単独行動が好きと言ってみたり、グループライドに参加したら集団行動が良いと言ってみたり、自転車の楽しみ方が定まらないヘタレことCW編集部員のフジワラ。今度は普段のライドを再現するべく、1人で輪行サイクリングに出かけたようです。



旅の始まりは、編集部最寄りのターミナル駅「立川」から始まる旅の始まりは、編集部最寄りのターミナル駅「立川」から始まる
僕は友達が少ない。唐突だが事実である。前回のレポートでグループライドの楽しさに目覚めたのは良いものの、既存のコミュニティに入っていくほどの気合と根性はないので、ショップライドに参加するというのは夢となってしまっている。最初の一歩を踏み出す勇気が必要ならば、そんなものは出さなくても楽しめるお一人様ライドのほうがずっと良い。

しかし、CW編集部でお一人様ライドが好きなのは私、ヘタレことフジワラだけのよう。最近、自転車の楽しみ方を見失っているヤスオカ先輩、新人ムラタ、カマタにお一人様ライドの面白さを説いても一向に響かない。どうやら彼らが1人で走るときはトレーニングであり、スピードを追い求めることが絶対なアスリートと化すらしい。

わずか6人しかいない編集部において半数がアスリート、さらにアヤノ編集長やイソベ先輩はそれぞれのレースで結果を残している本格派レーサー、ファンライド枠なのは私一人だけ。長いものには巻かれろ精神を地で行くような私なので、トレーニングライドこそ至高では?という疑念を持つように。しかし、心の何処かではお一人様ライドが楽しいことは揺るぎないとも思っている。改めてお一人様ライドの面白さを確認するため湘南ライドに引き続き再び旅に出た。

人がまばらな朝早くならば、好奇な目を向けられずにパッキング作業を行える人がまばらな朝早くならば、好奇な目を向けられずにパッキング作業を行える JR線で向かうは大月!JR線で向かうは大月!

この日の携行品。サコッシュに輪行袋と替えレンズを入れ、カメラと三脚は袈裟懸けで背負うこの日の携行品。サコッシュに輪行袋と替えレンズを入れ、カメラと三脚は袈裟懸けで背負う 駅そばでエネルギーの補給を済ませる駅そばでエネルギーの補給を済ませる


今回、私が一人ぼっちでツーリングするのは山梨県大月から富士山まで続く"富士みち"エリア。普段通りのライドを再現するべく、出発する際に決めるのは訪れる場所のみ、走行ルートはぼんやりと覚える程度に留めた。富士みちは土地勘が全く無い場所だが、中央自動車道や桂川といった富士山へ繋がる目印があるため、迷子になったとしても直ぐにリカバリーできるだろうという算段だ。

朝6時、通勤ラッシュが始まる前の立川駅でバイクをパッキングし電車に乗り込み、大月駅へと向かう。輪行サイクリストが好奇な目で見られるのは、もはや定番行事であり、精神的ダメージなどは一切ない。ただ意外にも学生やサラリーマンなどがいたため座席を確保できず、体力的ダメージを受けたのは誤算だった。

大月駅に到着し、駅の蕎麦屋で小腹を満たしたら、いよいよライドの準備を始める。ロードバイクにはボトル1本とツールケースのみを装着。輪行袋などは袈裟懸けで背負うサコッシュにいれ、バックパックすら持たない近所をサイクリングするようなスタイルを目指した。

大月駅は木造で趣のある駅舎だった。三脚を立てての自撮りは恥ずかしすぎるので自然な感じを装う大月駅は木造で趣のある駅舎だった。三脚を立てての自撮りは恥ずかしすぎるので自然な感じを装う
普段ならこのスタイルで事足りるだが、今回は仕事ということで一眼レフカメラと自撮り用三脚も袈裟懸けで持ち運ぶことにしている。バックパックを使わないのは、肩と背中に熱がこもってしまうのが大嫌いだから。そして、カメラと三脚も袈裟懸けで持ち運べてしまうから。

先日、ジロ・デ・イタリア 第13ステージのDAZN中継にアヤノ編集長が解説として出演した際、サイクリング時に持ち運ぶカメラはiPhoneで十分と語っていたが、私はあえてキヤノン EOS KISS X7を選択。仕事ですから、一応。個人的な意見だが、このカメラは軽いのでサイクリングで持ち運ぶならこれが良いと思う。

自転車の準備を整えたら、出発地点"大月駅"駅舎の撮影、そして私自身を入れた写真の撮影に移る。セルフィーという言葉が世の中に浸透したため、自分自身を撮影することのハードルは下がっているが、三脚を立ててのセルフィーは中々勇気が必要だ。駅前で待ち合わせしているビジネスマンたちからの視線が痛い。「これは仕事、これは仕事、これは仕事」とブツブツつぶやきながら、撮影した写真を確認し、足早にその場所を去る。

幹線道路を外れるとぽつんと自然が残されたエリアが現れる。それが猿橋だ幹線道路を外れるとぽつんと自然が残されたエリアが現れる。それが猿橋だ
大月駅を出発した私がまず訪れたのは日本三大奇橋のひとつ「猿橋」。岸から対岸に向かって伸ばした木材を支えとし、その上に同様の木材を対岸方向にずらして重ねることで足場を作る、日本独自の形式で組み上げられた橋である。

現在は鉄骨によって支えられているが、江戸時代は橋脚もなく木材だけで甲州街道を往来する人々の重さに耐えていたと思うとロマンが溢れてくる。そして、猿橋が奇橋たる所以は、刎木に屋根をとりつけ、雨による腐食を防いでいることにあるはずだ。屋根付きという唯一無二のデザインは、橋に家屋的な奥ゆかしさをもたらしている。建造物フェチにはたまらないだろう。

江戸時代に生きた職人たちの技術力には圧倒されたが、申し訳ないことに私のナンバーワンは徳島県の大歩危小歩危にある「祖谷のかずら橋」なのだ。現在は猿橋同様にスチールによって形が保たれているものの、シラクチカズラで編み込まれた原始的なフォルムが心を離してくれないのだ。いずれまた訪れたい場所のひとつである。香川うどん屋巡りツーリングの企画案が通れば、その前後で訪れることができるから現実不可能ではないと思うんだが……流石に飛行機輪行企画の稟議は通らないだろう。

バイクラックが設けられているため、サイクリング途中にも立ち寄りやすいバイクラックが設けられているため、サイクリング途中にも立ち寄りやすい よく見ると私が写り込んでいます。タイマーに間に合わず…よく見ると私が写り込んでいます。タイマーに間に合わず…
対岸に向かい木を伸ばし、重ねていく刎橋方式で組み上げられる対岸に向かい木を伸ばし、重ねていく刎橋方式で組み上げられる エメラルドグリーンに輝く桂川エメラルドグリーンに輝く桂川


猿橋を撮影するという目的は果たしたが、道が河原の方まで続いていることに気がついたため、急遽予定を変更し、まだ見ぬ道を進んでいくことに。途中で整備された道は途切れたが、ビンディングシューズで歩くのは向かない岩場を進んでいくと渓谷が現れる。

エメラルドグリーンに輝く川とダイナミックな崖。山が深い場所に足を運ばないと見ることができないような渓谷が、ダンプカーが走り去る街道の近くにあるのはなんとも不思議な感じ。アクセスが容易、川下りも楽しめるので、都会でスレた人々の憩いの場となってくれるはずだ。

渓谷を後にした私は甲州街道を走り、メインディッシュの富士みちエリアに突入する。とはいっても国道139号線を走行するわけではなく、桂川に沿って伸びる田舎道をひた走る予定だ。国道を良い速度で走ってしまってはトレーニングとなってしまう。私が目指しているものは目に飛び込んでくる綺麗な景色を楽しむポタリング。一本奥の道に入ることで見える景色は全く違うのだ。

片田舎にぽつんと現れる近未来的な建造物「リニア見学センター」片田舎にぽつんと現れる近未来的な建造物「リニア見学センター」
少しばかり国道139号を走るがやはり何も面白くない。後ろから迫る自動車の気配を感じつつ、ペダルにパワーを込めるだけのリエゾン区間。次なる目的地「リニア見学センター」へ至る交差点を曲がると、農道のような細い道となり、生き返った心持ちになる。

両手に広がる田んぼには既に苗が植え付けられ、水が張られている。キラキラとした水面、ゴーッとうねりをあげて水が流れる用水路。東京都に引っ越して3年、近所では見ることがなくなった田園風景にやすらぎすら覚える。人が詰め込まれたベッドタウンで過ごす私にとっては、このような癒やしが必要なのだ。

片田舎に突如として現れる近未来チックな建造物がリニア見学センターだ。館内を見学するつもりはまったくなかったのだが、施設に近づくと、ドドドドドドと地響きが鳴りはじめたと思うと、いきなりゴオーーーーッ!という音共に、白い弾丸のようなものが一瞬でフェンスの向こう側を通り過ぎる。

目の前をあっという間に通り過ぎるリニアモーターカー目の前をあっという間に通り過ぎるリニアモーターカー 甲州街道をからこの日初めての富士山を拝む甲州街道をからこの日初めての富士山を拝む


正体はもちろんリニアモーターカーなのだが、初めて目の当たりにするリニアモーターカーは高速すぎて、車両として脳が捉えきれない。これは見てみたい!と思い立ったので、急遽館内へ入場することに。リニア見学センターは駅からも遠く、小高い丘の上にあるためか、自転車での来館は想定されていないそうで、駐輪場が整備されていない。職員さんの案内に従い駐輪し、勇み足で展望エリアへと駆け上る。

先程通り過ぎてしまったばかりなので、しばらくは通過しないかなと油断していると、職員さんが「後10秒ほどで通過します」と熟練の経験に基づく通過予告をしてくれた。どうやら笛吹から上野原・秋山エリアまで続く42.8kmの実験線を短いスパンで往復しているようだ。(この日は10分間隔ほどでリニア見学センター前を通過)

街道から離れるとグッドルッキングなビュースポットが現れる街道から離れるとグッドルッキングなビュースポットが現れる
近未来的な乗り物に1人で興奮するが、仕方がないことなのである。それはロマンだから。リニアモーターカーの新幹線は2027年に開業予定だという。リニアモーターカーに乗らなければならない急ぎの用事なんて無い方が良いのだが、一度は体験してみたいなと思わされた。モンスターエナジードリンクを一気に飲み干し、再びライドへと戻るのであった。

次なる目的地は、松尾芭蕉が「勢いあり氷消えて滝津魚」と句を詠むほどの名瀑だった「田原の滝」だ。リニア見学センターから国道139号線を走れば7kmほどで到着する近場だが、街道を走っても面白くないため1本それた道を走ることに。

大月から富士山へと繋がる「富士みち」をはじめ中央自動車道や富士急行線は、富士山の雪解け水や山中湖を水源とする桂川沿いの谷間に設けられた交通路であり、両手には山々が広がっている。先述した3つの交通路以外を通行しようと思うと、山々の麓を走らざるを得なくなるのだ。もちろん私は重々承知の上で、幹線道路を外れることを選択している。

登りも森の中を走っているようで心地が良い登りも森の中を走っているようで心地が良い
リニア見学センターが建つ丘を越えるとすぐに富士リゾートカントリークラブ沿いの丘へと差し掛かる。登坂開始後、数十メートル先に東京電力の川茂発電所を眼下に収め、富士山が目の前に飛び込んでくるビュースポットが突然現れる。予期していなかった眺望に思わず、足を止めカメラを構える。

あえて道を外れなければ、見ることができない景色に出会えただけでも、この日のライドは成功と言えるはずだった。しかし、1km(平均斜度10%)も登らないうちにギアはインナーローに落ち、ケイデンスはみるみると遅くなる。ライドをサボっていたとは言え、ここまで登ることができなくなっていたとは予想外だ。

尾根沿いのアップダウン区間でもアウターのギアを踏めない。完全にバッド・デイというやつだ。編集部にいるトレーニング・レース至上主義者たちならば、足早に引き返すだろうシチュエーション。のんびり走りたい派の私でも、気持ちよくペダルを漕げないのならば流石に帰りたくなる。でも、悲しいけど仕事なんだよね、これ。時間を費やしておきながら撮れ高なしは減給だろう。頭がボーっとする熱中症でも無さそうだし、命には別状も無さそうなので、撮れ高を確保するまでは帰ることができない。

インナーローさえ踏み込めないほど体が動かないインナーローさえ踏み込めないほど体が動かない
出発後2時間も経たないうちから、エンジョイライドからお仕事ライド(撮れ高のことばかり気にするライド)へと切り替わってしまったのは大誤算である。斜度がゆるい上り坂でも10km/h、平坦でも25km/hを出すのがやっとな私は、一刻も早く足を進めなければライド終了までに日が暮れてしまうという焦りも感じ始める。この日の目的地は、富士スバルラインの五合目だったということは、忘れよう。


text&photo:Gakuto.Fujiwara

最新ニュース(全ジャンル)