GWもラストスパートな5月5日と6日、マーチエキュート神田万世橋で行われた日本製ハンドメイド自転車&グッズの小さなお祭り『bespoked JP スーツのように仕立てた自転車展』。魅惑の手作り自転車の世界の入口を開く、このイベントの模様をお伝えします。



マーチエキュート万世橋。すぐ上を中央線が行くマーチエキュート万世橋。すぐ上を中央線が行く photo: Yuichiro Hosoda
イベント名にある『bespoke(ビスポーク)』は、和製英語で言うところの「オーダーメイド」が近い意味だ(詳しくはWikiで)。今回の開催地であるマーチエキュート神田万世橋は、JR秋葉原駅/御茶ノ水駅/神田駅などの間にある、赤レンガ造りの万世橋駅を再生した建物の総称。秘密基地のような雰囲気が魅力。

本件のプロデューサーは自転車カルチャーにも造詣が深い澤隆志さん。5月5日、彼に「ぜひ自転車で」と言われたものの、「今日暑いし遠いし」といざ当日になって物怖じし、自宅の最寄り駅でランチを食べてから近くの駐輪場に向かった……はずが、シクロクロスに跨った私は、気づいたらペダリングを続け、そのまま現地へと向かっていた。

自転車を安心して停められる『サイクルクローク』

こういうことは自転車乗りにはよくある現象で、「ただ乗りたかったから」と言うだけなのだけど、今回に限っては「現地に駐輪場が確実に用意されている」という事も理由の一つ。それが『サイクルクローク』。名古屋のシムワークスが主催する自転車保管サービスだ。あのユルユルで楽しい自転車イベント『バイクロア』でも出現していたから、ご存知の方もいるはず。

東京都心では「少しの時間だから」とつい出来心で路上駐車などすると、地球ロックも虚しく切られ、愛車が簡単に盗まれてしまうこと多々。この日これがなかったら、自分もここまで自走で行こうなどとは思わなかった。受付で名前を書いて、番号札付きのゴムバンドをバイクのどこかに止めて、対となる番号札を受け取ったら手続き完了。あとは係の方がマイバイクを見守ってくれる。仕組みはシンプルだが、実際預けてみると、人の目があるだけで十分な抑止力を発揮することがわかる。

安心駐輪、サイクルクローク安心駐輪、サイクルクローク photo: Yuichiro Hosoda
番号札を受けとったら駐輪完了番号札を受けとったら駐輪完了 photo: Yuichiro Hosoda帰りは札とバンドを返してさようなら帰りは札とバンドを返してさようなら photo: Yuichiro Hosoda



バイクを預けて中に入ると、すでに多くの人が行き交って、各ブースを覗いていた。そうして間もなくするとラウンジトークが始まり、澤さんと参加者の方とのマンツーマンの掛け合いによって、各ブースの紹介が行われていった。澤さんがそれぞれのキャラクターを理解した上で話を振るためか、非常にわかりやすく各ブースの内容が伝わってきた。

ラウンジトーク後、どこのブースに行っても長々と話しこんで情報を仕入れてしまったため、一つ一つ詳しく紹介していくとキリがないのだけれど、やっぱり一つ一つ紹介していこう。

トンネル構造の会場は、まるで秘密基地のようトンネル構造の会場は、まるで秘密基地のよう photo: Yuichiro Hosoda
チャリンコーヒー

ラウンジトークの後に訪れたのは外で出店していたチャリンコーヒー。メッセンジャーでバイクポロプレイヤーでもあるトミーさんが運営するそれは、その名の通り自転車でやってきて、そこでコーヒーを淹れてくれるサービス。しかし、この日は立派なキッチンカーの中にトミーさんが。「これは突然彼がお金持ちになったわけではなくて、この日たまたま用意出来たのでコスプレしちゃいました」とは澤さんの談。いつもの自転車は、キッチンカーの前でテーブルに。

Nobuhiko Tanabe aka nb

今年本格的にフォトグラファーとしての活動を開始した、NBこと田辺信彦さんのブースでは、シクロクロス世界選手権、ロンド・ファン・フラーンデレン&パリ〜ルーベの写真集と写真パネルを販売。自らも走ったロンドとルーベの市民レースの経験を話していただいたところ、シクロクロスよりもさらに太めのタイヤで走ったにも関わらず、非常に過酷だったとのこと。そんな石畳をトップスピードで駆け抜ける選手の凄さを改めて感じるとともに、彼らを写し取った田辺さんの写真集を購入。リスペクト。

お金持ちになったチャリンコーヒー(嘘)お金持ちになったチャリンコーヒー(嘘) photo: Yuichiro Hosoda
フォトグラファーのNBこと田辺信彦さんは、自らの写真集とパネルを販売フォトグラファーのNBこと田辺信彦さんは、自らの写真集とパネルを販売 photo: Yuichiro Hosoda
トミーさんはいつもの雰囲気で安心トミーさんはいつもの雰囲気で安心 photo: Yuichiro Hosoda見ているだけで現地の熱狂が伝わってくる田辺さんの写真集見ているだけで現地の熱狂が伝わってくる田辺さんの写真集 photo: Yuichiro Hosoda

RESISTANT

次に向かったのは、国内外のメッセンジャー達からリスペクトを集める木村信一さんが率いるブランド『RESISTANT』。機能性とデザイン性を兼ね備えたバックバックや小物類は、筆者もいつか欲しいと思っているものばかり。この日は新作バックバック『ROGUE』を展示。「これからのバックバックはより軽量化が重視されてくると考えています」と話してくれた通りのライトウエイト。ロールトップに背面ジップ、両側面にも長物が収まるポケットが備えられ、現時点でも素材や縫製には一切の妥協がないように見えるが、まだこれから改良の余地があるのだとか。正式リリースが楽しみな逸品。minimal walletやEXTENSION HOOKなどの小物も気になるアイテム。

ripa

残念ながら私の訪れるタイミングがことごとく悪かったため、お話しを聞けず(申し訳ありません!)。しかし販売されていたバッグやポーチは、カラフルかつ機能的。特に超小型のCandy pouchは、小銭やカードを入れるのに丁度良さそうなサイズで、両端にストラップ通しもあり、目を引いた。近々手に入れることになりそうな予感。

RESISTANTでは新作バックバック『ROGUE』(右端)を展示。代表の木村信一さんがその魅力をたっぷり教えてくれたRESISTANTでは新作バックバック『ROGUE』(右端)を展示。代表の木村信一さんがその魅力をたっぷり教えてくれた photo: Yuichiro Hosoda
予想以上にしっかりしたツクリのEXTENTION HOOK。1つ2つ持っていると便利に使えそう予想以上にしっかりしたツクリのEXTENTION HOOK。1つ2つ持っていると便利に使えそう photo: Yuichiro Hosoda埼玉にて『背負いやすさ』を考えた鞄作りをしているripaのバッグたち埼玉にて『背負いやすさ』を考えた鞄作りをしているripaのバッグたち photo: Yuichiro Hosoda

気になったCandy pouch。ロードバイキングにもピッタリなサイズと扱いやすさ気になったCandy pouch。ロードバイキングにもピッタリなサイズと扱いやすさ photo: Yuichiro Hosoda

SimWorks

レーシーな世界に目が向かいがちなスポーツバイシクルの世界で、ちょっと息を抜いた感じのプロダクツを提供してくれ続けているシムワークス。競わなくたって自転車は楽しいんだと言うことを教えてくれる愛すべきブランド。地元・名古屋在住の3人のアーティストとコラボレーションしたイラストレーションや、彼らの過去の作品群を前面に展示。シムワークスが、彼らを知らない人達に紹介したくなってしまうのもうなずけるハイセンス。

Shin・服部製作所

愛知県のビルダー・服部晋也さん。フレーム制作だけでなく、修理や改造も受け付けている。同じ愛知のシムワークスとも繋がりが深く、かつて販売されていたクリスキング製フレーム『CIELO』の修理も、こちらで受けているとか。この日持ち込んでいたのはアルミ製シクロクロス。アルミを扱う工房は国内では珍しい。カーボンやスチールとまたひと味違ったバイクが欲しくなったら、ここにお願いしてみては。

自社ブランドの製品や地元アーティスト達のアートワークを展示していたシムワークス。そのセレクトに胸を撃ち抜かれる自社ブランドの製品や地元アーティスト達のアートワークを展示していたシムワークス。そのセレクトに胸を撃ち抜かれる photo: Yuichiro Hosoda
名古屋の花屋さんが描くステキバイシクルイラストレーション名古屋の花屋さんが描くステキバイシクルイラストレーション photo: Yuichiro Hosoda
Shin・服部製作所の服部晋也さんとアルミ製ハンドメイドシクロクロスShin・服部製作所の服部晋也さんとアルミ製ハンドメイドシクロクロス photo: Yuichiro Hosoda

Yuji Yamada

シクロワイアードでも何度か紹介してきたペインター・山田裕司さんの新作『Switchback (Tour de France)』がお披露目。色彩豊かな彼の作品だけに、ここに限ってはムーディーなオレンジライティングがちょっぴり残念ではあったけれども、その作品性の高さまでは奪えない。まずは生で作品を拝めたことが何より。お値段はちょっと安すぎないかな?といつも心配になるレベル。今のうちかもしれないから、惚れちゃった人は急ぐべし。

新作がお披露目された山田裕司さんのブース新作がお披露目された山田裕司さんのブース photo: Yuichiro Hosoda
山田裕司さんの新作『Switchback(Tour de France)』山田裕司さんの新作『Switchback(Tour de France)』 photo: Yuichiro Hosodaラウンジトークで自らの作品について話す山田裕司さんラウンジトークで自らの作品について話す山田裕司さん photo: Yuichiro Hosoda

Above Bike Store

二子新地駅近く、多摩川沿いに店を構えるAbove Bike Store。フレーム製作からペイント、組み上げに至るまでの全行程をこの店一つで行ってしまうと言う、その工程を知っている人なら驚きの店。新作の注目は、シートポストにカーボンパイプを使ったスチールバイク。持った感じも乗った感じも軽くてしなやか。スチールってこんな感じだよね?と言う個人的な既成概念を打ち破ってくれました。そして、ラウンジトークの中でコーヒー缶のテストペイントを出してきて紹介してくれたのは、猫好き獣医アシスタントさんのフレームの話。各チューブを胴体や脚に見立てて愛猫の模様をペイントしていったのだとか。デスクで開かれたフレーム塗り絵も子供たちに大好評!?

猫模様にペイントされたコーヒー缶を持って、Above Bike Storeのオリジナルなペイントワークについて語る須崎真也さん猫模様にペイントされたコーヒー缶を持って、Above Bike Storeのオリジナルなペイントワークについて語る須崎真也さん photo: Yuichiro Hosoda真剣にフレーム塗り絵に勤しむお嬢さん真剣にフレーム塗り絵に勤しむお嬢さん photo: Yuichiro Hosoda

須崎さんのニューディスクロード。シートチューブにカーボンパイプを使用した意欲作須崎さんのニューディスクロード。シートチューブにカーボンパイプを使用した意欲作 photo: Yuichiro Hosoda

CORNER

きっと今回一番遠いところから来た、大阪は堺市の工房ソウカワガレージ。そのフレームブランド『CORNER』は、主にフィレット溶接で各パイプを繋いでいくのが特徴。その美しい繋ぎ目を実現するためのヤスリがけは、妥協を許すことなく行われ、ビルダーの寒川さんの手は腱鞘炎になりかけているらしい。フィレット溶接も相まって乗り味も柔らかく、デザイン性と快適性を求めたい人にはベストチョイスの一つとなりそう。

大阪堺市からやってきたソウカワガレージ『CORNER』。左がビルダーの寒川さんで、右がお客さん兼お手伝いさんの吉田さん大阪堺市からやってきたソウカワガレージ『CORNER』。左がビルダーの寒川さんで、右がお客さん兼お手伝いさんの吉田さん photo: Yuichiro Hosoda
会場前の広場でも、自転車談義や即席の試乗会が繰り広げられていた会場前の広場でも、自転車談義や即席の試乗会が繰り広げられていた photo: Yuichiro Hosoda

盆栽自転車店

ここからは2日目の5月6日。キッチンカーは、チャリンコーヒーに代わり盆栽自転車店が登場。吉田ナツキさんが淹れるコーヒーは2種類から選べ、さっぱり系とチョコ風味なもの。スイーツのレモンケーキは女性に人気。あと、ナツキさんの笑顔がステキでした。

2日目のキッチンカーは盆栽自転車店2日目のキッチンカーは盆栽自転車店 photo: Yuichiro Hosoda
笑顔でコーヒーを渡してくれたナツキさん笑顔でコーヒーを渡してくれたナツキさん photo: Yuichiro Hosoda

屋外フリーマケット

入口すぐ横で展開された追加のフリーマケットスペースでは、市古さん所有のボトルやグッズを販売していたICHICO商店と、自転車をモチーフにしたアクセサリーを制作するトワイエ・トワイエが出店していた。トワイエはコミカルな動物が自転車に乗ったグッズももちろん良かったけれど、作者の春原純也さんがつけていたフルアクションなピストバイクのネックレスが猛烈に素晴らしかった(プロトタイプとのことで写真はなし!)。

ICHICO商店では、謎なポーズでカラフルなボトルをプッシュICHICO商店では、謎なポーズでカラフルなボトルをプッシュ photo: Yuichiro Hosoda
自転車モチーフのアクセサリーを制作・販売しているトワイエ・トワイエ自転車モチーフのアクセサリーを制作・販売しているトワイエ・トワイエ photo: Yuichiro Hosodaやんちゃな動物が自転車で飛んだり跳ねたりやんちゃな動物が自転車で飛んだり跳ねたり photo: Yuichiro Hosoda



『bespoked JP』の名称は、英国で毎年開催されているハンドメイドバイシクル展『bespoked UK』へのリスペクトから来ている。開催が決まったのは三ヶ月ほど前で、このスペースを併設するカフェ兼定食屋『フクモリ』のオーナーが、澤さんの友人の同級生と言う事から始まった縁だそうだ。「マスプロダクトとは違った自転車を作っている方を取り上げる意義にもなれば」と、この企画を考えたと言う。

「開催にあたってAboveの須崎さんとNBくんには本当にお世話になりました」と澤さんは語るも、「全然何もしてないですよ。彼に思いついたお題をどんどん投げたってくらいで。そしたら彼やっちゃうんで(笑)」と須崎さんは謙遜していた。

『bespoked JP』の隣に併設された『フクモリ マーチエキュート万世橋店』(こちらが本体です)『bespoked JP』の隣に併設された『フクモリ マーチエキュート万世橋店』(こちらが本体です) photo: Yuichiro Hosoda
今回の首謀者、澤さんに、田辺さん、須崎さん。閉展間際のトークに参加させていただく。カメラの話ばかりしていたような…今回の首謀者、澤さんに、田辺さん、須崎さん。閉展間際のトークに参加させていただく。カメラの話ばかりしていたような… photo: Yuichiro Hosoda
開催地のフリーマケットスペース『MANSEI BRIDGE』は『新しい何かを見つけたり、誰かに出会ったり。いろんなスタイルを持った“人”が集う場所』として4月28日にオープンしたばかり。短期間でピタリとピースをはめこんで、そのテーマ通りのイベントを作り上げた手腕はさすが。出展者の方々も、みな1聞いたら10答えてくれるエキスパート揃いで、会話の内容だけでも価値あり。

自転車とのリンクは今後ないかもと言う話ではあったが、また別の場所、別の機会であっても、こういうイベントを再び見せてもらいたいところ。たとえば『TRACK TOP TOKYO』だとか。

text&photo: Yuichiro Hosoda