2021/07/19(月) - 10:37
南アルプスでMTBトレイルを造り、整備する市民団体、「南アルプスマウンテンバイク愛好会」。国にもモデルケースとして認められるまでになった活動について、創立者である弭間 亮さんへのインタビューをお届けします。
マウンテンバイク(MTB)は、乗れるトレイルを確保するのが難しい。舗装路を走るロードバイクなら、今そこにある車道を走ればいいが、MTB向けの自然の道は、公開されたMTBパーク以外を公にはしにくい。日本では、国が作った舗装路の公道以外はほとんどが法的にはっきりせず走行許可されるまでの方法も確立されていないためだ。
作り出してしまえば1時間半で作れるトレイルは、作らせてもらえるまでには8年間かかった。前編でお伝えしたトレイル作りをリードしたのが、山梨県南アルプス市の櫛形山で活動を続けるMTBの市民団体、『南アルプスマウンテンバイク愛好会』(以下愛好会)だ。
その創立者であり代表の弭間 亮さんはもともと、外からこの櫛形山に通う一人のマウンテンバイカーだった。ただ彼がたどったトレイル作り・開放への道のりは、いわゆるポリティカリー・コレクト、『政治的に正しかった』のだ。この【後編】では、トレイルを作らせてもらえるまでの、そしてついには国策としてトレイル作り活動が推奨されるまでの、弭間さんの8年間に焦点を当てる。
→南アルプスMTB愛好会が国策の一部となるまで 前編
●『あなたが一番楽しいトレイルはきっと、あなたが家族と作ったトレイルだ。「ソイルサーチング・ディグデイ2021」』
●先人は「公共トレイルを作りたいなら、コミュニティを作れ」と言った
10年ほど前、MTB天国と言われるドイツ・ミュンヘンのマウンテンバイカーに取材したことがある。ミュンヘン郊外には、無料で走れるMTB専用トレイルがいくつもあるというからだ。どう実現したのか。
「個人ではなくコミュニティーを作ること」と彼は言った。「コミュニティーを作り、いち個人の意見ではなく組織だった市民団体として活動を行い意見すること。何かあったときに、市民が相談できるコミュニティという窓口を作っておくこと」。それが王道であり一番の近道だ、彼の答えは、明快だった。
弭間さんが行ってきたことも、まさしくそれだった。愛好会という団体を立ち上げ、行政に想いを伝えてきた。これまでもシクロワイアードでは、弭間さんと愛好会を取材してきており、取材のたびに状況は進化していた。しかしその活動内容が、国策の一部になっていくとは、当時は予想もできなかった。
*『里山トレールをオープンにするために 山梨県・南アルプス市からの第一歩』(2015/11/30)
https://www.cyclowired.jp/lifenews/node/184315
*『南アルプス市櫛形山に会員制のMTBトレイルがオープン 地域と共生するフィールドづくり』(2016/6/8)
https://www.cyclowired.jp/lifenews/node/200589
●MTB推進を国交省が『自転車活用推進計画』に採用、観光庁が弭間さんらを事業者として認可
先日、弭間さんと愛好会の活動を、NHKのニュース番組が取り上げていた。その中で、地元の方が言っていたのが、「最初は『お兄ちゃんたちが、都会からきて、遊びほうけて』と言われていたが、今は地元に貢献してくれてありがたい」との主旨だった。
まさにこのMTBへの認識の変化が、櫛形山を発端に全国へと広がろうとしている。MTBは『若者の余興』から、『地域の過疎化を食い止め、関係人口を増やすツールの1つ』になろうとしているのだ。
MTBで、誰に気兼ねすることなく山を下りたい。この想いで弭間さんが行ってきた地道な活動を、観光立国になろうとしている日本は、推進すべき手段の一つとして認めた。山梨県、林野庁、国土交通省、観光庁といった自治体、省庁が公式に発表する文書に、愛好会の活動が記載されたのだ。事例のリンクを記載する。
●ひとりのマウンテンバイカーが、地域に溶け込み、経済を作り、移住するまで
2020年の6月、弭間さんはこの愛好会活動の運営を、法人化して行うことにした。『一般社団法人 南アルプス山守人』である。MTBトレイル作りを目的とする地域のMTB市民団体の運営を法人が行うのは、日本では初めての例だ。
弭間さんは今でこそ、これらすべての舞台である山梨県南アルプス市に移住しているが、8年前は走れる場所を探す、ひとりの都市型マウンテンバイカーだった。
「MTBが好きで山を走っていたんですが、実はここは走っていいものなんだろうか、と考え始めてしまったんです」
彼が行なったのは、乗るよりも前に、まず地元の方々に話しかけることだった。話しかけ、彼らの話を聞いた。その話をもとに図書館で、地域の歴史、風土を勉強した。そこで得た知識で、人の心を時間をかけて解きほぐし、少しずつ地元コミュニティーに溶け込んでいった。よそ者が、よそ者でなくなるまでには、年月がかかった。
弭間さんに、法人化後の2020年8月、そして2021年5月のイベント『ソイルサーチング』で行った2度のインタビューを下にまとめた。彼がたどったこの軌跡は、本人曰く「先行事例がないと動かない行政を動かすための、実績作り」である。MTBの走れる場所を作りたい、という弭間さんと同じような情熱を持った個人、団体、自治体の参考になるだろう。
●「トレイルを作らせて」ではなく「地域を、そしてあなたを知りたいんです」
ーー『南アルプスマウンテンバイク愛好会』とは、どのような団体?
主な活動は、今回のようなディグライド、トレイル作りや地域活動のお手伝いです。月に3回ほどの会員向けの活動日では、5~10人ほどが集まり、一緒にトレイルを走ったり、山道を整備したりしています。トレイル作りとライドをセットにして、さまざまな活動を織り交ぜ、会員が続けていきやすい活動方法を実践しています。トレイル作りやライドの後には、おいしい料理を食べるなどの楽しみも忘れないようにしています。
会員は現在110人いますが、作業に来られる方は少ない時で5人、多い時で30人ほどです。毎週、何かしらの活動があり、例えば先月は初心者コースの整備を行いました。また、地域の清掃活動も行いました。
今はコロナ禍で中止になっていますが、来月はまめちゃんという高齢者のコミュニティにお邪魔して、会の活動報告を行う予定です。写真を見せるなど、刺激になるので、認知症予防も期待できそうです。
トレイルを新規で作る場合、倒木を撤去してから、ツルハシなどで道を切り開きます。また、雨が続いた後は、ライドをしながら倒木や石の撤去を行っています。また、標高の低いところは雪が積もらないため、冬でも作業が可能です。
→『南アルプスマウンテンバイク愛好会』のホームページ
https://www.minamialpsmtb.com
ーーここに決めた経緯は?
もともとMTBが好きでこの周囲の山も走っていましたが、ある時期から、その道を走って良いのかどうかを考え始めるようになりました。そのうち、東京都下の西多摩MTB友の会、MTBのガイドツアーを行っているトレイルカッターさんに出会って話をきき、日本ではトレイルを無邪気に走れる状況ではないことを学びました。
今は南アルプス市に移住しましたが、その当時はずっとここに通っていました。週に5日働いて、休みの2日はすべてこっちにいるという具合でした。
そのうちに、地域の方とか行政の方と出会って。 「君たち、そんなにMTB走りたいんなら、ここどう?」という感じで、場所を紹介してもらえるようになりました。こうなると、「断ったらもうここでは乗れないな、気持ちが落ちてしまうし」ということで、やるしかなかったです。
こちらにいるときは、地域の方に声をかけていきました。お願いしたいのは「この山を走らせてください、トレイルを作らせてください」なんですが、それはあまり言わず、ただ「ちょっと地域のことを知りたいんです」。
こっちにいる時は、車を運転していても、自転車に乗っていても、誰かがいたら、もう止まって声をかけてお話する、ということをとにかく繰り返しました。
その聞いた話をもとに、地理から歴史から自然から地域のことを勉強しました。近くの図書館にも行って資料を読んで、地域の文化も勉強し、理解を深めていきました。
すると相手にも、この人は地域のこと大事に思ってるなというのが伝わるんですね。顔もお互いにだんだんわかっていって。顔見知りが増えていくと、お互いに期待に応えたくなるものなんですね。それをどんどん貯めていったんですよね。お祭りをお手伝いしたり、ゴミ拾いをお手伝いしたり。
●地元の後押しを受けた愛好会は信頼を得て、運営を法人化し、社会的な地位を築いていく
ーー愛好会の活動の骨子は?
少子高齢化の進む地方都市では、特に山間部の人口減少がいちじるしい。登山団体も同様に高齢化や個人登山が増え、山道整備の維持管理が難しくなっています。さらに、行政は人口減少により税収が減っているため、山道整備に多くの予算を当てられないようです。
また、気候変動のため台風やゲリラ豪雨が多く、山道がより荒れやすくなっています。そこで消去法で考えた時、山の環境を維持管理するのは、年齢層の低いマウンテンバイカーが適していることに気づきました。
チェーンソーの資格を取得し、持続可能なトレイル作りを学んだ上で日頃から整備を行っているので、痛みにくい登山道を作れます。また、登山好きなメンバーも多く、登山家の目線で道に迷いやすそうな場所には印を設置することもあります。
ーー発足してからの、弭間さん個人の経緯は?
会の発足当時は僕はアウトドアメーカーに勤務していましたので、休日を通いながら、南アルプス市での活動に充てていました。その後さらにこの活動が忙しくなったため、2020年4月に退職して、山梨県に移住し、その後法人を立てました。
ーーそれが法人の『南アルプス山守人』ですね。法人化したのはなぜ?
愛好会が法人化したわけではなく、愛好会の組織はそのまま残した上で、それを適切に運営し、法人格が必要になる指定管理、業務委託、トレイル建設、税務処理等のために法人化しました。
会の規模が大きくなるにつれ、収支額も増えるため、しっかりしたお金の運用も必要になりました。さらに、会員が100人以上に増え、地域との連携も時間がかかることから、専属の担当者を置かなければならず、その方への人件費などの諸経費も必要になったこともありました。
『南アルプス山守人』は、基本は愛好会の運営を行いますが、それ以外にトレイル作りやトラブルなど、企業や行政からMTBに関する相談を受けた時に対応しています。他にも櫛形山の登山道をパトロールし、荒れている箇所の倒木撤去などの整備を提案し、業務として依頼を受けて作業をしています。
業務委託などの相談が増えてきたので、それらの機会を逃さず、また日本のMTB文化に貢献していく目的もあります。
ーー法人格を持ってからは、どのように進みましたか?
愛好会が社会的地位を得られたのと、運営できていることを社会的に証明できるようになりました。それにより、企業からの支援も増え、行政からより信頼してもらえるようになりました。
その最初の流れが、2019年9月の山梨県の最上位政策である山梨県総合計画に位置づけられる、自転車推進計画でした。その計画書に愛好会の活動が盛り込まれ、県としてMTB事業を政策として進めていく流れになりました。南アルプス市でも、さまざまなイベントや取り組みの後援をしてもらうなど、地域社会と行政から良い存在として認知されています。
●「MTBは山のパトロールになる」
ーー県の自転車活用推進計画に載った経緯は?
こちらからお願いしたわけではなく、これまでの実績があったため、委員の先生方に認めてもらえました。
そこでは、マウンテンバイカーが訪れることが、山の保全につながることを伝えました。山道を整備してから走行することで、山のパトロールになるからです。また、自然に触れながらその素晴らしさを体感できるので、自然保護にもつながります。南アルプスはユネスコパークに指定されているので、これはその理念に沿っています。
ーー目標はトレイルを作って広げていくこと?
それももちろんですが、ぼく自身は、トレイルを作ることより、山頂から下る方が好きです。ですからMTBで走ることを合法化し、堂々と楽しめるようにしたいです。
ですが、MTB走行に関しては現状では条例化されていません。そこで、守るべきルールや走行可能なルートを制度化できれば、例えば走ってはいけない道を走ってしまったり、トラブルで行政にクレームが行くなどの問題を防げます。
例えば自動車の免許と同じように、愛好会が講習会を開き、その修了書を得た人だけが特定のルートを、ルールを守った上で走行できるようにするというライセンス制の導入も考えています。これは、ルールを守らない人の対策にもなるはずです。
愛好会のルールは厳しいように聞こえますが、実は当たり前なものが多く、例えば道を削らないように走る、山道を作り変えない、火を使わない、人と会ったら挨拶する、そして自分たちで走るトレイルを年に1回以上自分たちで整備したり地域活動をお手伝いするなどが設けられています。
マウンテンバイカーと雨水を適切にコントロールできるトレイルを作れば山道の維持管理は楽になります。
これらのルールを守ると事故が起こらないという実績を、会発足からの8年間で積み重ねてきました。櫛形山での活動は、先行事例がないと動かない行政を動かすための実績作りと言えます。南アルプス市長には会の活動を応援してもらっています。
僕らは、一般のライダーやこれからMTBを始めたい人が入りやすい組織にならないと、と思っています。一緒にMTBの世界を少しずつ作っていけるようになりたいです。
●MTBは、人を、地域を幸せにするツールになる
最初は数人でで奮闘を続けていた弭間さんのもとには今、100人以上の愛好会会員がついている。彼の想いと愛好会の活動に賛同する企業も増えている。MTBは、山を荒らすものではなく、守り活性化させるものとして国策の中に盛り込まれた。
愛好会の会員になるのも、弭間さんの活動を後押しする1つの方法である。そうでなくても、MTBに乗る時にできることはある。
自然のトレイルでは、路面をむやみに削らない。ゴミは持ち帰る。山中で人に会ったら必ず挨拶をする。MTBに乗るときは人として当たり前のことを一つ一つ行えば、MTBの社会的地位を高めたいとする弭間さんの活動を後押しすることにつながる。
弭間さんと南アルプスマウンテンバイク愛好会の働きで、国策の一部となり始めたMTBというスポーツは、人を健康にし、楽しませ、地域の経済を活性化させる、幸せのツールになっていく。
text&photo:Koichiro Nakamura
マウンテンバイク(MTB)は、乗れるトレイルを確保するのが難しい。舗装路を走るロードバイクなら、今そこにある車道を走ればいいが、MTB向けの自然の道は、公開されたMTBパーク以外を公にはしにくい。日本では、国が作った舗装路の公道以外はほとんどが法的にはっきりせず走行許可されるまでの方法も確立されていないためだ。
作り出してしまえば1時間半で作れるトレイルは、作らせてもらえるまでには8年間かかった。前編でお伝えしたトレイル作りをリードしたのが、山梨県南アルプス市の櫛形山で活動を続けるMTBの市民団体、『南アルプスマウンテンバイク愛好会』(以下愛好会)だ。
その創立者であり代表の弭間 亮さんはもともと、外からこの櫛形山に通う一人のマウンテンバイカーだった。ただ彼がたどったトレイル作り・開放への道のりは、いわゆるポリティカリー・コレクト、『政治的に正しかった』のだ。この【後編】では、トレイルを作らせてもらえるまでの、そしてついには国策としてトレイル作り活動が推奨されるまでの、弭間さんの8年間に焦点を当てる。
→南アルプスMTB愛好会が国策の一部となるまで 前編
●『あなたが一番楽しいトレイルはきっと、あなたが家族と作ったトレイルだ。「ソイルサーチング・ディグデイ2021」』
●先人は「公共トレイルを作りたいなら、コミュニティを作れ」と言った
10年ほど前、MTB天国と言われるドイツ・ミュンヘンのマウンテンバイカーに取材したことがある。ミュンヘン郊外には、無料で走れるMTB専用トレイルがいくつもあるというからだ。どう実現したのか。
「個人ではなくコミュニティーを作ること」と彼は言った。「コミュニティーを作り、いち個人の意見ではなく組織だった市民団体として活動を行い意見すること。何かあったときに、市民が相談できるコミュニティという窓口を作っておくこと」。それが王道であり一番の近道だ、彼の答えは、明快だった。
弭間さんが行ってきたことも、まさしくそれだった。愛好会という団体を立ち上げ、行政に想いを伝えてきた。これまでもシクロワイアードでは、弭間さんと愛好会を取材してきており、取材のたびに状況は進化していた。しかしその活動内容が、国策の一部になっていくとは、当時は予想もできなかった。
*『里山トレールをオープンにするために 山梨県・南アルプス市からの第一歩』(2015/11/30)
https://www.cyclowired.jp/lifenews/node/184315
*『南アルプス市櫛形山に会員制のMTBトレイルがオープン 地域と共生するフィールドづくり』(2016/6/8)
https://www.cyclowired.jp/lifenews/node/200589
●MTB推進を国交省が『自転車活用推進計画』に採用、観光庁が弭間さんらを事業者として認可
先日、弭間さんと愛好会の活動を、NHKのニュース番組が取り上げていた。その中で、地元の方が言っていたのが、「最初は『お兄ちゃんたちが、都会からきて、遊びほうけて』と言われていたが、今は地元に貢献してくれてありがたい」との主旨だった。
まさにこのMTBへの認識の変化が、櫛形山を発端に全国へと広がろうとしている。MTBは『若者の余興』から、『地域の過疎化を食い止め、関係人口を増やすツールの1つ』になろうとしているのだ。
MTBで、誰に気兼ねすることなく山を下りたい。この想いで弭間さんが行ってきた地道な活動を、観光立国になろうとしている日本は、推進すべき手段の一つとして認めた。山梨県、林野庁、国土交通省、観光庁といった自治体、省庁が公式に発表する文書に、愛好会の活動が記載されたのだ。事例のリンクを記載する。
●ひとりのマウンテンバイカーが、地域に溶け込み、経済を作り、移住するまで
2020年の6月、弭間さんはこの愛好会活動の運営を、法人化して行うことにした。『一般社団法人 南アルプス山守人』である。MTBトレイル作りを目的とする地域のMTB市民団体の運営を法人が行うのは、日本では初めての例だ。
弭間さんは今でこそ、これらすべての舞台である山梨県南アルプス市に移住しているが、8年前は走れる場所を探す、ひとりの都市型マウンテンバイカーだった。
「MTBが好きで山を走っていたんですが、実はここは走っていいものなんだろうか、と考え始めてしまったんです」
彼が行なったのは、乗るよりも前に、まず地元の方々に話しかけることだった。話しかけ、彼らの話を聞いた。その話をもとに図書館で、地域の歴史、風土を勉強した。そこで得た知識で、人の心を時間をかけて解きほぐし、少しずつ地元コミュニティーに溶け込んでいった。よそ者が、よそ者でなくなるまでには、年月がかかった。
弭間さんに、法人化後の2020年8月、そして2021年5月のイベント『ソイルサーチング』で行った2度のインタビューを下にまとめた。彼がたどったこの軌跡は、本人曰く「先行事例がないと動かない行政を動かすための、実績作り」である。MTBの走れる場所を作りたい、という弭間さんと同じような情熱を持った個人、団体、自治体の参考になるだろう。
●「トレイルを作らせて」ではなく「地域を、そしてあなたを知りたいんです」
ーー『南アルプスマウンテンバイク愛好会』とは、どのような団体?
主な活動は、今回のようなディグライド、トレイル作りや地域活動のお手伝いです。月に3回ほどの会員向けの活動日では、5~10人ほどが集まり、一緒にトレイルを走ったり、山道を整備したりしています。トレイル作りとライドをセットにして、さまざまな活動を織り交ぜ、会員が続けていきやすい活動方法を実践しています。トレイル作りやライドの後には、おいしい料理を食べるなどの楽しみも忘れないようにしています。
会員は現在110人いますが、作業に来られる方は少ない時で5人、多い時で30人ほどです。毎週、何かしらの活動があり、例えば先月は初心者コースの整備を行いました。また、地域の清掃活動も行いました。
今はコロナ禍で中止になっていますが、来月はまめちゃんという高齢者のコミュニティにお邪魔して、会の活動報告を行う予定です。写真を見せるなど、刺激になるので、認知症予防も期待できそうです。
トレイルを新規で作る場合、倒木を撤去してから、ツルハシなどで道を切り開きます。また、雨が続いた後は、ライドをしながら倒木や石の撤去を行っています。また、標高の低いところは雪が積もらないため、冬でも作業が可能です。
→『南アルプスマウンテンバイク愛好会』のホームページ
https://www.minamialpsmtb.com
ーーここに決めた経緯は?
もともとMTBが好きでこの周囲の山も走っていましたが、ある時期から、その道を走って良いのかどうかを考え始めるようになりました。そのうち、東京都下の西多摩MTB友の会、MTBのガイドツアーを行っているトレイルカッターさんに出会って話をきき、日本ではトレイルを無邪気に走れる状況ではないことを学びました。
今は南アルプス市に移住しましたが、その当時はずっとここに通っていました。週に5日働いて、休みの2日はすべてこっちにいるという具合でした。
そのうちに、地域の方とか行政の方と出会って。 「君たち、そんなにMTB走りたいんなら、ここどう?」という感じで、場所を紹介してもらえるようになりました。こうなると、「断ったらもうここでは乗れないな、気持ちが落ちてしまうし」ということで、やるしかなかったです。
こちらにいるときは、地域の方に声をかけていきました。お願いしたいのは「この山を走らせてください、トレイルを作らせてください」なんですが、それはあまり言わず、ただ「ちょっと地域のことを知りたいんです」。
こっちにいる時は、車を運転していても、自転車に乗っていても、誰かがいたら、もう止まって声をかけてお話する、ということをとにかく繰り返しました。
その聞いた話をもとに、地理から歴史から自然から地域のことを勉強しました。近くの図書館にも行って資料を読んで、地域の文化も勉強し、理解を深めていきました。
すると相手にも、この人は地域のこと大事に思ってるなというのが伝わるんですね。顔もお互いにだんだんわかっていって。顔見知りが増えていくと、お互いに期待に応えたくなるものなんですね。それをどんどん貯めていったんですよね。お祭りをお手伝いしたり、ゴミ拾いをお手伝いしたり。
●地元の後押しを受けた愛好会は信頼を得て、運営を法人化し、社会的な地位を築いていく
ーー愛好会の活動の骨子は?
少子高齢化の進む地方都市では、特に山間部の人口減少がいちじるしい。登山団体も同様に高齢化や個人登山が増え、山道整備の維持管理が難しくなっています。さらに、行政は人口減少により税収が減っているため、山道整備に多くの予算を当てられないようです。
また、気候変動のため台風やゲリラ豪雨が多く、山道がより荒れやすくなっています。そこで消去法で考えた時、山の環境を維持管理するのは、年齢層の低いマウンテンバイカーが適していることに気づきました。
チェーンソーの資格を取得し、持続可能なトレイル作りを学んだ上で日頃から整備を行っているので、痛みにくい登山道を作れます。また、登山好きなメンバーも多く、登山家の目線で道に迷いやすそうな場所には印を設置することもあります。
ーー発足してからの、弭間さん個人の経緯は?
会の発足当時は僕はアウトドアメーカーに勤務していましたので、休日を通いながら、南アルプス市での活動に充てていました。その後さらにこの活動が忙しくなったため、2020年4月に退職して、山梨県に移住し、その後法人を立てました。
ーーそれが法人の『南アルプス山守人』ですね。法人化したのはなぜ?
愛好会が法人化したわけではなく、愛好会の組織はそのまま残した上で、それを適切に運営し、法人格が必要になる指定管理、業務委託、トレイル建設、税務処理等のために法人化しました。
会の規模が大きくなるにつれ、収支額も増えるため、しっかりしたお金の運用も必要になりました。さらに、会員が100人以上に増え、地域との連携も時間がかかることから、専属の担当者を置かなければならず、その方への人件費などの諸経費も必要になったこともありました。
『南アルプス山守人』は、基本は愛好会の運営を行いますが、それ以外にトレイル作りやトラブルなど、企業や行政からMTBに関する相談を受けた時に対応しています。他にも櫛形山の登山道をパトロールし、荒れている箇所の倒木撤去などの整備を提案し、業務として依頼を受けて作業をしています。
業務委託などの相談が増えてきたので、それらの機会を逃さず、また日本のMTB文化に貢献していく目的もあります。
ーー法人格を持ってからは、どのように進みましたか?
愛好会が社会的地位を得られたのと、運営できていることを社会的に証明できるようになりました。それにより、企業からの支援も増え、行政からより信頼してもらえるようになりました。
その最初の流れが、2019年9月の山梨県の最上位政策である山梨県総合計画に位置づけられる、自転車推進計画でした。その計画書に愛好会の活動が盛り込まれ、県としてMTB事業を政策として進めていく流れになりました。南アルプス市でも、さまざまなイベントや取り組みの後援をしてもらうなど、地域社会と行政から良い存在として認知されています。
●「MTBは山のパトロールになる」
ーー県の自転車活用推進計画に載った経緯は?
こちらからお願いしたわけではなく、これまでの実績があったため、委員の先生方に認めてもらえました。
そこでは、マウンテンバイカーが訪れることが、山の保全につながることを伝えました。山道を整備してから走行することで、山のパトロールになるからです。また、自然に触れながらその素晴らしさを体感できるので、自然保護にもつながります。南アルプスはユネスコパークに指定されているので、これはその理念に沿っています。
ーー目標はトレイルを作って広げていくこと?
それももちろんですが、ぼく自身は、トレイルを作ることより、山頂から下る方が好きです。ですからMTBで走ることを合法化し、堂々と楽しめるようにしたいです。
ですが、MTB走行に関しては現状では条例化されていません。そこで、守るべきルールや走行可能なルートを制度化できれば、例えば走ってはいけない道を走ってしまったり、トラブルで行政にクレームが行くなどの問題を防げます。
例えば自動車の免許と同じように、愛好会が講習会を開き、その修了書を得た人だけが特定のルートを、ルールを守った上で走行できるようにするというライセンス制の導入も考えています。これは、ルールを守らない人の対策にもなるはずです。
愛好会のルールは厳しいように聞こえますが、実は当たり前なものが多く、例えば道を削らないように走る、山道を作り変えない、火を使わない、人と会ったら挨拶する、そして自分たちで走るトレイルを年に1回以上自分たちで整備したり地域活動をお手伝いするなどが設けられています。
マウンテンバイカーと雨水を適切にコントロールできるトレイルを作れば山道の維持管理は楽になります。
これらのルールを守ると事故が起こらないという実績を、会発足からの8年間で積み重ねてきました。櫛形山での活動は、先行事例がないと動かない行政を動かすための実績作りと言えます。南アルプス市長には会の活動を応援してもらっています。
僕らは、一般のライダーやこれからMTBを始めたい人が入りやすい組織にならないと、と思っています。一緒にMTBの世界を少しずつ作っていけるようになりたいです。
●MTBは、人を、地域を幸せにするツールになる
最初は数人でで奮闘を続けていた弭間さんのもとには今、100人以上の愛好会会員がついている。彼の想いと愛好会の活動に賛同する企業も増えている。MTBは、山を荒らすものではなく、守り活性化させるものとして国策の中に盛り込まれた。
愛好会の会員になるのも、弭間さんの活動を後押しする1つの方法である。そうでなくても、MTBに乗る時にできることはある。
自然のトレイルでは、路面をむやみに削らない。ゴミは持ち帰る。山中で人に会ったら必ず挨拶をする。MTBに乗るときは人として当たり前のことを一つ一つ行えば、MTBの社会的地位を高めたいとする弭間さんの活動を後押しすることにつながる。
弭間さんと南アルプスマウンテンバイク愛好会の働きで、国策の一部となり始めたMTBというスポーツは、人を健康にし、楽しませ、地域の経済を活性化させる、幸せのツールになっていく。
text&photo:Koichiro Nakamura
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