2015/09/22(火) - 09:08
世界最大の規模を誇るバイクショーことユーロバイク。スポーツバイクのトレンドが一堂に会するこのイベントに初めて訪れた東京のプロショップ・フォーチュンバイク店長の錦織大祐さんによるレポートをお届けします。インターバイクや台北ショーにも脚を運んだ経験をもつ錦織さんが現地で見たこと、そして感じたこととは?
世界的に急速な市場拡大を進めるE-BIKE(電動バイク)、欧米マーケットでのMTB人気の再燃、変速システムのさらなる電動化、そしてオンロードにおけるディスクブレーキ化など、自転車の進歩という言葉の意味も大きく変化しつつある今、世界最大の自転車ショーであるユーロバイクを見るべくドイツに行ってきました。
自転車業界の中でも毎年足を運んでいる人たちに初めてのユーロバイク視察であることを出発前に話すと、皆一様に「あ~確かに、行くなら今年が良いかもしれませんね。数年後だとまた情報の質とスピードも変わっているから」とアドバイスされたのですが、現地に行くまでその意味するところはわかりませんでした。
最寄りとなるスイス・チューリッヒ空港から開催地のフリードリヒスハーフェンまでは電車と自転車を利用して移動しました。ボーデン湖という湖の周囲にはサイクリングロードが整備されていますが、30分程度続く砂利道や若干ぬかるんだ所などもルートによってはあります。
地元サイクリストはMTBやクロスバイク、ロードバイクなどそれぞれの自転車でサイクリングを楽しんでいました。僕が走りながら感じたのは、日本では使用できないEバイクが高齢者のアクティビティの助けになっていること、MTBは何も本格的なトレイルでなくともスポーツとシティライドを両立するジャンルとして確立していること、そして整備されたコースであってもディスクロードがあれば楽しみの範囲が広がるであろうことでした(ツーリングの模様はフォーチュンバイク公式ブログから)。
火曜日の試乗デモデイ、水曜から金曜日まではビジネスデイ、土曜日は一般開放日というユーロバイクのスケジュール。会場の広さは東京ドームの1.5倍(グラウンドだけではなく総面積の1.5倍)らしいのですが、パビリオンだけでなく中庭などにも出展社がびっしり。全区画に目を通しながら歩くと初日は半分以下も見切れませんでした。
どのブースも非常に大きく高さのあるブースを設営し、商品の機能だけでなくイメージやブランドの世界観を熱心にアピールしていますから、とにかく足が止まります。この熱意はビジネスとしてだけでは成り立たないでしょう。どこを歩いても「どうだい?俺達のアイデアすごいだろ?自転車って最高だよな!」というパワーが感じられました。
展示比率で見た場合、やはりマウンテンバイクが圧倒的な台数。ブラックとネオンカラーをマットクリアで仕上げたトレンドカラーのMTBとファットバイク、E-BIKEが目を引きます。ただ、競技色が前面に押し出されているのではなく、27.5+などのセミファットも「楽しい、かっこいい」と「これならテクニックのないライダーでも楽しんで走れる」というワードが各メーカーの説明に多かったことが印象的でした。
ロードバイクはディスクブレーキモデルがやはり目立っていましたが、ディスクブレーキの必要性の是非を問うのではなく、もっと幅広い提案として作る側も見る側も受け取っていたことが印象的でした。日本にいるとついつい、規格としての問題や是非を先に頭で考えてしまいがちになりますが、誰もがレースシーンでの必要性を気にするわけではありません。
「雨や泥でもきちんと止まれる」「太めのタイヤを履くことが出来る」「ホイールトラブルの影響を軽減できる」など、まさに日常のライディングで求められた声を解決するためにディスクブレーキというムーブメントが自然と動き出した部分も確かにあるのです。レーシングモデルとしてのディスクよりも「通勤とトレーニングとレースを制動力に不安のない状態で楽しまないか?」「新しい考え方としてこんなバイクもディスクロードなら作れるぜ!?」という遊びとしての提案がここまで進んでいるのは驚きでした。
会場で話した欧米、日本の両マーケットを熟知されている方の「”新規格の賛否両論の決着を待つスタイル”と”面白そうだ、やってみよう、作ってみた、もっといいもの作ろう、みんなの声を聞こう、また作ろうというスタイル”では一年かそこらで物凄い差が生まれます。ディスクロードはトレンドのテーブルに乗ってから数年で予想もしなかった面白いものまで出てきた。これこそがパワーで、これがユーロバイクの持つ熱量ですね。」という言葉こそが僕が感じた印象を最も的確に表現した言葉だと思います。
個人的にはあと2年と言わずに一定以上のシェアがディスクロードになるでしょうが、それが従来の規格との対立だと思うのは単なる錯覚です。新しい流行を目の当たりにすると、自分の今までの愛車が何か取り残されるような感覚になることもあるかもしれません。しかし、それは錯覚です。楽しく、より面白く、より安全に自転車と付き合えることだけがエネルギーの核であると感じました。それが自転車ビジネスであっても同じです。
会場にはフィッティングマシン、パワーメーター、最新のインターフェース機器なども数多く出品されていました。自転車本体も用品類もこれから未来形に進歩しつつ、同時に長年大切に愛されてきたものも受け継いでいく新時代を迎えるでしょう。
新しいプロダクツがユーザーを置き去りにする流れは僕も自転車業界に携わる者として怖いと思いますが、最新の技術を投入しつつも「楽しさ一番」に原点回帰しようとするエネルギーを斜に構えて見てしまうことも残念なことです。
日本で言われた「行くなら今年がいいかもしれない」というのは僕にとってはユーロバイクの熱量を浴びるいいタイミングであったと思いますし、「数年後にはまた情報の質もスピードも変化している」ということはポジティブに楽しみです。その時はまた足を運びたいと思いますし、遠方ですが日本のサイクリストも一般開放日に足を運んで見ても面白いと思います。それまで出来るだけオープンマインドで自転車の進歩を楽しんでいこうと思います。ありがとうユーロバイク!
プロフィール 錦織大祐(にしこおりだいすけ)
幼少のころから自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条とし、各媒体での執筆活動にも力を注いでいる。シマノ鈴鹿ロードに20年連続で出場する一方で、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
フォーチュンバイク
CWレコメンドショップ
世界的に急速な市場拡大を進めるE-BIKE(電動バイク)、欧米マーケットでのMTB人気の再燃、変速システムのさらなる電動化、そしてオンロードにおけるディスクブレーキ化など、自転車の進歩という言葉の意味も大きく変化しつつある今、世界最大の自転車ショーであるユーロバイクを見るべくドイツに行ってきました。
自転車業界の中でも毎年足を運んでいる人たちに初めてのユーロバイク視察であることを出発前に話すと、皆一様に「あ~確かに、行くなら今年が良いかもしれませんね。数年後だとまた情報の質とスピードも変わっているから」とアドバイスされたのですが、現地に行くまでその意味するところはわかりませんでした。
最寄りとなるスイス・チューリッヒ空港から開催地のフリードリヒスハーフェンまでは電車と自転車を利用して移動しました。ボーデン湖という湖の周囲にはサイクリングロードが整備されていますが、30分程度続く砂利道や若干ぬかるんだ所などもルートによってはあります。
地元サイクリストはMTBやクロスバイク、ロードバイクなどそれぞれの自転車でサイクリングを楽しんでいました。僕が走りながら感じたのは、日本では使用できないEバイクが高齢者のアクティビティの助けになっていること、MTBは何も本格的なトレイルでなくともスポーツとシティライドを両立するジャンルとして確立していること、そして整備されたコースであってもディスクロードがあれば楽しみの範囲が広がるであろうことでした(ツーリングの模様はフォーチュンバイク公式ブログから)。
火曜日の試乗デモデイ、水曜から金曜日まではビジネスデイ、土曜日は一般開放日というユーロバイクのスケジュール。会場の広さは東京ドームの1.5倍(グラウンドだけではなく総面積の1.5倍)らしいのですが、パビリオンだけでなく中庭などにも出展社がびっしり。全区画に目を通しながら歩くと初日は半分以下も見切れませんでした。
どのブースも非常に大きく高さのあるブースを設営し、商品の機能だけでなくイメージやブランドの世界観を熱心にアピールしていますから、とにかく足が止まります。この熱意はビジネスとしてだけでは成り立たないでしょう。どこを歩いても「どうだい?俺達のアイデアすごいだろ?自転車って最高だよな!」というパワーが感じられました。
展示比率で見た場合、やはりマウンテンバイクが圧倒的な台数。ブラックとネオンカラーをマットクリアで仕上げたトレンドカラーのMTBとファットバイク、E-BIKEが目を引きます。ただ、競技色が前面に押し出されているのではなく、27.5+などのセミファットも「楽しい、かっこいい」と「これならテクニックのないライダーでも楽しんで走れる」というワードが各メーカーの説明に多かったことが印象的でした。
ロードバイクはディスクブレーキモデルがやはり目立っていましたが、ディスクブレーキの必要性の是非を問うのではなく、もっと幅広い提案として作る側も見る側も受け取っていたことが印象的でした。日本にいるとついつい、規格としての問題や是非を先に頭で考えてしまいがちになりますが、誰もがレースシーンでの必要性を気にするわけではありません。
「雨や泥でもきちんと止まれる」「太めのタイヤを履くことが出来る」「ホイールトラブルの影響を軽減できる」など、まさに日常のライディングで求められた声を解決するためにディスクブレーキというムーブメントが自然と動き出した部分も確かにあるのです。レーシングモデルとしてのディスクよりも「通勤とトレーニングとレースを制動力に不安のない状態で楽しまないか?」「新しい考え方としてこんなバイクもディスクロードなら作れるぜ!?」という遊びとしての提案がここまで進んでいるのは驚きでした。
会場で話した欧米、日本の両マーケットを熟知されている方の「”新規格の賛否両論の決着を待つスタイル”と”面白そうだ、やってみよう、作ってみた、もっといいもの作ろう、みんなの声を聞こう、また作ろうというスタイル”では一年かそこらで物凄い差が生まれます。ディスクロードはトレンドのテーブルに乗ってから数年で予想もしなかった面白いものまで出てきた。これこそがパワーで、これがユーロバイクの持つ熱量ですね。」という言葉こそが僕が感じた印象を最も的確に表現した言葉だと思います。
個人的にはあと2年と言わずに一定以上のシェアがディスクロードになるでしょうが、それが従来の規格との対立だと思うのは単なる錯覚です。新しい流行を目の当たりにすると、自分の今までの愛車が何か取り残されるような感覚になることもあるかもしれません。しかし、それは錯覚です。楽しく、より面白く、より安全に自転車と付き合えることだけがエネルギーの核であると感じました。それが自転車ビジネスであっても同じです。
会場にはフィッティングマシン、パワーメーター、最新のインターフェース機器なども数多く出品されていました。自転車本体も用品類もこれから未来形に進歩しつつ、同時に長年大切に愛されてきたものも受け継いでいく新時代を迎えるでしょう。
新しいプロダクツがユーザーを置き去りにする流れは僕も自転車業界に携わる者として怖いと思いますが、最新の技術を投入しつつも「楽しさ一番」に原点回帰しようとするエネルギーを斜に構えて見てしまうことも残念なことです。
日本で言われた「行くなら今年がいいかもしれない」というのは僕にとってはユーロバイクの熱量を浴びるいいタイミングであったと思いますし、「数年後にはまた情報の質もスピードも変化している」ということはポジティブに楽しみです。その時はまた足を運びたいと思いますし、遠方ですが日本のサイクリストも一般開放日に足を運んで見ても面白いと思います。それまで出来るだけオープンマインドで自転車の進歩を楽しんでいこうと思います。ありがとうユーロバイク!
プロフィール 錦織大祐(にしこおりだいすけ)
幼少のころから自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条とし、各媒体での執筆活動にも力を注いでいる。シマノ鈴鹿ロードに20年連続で出場する一方で、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
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