151.5cmと小柄なことから、ミニベロ型のE-BIKE、BESVのPSA-1を使用することになった。同行する絹代は、市のレンタサイクル、YAMAHAのYPJ-Cで走る。
往復バスを使うことを考えると、帰路は道の駅を13:50に発つ便の一択になるため、往路は早めのバスを選んだ。朝7時23分、北見バスターミナルを発つバスに乗り、のどかな眺めを楽しむこと1時間、8時26分に「道の駅おんねゆ温泉」に到着した。
店舗はオープン前であるため、お手洗いのみを借り、あらかじめ買っておいた補給(おやつ)等を持ってスタート。早朝まで雨が降り、路面は濡れていたが、この日の天気予報は晴れ。徐々に路面も乾いて来るだろう。
開放感のある田園風景の間をひた走る。厳密に言えば、勾配はわずかに上っているらしいのだが、ロードではほぼ気づかないレベル。この日はE-BIKEであり、当然上りの影響は感じない。だが、強い向かい風が吹き付けており、さっそくE-BIKEのパワーを拝借することになった。
「峠の紅葉、まだ残っているといいですね」と智香さん。平和な眺めを楽しみながら、ヒルクライムに思いを馳せる。早起きしたカラダを目覚めさせながら、ペダルを回した。
走ること5kmあまり。美肌の湯を楽しめる人気の宿泊施設「塩別つるつる温泉」に立ち寄った。帰路のバスの発車時刻を考えると、昼食を楽しむ時間の余裕はない。そこで、宿の朝食ブッフェで残った料理などを詰め、弁当にして販売してもらえないかと打診したところ、二つ返事でOKしてくれたのだ。
廃棄されてしまう食べ物をおいしくいただければ、フードロス問題の解消にもなり、施設サイドも収入になる。まさにウィンウィンの関係だ。価格は450円と言われていたが、受け取ってみたところ、弁当は「超ごちそうレベル」の重さ!つるつる温泉の大盤振る舞いにお礼を言い、サポートカーに積んでもらい、再スタートした。
紅葉が美しい塩別つるつる温泉のキャンプ場を眺めながら、国道39号線に復帰。青空が顔をのぞかせており、山々もいっそう美しく見えてきた。ルート上の景観に期待が高まる。
峠に向かうルートは、変わらず激しい向かい風。すでに9時半は回っているが、峠まではまだ30kmある。このままのペースで行くと、帰路のバスに間に合わない可能性があることに気づく。「少しペースを上げましょうか」と声をかけると、智香さんは、神妙な顔でコクリと頷いた。
林や草原など、自然の中を気持ちよく走り抜けていく。上り勾配はほとんど感じない。ふと、顔にポツポツと冷たいものが当たるのを感じた。見上げて「雨!」思わずふたりで声をあげる。空は明るく、お天気雨の様子だ。「このあと、また雨になっちゃったりしてね。」雨はすぐに止み、天気予報を固く信じていた二人は、冗談として語り合う。今から思えば、このとき天気の行方を大いに警戒すべきだったのだが……。
ルートからは、紅葉に彩られた北見富士を眺めることができた。この分だと、石北峠でも紅葉が楽しめるに違いない。峠の木々は、どんな色に染まっているのだろう?思いをめぐらせながら走る。
このとき、ひらひらと何かが舞い降りてきた。「雪だ!」また二人で声を上げる。雪はすぐに止んだため、標高が上がれば、雪がチラつくこともあるのだろうかと、ぼんやりと考える程度だった。
白樺が群生するエリアに突入する。日の光を浴びて輝く白樺林がとても美しい。路面はかなり濡れていた。雨が降ったり、止んだりしているのだろう。まだ先は長く、天気の変化に気をつけながら行こうと話し合う。
このルートはサイクリングルートのモデルコースに指定されており、矢羽根と自転車のピクトグラムが描かれている。交通量もそれほど多くなく、通り過ぎるクルマは、しっかりと空間を開けて抜いてくれるため、不安を感じることはない。昔はこのルートは旭川と北見をつなぐ主要なルートであり、石北峠はオホーツクの入り口だったそう。今は高規格道路が整備されたことで通行が分散されて交通量も減り、自転車にとってはかなり走りやすい道になったのだという。
「E-BIKEって、いろんな意味でイイですね。」バイクを走らせながら智香さんが言う。太めのタイヤで安定感もあり、落ち葉が散乱する濡れた路肩でも怖くない。ロードと異なり深い前傾ではない分、向かい風の影響は大きいが、アシストの力を借りるため景観を楽しみながら上れるのだ。ルート沿いの景観は、林や草原、小川など目まぐるしく変化していくし、遠方の山々も眺められ飽きることがなかった。
しばらく、白樺が並ぶエリアを走る。空が暗くなってきて、時折雨粒が落ちて来るようになった。コーナーを回り、行く手に見えた山々の色を見て、二人は凍りついた。
「あれ、もしかして雪じゃないですか?」
山の色が、期待した黄色でも赤色でもなく、白いのだ。若干の不安が二人の胸をよぎった。「標高が高いところは、もう雪が降り始めているんでしょうね。」いや、実際はそれほど「遠景」ではないような気もするのだが、半ば自分たちに言い聞かせるように、言葉を交わした。緑の葉に白い雪がかかった様子は、なんとなくクリスマスを想起させ、悲壮感は感じなかった。それほど、「雪」に現実的な感覚がなかったのだ。
ここでサポートカーがやってきた。「ちょっと気をつけた方がいいですよ、対向車の上に、雪が積もっています。峠の向こうは、おそらく雪です!」雪が積もっている?でも、空は明るいし、まだ10月半ばだし、どうも真実味がない。お礼をいいながらもこの時はまだ、「まさか」と思っていた。
だが、このあたりから雲行きは本格的に怪しくなって行った。コーナーを回って、飛び込んできた眺めに声を上げる。「これ、雪じゃないですか?」葉の上に、白いものが乗っている。思わずバイクを止め、確認する。「確かに、雪ですね。」この地点でもう雪が積もっているとは!
この後は勾配も上がるため、止まったついでにいったん休憩し、補給することにした。持ち運んできたセイコーマートの大福を頬張る。残すは10kmあまり。厚着していたため、身体はホカホカだったのだが、止まってみると、気温はかなり下がっているようだった。
エネルギーをチャージし、再スタート。ここからが本番のヒルクライムだ。がんばるぞ!
だが、ほどなく雪が眼前に舞い始め、あっという間に前が見えないほどの雪に変わった。激しい向かい風に乗って雪が吹き付けてくる。冷たい!そしてちょっと怖い!前がよく見えない。
自転車乗りの性なのか、しばし無言で雪と戦う二人。バイクはあくまで優秀で、黙々と踏み込むペダルに応じ、ふたりを上へと運んでくれた。走れてしまうから、走ってしまう。正直、こんな環境のいいところだから、走れるなら走って峠まで行きたい。
だが、ここではっと気づいた。「これ、乗っちゃいけないやつです!」雪の中で峠を上るのは、冷静に考えれば危険行為なのではないだろうか。ふたりで自転車を止め、いったん退避しようとサポートカーを呼んだ。吹き付ける雪で、カラダもバイクも、もはや真っ白だ。
協議の結果、危険性の高いところは車に乗り、安全を確保することになった。少し残念だ。
だが、神さまは我々を見放さなかった。ほどなく、雪はかなり穏やかになり、路面状態も落ち着いたのだ。「走ります!走りたいです!」車から降ろしてもらい、峠までの数キロを走らせてもらうことになった。ふわふわと舞う雪の中、白く染まった景観の間を走るのは、なんとも特別な経験だ。寒い中でも、智香さんの乗るPSA-1はまだ十分なバッテリーを残し、安定して雪景色の中を走っていく。
黄色か赤色かと、心ときめかせながら話し合っていた峠の景観は見事なまでに白色になってしまったけれど、それもまたよし。白く染まった絶景を望む橋を越え、峠にたどり着いたのだった。ひとときはクルマに乗ったものの、ある種の達成感は味わえた。
だが、ここで再び雪が吹雪のように吹き付け始めた。外でのランチは断念し、車内でお弁当をいただくことに。おにぎり、唐揚げ、たまご焼き、焼き魚、明太子……。なんとおいしく、豪華なこと!廃棄される運命にあった朝ブッフェの料理を、こんなにおいしくいただけることに、幸せと「いいことした感」を感じる。
とはいえ、下山は不可能な状況となったため、サポートカーに乗って塩別つるつる温泉へと戻る。不思議なことに下界では青空すら見え、路面も一部は乾いていた。あれは、山のみの天気だったのだろうか。お弁当のお礼を伝え、道の駅のバス停まで5km程度は自走で戻ることにした。
穏やかな田園風景の中を行く。「まるでさっきまでのことが、幻だったみたいですね。」智香さんと笑い合う。快適に走っていると、にわかに空が曇り、暗くなってきた。嫌な予感がふたりを包む。
突然、大粒の雪が舞い始めた。あまりにドラマチックな展開に戸惑っているうちに、横風に乗って、雪が強烈に吹き付けてきた。「痛い!」露出している顔が、雪に叩きつけられて痛い。サポートカーはもう先行しており、ここは自力で走り抜けるしかない。さっきまで晴れていたのに。横殴りの雪に耐えながら、道の駅にたどり着いた。まさに、何て日だ!
道の駅に着き、自転車を停め、記念撮影を終えたら、雪が止んだ。「ライドあるある」だが、もはや嘆いても仕方ない。冷えきったカラダを名物の「ホット生牛乳」と揚げたて熱々の「白花豆コロッケ」で温め、帰路のバスに乗り込んだ。
疲労した状態で運転しなくてもいいのは、やはりありがたい。ここまでの劇的な1日が、まるで夢であったかのように、のんびりと進むバスのシートに身を委ね、北見バスターミナルを目指した。
天気には翻弄されたが、石北峠へのヒルクライムは、路線バスでアクセスし、E-BIKEでトライできることは、わかった。今年、北見バスでは、終日のバス乗り放題と自転車の積み込み放題がセットされた「サイクリストパス」が2,660円で販売(オンロードシーズンのみ)されていた。こういったサービスを使えば、費用面でも現実的で、挑戦のハードルを下げられるだろう。
トラブルがあった方が、思い出には残るもの。この日のライドは、おそらく忘れられないものになったと思う。とはいえ、日が長い夏か、紅葉を狙える9月末あたりにでも、またチャレンジしてみたい。もちろん、読者の方にもそのあたりの時季がオススメだ。
北見バスの自転車搭載サービスは、来年も実施予定とのこと。石北峠の紅葉は、実際のところどうなのかが気になってしまった方は、ぜひ来年チャレンジしてみてほしい!
北海道北見市の西部に位置する石北峠。標高は1,050mとそう高くはないが、峠の展望台からは、大雪山や遠く阿寒の山々、峠を取り巻く樹海を望め、取り巻く植生は、本州での標高3,000m相当のものを楽しめるとあって、人気のある観光スポットだ。
この峠の秋の紅葉(黄葉)は、特にすばらしく、絶景だと言われる。四季折々の景観を楽しめ、勾配もゆるく、非常に走りやすいため、地元のローディーには人気のヒルクライムルートだ。だが、北見市中心街からは距離があり、勾配がゆるい分走行距離が長く、一般層にはハードルが高かった。
そこで、自転車搭載が可能となった北海道北見バスにE-BIKEを載せ、最寄りのバス停からトライができるなら、広い層が秋の絶景を堪能できるのではないかと思いつき、試してみることになった。
決行時期は10月中旬。緊急事態宣言の解除を待った影響で、ベストのタイミングからは少し遅くなってしまったが、色づいた葉は、ギリギリ持ち堪えているとの事前情報があった。
北見バスターミナルから、北見バスの温根湯・留辺蘂運動公園線に乗り、終点の「道の駅おんねゆ温泉」まで約33km、60分。ここから石北峠までは約35kmある。往復70kmという距離は、ビギナーにとっては確かに長い。だが、ラスト10kmまでの勾配は非常にゆるく、帰路はダウンヒルから下り基調のルートが続くため、実際は意外なほど走りやすいのだ。それでいて達成感は満点!この距離の長さと最後の本格的なヒルクライム区間という課題をE-BIKEで解決できれば、誰にでも走れるのではないだろうか。
今回一緒に走ってくれるのは、元ポタガールの小島智香さん。151.5cmと小柄なことから、ミニベロ型のE-BIKE、BESVのPSA-1を使用することになった。同行する絹代は、市のレンタサイクル、YAMAHAのYPJ-Cで走る。
往復バスを使うことを考えると、帰路は道の駅を13:50に発つ便の一択になるため、往路は早めのバスを選んだ。朝7時23分、北見バスターミナルを発つバスに乗り、のどかな眺めを楽しむこと1時間、8時26分に「道の駅おんねゆ温泉」に到着した。
店舗はオープン前であるため、お手洗いのみを借り、あらかじめ買っておいた補給(おやつ)等を持ってスタート。早朝まで雨が降り、路面は濡れていたが、この日の天気予報は晴れ。徐々に路面も乾いて来るだろう。
開放感のある田園風景の間をひた走る。厳密に言えば、勾配はわずかに上っているらしいのだが、ロードではほぼ気づかないレベル。この日はE-BIKEであり、当然上りの影響は感じない。だが、強い向かい風が吹き付けており、さっそくE-BIKEのパワーを拝借することになった。
「峠の紅葉、まだ残っているといいですね」と智香さん。平和な眺めを楽しみながら、ヒルクライムに思いを馳せる。早起きしたカラダを目覚めさせながら、ペダルを回した。
走ること5kmあまり。美肌の湯を楽しめる人気の宿泊施設「塩別つるつる温泉」に立ち寄った。帰路のバスの発車時刻を考えると、昼食を楽しむ時間の余裕はない。そこで、宿の朝食ブッフェで残った料理などを詰め、弁当にして販売してもらえないかと打診したところ、二つ返事でOKしてくれたのだ。
廃棄されてしまう食べ物をおいしくいただければ、フードロス問題の解消にもなり、施設サイドも収入になる。まさにウィンウィンの関係だ。価格は450円と言われていたが、受け取ってみたところ、弁当は「超ごちそうレベル」の重さ!つるつる温泉の大盤振る舞いにお礼を言い、サポートカーに積んでもらい、再スタートした。
紅葉が美しい塩別つるつる温泉のキャンプ場を眺めながら、国道39号線に復帰。青空が顔をのぞかせており、山々もいっそう美しく見えてきた。ルート上の景観に期待が高まる。
峠に向かうルートは、変わらず激しい向かい風。すでに9時半は回っているが、峠まではまだ30kmある。このままのペースで行くと、帰路のバスに間に合わない可能性があることに気づく。「少しペースを上げましょうか」と声をかけると、智香さんは、神妙な顔でコクリと頷いた。
林や草原など、自然の中を気持ちよく走り抜けていく。上り勾配はほとんど感じない。ふと、顔にポツポツと冷たいものが当たるのを感じた。見上げて「雨!」思わずふたりで声をあげる。空は明るく、お天気雨の様子だ。「このあと、また雨になっちゃったりしてね。」雨はすぐに止み、天気予報を固く信じていた二人は、冗談として語り合う。今から思えば、このとき天気の行方を大いに警戒すべきだったのだが……。
ルートからは、紅葉に彩られた北見富士を眺めることができた。この分だと、石北峠でも紅葉が楽しめるに違いない。峠の木々は、どんな色に染まっているのだろう?思いをめぐらせながら走る。
このとき、ひらひらと何かが舞い降りてきた。「雪だ!」また二人で声を上げる。雪はすぐに止んだため、標高が上がれば、雪がチラつくこともあるのだろうかと、ぼんやりと考える程度だった。
白樺が群生するエリアに突入する。日の光を浴びて輝く白樺林がとても美しい。路面はかなり濡れていた。雨が降ったり、止んだりしているのだろう。まだ先は長く、天気の変化に気をつけながら行こうと話し合う。
このルートはサイクリングルートのモデルコースに指定されており、矢羽根と自転車のピクトグラムが描かれている。交通量もそれほど多くなく、通り過ぎるクルマは、しっかりと空間を開けて抜いてくれるため、不安を感じることはない。昔はこのルートは旭川と北見をつなぐ主要なルートであり、石北峠はオホーツクの入り口だったそう。今は高規格道路が整備されたことで通行が分散されて交通量も減り、自転車にとってはかなり走りやすい道になったのだという。
「E-BIKEって、いろんな意味でイイですね。」バイクを走らせながら智香さんが言う。太めのタイヤで安定感もあり、落ち葉が散乱する濡れた路肩でも怖くない。ロードと異なり深い前傾ではない分、向かい風の影響は大きいが、アシストの力を借りるため景観を楽しみながら上れるのだ。ルート沿いの景観は、林や草原、小川など目まぐるしく変化していくし、遠方の山々も眺められ飽きることがなかった。
しばらく、白樺が並ぶエリアを走る。空が暗くなってきて、時折雨粒が落ちて来るようになった。コーナーを回り、行く手に見えた山々の色を見て、二人は凍りついた。
「あれ、もしかして雪じゃないですか?」
山の色が、期待した黄色でも赤色でもなく、白いのだ。若干の不安が二人の胸をよぎった。「標高が高いところは、もう雪が降り始めているんでしょうね。」いや、実際はそれほど「遠景」ではないような気もするのだが、半ば自分たちに言い聞かせるように、言葉を交わした。緑の葉に白い雪がかかった様子は、なんとなくクリスマスを想起させ、悲壮感は感じなかった。それほど、「雪」に現実的な感覚がなかったのだ。
ここでサポートカーがやってきた。「ちょっと気をつけた方がいいですよ、対向車の上に、雪が積もっています。峠の向こうは、おそらく雪です!」雪が積もっている?でも、空は明るいし、まだ10月半ばだし、どうも真実味がない。お礼をいいながらもこの時はまだ、「まさか」と思っていた。
だが、このあたりから雲行きは本格的に怪しくなって行った。コーナーを回って、飛び込んできた眺めに声を上げる。「これ、雪じゃないですか?」葉の上に、白いものが乗っている。思わずバイクを止め、確認する。「確かに、雪ですね。」この地点でもう雪が積もっているとは!
この後は勾配も上がるため、止まったついでにいったん休憩し、補給することにした。持ち運んできたセイコーマートの大福を頬張る。残すは10kmあまり。厚着していたため、身体はホカホカだったのだが、止まってみると、気温はかなり下がっているようだった。
エネルギーをチャージし、再スタート。ここからが本番のヒルクライムだ。がんばるぞ!
だが、ほどなく雪が眼前に舞い始め、あっという間に前が見えないほどの雪に変わった。激しい向かい風に乗って雪が吹き付けてくる。冷たい!そしてちょっと怖い!前がよく見えない。
自転車乗りの性なのか、しばし無言で雪と戦う二人。バイクはあくまで優秀で、黙々と踏み込むペダルに応じ、ふたりを上へと運んでくれた。走れてしまうから、走ってしまう。正直、こんな環境のいいところだから、走れるなら走って峠まで行きたい。
だが、ここではっと気づいた。「これ、乗っちゃいけないやつです!」雪の中で峠を上るのは、冷静に考えれば危険行為なのではないだろうか。ふたりで自転車を止め、いったん退避しようとサポートカーを呼んだ。吹き付ける雪で、カラダもバイクも、もはや真っ白だ。
協議の結果、危険性の高いところは車に乗り、安全を確保することになった。少し残念だ。
だが、神さまは我々を見放さなかった。ほどなく、雪はかなり穏やかになり、路面状態も落ち着いたのだ。「走ります!走りたいです!」車から降ろしてもらい、峠までの数キロを走らせてもらうことになった。ふわふわと舞う雪の中、白く染まった景観の間を走るのは、なんとも特別な経験だ。寒い中でも、智香さんの乗るPSA-1はまだ十分なバッテリーを残し、安定して雪景色の中を走っていく。
黄色か赤色かと、心ときめかせながら話し合っていた峠の景観は見事なまでに白色になってしまったけれど、それもまたよし。白く染まった絶景を望む橋を越え、峠にたどり着いたのだった。ひとときはクルマに乗ったものの、ある種の達成感は味わえた。
だが、ここで再び雪が吹雪のように吹き付け始めた。外でのランチは断念し、車内でお弁当をいただくことに。おにぎり、唐揚げ、たまご焼き、焼き魚、明太子……。なんとおいしく、豪華なこと!廃棄される運命にあった朝ブッフェの料理を、こんなにおいしくいただけることに、幸せと「いいことした感」を感じる。
とはいえ、下山は不可能な状況となったため、サポートカーに乗って塩別つるつる温泉へと戻る。不思議なことに下界では青空すら見え、路面も一部は乾いていた。あれは、山のみの天気だったのだろうか。お弁当のお礼を伝え、道の駅のバス停まで5km程度は自走で戻ることにした。
穏やかな田園風景の中を行く。「まるでさっきまでのことが、幻だったみたいですね。」智香さんと笑い合う。快適に走っていると、にわかに空が曇り、暗くなってきた。嫌な予感がふたりを包む。
突然、大粒の雪が舞い始めた。あまりにドラマチックな展開に戸惑っているうちに、横風に乗って、雪が強烈に吹き付けてきた。「痛い!」露出している顔が、雪に叩きつけられて痛い。サポートカーはもう先行しており、ここは自力で走り抜けるしかない。さっきまで晴れていたのに。横殴りの雪に耐えながら、道の駅にたどり着いた。まさに、何て日だ!
道の駅に着き、自転車を停め、記念撮影を終えたら、雪が止んだ。「ライドあるある」だが、もはや嘆いても仕方ない。冷えきったカラダを名物の「ホット生牛乳」と揚げたて熱々の「白花豆コロッケ」で温め、帰路のバスに乗り込んだ。
疲労した状態で運転しなくてもいいのは、やはりありがたい。ここまでの劇的な1日が、まるで夢であったかのように、のんびりと進むバスのシートに身を委ね、北見バスターミナルを目指した。
天気には翻弄されたが、石北峠へのヒルクライムは、路線バスでアクセスし、E-BIKEでトライできることは、わかった。今年、北見バスでは、終日のバス乗り放題と自転車の積み込み放題がセットされた「サイクリストパス」が2,660円で販売(オンロードシーズンのみ)されていた。こういったサービスを使えば、費用面でも現実的で、挑戦のハードルを下げられるだろう。
トラブルがあった方が、思い出には残るもの。この日のライドは、おそらく忘れられないものになったと思う。とはいえ、日が長い夏か、紅葉を狙える9月末あたりにでも、またチャレンジしてみたい。もちろん、読者の方にもそのあたりの時季がオススメだ。
北見バスの自転車搭載サービスは、来年も実施予定とのこと。石北峠の紅葉は、実際のところどうなのかが気になってしまった方は、ぜひ来年チャレンジしてみてほしい!
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