2016/10/12(水) - 08:53
MTBクロスカントリー・マラソンレースの国内最高峰「セルフディスカバリーアドベンチャー・イン・王滝」。その42kmクラスに、初めてMTBに乗る編集部員・藤原がチャレンジ。基本のキの字も知らないビギナーによるレポートをお届けします。
長野県木曽郡王滝村で開催されるMTBクロスカントリーマラソンの国内最高峰レース「セルフディスカバリーアドベンチャー・イン・王滝」(以下、SDA王滝)。御嶽山麓のジープロードを長距離走り抜けられる体力とテクニック、加えてトラブル対応能力など総合力が求められるタフなMTBレースである。
SDA王滝は春と秋、年に2回開催されるイベントであり、9月18日(日)に開催された秋大会に私ことシクロワイアード編集部の藤原が42kmの部に参戦した。実は私、MTBを所有していないばかりか、そもそもMTBライドの経験もゼロだが、ふと「SDA王滝に出たい!」と思いついてしまったのだ。
思い立ったが吉日。すぐさま編集部内で唯一MTBを2台所有している編集長に頼み込み、MTBをゲット(正確には借りたのだが)。MTB貸し出しに加えて、なんと編集長まで一緒についてきてくれることに。心強い味方をつけたこの時の私のテンションは一気に最高潮まで達していたかもしれない。
SDA王滝参戦決定からレース日までの半月の間、私は遠足の日が待ち遠しい小学生のようにソワソワしていたはずだ。仕事をしているときも上の空で、グーグルマップで王滝村周辺を眺めていた回数は数知れず。過去に参加した人のブログを仕事中に漁る日々を過ごしていた。
王滝に思いを馳せていた日々は過ぎ去り、あっという間に大会前日の移動日がやってくる。SDA王滝はレース当日のスタート時間が早く前日受付が基本だ。私も例に漏れず前日に王滝村に入り、受付を済ませ、初心者用練習会「MTBファンラン」に参加する。
MTBファンランとは、マイルポストBMCレーシングの國井敏夫選手、山中真選手、フルクラムの伊澤一嘉選手という3人の選手から、MTBの基本のキを学びながら、コースの一部をノンビリと走ろうというものだ。王滝村の自然を楽しみながら、一行はガレたダートの登りに入っていく。難易度は高くないものの、最近運動をしていなかった身体には堪えるスピードで集団は進んでいく。
心拍数、体温も高くなり千切れそうなところで休憩が挟まれる。ブレイクタイムには、登りではどういうギア選択が最適か、下りではどのようなポジションが最適かなど、マウンテンバイカーには必須の基本テクニックを丁寧にレクチャーしてくれる。基礎が身についていない私にとっては非常に有意義な時間となった。コースの一部を予習できることもあり、SDA王滝ビギナーには参加するメリットが大いにありそうだ。
ダートの登りを1時間、全行程で2時間のMTBファンランが終わり、再び会場へと戻ってくる。会場ではBMCやスコット、GTといったバイクブランドから、IRCやフルクラム、スミス、トピーク、ドイター、オンヨネといったブランドがブースを出展しており、掘り出し物を探す人や試乗待ちの人で賑わっている。翌日の天気が雨と予想されてたため、ウェアを買い足したという方は多いのではないだろうか。私はSDA王滝を主催するパワースポーツが取り扱うパワージェルを全フレーバー揃えた。
ブースをひと通り見て回り、試乗を楽しんだところで参加者が一同に会すウェルカムパーティーが始まる。軽食とビールを片手に仲間たちとトークを楽しみながら、ステージ上で行われる注意事項の説明に耳を傾ける。
宿に戻り、夕食を頂いた後はすぐに消灯だ。布団に入り、目を閉じて数時間。バババババ!という大きな音で目が覚めてしまう。激しい雨が降っていたのだ。時計を見るとまだ11時。起きるのには早すぎる、というよりも再び寝付かないと体力的に厳しい。30分ほど寝付けなかったが、いつの間にか深い睡眠に落ちていたようだ。一安心。
朝4時、宿から外に出てみると雨は小康状態となっている。雨が激しいようであればDNSということも考えていたが、出走することに決めた。とはいえ、雨用装備と防寒対策が必須なため、Raphaのシャドウジャージの上に半袖ジャージ、アームウォーマー、ウインドブレーカーを着込む。ボトムスは通常のレーパンにレッグウォーマーのみ。体幹だけは冷やさないという意思を持ち、念には念を重ねた重装備で初めてのSDA王滝に挑むことに。私のウインドブレーカーとアームウォーマーは水を通すため、万が一を考え雨天用のジャケットをバックパックに忍ばせる。
ウェアだけではなく、補給やトラブル用の装備も万全を期す体制を整えた。バックパックの中に入れた補給食は、前日仕入れたパワーバーのジェル5種類、グミ1種類、メイタンのCC2本、2RUNを2つ、メダリストのエナジージェル1本。加えて、チューブ2本、タイヤレバー2本、CO2のボンベを2本、ハンドポンプ、チェーンカッター、ミッシングリンク、チェーンピンももちろん携行する。目標はタイムではなく完走だ。多少荷物が重くなっても、確実にフィニッシュラインを超えることだけを考えている。
携行品の最終チェックを済まし、42kmクラスのスタート地点へ移動する。120km、100kmクラスは松原スポーツ公園を出発するが、42kmクラスだけは約10km離れた御嶽自然湖付近からスタートするのだ。霧がかった王滝川や木の幹まで水に浸かる自然湖はエピックな雰囲気を感じさせる。晴れていれば清々しい朝となったはずだが、雨模様のおかげで幻想的な王滝を味わえた。これも雨のイベントの特権だ。
お守り代わりにメイタン2RUNとメダリスト エナジージェルを口にしてから、スタートを迎える。私の目標は完走することなので、頑張りすぎないことが大切だ。しかし、スタートラインを飛び出していった集団のペースが非常に速い。体力温存のため序盤から千切れてしまおうかと考えたが、平坦は前走者のスリップつくことに。
徐々に勾配が厳しくなりペースが落ち着いたところでグループから脱落。前についていきたいという葛藤も感じたけれど、長いトンネル内で落車が発生したこともあり、私の目標はあくまで無事に完走ということを思い出し、冷静さを取り戻す。気持ちが落ち着いたら周りの自然が心地よく感じる。幾つもの滝、森の中を流れる川、どれも東京の山奥ですら見ることができない王滝ならではのものであった。
30分ほど進むと大きなビープ音が森のなかに響き渡り、三浦ダム湖が姿をあらわす。大自然の中に突如として現れる巨大な人工建造物には得も言われぬ感動を覚える。ダムを渡るといよいよ現れるダートロードに入ってからが、SDA王滝本番だ。
ここからは道の目印もなく、ひたすら石が転がるジープロードを走っていく。加えて、平坦区間はほぼ無く、登っているか下っているかのどちらかしかない。オーバーペースで進んでいくとあっという間に体力が削り取られていってしまうのは明らかだ。
MTB初心者の私は、スリップとパンクに怯えながら慎重にラインを決めていく。しかし、予想以上にMTBの性能は高く少しスリップしたぐらいでは落車する心配すら必要ない。ロードともCXとも違うバイクの走らせ方を感じ取りながら、脚を進めて行く。
ノンビリとマイペースを保ちながら登りの1本目を終え、下りが見えた途端に背筋が凍るのを感じる。ガードレールが備えられていないことは想定済みであったが、想像以上に道はガレている。一歩間違えば滑落というシチュエーションに直面したら、やはり身体が固くなってしまった。
前日のMTBファンランで國井選手に教えて頂いた下りのポジショニングもできていない。へっぴり腰である。幸いディスクブレーキの高い制動力に助けられ安全に下ることができたが、一緒に行動していた編集長とは大きな差が生まれてしまう。制限時間内にゴールできるかどうか一気に不安になったのも最初の下りからだ。
途中チェックポイントは用意されているが、補給食などは一切用意されていない。あるとしても水のみ。補給などはフィニッシュまで不足しない量を事前に準備しろということだろう。なんてセルフディスカバリーという言葉がふさわしいレースなのだろうか。水に関しては滝から十分に行えるので、チェックポイントで補給し忘れても問題ない。もっともこの日は振り続ける雨の影響で、給水は少なくなっていたが。
ジェル系の補給も思い出すたびに摂るようにし、トラブルが起きない限りは黙々と走り続ける。雨水はコースに沿って上から下へと流れ落ちてくるため、まるでMTBで沢登りをしているようだ。
ある下りを終えると滝から流れ落ちた水がコースを横断しているではないか。川渡りも体験できるなんてSDA王滝のコースはバラエティに富んでいるなと感じていたが、この後120kmと100kmクラスが通過する時は体が流されそうになるほど流れが急になっていたという。私が通過するころも急流だったらと思うと身の毛がよだつ。
激坂を登る度に現れるスペクタクルな光景には感動しっぱなしだ。もし晴れていたのなら、足を止めてでも景色を楽しみたいほどである。しかし、この日は雨。風も徐々に強くなり、体が冷えやすくなっているため、足早にダウンヒルへと突入してしまう。
最初はへっぴり腰ポジションだった私も、國井選手から教えてもらった「BB上に立つ」イメージのポジションが取れるようになってきた気がする。スピードも徐々に上げられるようになり、下りも楽しくなってくる。楽しくなると人は奇声を上げたくなるのだろうか。1人でヤッホー!と叫びながら飛ばしていく。
長めの下りを終えると42kmクラスの関門(27km地点)が現れる。ここではパワーバーが配られており、記念に受け取ることに。ジェルはたくさん持っていたので、出番がないだろうと思いながらビブショーツ裾の内側に忍ばせる。
ここまでマイペースを維持していたため疲労を感じることは少なかったが、徐々に腰の痛みが出始める。ロードやシクロクロスでも出るこの症状は一体何だろうか。姿勢維持が困難になり、登りも短い時間でクリアしたいため、重いギアを掛ける。体力消耗の悪循環だ。
悪いことは立て続けに起こる。しっかりと補給を行っていたはずだが空腹感を覚えてしまう。エナジージェルは摂っていたのでエネルギー切れではないにしても、空腹感が集中を妨げる。急場を凌ぐために、ビブショーツの裾に隠したエナジーバーを口にする。王滝ほど長時間のライドでは、固形物も用意することが必須だと痛感させられる。
少し元気を取り戻したところで追い抜いた2人組の「もう時間いっぱいいっぱいらしいよ」という会話を耳にし、私も時間内に完走できなかったと思い込み、意気消沈。この時、私はサイクルコンピューターをつけていないので、時間がわからなかったのだ。回収車に拾われるまでは頑張ろうと踏み直す。
腰痛回避のため重いギアを回していたことが幸いし、登りも意外とサクサクと進み、見慣れたダウンヒルがはじまる。前日のMTBファンランで予習したところであった。ここからゴールまではもう数十分だ。ゴール手前まで戻ってきたところで、編集長が時計を確認すると時間は10時20分ほど。
何が起こったのか正直わからなかった。タイムアウトだと勘違いしていたこと以上に、予想を越えたタイムを記録していたことに驚いている。元々は5時間いっぱいで帰ってくるつもりだったのだ。編集長が隣でビデオを回しているが、何を喋ったかも覚えていない。何も考えられないまま編集長と並んでゴールを迎えた。
しばらくは呆気にとられたままだったが、徐々に42kmという長い道のりを走り終えた達成感に包まれる。ゴールから松原スポーツ公園までの道のりは、MTBの面白さ、SDA王滝に必要な準備の奥深さ、御嶽山麓の雄大な自然の素晴らしさなど楽しかったダートライドのひと時を反芻しながら過ごした。パンクに見舞われなかった自分の強運と、サポートしてくれた編集長への感謝も忘れずに。
大雨に見舞われスペクタクルな展開となったセルフディスカバリーアドベンチャー・イン・王滝。走り出す前は自分探しの旅というつもりでいたが、目の前の事に対処するだけで精一杯。SDA王滝を走り、自分を見つけ出すのはもう少し先になるだろう。まずはMTBを購入するところからスタートすることになりそうだ。
photo:Makoto.AYANO
text:Gakuto"ヘタレ"Fujiwara
長野県木曽郡王滝村で開催されるMTBクロスカントリーマラソンの国内最高峰レース「セルフディスカバリーアドベンチャー・イン・王滝」(以下、SDA王滝)。御嶽山麓のジープロードを長距離走り抜けられる体力とテクニック、加えてトラブル対応能力など総合力が求められるタフなMTBレースである。
SDA王滝は春と秋、年に2回開催されるイベントであり、9月18日(日)に開催された秋大会に私ことシクロワイアード編集部の藤原が42kmの部に参戦した。実は私、MTBを所有していないばかりか、そもそもMTBライドの経験もゼロだが、ふと「SDA王滝に出たい!」と思いついてしまったのだ。
思い立ったが吉日。すぐさま編集部内で唯一MTBを2台所有している編集長に頼み込み、MTBをゲット(正確には借りたのだが)。MTB貸し出しに加えて、なんと編集長まで一緒についてきてくれることに。心強い味方をつけたこの時の私のテンションは一気に最高潮まで達していたかもしれない。
SDA王滝参戦決定からレース日までの半月の間、私は遠足の日が待ち遠しい小学生のようにソワソワしていたはずだ。仕事をしているときも上の空で、グーグルマップで王滝村周辺を眺めていた回数は数知れず。過去に参加した人のブログを仕事中に漁る日々を過ごしていた。
王滝に思いを馳せていた日々は過ぎ去り、あっという間に大会前日の移動日がやってくる。SDA王滝はレース当日のスタート時間が早く前日受付が基本だ。私も例に漏れず前日に王滝村に入り、受付を済ませ、初心者用練習会「MTBファンラン」に参加する。
MTBファンランとは、マイルポストBMCレーシングの國井敏夫選手、山中真選手、フルクラムの伊澤一嘉選手という3人の選手から、MTBの基本のキを学びながら、コースの一部をノンビリと走ろうというものだ。王滝村の自然を楽しみながら、一行はガレたダートの登りに入っていく。難易度は高くないものの、最近運動をしていなかった身体には堪えるスピードで集団は進んでいく。
心拍数、体温も高くなり千切れそうなところで休憩が挟まれる。ブレイクタイムには、登りではどういうギア選択が最適か、下りではどのようなポジションが最適かなど、マウンテンバイカーには必須の基本テクニックを丁寧にレクチャーしてくれる。基礎が身についていない私にとっては非常に有意義な時間となった。コースの一部を予習できることもあり、SDA王滝ビギナーには参加するメリットが大いにありそうだ。
ダートの登りを1時間、全行程で2時間のMTBファンランが終わり、再び会場へと戻ってくる。会場ではBMCやスコット、GTといったバイクブランドから、IRCやフルクラム、スミス、トピーク、ドイター、オンヨネといったブランドがブースを出展しており、掘り出し物を探す人や試乗待ちの人で賑わっている。翌日の天気が雨と予想されてたため、ウェアを買い足したという方は多いのではないだろうか。私はSDA王滝を主催するパワースポーツが取り扱うパワージェルを全フレーバー揃えた。
ブースをひと通り見て回り、試乗を楽しんだところで参加者が一同に会すウェルカムパーティーが始まる。軽食とビールを片手に仲間たちとトークを楽しみながら、ステージ上で行われる注意事項の説明に耳を傾ける。
宿に戻り、夕食を頂いた後はすぐに消灯だ。布団に入り、目を閉じて数時間。バババババ!という大きな音で目が覚めてしまう。激しい雨が降っていたのだ。時計を見るとまだ11時。起きるのには早すぎる、というよりも再び寝付かないと体力的に厳しい。30分ほど寝付けなかったが、いつの間にか深い睡眠に落ちていたようだ。一安心。
朝4時、宿から外に出てみると雨は小康状態となっている。雨が激しいようであればDNSということも考えていたが、出走することに決めた。とはいえ、雨用装備と防寒対策が必須なため、Raphaのシャドウジャージの上に半袖ジャージ、アームウォーマー、ウインドブレーカーを着込む。ボトムスは通常のレーパンにレッグウォーマーのみ。体幹だけは冷やさないという意思を持ち、念には念を重ねた重装備で初めてのSDA王滝に挑むことに。私のウインドブレーカーとアームウォーマーは水を通すため、万が一を考え雨天用のジャケットをバックパックに忍ばせる。
ウェアだけではなく、補給やトラブル用の装備も万全を期す体制を整えた。バックパックの中に入れた補給食は、前日仕入れたパワーバーのジェル5種類、グミ1種類、メイタンのCC2本、2RUNを2つ、メダリストのエナジージェル1本。加えて、チューブ2本、タイヤレバー2本、CO2のボンベを2本、ハンドポンプ、チェーンカッター、ミッシングリンク、チェーンピンももちろん携行する。目標はタイムではなく完走だ。多少荷物が重くなっても、確実にフィニッシュラインを超えることだけを考えている。
携行品の最終チェックを済まし、42kmクラスのスタート地点へ移動する。120km、100kmクラスは松原スポーツ公園を出発するが、42kmクラスだけは約10km離れた御嶽自然湖付近からスタートするのだ。霧がかった王滝川や木の幹まで水に浸かる自然湖はエピックな雰囲気を感じさせる。晴れていれば清々しい朝となったはずだが、雨模様のおかげで幻想的な王滝を味わえた。これも雨のイベントの特権だ。
お守り代わりにメイタン2RUNとメダリスト エナジージェルを口にしてから、スタートを迎える。私の目標は完走することなので、頑張りすぎないことが大切だ。しかし、スタートラインを飛び出していった集団のペースが非常に速い。体力温存のため序盤から千切れてしまおうかと考えたが、平坦は前走者のスリップつくことに。
徐々に勾配が厳しくなりペースが落ち着いたところでグループから脱落。前についていきたいという葛藤も感じたけれど、長いトンネル内で落車が発生したこともあり、私の目標はあくまで無事に完走ということを思い出し、冷静さを取り戻す。気持ちが落ち着いたら周りの自然が心地よく感じる。幾つもの滝、森の中を流れる川、どれも東京の山奥ですら見ることができない王滝ならではのものであった。
30分ほど進むと大きなビープ音が森のなかに響き渡り、三浦ダム湖が姿をあらわす。大自然の中に突如として現れる巨大な人工建造物には得も言われぬ感動を覚える。ダムを渡るといよいよ現れるダートロードに入ってからが、SDA王滝本番だ。
ここからは道の目印もなく、ひたすら石が転がるジープロードを走っていく。加えて、平坦区間はほぼ無く、登っているか下っているかのどちらかしかない。オーバーペースで進んでいくとあっという間に体力が削り取られていってしまうのは明らかだ。
MTB初心者の私は、スリップとパンクに怯えながら慎重にラインを決めていく。しかし、予想以上にMTBの性能は高く少しスリップしたぐらいでは落車する心配すら必要ない。ロードともCXとも違うバイクの走らせ方を感じ取りながら、脚を進めて行く。
ノンビリとマイペースを保ちながら登りの1本目を終え、下りが見えた途端に背筋が凍るのを感じる。ガードレールが備えられていないことは想定済みであったが、想像以上に道はガレている。一歩間違えば滑落というシチュエーションに直面したら、やはり身体が固くなってしまった。
前日のMTBファンランで國井選手に教えて頂いた下りのポジショニングもできていない。へっぴり腰である。幸いディスクブレーキの高い制動力に助けられ安全に下ることができたが、一緒に行動していた編集長とは大きな差が生まれてしまう。制限時間内にゴールできるかどうか一気に不安になったのも最初の下りからだ。
途中チェックポイントは用意されているが、補給食などは一切用意されていない。あるとしても水のみ。補給などはフィニッシュまで不足しない量を事前に準備しろということだろう。なんてセルフディスカバリーという言葉がふさわしいレースなのだろうか。水に関しては滝から十分に行えるので、チェックポイントで補給し忘れても問題ない。もっともこの日は振り続ける雨の影響で、給水は少なくなっていたが。
ジェル系の補給も思い出すたびに摂るようにし、トラブルが起きない限りは黙々と走り続ける。雨水はコースに沿って上から下へと流れ落ちてくるため、まるでMTBで沢登りをしているようだ。
ある下りを終えると滝から流れ落ちた水がコースを横断しているではないか。川渡りも体験できるなんてSDA王滝のコースはバラエティに富んでいるなと感じていたが、この後120kmと100kmクラスが通過する時は体が流されそうになるほど流れが急になっていたという。私が通過するころも急流だったらと思うと身の毛がよだつ。
激坂を登る度に現れるスペクタクルな光景には感動しっぱなしだ。もし晴れていたのなら、足を止めてでも景色を楽しみたいほどである。しかし、この日は雨。風も徐々に強くなり、体が冷えやすくなっているため、足早にダウンヒルへと突入してしまう。
最初はへっぴり腰ポジションだった私も、國井選手から教えてもらった「BB上に立つ」イメージのポジションが取れるようになってきた気がする。スピードも徐々に上げられるようになり、下りも楽しくなってくる。楽しくなると人は奇声を上げたくなるのだろうか。1人でヤッホー!と叫びながら飛ばしていく。
長めの下りを終えると42kmクラスの関門(27km地点)が現れる。ここではパワーバーが配られており、記念に受け取ることに。ジェルはたくさん持っていたので、出番がないだろうと思いながらビブショーツ裾の内側に忍ばせる。
ここまでマイペースを維持していたため疲労を感じることは少なかったが、徐々に腰の痛みが出始める。ロードやシクロクロスでも出るこの症状は一体何だろうか。姿勢維持が困難になり、登りも短い時間でクリアしたいため、重いギアを掛ける。体力消耗の悪循環だ。
悪いことは立て続けに起こる。しっかりと補給を行っていたはずだが空腹感を覚えてしまう。エナジージェルは摂っていたのでエネルギー切れではないにしても、空腹感が集中を妨げる。急場を凌ぐために、ビブショーツの裾に隠したエナジーバーを口にする。王滝ほど長時間のライドでは、固形物も用意することが必須だと痛感させられる。
少し元気を取り戻したところで追い抜いた2人組の「もう時間いっぱいいっぱいらしいよ」という会話を耳にし、私も時間内に完走できなかったと思い込み、意気消沈。この時、私はサイクルコンピューターをつけていないので、時間がわからなかったのだ。回収車に拾われるまでは頑張ろうと踏み直す。
腰痛回避のため重いギアを回していたことが幸いし、登りも意外とサクサクと進み、見慣れたダウンヒルがはじまる。前日のMTBファンランで予習したところであった。ここからゴールまではもう数十分だ。ゴール手前まで戻ってきたところで、編集長が時計を確認すると時間は10時20分ほど。
何が起こったのか正直わからなかった。タイムアウトだと勘違いしていたこと以上に、予想を越えたタイムを記録していたことに驚いている。元々は5時間いっぱいで帰ってくるつもりだったのだ。編集長が隣でビデオを回しているが、何を喋ったかも覚えていない。何も考えられないまま編集長と並んでゴールを迎えた。
しばらくは呆気にとられたままだったが、徐々に42kmという長い道のりを走り終えた達成感に包まれる。ゴールから松原スポーツ公園までの道のりは、MTBの面白さ、SDA王滝に必要な準備の奥深さ、御嶽山麓の雄大な自然の素晴らしさなど楽しかったダートライドのひと時を反芻しながら過ごした。パンクに見舞われなかった自分の強運と、サポートしてくれた編集長への感謝も忘れずに。
大雨に見舞われスペクタクルな展開となったセルフディスカバリーアドベンチャー・イン・王滝。走り出す前は自分探しの旅というつもりでいたが、目の前の事に対処するだけで精一杯。SDA王滝を走り、自分を見つけ出すのはもう少し先になるだろう。まずはMTBを購入するところからスタートすることになりそうだ。
photo:Makoto.AYANO
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