2019/05/29(水) - 11:57
5月22日(水)、代官山蔦屋書店にて「自転車と珈琲の幸福論」と題したトークセッションが開催され、3人のサイクリスト&コーヒーラヴァーがステージに集った。主催はサイクリングアパレルを中心に展開するラファで「代官山蔦屋書店サイクリング倶楽部」と銘打ったイベントの第2段として催された。「カフェがコミュニティ形成の場として重要な役割を担っていることを日々感じている中で、昔から自転車愛好家はコーヒーを良く飲む。果たしてそれはどういうことなのか? 」この疑問について掘り下げて考えようと言うイベントだ。
進行を務めるモデレーターには自転車YouTuberとして活躍中のけんたさん。ゲストには雑誌「mark」編集部員でDAZNのロードレース実況でもおなじみの小俣雄風太さんと、東京都国分寺市にあるコーヒースタンド「Life Size Cribe」のロースター兼バリスタである吉田一毅さんが参加した。コーヒー関係に馴染みのない方に改めて紹介すると、吉田さんは国内のラテアート選手権などでの優勝経験もある日本屈指のバリスタであり、ピストバイクをこよなく愛し、通勤やコーヒー豆の配達にと日々乗りこなすサイクリストでもある。
それぞれの自己紹介が終わると、来場者にコーヒーが1杯ずつ配られ、今回のテーマである「自転車と珈琲の幸福論」へと入っていった。
珈琲が飲まれるようになったのは
これには諸説あると言われているが、吉田さんが大切にしている一つのエピソードを話してくれた。「カルディ・コーヒーと言うショップはご存知の方が多いかと思います。これはその名の由来でもあるコーヒー発見のお話なんですけども、エチオピアにカルディと言う羊飼いの少年がいて、羊やその子が夜も飛び回るくらい元気になっちゃったと。それで彼が何を食べたのかと聞いたら赤い実、つまりコーヒーの実を食べていたんだと。これはちょっとファンタジーな話かなとは思うんですが、自分にとって1つのエネルギーになっている話でもありますね」
「自分自身はどうでしたか?」とけんたさんが話を振ると「元々は缶コーヒーが好きな少年で、単純にブラックが飲めるのがかっこいいと思っちゃったりして、飲み比べているうちにハマっていきました」と吉田さん。
自転車と珈琲の関わりついて
ここでは小俣さんが黎明期のツール・ド・フランス休息日の写真や、初めてツールのスタート地点となった「レベイユ・マタン(=目覚まし時計)」の写真を交えながら、自転車とコーヒー、カフェとの結びつきを示す歴史上のポイントを振り返っていった。
「これは昔のツールの写真で、休息日に選手がカフェで休んでる写真です。地方を転々としますから、レースの間に休むところはどうしても各地にあるカフェになります。そこに選手達が自然と集まってコーヒーを飲みながら会話をする。この頃から自転車とカフェって結びつきが強いんです」
「もう一つ、こちらは現在のレベイユ・マタン(目覚まし時計)の写真で、これは1903年にツールのスタート地点にもなったカフェです。その名の通り、ヨーロッパの自転車競技の夜明けを告げたような場所とも言えますね。今は、聞く所によるとブラジリアン料理を出すお店になっているらしいです。ブラジルと言うとコーヒーとも繋がりがあるってことでいいの…かな(笑)?」
産業革命当時の労働者は、今で言うブラックな環境、過酷な長時間労働を強いられており、カフェでコーヒー=カフェインを摂取してそれに耐えたこともあったと言う。自転車もその最中の19世紀前半に発明され、自転車競技としては1892年に始まった「リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ」と言う最古参のクラシックレースが今でもある。ツールはそういったレースを全部まとめて連日開催すると言う画期的なレースとしても宣伝された。
ロードレースは今でこそ舗装路上で開催されているが、当時の道は石畳や未舗装路が主で、選手が泥まみれになりながら走るものだったため、ツールは物好きで風変わりな人達が賞金を求めて参加する、といったイメージでも見られていた。小俣さんは、自転車競技におけるこうした状況が、産業革命時の労働環境とも通じており、コーヒーが求められた側面もあるのでは、としている。
その後も吉田さん、けんたさんとの会話と交えながら、小俣さんが自転車競技とコーヒーとの関係性を掘り下げていく。プロ通算525勝と言う前人未到の記録を遂げたエディ・メルクスのスポンサー「FAEMA(ファエマ)」、これはイタリアのエスプレッソマシンメーカーだ。今で言えばサッカーのレアル・マドリードに出資出来るような大企業だったそうだ。吉田さんによると、このファエマの作ったE61型エスプレッソマシーンは世界初の電動ポンプを搭載したマシンであり、今でもこれを元にしたマシンや当時を忠実の再現した復刻版が作られているのだそうだ。
小俣さん「次なんですが、こちらはヒップホップグループ『RHYMESTER』の宇多丸さんも生涯ベスト映画にセレクトした『ヤング・ゼネレーション』(1979年公開)と言う映画です。自転車競技に憧れ、イタリアかぶれした若き主人公が描かれているのですが、これはイタリア文化が入ってきた当時のアメリカの雰囲気でもあるかなと」
吉田さん「あのスターバックスもロースターからスタートしていますが、イタリアの影響を強く受けています。エスプレッソを取り入れて、世界的なコーヒー需要の高まりとともに大きくなっていきました」
ラファのサイクルジャージなどにつけられるストーリーラベルの1つにも、典型的なイタリア人サイクリストについて「エスプレッソがないとトレーニングが始まらない。イタリア人てこういうもの」と言ったような記述があると言う。ラファのストーリーラベルは、製品個々で違うものがついており、それだけをまとめた「インサイドストーリーズ」と言う本も発行されている。
小俣さん「ヨーロッパはコーヒー豆自体は持てない(生産国にはなれない)んです。生産に適した気候を持つ赤道付近のコーヒーベルトでないと育ちません。そうしたところに目をつけて、生産地の国が自転車競技を通じて売り込みをかけてきたのが1980年代です。1984年にコロンビアの選手としてルーチョ・エレラ(ルイス・エレラ:ツールの山岳王)がツールに出ると、それに乗じる形でコロンビア籍のカフェ・ド・コロンビアがスポンサーとなったプロチームが誕生しました」
そして、1900年代から2000年代となると、我々にも馴染みある名前が出てくる。ジロ・デ・イタリアを制したジルベルト・シモーニとダミアーノ・クネゴが所属していたエスプレッソマシーンメーカーのSaeco(サエコ)だ。ジロの通算ステージ最多勝記録を持つマリオ・チポリーニもサエコにいた。
「サエコさん…って言うと女性の名前みたいですけど(笑)、かつて彼らとスタバがコラボして作ったエスプレッソマシーンもありました。以前のスタバではそれが置かれていた所もあったんですよ」とは吉田さんの談。
では2019年の今は?と言うと、やはり別府史之が所属するワールドチーム「トレック・セガフレード」がスクリーンに映し出された。セガフレードはイタリアのカフェで、日本にも店舗を出店しているので、ご存知の方もいるだろう。
小俣さん「こうしてコーヒーと自転車の関係って昔から現在までずっと続いてきているんです」
今のサイクリストのライフスタイルと珈琲について
まず、自転車とコーヒーとの繋がりが深い街を例に。「実は行ったことはないんですが」と前置きをして、自転車とコーヒーを繋ぐ街として小俣さんからアメリカのポートランドが挙げられた。500kmに及ぶ自転車道が存在し、全米一の自転車通勤率を誇る街だ。また、アウトドアやスポーツブランドの発信地としてもメジャーで、クリエイティブな気概がある街としても知られる。ナイキ本社があり、ラファの米国本社もこのポートランドに籍を置く。アウトドアブランドのスノーピークの始まりもこの街からだと言う。そんな中で「STUMPTOWN COFFEE ROASTERS(スタンプタウン コーヒーロースターズ)」など、後に世界的に知られる事となるカフェも立ち上がっている。
こうしたカフェは「コーヒーの巨人」と称されるスターバックスと言った大型店舗で世界展開する大量消費型からは離れたものだと言う。「たとえば昔はブラジル、エチオピアだとか、生産国までの提示で終わっていたものが、よりストーリー性を持った形に変わってきたんです。」サードウェーブとも称されるこの流れは、所謂スペシャルティコーヒーを伴って近年日本にも波及した。
「日本でも農産物の生産者がわかるようになってきていますけれど、コーヒーも誰が作ったか、誰が焙煎したか、誰が淹れたか、と言うところまで分かるストーリー性を持つようになってきました。カフェそれぞれが個性を持ってオンリーワンの『あなたのためのコーヒー』を用意します、と言う風になってきた」と吉田さん。
さらにカフェ単体で見ても、自転車とコーヒーを密接に繋げたカフェも出てきている。その代表的な例がロンドンの「Look mum no hands!(ルックマムノーハンズ!)」。日本にもこのカフェのロゴが入ったTシャツやキャップなどのグッズを仕入れているショップもあり、見たことがある方もいるかもしれない。
「お店の名前が『見てママ、両手離しが出来たよ!』と、子どもが自転車に乗って出来たことの喜びを表していて良いですよね。このカフェには自転車のリペアサービスが併設されていて、最初にそこに自転車を渡したらコーヒーを飲んでのんびりして、お店を出る時には修理が終わっている、なんてこともあるんです」と小俣さん。
続いてけんたさんが、アスリート向けのSNSとして知られる「STARAVA」における食に関するキーワードの統計を映し出した。「サイクリストもランナーも『ビール』『コーヒー』がその多くを占めていますが、とりわけサイクリストは『コーヒー』が『ビール』を圧倒しています」
小俣さん「ビールはわかりますよね!自分はランもやるんですけど、やっぱり走ったあとのビールって美味しいですし。コーヒーもそういうところはありますね」
けんたさん「日本ではもちろんお酒を飲んで自転車に乗ってはいけないので、そういう面もあると思うんですけど、コーヒーならライドの途中でカフェに寄ってひと息入れるなんて時にも気軽に飲めますよね。そういう意味でも世界的に出てきやすいワードではあるかなと思います」
コーヒーって体にいいんですか?
これはやはりパフォーマンスを気にするサイクリストにとっても聞いておきたいところ。「医学的な詳しいことはわからないのですが」と前置きをしつつ、吉田さんからは「コーヒーと健康と言うと、やはりカフェインによるところが大きいですよね。妊婦さんなどはやはりお医者さんから飲まないようにと言われたりしますから、そういう人は気をつけていただきたいです。普通の人であれば、目が覚めると言う意味での覚醒作用や利尿効果などもあり、ある程度身体に入れることで健康にいい効果もあるんじゃないかと思います。」と言うお話が。
小俣さんはレースシーンに関して「昔はカフェインが禁止されていましたが、2004年のアンチ・ドーピングルールの改訂で禁止薬物から除外されました(※筆者注:過度の摂取がないか、検査による確認は引き続き行われている)。違反となる既定値を超えるカフェインを摂取するには、コーヒーならかなりの量を飲まないといけないらしく、現実的ではないと言うことのようです」と続けてくれた。
コーヒーと自転車がもたらすこと
小俣さんによると、自身の雑誌「mark」でも紹介するライフスタイルの中で、サード・プレイス(第三の場所=自分の場所)と言うものがあるのだとか。それは「家や勤務先とはまた別の時間や価値を生み出す場所ですね。そこへ行くことで新しい出会いを見つけたり、次の一歩が見えてきたりだとか、人生の中で自分にとって不可欠なものと言う感じの意味を持つ場所です」
吉田さん「僕のお店はまさにそんなところかもしれないですね。コーヒーを介して新しいコミュニケーションが生まれると言うか。来てくれたお客さん同士が自然と挨拶し合ったり会話が始まったりしていますね」
小俣さん「自転車も、たとえ喋らなくてもペダリングのスピードとかでお互い何を考えているかわかったりとか、コミュニケーションツールになっているところがありますね」
けんたさん「そしてサドルから降りてもコミュニケーションをシームレスにしてくれるものがカフェであったり、コーヒーであったり、ということになるのかなと」
トークセッションが終わると、質疑応答では自身もコーヒー豆の焙煎士だと言う方からの質問も投げかけられ、最後まで濃厚な時間が続いた。
来場者へのお土産には、この日出されたLife Size Cribeのオリジナルブレンド「Lady Brown」のコーヒー豆や、Rapha Tokyoでコーヒーを1杯飲めるショップカードなどが手渡された。2時間に亘る充実のトークに加え、テーマに沿ったお土産までもらえるとあって、参加者からは喜びの声が上がった。
イベント終盤にはラファ東京のバリスタ・宮崎貴之さんから、東京都内のカフェを自転車で巡る「東京カフェライド」の紹介も。次の東京カフェライドは6月15日(土)にスケジュールされている。ちなみに、現在ラファ東京のオペレーションを担いつつ、このイベントを主催する宮崎貴之さんは、2016年のエアロプレス日本チャンピオンでもあり、コーヒー業界で一目置かれる存在だ。
次回の「代官山蔦屋書店サイクリング倶楽部」のイベントは7月(もちろんテーマはツール・ド・フランス!)を予定。1階ではラファが出版する書籍を中心としたサイクリングブックフェアも開催中だ(6月2日まで)。
Photo & Text: Yuichiro Hosoda
進行を務めるモデレーターには自転車YouTuberとして活躍中のけんたさん。ゲストには雑誌「mark」編集部員でDAZNのロードレース実況でもおなじみの小俣雄風太さんと、東京都国分寺市にあるコーヒースタンド「Life Size Cribe」のロースター兼バリスタである吉田一毅さんが参加した。コーヒー関係に馴染みのない方に改めて紹介すると、吉田さんは国内のラテアート選手権などでの優勝経験もある日本屈指のバリスタであり、ピストバイクをこよなく愛し、通勤やコーヒー豆の配達にと日々乗りこなすサイクリストでもある。
それぞれの自己紹介が終わると、来場者にコーヒーが1杯ずつ配られ、今回のテーマである「自転車と珈琲の幸福論」へと入っていった。
珈琲が飲まれるようになったのは
これには諸説あると言われているが、吉田さんが大切にしている一つのエピソードを話してくれた。「カルディ・コーヒーと言うショップはご存知の方が多いかと思います。これはその名の由来でもあるコーヒー発見のお話なんですけども、エチオピアにカルディと言う羊飼いの少年がいて、羊やその子が夜も飛び回るくらい元気になっちゃったと。それで彼が何を食べたのかと聞いたら赤い実、つまりコーヒーの実を食べていたんだと。これはちょっとファンタジーな話かなとは思うんですが、自分にとって1つのエネルギーになっている話でもありますね」
「自分自身はどうでしたか?」とけんたさんが話を振ると「元々は缶コーヒーが好きな少年で、単純にブラックが飲めるのがかっこいいと思っちゃったりして、飲み比べているうちにハマっていきました」と吉田さん。
自転車と珈琲の関わりついて
ここでは小俣さんが黎明期のツール・ド・フランス休息日の写真や、初めてツールのスタート地点となった「レベイユ・マタン(=目覚まし時計)」の写真を交えながら、自転車とコーヒー、カフェとの結びつきを示す歴史上のポイントを振り返っていった。
「これは昔のツールの写真で、休息日に選手がカフェで休んでる写真です。地方を転々としますから、レースの間に休むところはどうしても各地にあるカフェになります。そこに選手達が自然と集まってコーヒーを飲みながら会話をする。この頃から自転車とカフェって結びつきが強いんです」
「もう一つ、こちらは現在のレベイユ・マタン(目覚まし時計)の写真で、これは1903年にツールのスタート地点にもなったカフェです。その名の通り、ヨーロッパの自転車競技の夜明けを告げたような場所とも言えますね。今は、聞く所によるとブラジリアン料理を出すお店になっているらしいです。ブラジルと言うとコーヒーとも繋がりがあるってことでいいの…かな(笑)?」
産業革命当時の労働者は、今で言うブラックな環境、過酷な長時間労働を強いられており、カフェでコーヒー=カフェインを摂取してそれに耐えたこともあったと言う。自転車もその最中の19世紀前半に発明され、自転車競技としては1892年に始まった「リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ」と言う最古参のクラシックレースが今でもある。ツールはそういったレースを全部まとめて連日開催すると言う画期的なレースとしても宣伝された。
ロードレースは今でこそ舗装路上で開催されているが、当時の道は石畳や未舗装路が主で、選手が泥まみれになりながら走るものだったため、ツールは物好きで風変わりな人達が賞金を求めて参加する、といったイメージでも見られていた。小俣さんは、自転車競技におけるこうした状況が、産業革命時の労働環境とも通じており、コーヒーが求められた側面もあるのでは、としている。
その後も吉田さん、けんたさんとの会話と交えながら、小俣さんが自転車競技とコーヒーとの関係性を掘り下げていく。プロ通算525勝と言う前人未到の記録を遂げたエディ・メルクスのスポンサー「FAEMA(ファエマ)」、これはイタリアのエスプレッソマシンメーカーだ。今で言えばサッカーのレアル・マドリードに出資出来るような大企業だったそうだ。吉田さんによると、このファエマの作ったE61型エスプレッソマシーンは世界初の電動ポンプを搭載したマシンであり、今でもこれを元にしたマシンや当時を忠実の再現した復刻版が作られているのだそうだ。
小俣さん「次なんですが、こちらはヒップホップグループ『RHYMESTER』の宇多丸さんも生涯ベスト映画にセレクトした『ヤング・ゼネレーション』(1979年公開)と言う映画です。自転車競技に憧れ、イタリアかぶれした若き主人公が描かれているのですが、これはイタリア文化が入ってきた当時のアメリカの雰囲気でもあるかなと」
吉田さん「あのスターバックスもロースターからスタートしていますが、イタリアの影響を強く受けています。エスプレッソを取り入れて、世界的なコーヒー需要の高まりとともに大きくなっていきました」
ラファのサイクルジャージなどにつけられるストーリーラベルの1つにも、典型的なイタリア人サイクリストについて「エスプレッソがないとトレーニングが始まらない。イタリア人てこういうもの」と言ったような記述があると言う。ラファのストーリーラベルは、製品個々で違うものがついており、それだけをまとめた「インサイドストーリーズ」と言う本も発行されている。
小俣さん「ヨーロッパはコーヒー豆自体は持てない(生産国にはなれない)んです。生産に適した気候を持つ赤道付近のコーヒーベルトでないと育ちません。そうしたところに目をつけて、生産地の国が自転車競技を通じて売り込みをかけてきたのが1980年代です。1984年にコロンビアの選手としてルーチョ・エレラ(ルイス・エレラ:ツールの山岳王)がツールに出ると、それに乗じる形でコロンビア籍のカフェ・ド・コロンビアがスポンサーとなったプロチームが誕生しました」
そして、1900年代から2000年代となると、我々にも馴染みある名前が出てくる。ジロ・デ・イタリアを制したジルベルト・シモーニとダミアーノ・クネゴが所属していたエスプレッソマシーンメーカーのSaeco(サエコ)だ。ジロの通算ステージ最多勝記録を持つマリオ・チポリーニもサエコにいた。
「サエコさん…って言うと女性の名前みたいですけど(笑)、かつて彼らとスタバがコラボして作ったエスプレッソマシーンもありました。以前のスタバではそれが置かれていた所もあったんですよ」とは吉田さんの談。
では2019年の今は?と言うと、やはり別府史之が所属するワールドチーム「トレック・セガフレード」がスクリーンに映し出された。セガフレードはイタリアのカフェで、日本にも店舗を出店しているので、ご存知の方もいるだろう。
小俣さん「こうしてコーヒーと自転車の関係って昔から現在までずっと続いてきているんです」
今のサイクリストのライフスタイルと珈琲について
まず、自転車とコーヒーとの繋がりが深い街を例に。「実は行ったことはないんですが」と前置きをして、自転車とコーヒーを繋ぐ街として小俣さんからアメリカのポートランドが挙げられた。500kmに及ぶ自転車道が存在し、全米一の自転車通勤率を誇る街だ。また、アウトドアやスポーツブランドの発信地としてもメジャーで、クリエイティブな気概がある街としても知られる。ナイキ本社があり、ラファの米国本社もこのポートランドに籍を置く。アウトドアブランドのスノーピークの始まりもこの街からだと言う。そんな中で「STUMPTOWN COFFEE ROASTERS(スタンプタウン コーヒーロースターズ)」など、後に世界的に知られる事となるカフェも立ち上がっている。
こうしたカフェは「コーヒーの巨人」と称されるスターバックスと言った大型店舗で世界展開する大量消費型からは離れたものだと言う。「たとえば昔はブラジル、エチオピアだとか、生産国までの提示で終わっていたものが、よりストーリー性を持った形に変わってきたんです。」サードウェーブとも称されるこの流れは、所謂スペシャルティコーヒーを伴って近年日本にも波及した。
「日本でも農産物の生産者がわかるようになってきていますけれど、コーヒーも誰が作ったか、誰が焙煎したか、誰が淹れたか、と言うところまで分かるストーリー性を持つようになってきました。カフェそれぞれが個性を持ってオンリーワンの『あなたのためのコーヒー』を用意します、と言う風になってきた」と吉田さん。
さらにカフェ単体で見ても、自転車とコーヒーを密接に繋げたカフェも出てきている。その代表的な例がロンドンの「Look mum no hands!(ルックマムノーハンズ!)」。日本にもこのカフェのロゴが入ったTシャツやキャップなどのグッズを仕入れているショップもあり、見たことがある方もいるかもしれない。
「お店の名前が『見てママ、両手離しが出来たよ!』と、子どもが自転車に乗って出来たことの喜びを表していて良いですよね。このカフェには自転車のリペアサービスが併設されていて、最初にそこに自転車を渡したらコーヒーを飲んでのんびりして、お店を出る時には修理が終わっている、なんてこともあるんです」と小俣さん。
続いてけんたさんが、アスリート向けのSNSとして知られる「STARAVA」における食に関するキーワードの統計を映し出した。「サイクリストもランナーも『ビール』『コーヒー』がその多くを占めていますが、とりわけサイクリストは『コーヒー』が『ビール』を圧倒しています」
小俣さん「ビールはわかりますよね!自分はランもやるんですけど、やっぱり走ったあとのビールって美味しいですし。コーヒーもそういうところはありますね」
けんたさん「日本ではもちろんお酒を飲んで自転車に乗ってはいけないので、そういう面もあると思うんですけど、コーヒーならライドの途中でカフェに寄ってひと息入れるなんて時にも気軽に飲めますよね。そういう意味でも世界的に出てきやすいワードではあるかなと思います」
コーヒーって体にいいんですか?
これはやはりパフォーマンスを気にするサイクリストにとっても聞いておきたいところ。「医学的な詳しいことはわからないのですが」と前置きをしつつ、吉田さんからは「コーヒーと健康と言うと、やはりカフェインによるところが大きいですよね。妊婦さんなどはやはりお医者さんから飲まないようにと言われたりしますから、そういう人は気をつけていただきたいです。普通の人であれば、目が覚めると言う意味での覚醒作用や利尿効果などもあり、ある程度身体に入れることで健康にいい効果もあるんじゃないかと思います。」と言うお話が。
小俣さんはレースシーンに関して「昔はカフェインが禁止されていましたが、2004年のアンチ・ドーピングルールの改訂で禁止薬物から除外されました(※筆者注:過度の摂取がないか、検査による確認は引き続き行われている)。違反となる既定値を超えるカフェインを摂取するには、コーヒーならかなりの量を飲まないといけないらしく、現実的ではないと言うことのようです」と続けてくれた。
コーヒーと自転車がもたらすこと
小俣さんによると、自身の雑誌「mark」でも紹介するライフスタイルの中で、サード・プレイス(第三の場所=自分の場所)と言うものがあるのだとか。それは「家や勤務先とはまた別の時間や価値を生み出す場所ですね。そこへ行くことで新しい出会いを見つけたり、次の一歩が見えてきたりだとか、人生の中で自分にとって不可欠なものと言う感じの意味を持つ場所です」
吉田さん「僕のお店はまさにそんなところかもしれないですね。コーヒーを介して新しいコミュニケーションが生まれると言うか。来てくれたお客さん同士が自然と挨拶し合ったり会話が始まったりしていますね」
小俣さん「自転車も、たとえ喋らなくてもペダリングのスピードとかでお互い何を考えているかわかったりとか、コミュニケーションツールになっているところがありますね」
けんたさん「そしてサドルから降りてもコミュニケーションをシームレスにしてくれるものがカフェであったり、コーヒーであったり、ということになるのかなと」
トークセッションが終わると、質疑応答では自身もコーヒー豆の焙煎士だと言う方からの質問も投げかけられ、最後まで濃厚な時間が続いた。
来場者へのお土産には、この日出されたLife Size Cribeのオリジナルブレンド「Lady Brown」のコーヒー豆や、Rapha Tokyoでコーヒーを1杯飲めるショップカードなどが手渡された。2時間に亘る充実のトークに加え、テーマに沿ったお土産までもらえるとあって、参加者からは喜びの声が上がった。
イベント終盤にはラファ東京のバリスタ・宮崎貴之さんから、東京都内のカフェを自転車で巡る「東京カフェライド」の紹介も。次の東京カフェライドは6月15日(土)にスケジュールされている。ちなみに、現在ラファ東京のオペレーションを担いつつ、このイベントを主催する宮崎貴之さんは、2016年のエアロプレス日本チャンピオンでもあり、コーヒー業界で一目置かれる存在だ。
次回の「代官山蔦屋書店サイクリング倶楽部」のイベントは7月(もちろんテーマはツール・ド・フランス!)を予定。1階ではラファが出版する書籍を中心としたサイクリングブックフェアも開催中だ(6月2日まで)。
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