どうにか昨年のような醜態を晒すことだけは避けられそうなコンディションへ(付け焼刃で)整えた編集部ヤスオカ。(準備編はこちら)。しかし、その前には二つの”かぜ”が立ち塞がるのだった。波乱続きの松野四万十バイクレースのレポートをお届けします。



私が風邪でダウンしているころ、コーステープを設置してくださるスタッフさんたち私が風邪でダウンしているころ、コーステープを設置してくださるスタッフさんたち (c)MSBR2つの”かぜ”なんて大袈裟に言っていますが、なんてことはない。風邪と台風である。四国へ飛び立つ数日前から、編集部でやたらとせき込んでいたフジワラ。「ブタクサの花粉症かもしれないんですよね」なんて嘯いていたヤツに見事なだまし討ちを食らった格好である。

よりにもよって発症したのは大会前日、つまり移動日の朝。起床した瞬間に感じたのは焼けつくようなのどの痛みであった。このイベントは一体どこまで私に試練を与えるのか……。もはや心情は旧約聖書に登場する義人ヨブのよう。とはいえ罪を犯していなかったのに試練にあった彼とは違い、私には思い当たる節しかないのが大きな違いだ。主に暴食の罪とか……。

人心緑化宣言の町、松野に到着したヤスオカは絶賛人身悪化中。人心緑化宣言の町、松野に到着したヤスオカは絶賛人身悪化中。 とりあえずコンビニでマスクやのど飴などを買い込み輪行で松山へ。体力を少しでも温存するのと、喉が痛くてしゃべるのが億劫だったのとで、同行するムラタとの会話もほぼ無い。「松山初めてっすよー!ミカンジュースの出る蛇口あるんすか?」とはしゃぐムラタに「あそこ(に最近松山空港に常設されるようになったらしいよ)」と最小の会話で済ませる。

空港からは取材メディア陣のために用意されたバスで松野入り。この過酷極まりないイベントの仕掛け人であるジャイアントの門田選手と打ち合わせするが、開口一番「え、風邪ひいてんの?明日大丈夫?近づかんといて(笑)」と心配(?)されてしまう。「去年DNFで今年DNSとかめっちゃおもろいやん!」と言う門田さんの目が笑っていないのを、僕は見た。「だ、大丈夫ですよ、明日には治します!それはもうバッチリ!」。マスクを利用して眼鏡を曇らせることで視線を逸らすという高等テクニックを使いつつ、そう答えるよりほかにない。

さて、もう一つの懸念材料が台風22号。かなり大型の台風が2週連続でやってきた10月後半、よりによって大会開催日に日本上陸する可能性が高いという。SDA王滝が悪天候によって中止となったのも記憶に新しい。松野四万十バイクレースも、前日の段階ですでにコースが一部ショートカットされることは決定しており、実際の開催可否は当日朝の状況によるという。具体的には、警報が出れば有無を言わさず中止となるとのことだ。

台風の対応について協議している大会実行委員のみなさん台風の対応について協議している大会実行委員のみなさん (c)MSBR受付では、明日のコースについてあらためて説明された受付では、明日のコースについてあらためて説明された

大会前日にも、スポーツアロマコンディショニングがマッサージサービスを行っている大会前日にも、スポーツアロマコンディショニングがマッサージサービスを行っている ジャイアントのメカニックサービスも大忙しのようジャイアントのメカニックサービスも大忙しのよう


ただ、体調が万全であれば中止は残念極まりないが、風邪っぴきの自分にとってはむしろラッキーとなるのかもしれない(レポートの事は置いといて)。最悪なのは、台風が来たけど開催、自分は体調不良でDNSという筋書きだ。リベンジどころの騒ぎではない、会社でつるし上げられるのが先か、焼鳥山鳥の鉄板で焼き土下座をするのが先か……。想像するだに恐ろしい。運を天に任せる前に、なんとしても走れる体調に戻さないと。

大会前日の取材をほぼ全てムラタに任せ、回復に専念する。だが、今年から前日受付兼スタート地点となった道の駅「まつのおさかな館」に設置された水族館で四万十の怪魚・アカメを眺めるのだけは外せない。なんといってもマボロシの魚である、ちなみにコツメカワウソもいる、可愛いんだこれが。と力説しムラタを連行。しばらくアカメに見入っていると、なんとペンギンパレードがやってきた。

受付会場となった松野おさかな館受付会場となった松野おさかな館 おさかな館にて淡水魚水槽に見入るヤスオカおさかな館にて淡水魚水槽に見入るヤスオカ

飼育員に連れられて去っていくペンギンを見守る男の心境やいかに飼育員に連れられて去っていくペンギンを見守る男の心境やいかに ここまできたらアカメは見ていかないと!ここまできたらアカメは見ていかないと!


四万十川の自然はペンギンすら育むのか、と思ったら普通にフンボルトペンギンでした。飼育員のお兄さんに誘導されながらヨチヨチフラフラと歩いてくるペンギンたち。おぼつかない歩みは、風邪っぴきの自分のようだ。彼らもそんなに歩きたくはないだろうに、仕事だからと頑張っているのだ。鳥類に負けるわけにはいかない、絶対にリベンジしてやる!!きっとこのペンギンたちも、まさか病気の霊長類のモチベーションになっているとは夢にも思うまい。

会場では、スポーツアロマコンディショニングによるマッサージサービスやジャイアントの試乗なども行われている。しかし、今はそんなことよりも体調をどうにか少しでも改善させることこそが最重要課題である。「ごめん、先に宿戻ってる……。」とムラタに告げ、一足先に宿へ戻る。とにかく、準備だけは済ませておこうと、補給食などをまとめて体調以外は万全の状態に整える。

前日には、コース攻略講座なども行われた 現役選手たちの実践的なアドバイスが得られる貴重な機会となった前日には、コース攻略講座なども行われた 現役選手たちの実践的なアドバイスが得られる貴重な機会となった (c)MSBR
夕食どき、鮎の塩焼きや川ガニなどなど四万十の幸がたっぷりのボリュームで供される。正直、食欲は無いのだけれど明日への備えと思い、口へと運んでいく。あっさりとした味付けのメニューが多かったのは大助かりで、できれば万全の体調で頂きたかった……。食堂のテレビが流すのは刻々と近づいてくる台風の様子。どうやら明日の午前中に四国に最接近するという。一言でいえば直撃、横文字だとクリーンヒット。「これはほんまに中止かもなー」という門田さんの声に、「頼むから中止になってくれ」という思いと、「ここまで来て中止!?」という相反する二つの思いが去来する。

四万十の幸が山盛りの夕餉。わーい!鮎ゥ!と思ったが、熱っぽくて食欲が無い(泣)体調万全なときにいただきたかった四万十の幸が山盛りの夕餉。わーい!鮎ゥ!と思ったが、熱っぽくて食欲が無い(泣)体調万全なときにいただきたかった だが、それも明日の体調次第だ。中止であればともかく、決行となる可能性も十分にある。なんといっても、日本一過酷なレースを謳い文句にしているのだ、多少の雨風は程よいスパイスくらいにされてしまうはずだ。

とにかく自分にできるのは何とか体調を回復させることだけ。アミノ酸と風邪薬を飲み、着こめるだけの服を着こみ、ホッカイロをこれでもかとばかりに貼りつけ、とにかく汗をかこうという算段だ。なんとか明日だけ保てばいい。だから、どうか熱よ下がってくれ!



そして迎えた大会当日。ざわつきだした食堂の喧騒で目を覚ました瞬間に「あ、これは走れる」と直感する。大量に汗を吸った下着を着替え、汗を拭く。完調とまでは言えないが、ふらふらすることはないし、喉の痛みもほぼ無い。いそいそと準備をし、わざわざ朝早くから用意していただいた朝食を腹に収める。どうにか自分の問題は解決できた。残るは大会が開催されるのかどうか、だ。

スタート会場に雨の中多くの参加者が集まってきたスタート会場に雨の中多くの参加者が集まってきた (c)MSBR
最終的に決まったコースを確認する最終的に決まったコースを確認する (c)MSBR受付した参加者リスト 予想以上の出走率でモチベーションの高さが窺える受付した参加者リスト 予想以上の出走率でモチベーションの高さが窺える (c)MSBR


もちろん雨は降り続けているが、幸い会場はほど近い。レインウェアを着込み、スタート地点へ向かう。果たして中止なのか、否か。自分は走れる状態になったけれど、それでもこの過酷なコンディションで果たしてどこまで通用するのか。昨夜とはまた少し違う理由で不安を抱えながら会場へ着くと、既に多くの挑戦者たちが集まっている。色とりどりのレインウェアに身を包んだ皆さんの表情は、既に覚悟完了しこれからの挑戦を楽しもうという面持ちだ。体調ですでに後れを取っているのだ、心で負けるわけにはいかない。誰かに負けるのはいい。でも自分にだけは負けられない。どんな発表がされても、行けるところまで行ってやる、そう決意を新たにする。

そして発表される開催可否。「本日の松野四万十バイクレースは……」事ここに至れば、中止だけは避けたい。「開催します!ただ、高知県側に警報が出されたため、コースは愛媛県側の目黒林道のみとし、アルティメットは3周、アドバンスド2周、チャレンジ1周とします。」つまり、走行距離でいえば、140kmから95kmへとショートカットされたことになる。同じ林道を周回するということだから、ある意味精神的にはつらいかもしれないが、体調やコースコンディションの悪化にも対応しやすいはずなので、安心できる。賢明な判断といえるハズだ。

取り出しやすいようにトップチューブにジェルを貼りつける取り出しやすいようにトップチューブにジェルを貼りつける スタート前のウォームアップサービス。「もう走ってきたの?」と言われるくらい脚が固まっていた。スタート前のウォームアップサービス。「もう走ってきたの?」と言われるくらい脚が固まっていた。

よっし!行ってきますよ!よっし!行ってきますよ!
スタート地点には、スポーツアロマコンディショニングの皆さんが格安でウォームアップサービスを行ってくれている。冷えている脚を温めてもらおうと、迷わずお願い。ホット系のオイルと雨除けのオイルを塗って仕上げてもらい、準備は万端だ。初めてのMTBレースということで不安そうにしているムラタとともにスタートラインへ並ぶ。とはいえヤツは実業団E2で走る猛者であるのでなんら心配はしていない。いやどちらかというとオーバーペースで引きずり回される心配はしているので、「コースは短くなったけど、ペースは抑えめで」と口を酸っぱくして伝えているのだが、結構表情が緊張しているようだ。ちゃんと覚えてるといいのだけど、大丈夫かな……。

後輩の心配の皮をかぶった自分の心配をしていると、まだ夜も明けぬ真暗闇の中、スタートを告げる号砲が鳴る。この胸の早鐘は、再びこの過酷なレースへと挑む不安と1年越しのリベンジの機会に恵まれた高揚感が表裏一体となって鳴らされるもの。百を超えるバイクライトが照らし出す道を今年一番のチャレンジへ向けて漕ぎ出した。(あと一編続きます。)

雨に濡れた路面がライトの光を反射する さあ、スタートだ雨に濡れた路面がライトの光を反射する さあ、スタートだ (c)MSBR

text:Naoki.YASUOKA

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