2020/08/13(木) - 14:22
山梨県笛吹市の石和温泉を起点に甲府盆地の北側をぐるりとめぐるグループライド"Greater Mt.Fuji Ride"が開催された。ウィズコロナの時代に対応しつつ、自転車で地域の魅力を楽しむためのニューノーマルを模索する実験的なライドのレポートをお届けしよう。
新型コロナウィルスの感染拡大が始まって以降、多くのレースやライドイベントが中止になってきた。7月以降、いくつかのレースは開催され始めてきたが、参加者数が数百人を超える大規模なイベントは感染拡大防止の観点から開催が見送られているのが現状だ。
そんな中、「南アルプスロングライド」や「桃と桜のサイクリング」など山梨県内で人気のロングライドイベントを開催するNPO法人「やまなしサイクルプロジェクト」が、新たな試みとして開催したのが、"Greater Mt.Fuji Ride"だ。ウィズコロナの時代でもグループライドを楽しむため様々な感染予防対策を講じ、地域に受け入れられるニューノーマルなサイクルイベントのカタチを模索する実験的な取り組みとして、NPO会員を中心に30名を超える参加者が石和温泉に集まった。
スタート地点となった石和温泉の足湯広場へ、三々五々集まってくるサイクリストたち。皆さんに共通しているのは、マスクやフェイスカバーを着用していること。今回は、感染拡大防止策の一環として、飛沫の飛散を抑えるためにそれらの装着をルールとしているのだ。
また、検温やスタート前の消毒の実施などに加え、今回のライドの趣旨の解説、そして走行時のルールの説明なども大声を出さずに済むよう、インカム型のマイクと繋がった携帯スピーカーを装着した青木理事長が行うなど、細やかな気配りがされていた。
簡単にまとめると、ルールは2点。走行中もマスクなどを着用すること。そして、休憩中や走行中を問わずソーシャルディスタンスを保つこと。ついつい、後ろにぴったりついてしまいがちなだけに、気をつけながら走りたいところだ。ちなみに、マスクについては熱中症との兼ね合いもあるので、体調に異変を感じる際は外しても構わないとのことだった。
さて、ソーシャルディスタンスを保った集合(?)写真を一枚撮って、早速スタート。10人程のグループにわかれ、勝沼方面へ向けて走っていく。信号待ちでも自転車1台分を開けることを意識しつつ、笛吹川を、中央道を越え、南側の果樹園地帯へ。
最初の休憩ポイントとなったぶどうの国文化館は、日本有数のブドウとワインの生産地である勝沼の歴史を蝋人形を用いてわかりやすく展示している施設。周辺には、フジッコワイナリーやシャトー・メルシャンなどワイナリーが多数立ち並ぶ、国産ワインの中心地とも呼べるロケーションだ。
こちらで一息ついた後は、勝沼ぶどう郷駅へ。勝沼がぶどうの一大産地となった一因でもあるのが、東京へと直通する鉄道の開通だという。地域に精通した青木理事長による解説を受けると、より一層見ている景色への理解が深まっていく。
ここからはフルーツラインを少し走ると、最後の目的地である恵林寺へ。1330年に夢窓疎石によって開山した恵林寺は武田氏の菩提寺であり、かの信玄公の墓所があることでも知られた古刹だ。織田信長の甲州征伐に際し焼き討ちされ、寺と共に焼死した快川紹喜が残した辞世の句の一部が、「心頭滅却すれば火も自ら涼し」ということわざとして現代まで伝わっているのだという。
ちなみにこの日はなかなかの炎天下で、残念ながら火もまた涼しい境地へ至らぬ凡俗の身にはなかなか堪える一日。少し人と離れた場所でマスクを外して休憩し、クールダウンしつつ最後の区間へ走り出す。
とはいえ、この先はほぼほぼ下り。万力公園の脇を通り、一路石和温泉へと爽快に走り抜ければこの日のライドは終了。約41km、獲得標高480mほどのショートライドながら久々のグループライドイベントという事もあり、満足感はかなり高め。参加した皆さんからも、「こういったライドイベントの楽しさを久しぶりに思い出しました!」という声が。
共に走ってくれた今中大介さんも今回のライドに手ごたえを感じたという。「幸いなことに、山梨は感染が大きく広がっている地域ではないので、感染予防対策をしつつ健康的な運動は続けるべきだと発信してきました。このように予防策をとればグループライドもできるようになってきたのは嬉しいですね。少しずつ、細心の注意を払いながら前へと進んでいければ。もっと日本中が元気になって、山梨に来てもらいたいですね」と、感染対策を備えたライドイベントへの期待を見せた。
今回のライドについて、「地方にとって、今の状況はある意味で大きなチャンスだと思うんです」と語ってくれたのはやまなしサイクルプロジェクトの青木理事長だ。「桃と桜のサイクリングも南アルプスロングライドも中止となり、私たちにとってもイベント開催という面においては厳しい一年になるのは確かです。しかし、スポーツサイクリングを通して山梨を活性化するというNPOの目的からすれば、中長期的にはプラスとなる可能性も大きいと思っています」という。
「これまで、経済合理性に基づいて人々は都市へ都市へと集まってきました。そこに今回のコロナ禍は一石を投じています。画一的なライフスタイルや価値観が覆され、都市からの脱却や地域内循環への志向が強まっているのは、世界的な潮流でしょう。その中で、地域内のインフラ、そして魅力の発信手段といった側面で自転車には大きな可能性があると感じています」
「都市では忘れ去られた自然と人間との関係性が地方にはまだまだ色濃く残っていて、それを最も強く感じられるのが自転車という乗り物です。なぜこの地形にこの作物が植えられ、地域の産業となり、どうやって他の地域へと流通していくのか。今回のライドでも、葡萄畑とワインを題材にそういったことをお話しました。自転車で坂を上り、太陽の光を浴びて、山をくりぬいたトンネルを見ればこそ、その関係性がするりと頭に入ってくる。
そういった意味で、今回のライドは一定の成果があったと思います。イベント名を"Greater Mt.Fuji Ride"としているのは、山梨だけでなく静岡も巻き込んで、大きな動きへと発展していければという思いもあります。継続的な取り組みとして、これまでの枠にとらわれない方法を模索していきたいですね」と語ってくれた。
また、今回のライドでマスク着用が必須だったのは地域の皆さんに不安を与えないためだったとも。筆者も最初は熱中症の心配をしていたが、通気性に優れたスポーツ用マスクを用意し、ある程度イージーなコースとペースを設定すれば、意外に暑い中でもマスクをして走れると実感した。もちろん個々人の体調が最優先となるが、人通りの多い市街地を走る際にエチケットとしてマスクを着用するだけでも、地域の方へ与える印象も違うだろう。
今後、コロナ禍が落ち着くにつれ、日本各地でサイクリストに向けた取り組みも復活してくるはず。当面の間は以前のような大規模イベントの開催は難しいかもしれないが、一方で地域により密着し、その魅力を味わう小規模ライドは増えてきそうだ。これからのニューノーマルを示す取り組みとして、やまなしサイクルプロジェクトの取り組みは要注目だ。
text&photo:Naoki.Yasuoka
新型コロナウィルスの感染拡大が始まって以降、多くのレースやライドイベントが中止になってきた。7月以降、いくつかのレースは開催され始めてきたが、参加者数が数百人を超える大規模なイベントは感染拡大防止の観点から開催が見送られているのが現状だ。
そんな中、「南アルプスロングライド」や「桃と桜のサイクリング」など山梨県内で人気のロングライドイベントを開催するNPO法人「やまなしサイクルプロジェクト」が、新たな試みとして開催したのが、"Greater Mt.Fuji Ride"だ。ウィズコロナの時代でもグループライドを楽しむため様々な感染予防対策を講じ、地域に受け入れられるニューノーマルなサイクルイベントのカタチを模索する実験的な取り組みとして、NPO会員を中心に30名を超える参加者が石和温泉に集まった。
スタート地点となった石和温泉の足湯広場へ、三々五々集まってくるサイクリストたち。皆さんに共通しているのは、マスクやフェイスカバーを着用していること。今回は、感染拡大防止策の一環として、飛沫の飛散を抑えるためにそれらの装着をルールとしているのだ。
また、検温やスタート前の消毒の実施などに加え、今回のライドの趣旨の解説、そして走行時のルールの説明なども大声を出さずに済むよう、インカム型のマイクと繋がった携帯スピーカーを装着した青木理事長が行うなど、細やかな気配りがされていた。
簡単にまとめると、ルールは2点。走行中もマスクなどを着用すること。そして、休憩中や走行中を問わずソーシャルディスタンスを保つこと。ついつい、後ろにぴったりついてしまいがちなだけに、気をつけながら走りたいところだ。ちなみに、マスクについては熱中症との兼ね合いもあるので、体調に異変を感じる際は外しても構わないとのことだった。
さて、ソーシャルディスタンスを保った集合(?)写真を一枚撮って、早速スタート。10人程のグループにわかれ、勝沼方面へ向けて走っていく。信号待ちでも自転車1台分を開けることを意識しつつ、笛吹川を、中央道を越え、南側の果樹園地帯へ。
最初の休憩ポイントとなったぶどうの国文化館は、日本有数のブドウとワインの生産地である勝沼の歴史を蝋人形を用いてわかりやすく展示している施設。周辺には、フジッコワイナリーやシャトー・メルシャンなどワイナリーが多数立ち並ぶ、国産ワインの中心地とも呼べるロケーションだ。
こちらで一息ついた後は、勝沼ぶどう郷駅へ。勝沼がぶどうの一大産地となった一因でもあるのが、東京へと直通する鉄道の開通だという。地域に精通した青木理事長による解説を受けると、より一層見ている景色への理解が深まっていく。
ここからはフルーツラインを少し走ると、最後の目的地である恵林寺へ。1330年に夢窓疎石によって開山した恵林寺は武田氏の菩提寺であり、かの信玄公の墓所があることでも知られた古刹だ。織田信長の甲州征伐に際し焼き討ちされ、寺と共に焼死した快川紹喜が残した辞世の句の一部が、「心頭滅却すれば火も自ら涼し」ということわざとして現代まで伝わっているのだという。
ちなみにこの日はなかなかの炎天下で、残念ながら火もまた涼しい境地へ至らぬ凡俗の身にはなかなか堪える一日。少し人と離れた場所でマスクを外して休憩し、クールダウンしつつ最後の区間へ走り出す。
とはいえ、この先はほぼほぼ下り。万力公園の脇を通り、一路石和温泉へと爽快に走り抜ければこの日のライドは終了。約41km、獲得標高480mほどのショートライドながら久々のグループライドイベントという事もあり、満足感はかなり高め。参加した皆さんからも、「こういったライドイベントの楽しさを久しぶりに思い出しました!」という声が。
共に走ってくれた今中大介さんも今回のライドに手ごたえを感じたという。「幸いなことに、山梨は感染が大きく広がっている地域ではないので、感染予防対策をしつつ健康的な運動は続けるべきだと発信してきました。このように予防策をとればグループライドもできるようになってきたのは嬉しいですね。少しずつ、細心の注意を払いながら前へと進んでいければ。もっと日本中が元気になって、山梨に来てもらいたいですね」と、感染対策を備えたライドイベントへの期待を見せた。
今回のライドについて、「地方にとって、今の状況はある意味で大きなチャンスだと思うんです」と語ってくれたのはやまなしサイクルプロジェクトの青木理事長だ。「桃と桜のサイクリングも南アルプスロングライドも中止となり、私たちにとってもイベント開催という面においては厳しい一年になるのは確かです。しかし、スポーツサイクリングを通して山梨を活性化するというNPOの目的からすれば、中長期的にはプラスとなる可能性も大きいと思っています」という。
「これまで、経済合理性に基づいて人々は都市へ都市へと集まってきました。そこに今回のコロナ禍は一石を投じています。画一的なライフスタイルや価値観が覆され、都市からの脱却や地域内循環への志向が強まっているのは、世界的な潮流でしょう。その中で、地域内のインフラ、そして魅力の発信手段といった側面で自転車には大きな可能性があると感じています」
「都市では忘れ去られた自然と人間との関係性が地方にはまだまだ色濃く残っていて、それを最も強く感じられるのが自転車という乗り物です。なぜこの地形にこの作物が植えられ、地域の産業となり、どうやって他の地域へと流通していくのか。今回のライドでも、葡萄畑とワインを題材にそういったことをお話しました。自転車で坂を上り、太陽の光を浴びて、山をくりぬいたトンネルを見ればこそ、その関係性がするりと頭に入ってくる。
そういった意味で、今回のライドは一定の成果があったと思います。イベント名を"Greater Mt.Fuji Ride"としているのは、山梨だけでなく静岡も巻き込んで、大きな動きへと発展していければという思いもあります。継続的な取り組みとして、これまでの枠にとらわれない方法を模索していきたいですね」と語ってくれた。
また、今回のライドでマスク着用が必須だったのは地域の皆さんに不安を与えないためだったとも。筆者も最初は熱中症の心配をしていたが、通気性に優れたスポーツ用マスクを用意し、ある程度イージーなコースとペースを設定すれば、意外に暑い中でもマスクをして走れると実感した。もちろん個々人の体調が最優先となるが、人通りの多い市街地を走る際にエチケットとしてマスクを着用するだけでも、地域の方へ与える印象も違うだろう。
今後、コロナ禍が落ち着くにつれ、日本各地でサイクリストに向けた取り組みも復活してくるはず。当面の間は以前のような大規模イベントの開催は難しいかもしれないが、一方で地域により密着し、その魅力を味わう小規模ライドは増えてきそうだ。これからのニューノーマルを示す取り組みとして、やまなしサイクルプロジェクトの取り組みは要注目だ。
text&photo:Naoki.Yasuoka
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