2015/01/10(土) - 06:15
折り返しを過ぎてもまだまだ熱冷めやらない国内シクロクロスシーズン。今回の「あなたの自転車みせてください」では、野辺山シクロクロスを走った5台のハンドメイドバイクをピックアップしました。いずれのバイクにも込められた熱いストーリーは必見です。
鈴木康隆さん(CycleClub 3up)SPEEDVAGEN CX
関東圏のシクロクロッサーなら、一度は見た記憶のあるかもしれない3色団子カラーのSPEEDVAGEN。インパクトの強いこのバイクのオーナーはCycleClub 3upの鈴木康隆さんだ。「第1回の野辺山シクロクロスで初めてSPEEDVAGENを見て、その年のサイクルモードに出店されていたことがきっかけでした。造形とか、細かい部分の作り込みが凄くて、その2日後にはオーダーをしていました」とは鈴木さん。そのカラーは指定ではなく、届いてからのお楽しみという「Surprise me」。「届いてしばらくは派手すぎて少し恥ずかしかったんですけどね。だんだん慣れていきました」と振り返る。
そしてオーダーから3年を経た2014年、バイクはシーズンインを前にリペイントが施されることに。「SPEEDVAGENチームマシンのグラフィックに憧れがあったので、3色カラーはそのままに、各チューブにはそれと同じロゴを追加しました。思い切ってベースカラーを変更しようかとも思いましたが、この自転車のカラーで声を掛けて頂いたり、仲間の輪が広がったりしたこともあってそのままにしました。レースでは自転車を見て"あの人来てるんだな"って思ってもらったり、最初こそこっぱずかしかったのですが、自転車をぐっと好きにさせてくれた一台なんです。」と言う。
気になる乗り味に関しても鈴木さんは「抜群ですね」と太鼓判。ジオメトリーは乗り込んでいるロードのポジションと使う予定のパーツから、ステム長とフレームサイズをビルダーがチョイス。お任せにも関わらず乗り出した際の違和感も全く無かったと言う。「舗装路の登りよりも、未舗装路を走った時のフィーリングがとても良いんです。本当に"シクロクロスバイク"という感じ。リアステーの柔軟性が効いているのでしょうね。」
コンポーネントはSRAM・FORCEを中心に、フロントチェーンリングは「僕のレベルならこれで十分」と38Tシングル。リアは12-32Tとワイドレシオだ。一時期SS(シングルスピード)にしていたそうだが、ギアードに戻したという。もう一つのこだわりはヘッドパーツの上に積まれたスレッドヘッド調のコラムスペーサー。「何となくバイクのルックスにもマッチして素敵だと思うんです。ちょうどChris Kingともカラーが合っていますしね。」と言う。
「これで4シーズン目ですが、塗り替えたことで一気にリフレッシュできました。乗っていてとにかく楽しいバイクですし、まだまだ使っていくつもりです。もうすっかりとこのカラーが板についたので、次に塗り替える時も同じカラーリングのまま貫きたいですね(笑)」
根本了慈さん(Champion System Japan)VIVALO Proto CX Disc
東京都内を駆け巡る現役カリスマメッセンジャーであり、大盛況に終わったスターライト幕張のオーガナイザー、そしてC1レーサーである根本了慈さん(Champion System Japan)と、そのバイクをピックアップ。ペールパープル一色にペイントされたバイクは、神戸で日下周一さんが作るVIVALO(ビバロ)のディスクブレーキプロトタイプだ。
プロトタイプたる所以は、よくリア三角を見れば分かる...かもしれない。ディスクブレーキ、そしてシクロクロスで発生しがちなエンド破損を考慮したリプレイスエンドを導入するために、シートステーが左右非対称設計(左右で異なるリアエンドラグに対応するため)になっているのだ。
「このバイクはメインショップであるRE:PRODUCTS PROJECTの末瀬氏と、イーストリバーサイクルズ岡野氏の協力によって完成しました。もともとVIVALOは競輪フレームをメインに作っていましたから、シクロクロスに関してはあまり台数をこなしていなかった。だったら思い切ってチャレンジングなことにトライしてみよう!となったんです。相当攻めていますよね」とは根本さん。
「コーナリングが苦手なので、ぐっと曲がる自転車が欲しかったんです。」という根本さんのために、ヘッドとシート角度をカスタム。「そのおかげで苦手意識がすごく薄まりました。対話しながらフレーム製作を進めたのですが、これはもともと競輪で培った経験あってこそなのでしょうね。乗り味はしなやかで、良く進むんです。気に入っていますね。」
ブレーキは「油圧のストッピングパワーも魅力ですが、自分にはこれが合っているように思います」と機械式。ホイールはサポートを受けるBOMAの新型カーボンチューブラーで、チャレンジのチームエディションタイヤを組み合わせている。
野辺山時点で、まだこのバイクで2レースしか走っていないというが、「傍目こそあまり大した成績は出ていないのですが、個人的にはかなりポジションが上がったんです。」と言う。「やっぱり自分の乗り方に合わせてもらったたバイクは思い通りに走るからストレスが無い。そこが結果として顕れているように思います。」
落合友樹さん(HunterSimworksCX-Team)HUNTER CYCLES CX
グリーン一色にペイントされたHUNTER CYCLESのCXバイク。オーナーはHunterSimworksCX-Teamに所属してC1カテゴリーを走る落合友樹さんだ。美しい塗装がニューバイクを思わせるが、実はこのバイクは納車してから4シーズン目。先のオフシーズン中にパイプの差し替えという大きな手術を乗り越えた、落合さんの大切な愛車である。
「自分のスキル不足がもとで昨シーズンのレース中、トップチューブを大きくヘコませてしまったんです。丸3シーズンを走り各所にクラックも入っていたため、アメリカ・サンタクルスのビルダーの元へと送り、手直しをしてもらいました。」と落合さん。へこみの入ったトップチューブは若干太いパイプに差し替えられ、クラックの入ったリアエンドは上から補強板を溶接。修理したと言われなければ分からないほど綺麗に仕上げられている。
「1ヶ月ほどでアメリカから戻ってきたのですが、再びフレームを手にした時は感無量でした。パイプを差し替えたことで乗り味は変わりましたが、ジオメトリーが同じですからすぐに馴染みました。壊れても直す事が出来る幸せと、使い続けれる良品と巡り会えた事の嬉しさ、そして単に道具では無い価値観。本当に嬉しかったですね。」
もともとオフホワイトだったカラーは、球体ペイントの手によって何とも言えない深みのあるグリーンに。モチーフはSimworksの事務所にたまたまあったけん玉だというから面白い。ダウンチューブのブランドロゴと、トップチューブのライダーネームはSimworksのオリジナルフォント。「occi(オッチー)」は落合さんのニックネームだ。
また、手直しに伴って、カンチブレーキのアウター台座を廃しMiniVブレーキに換装することで少し不満だったという制動力を強化している。ホイールはSfidareのカーボンチューブラーを使い、踏み出しの軽さを狙ってリムハイトは低めだ。
「このフレームに育ててもらいましたから、愛着以上の感情がありますよね。レース機材としてはいつか限界が来るでしょうが、現役を退いてもツーリングバイクとして、お買い物バイクとして、いろんな付き合いのカタチがあると思いますし、これは手直しをしてもらって強く感じたことです。ずっと手元に置いておきたい一台ですね。」
竹内俊太郎さん(Rapha Cycle Club New York City.)BREADWINNER B-Road
トニー・ペレイラ&アイラ・ライアンというビッグネームビルダー2人がコラボレーションし、2013年のNAHBSで発表したばかりのBREADWINNER。そのカプラー(分割構造)付きグラベルロードを野辺山に持ち込んだのは、普段アメリカ・NYで働く竹内俊太郎(Rapha Cycle Club New York City)さんだ。
竹内さんはオーダーのきっかけを「私の住むNYは冬に雪も降りますし、ほぼずっとマイナス気温が続くんです。既にロードバイクは所有しているので、ならば雪や悪天候をいとわず走れるウィンターバイクを作ろうと考えたんです。」と言う。
シクロクロスバイクでは無く、グラベルロードという形にしたのも「年に1〜2回はシクロクロスレースに出る」という竹内さんのライフスタイルに合わせてのこと。シーズンを通してがっつりレース参戦しないのであれば、オンロードにも、グラベル遊びにも、そしてシクロクロスレースやツーリングにもにも幅広く使えるグラベルロードがベストマッチした、というわけだ。
年に3〜4回自転車を携えて旅行することを踏まえた上でフレームは分割式に。「しっかりとカプラーを締めれば細身のパイプよりも強度が高いそうですので不安は一切ありません。コンパクトに収納できるため、飛行機輸送の片道$100-150の追加料金がかからず3回で元が取れます。またそういった経済的な面よりも、珍しいからたくさんの人から"それは何だ!?"って聞かれて友達になったり(笑)。このバイクを見てカプラー付きバイクをオーダーした友人が2人いますし、移動や出張が多い方にはおすすめのスタイルですよ。」と竹内さん。
BREADWINNERはセミカスタムメイドのブランドであり、身長185cmの竹内さんが選んだフレームサイズは56だ。アメリカでは一般的なサイズである上に、フィッティングした結果でも特別にジオメトリーオーダーせずとも大丈夫とアドバイスをもらったことがきっかけ。「やっぱり自分に合ったサイズですから、とても乗りやすいですよね。」と言う。
今後、このバイクとどう付き合っていきたいですか?との問いには、次のように答えてくれた。
「この自転車と共に世界中を旅したい。そしてその場所で知らない人たちと一緒に走って、友達になって帰ってきたいですね。そうすれば、自分の世界がぐっと広がっていくはず。それって凄く魅力的だと思うんです。」
伊藤博彦さん(シクロポリスARP)VIVALO CX
派手なチームジャージが目を引くのは「ポンチャック」のニックネーム通っている伊藤博彦さん。昨シーズン末の茨城シクロクロス、C2で念願の優勝を遂げ、現在C1で走る健脚シクロクロッサーだ。
オフホワイトをベースに、ラグを淡いパープルで塗り分けた綺麗なバイクは、神戸で日下周一さんが作るVIVALO(ビバロ)のもの。以前からVIVAROのピストバイクを乗り込んでいたため、2台目となるシクロクロスバイクをオーダーする際にも必然的に同ブランドを選んだのだそうだ。一昨年の秋に納車してから丸1年が経っているという。
そしてこのVIVALOはシクロクロスバイクでありながら、オフシーズンはロードタイヤを履かせオンロードマシンとして使われるという"二足の草鞋仕様車"。「そのぶんジオメトリーには相当こだわりましたね。一般的なCXバイクと比較するとBB下がりが大きく、シート・ヘッドアングルは若干立ち気味にしています。」先代のCXバイクが柔らかめの乗り味だったため、剛性を強化するべくパイプはカイセイの4130Rオーバーサイズをチョイス。これによって思い通りの回頭性を実現できたのだそうだ。
さらに伊藤さんのこだわりは性能面だけに留まらず、ルックスにも及んでいる。「シクロクロスバイクに細いロードタイヤを履かせるとどうしても間伸びして格好悪くなってしまう。だからフォークの肩下寸法を泥詰まりしない程度まで詰め、スマートな見た目になるようにしたんです。」と伊藤さん。ただし泥レースでの詰まりがどうしても気になるため、今後フォークを作り直す予定だというから、そのこだわりようは並みではない。
ラグの淡いパープルは、アニメに造詣が深い伊藤さんらしく、お気に入りのキャラクターのモチーフカラーからとったもの。これに合わせてヘッドパーツはバイクの組み上げ段階で限定生産されていたChrisKingのパープルでまとめている。フロントシングル(42T)にも関わらずディレイラーがセットされているが、クロスシーズンが終わればダブルギアに戻すのだそうだ。取材前に1時間以上もかけてピカピカに磨いてくれたのも、伊藤さんの自転車愛を表すストーリーとして付け加えておきましょう。工夫の詰まった、素敵な一台でした。
西野賢二さん(シクロポリスARP)TONIC FABRICATION Magnum CX
上に登場して頂いた伊藤さんのチームメイトである西野賢二さん。比較的おとなしめながら、良く見ればきっとそのグラフィックに驚くであろうそのバイクは、ポートランドのビルダーブランドTONIC FABRICATIONのMagnum。TONICお得意の44mmヘッドチューブなど、比較的太めのチュービングが特徴的だ。
TONICを選んだ理由は、「たまたま購入できると聞いてチェックしたら、自分にピッタリのサイズを見つけたので飛びつきました(笑)。」とのこと。目を引くアーガイル柄のグラフィックはこのバイクだけのオリジナルで、知り合いのデザイナーとTONIC、そして西野さんの3者で決定したという。カッティングシートを用いており、TONICロゴが切り抜きで表現されているなど、かなり作り込みがなされている。
このバイクは2013年の終わりに納車して、取材時でおよそ1年。「去年の野辺山には間に合わず悔しい思いをしたのですが、今年ようやく出場することができました。」と西野さん。気になる乗り味に関しても「ENVEのフォークも効いているのでしょうが、クロモリながら軽くお気に入りです」と好印象だそうだ。
グラフィックに合わせてChris Kingのヘッドパーツやハブ、Retroshift(現Gevenalle)のシフトレバー類も全てピンクで統一されている。シクロクロスバイクとしてはSMPサドルが珍しいが、「ロードバイクには長く使っているため、変えたくありませんでした」と言う。
「とても満足していますよ。これでもはや終着点みたいな感じです(笑)。まだ納車して1年ほどですが、レース参加や街乗りを重ねて身体に馴染んできました。私自身決して速くありませんが、これからもこのバイクと一緒に遠征したいですね。ずっと付き合うに相応しいバイクだと思っています。」
text&photo:So.Isobe
鈴木康隆さん(CycleClub 3up)SPEEDVAGEN CX
関東圏のシクロクロッサーなら、一度は見た記憶のあるかもしれない3色団子カラーのSPEEDVAGEN。インパクトの強いこのバイクのオーナーはCycleClub 3upの鈴木康隆さんだ。「第1回の野辺山シクロクロスで初めてSPEEDVAGENを見て、その年のサイクルモードに出店されていたことがきっかけでした。造形とか、細かい部分の作り込みが凄くて、その2日後にはオーダーをしていました」とは鈴木さん。そのカラーは指定ではなく、届いてからのお楽しみという「Surprise me」。「届いてしばらくは派手すぎて少し恥ずかしかったんですけどね。だんだん慣れていきました」と振り返る。
そしてオーダーから3年を経た2014年、バイクはシーズンインを前にリペイントが施されることに。「SPEEDVAGENチームマシンのグラフィックに憧れがあったので、3色カラーはそのままに、各チューブにはそれと同じロゴを追加しました。思い切ってベースカラーを変更しようかとも思いましたが、この自転車のカラーで声を掛けて頂いたり、仲間の輪が広がったりしたこともあってそのままにしました。レースでは自転車を見て"あの人来てるんだな"って思ってもらったり、最初こそこっぱずかしかったのですが、自転車をぐっと好きにさせてくれた一台なんです。」と言う。
気になる乗り味に関しても鈴木さんは「抜群ですね」と太鼓判。ジオメトリーは乗り込んでいるロードのポジションと使う予定のパーツから、ステム長とフレームサイズをビルダーがチョイス。お任せにも関わらず乗り出した際の違和感も全く無かったと言う。「舗装路の登りよりも、未舗装路を走った時のフィーリングがとても良いんです。本当に"シクロクロスバイク"という感じ。リアステーの柔軟性が効いているのでしょうね。」
コンポーネントはSRAM・FORCEを中心に、フロントチェーンリングは「僕のレベルならこれで十分」と38Tシングル。リアは12-32Tとワイドレシオだ。一時期SS(シングルスピード)にしていたそうだが、ギアードに戻したという。もう一つのこだわりはヘッドパーツの上に積まれたスレッドヘッド調のコラムスペーサー。「何となくバイクのルックスにもマッチして素敵だと思うんです。ちょうどChris Kingともカラーが合っていますしね。」と言う。
「これで4シーズン目ですが、塗り替えたことで一気にリフレッシュできました。乗っていてとにかく楽しいバイクですし、まだまだ使っていくつもりです。もうすっかりとこのカラーが板についたので、次に塗り替える時も同じカラーリングのまま貫きたいですね(笑)」
根本了慈さん(Champion System Japan)VIVALO Proto CX Disc
東京都内を駆け巡る現役カリスマメッセンジャーであり、大盛況に終わったスターライト幕張のオーガナイザー、そしてC1レーサーである根本了慈さん(Champion System Japan)と、そのバイクをピックアップ。ペールパープル一色にペイントされたバイクは、神戸で日下周一さんが作るVIVALO(ビバロ)のディスクブレーキプロトタイプだ。
プロトタイプたる所以は、よくリア三角を見れば分かる...かもしれない。ディスクブレーキ、そしてシクロクロスで発生しがちなエンド破損を考慮したリプレイスエンドを導入するために、シートステーが左右非対称設計(左右で異なるリアエンドラグに対応するため)になっているのだ。
「このバイクはメインショップであるRE:PRODUCTS PROJECTの末瀬氏と、イーストリバーサイクルズ岡野氏の協力によって完成しました。もともとVIVALOは競輪フレームをメインに作っていましたから、シクロクロスに関してはあまり台数をこなしていなかった。だったら思い切ってチャレンジングなことにトライしてみよう!となったんです。相当攻めていますよね」とは根本さん。
「コーナリングが苦手なので、ぐっと曲がる自転車が欲しかったんです。」という根本さんのために、ヘッドとシート角度をカスタム。「そのおかげで苦手意識がすごく薄まりました。対話しながらフレーム製作を進めたのですが、これはもともと競輪で培った経験あってこそなのでしょうね。乗り味はしなやかで、良く進むんです。気に入っていますね。」
ブレーキは「油圧のストッピングパワーも魅力ですが、自分にはこれが合っているように思います」と機械式。ホイールはサポートを受けるBOMAの新型カーボンチューブラーで、チャレンジのチームエディションタイヤを組み合わせている。
野辺山時点で、まだこのバイクで2レースしか走っていないというが、「傍目こそあまり大した成績は出ていないのですが、個人的にはかなりポジションが上がったんです。」と言う。「やっぱり自分の乗り方に合わせてもらったたバイクは思い通りに走るからストレスが無い。そこが結果として顕れているように思います。」
落合友樹さん(HunterSimworksCX-Team)HUNTER CYCLES CX
グリーン一色にペイントされたHUNTER CYCLESのCXバイク。オーナーはHunterSimworksCX-Teamに所属してC1カテゴリーを走る落合友樹さんだ。美しい塗装がニューバイクを思わせるが、実はこのバイクは納車してから4シーズン目。先のオフシーズン中にパイプの差し替えという大きな手術を乗り越えた、落合さんの大切な愛車である。
「自分のスキル不足がもとで昨シーズンのレース中、トップチューブを大きくヘコませてしまったんです。丸3シーズンを走り各所にクラックも入っていたため、アメリカ・サンタクルスのビルダーの元へと送り、手直しをしてもらいました。」と落合さん。へこみの入ったトップチューブは若干太いパイプに差し替えられ、クラックの入ったリアエンドは上から補強板を溶接。修理したと言われなければ分からないほど綺麗に仕上げられている。
「1ヶ月ほどでアメリカから戻ってきたのですが、再びフレームを手にした時は感無量でした。パイプを差し替えたことで乗り味は変わりましたが、ジオメトリーが同じですからすぐに馴染みました。壊れても直す事が出来る幸せと、使い続けれる良品と巡り会えた事の嬉しさ、そして単に道具では無い価値観。本当に嬉しかったですね。」
もともとオフホワイトだったカラーは、球体ペイントの手によって何とも言えない深みのあるグリーンに。モチーフはSimworksの事務所にたまたまあったけん玉だというから面白い。ダウンチューブのブランドロゴと、トップチューブのライダーネームはSimworksのオリジナルフォント。「occi(オッチー)」は落合さんのニックネームだ。
また、手直しに伴って、カンチブレーキのアウター台座を廃しMiniVブレーキに換装することで少し不満だったという制動力を強化している。ホイールはSfidareのカーボンチューブラーを使い、踏み出しの軽さを狙ってリムハイトは低めだ。
「このフレームに育ててもらいましたから、愛着以上の感情がありますよね。レース機材としてはいつか限界が来るでしょうが、現役を退いてもツーリングバイクとして、お買い物バイクとして、いろんな付き合いのカタチがあると思いますし、これは手直しをしてもらって強く感じたことです。ずっと手元に置いておきたい一台ですね。」
竹内俊太郎さん(Rapha Cycle Club New York City.)BREADWINNER B-Road
トニー・ペレイラ&アイラ・ライアンというビッグネームビルダー2人がコラボレーションし、2013年のNAHBSで発表したばかりのBREADWINNER。そのカプラー(分割構造)付きグラベルロードを野辺山に持ち込んだのは、普段アメリカ・NYで働く竹内俊太郎(Rapha Cycle Club New York City)さんだ。
竹内さんはオーダーのきっかけを「私の住むNYは冬に雪も降りますし、ほぼずっとマイナス気温が続くんです。既にロードバイクは所有しているので、ならば雪や悪天候をいとわず走れるウィンターバイクを作ろうと考えたんです。」と言う。
シクロクロスバイクでは無く、グラベルロードという形にしたのも「年に1〜2回はシクロクロスレースに出る」という竹内さんのライフスタイルに合わせてのこと。シーズンを通してがっつりレース参戦しないのであれば、オンロードにも、グラベル遊びにも、そしてシクロクロスレースやツーリングにもにも幅広く使えるグラベルロードがベストマッチした、というわけだ。
年に3〜4回自転車を携えて旅行することを踏まえた上でフレームは分割式に。「しっかりとカプラーを締めれば細身のパイプよりも強度が高いそうですので不安は一切ありません。コンパクトに収納できるため、飛行機輸送の片道$100-150の追加料金がかからず3回で元が取れます。またそういった経済的な面よりも、珍しいからたくさんの人から"それは何だ!?"って聞かれて友達になったり(笑)。このバイクを見てカプラー付きバイクをオーダーした友人が2人いますし、移動や出張が多い方にはおすすめのスタイルですよ。」と竹内さん。
BREADWINNERはセミカスタムメイドのブランドであり、身長185cmの竹内さんが選んだフレームサイズは56だ。アメリカでは一般的なサイズである上に、フィッティングした結果でも特別にジオメトリーオーダーせずとも大丈夫とアドバイスをもらったことがきっかけ。「やっぱり自分に合ったサイズですから、とても乗りやすいですよね。」と言う。
今後、このバイクとどう付き合っていきたいですか?との問いには、次のように答えてくれた。
「この自転車と共に世界中を旅したい。そしてその場所で知らない人たちと一緒に走って、友達になって帰ってきたいですね。そうすれば、自分の世界がぐっと広がっていくはず。それって凄く魅力的だと思うんです。」
伊藤博彦さん(シクロポリスARP)VIVALO CX
派手なチームジャージが目を引くのは「ポンチャック」のニックネーム通っている伊藤博彦さん。昨シーズン末の茨城シクロクロス、C2で念願の優勝を遂げ、現在C1で走る健脚シクロクロッサーだ。
オフホワイトをベースに、ラグを淡いパープルで塗り分けた綺麗なバイクは、神戸で日下周一さんが作るVIVALO(ビバロ)のもの。以前からVIVAROのピストバイクを乗り込んでいたため、2台目となるシクロクロスバイクをオーダーする際にも必然的に同ブランドを選んだのだそうだ。一昨年の秋に納車してから丸1年が経っているという。
そしてこのVIVALOはシクロクロスバイクでありながら、オフシーズンはロードタイヤを履かせオンロードマシンとして使われるという"二足の草鞋仕様車"。「そのぶんジオメトリーには相当こだわりましたね。一般的なCXバイクと比較するとBB下がりが大きく、シート・ヘッドアングルは若干立ち気味にしています。」先代のCXバイクが柔らかめの乗り味だったため、剛性を強化するべくパイプはカイセイの4130Rオーバーサイズをチョイス。これによって思い通りの回頭性を実現できたのだそうだ。
さらに伊藤さんのこだわりは性能面だけに留まらず、ルックスにも及んでいる。「シクロクロスバイクに細いロードタイヤを履かせるとどうしても間伸びして格好悪くなってしまう。だからフォークの肩下寸法を泥詰まりしない程度まで詰め、スマートな見た目になるようにしたんです。」と伊藤さん。ただし泥レースでの詰まりがどうしても気になるため、今後フォークを作り直す予定だというから、そのこだわりようは並みではない。
ラグの淡いパープルは、アニメに造詣が深い伊藤さんらしく、お気に入りのキャラクターのモチーフカラーからとったもの。これに合わせてヘッドパーツはバイクの組み上げ段階で限定生産されていたChrisKingのパープルでまとめている。フロントシングル(42T)にも関わらずディレイラーがセットされているが、クロスシーズンが終わればダブルギアに戻すのだそうだ。取材前に1時間以上もかけてピカピカに磨いてくれたのも、伊藤さんの自転車愛を表すストーリーとして付け加えておきましょう。工夫の詰まった、素敵な一台でした。
西野賢二さん(シクロポリスARP)TONIC FABRICATION Magnum CX
上に登場して頂いた伊藤さんのチームメイトである西野賢二さん。比較的おとなしめながら、良く見ればきっとそのグラフィックに驚くであろうそのバイクは、ポートランドのビルダーブランドTONIC FABRICATIONのMagnum。TONICお得意の44mmヘッドチューブなど、比較的太めのチュービングが特徴的だ。
TONICを選んだ理由は、「たまたま購入できると聞いてチェックしたら、自分にピッタリのサイズを見つけたので飛びつきました(笑)。」とのこと。目を引くアーガイル柄のグラフィックはこのバイクだけのオリジナルで、知り合いのデザイナーとTONIC、そして西野さんの3者で決定したという。カッティングシートを用いており、TONICロゴが切り抜きで表現されているなど、かなり作り込みがなされている。
このバイクは2013年の終わりに納車して、取材時でおよそ1年。「去年の野辺山には間に合わず悔しい思いをしたのですが、今年ようやく出場することができました。」と西野さん。気になる乗り味に関しても「ENVEのフォークも効いているのでしょうが、クロモリながら軽くお気に入りです」と好印象だそうだ。
グラフィックに合わせてChris Kingのヘッドパーツやハブ、Retroshift(現Gevenalle)のシフトレバー類も全てピンクで統一されている。シクロクロスバイクとしてはSMPサドルが珍しいが、「ロードバイクには長く使っているため、変えたくありませんでした」と言う。
「とても満足していますよ。これでもはや終着点みたいな感じです(笑)。まだ納車して1年ほどですが、レース参加や街乗りを重ねて身体に馴染んできました。私自身決して速くありませんが、これからもこのバイクと一緒に遠征したいですね。ずっと付き合うに相応しいバイクだと思っています。」
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