2014/06/10(火) - 09:04
「北の地獄」「クラシックの女王」と呼ばれるクラシックレースの最高峰、パリ〜ルーベ。このプロレース前日に同じコースを走る市民レースがある。ルコックスポルティフの井上大平さんがチャレンジした体験記をお届けしよう。
井上大平さん プロフィール
いのうえ・だいへい/株式会社デサント勤務。ルコックスポルティフの企画担当者。自転車レースを愛し、同ブランドのサイクリングウェアを国内でプロデュースしてきた。また、アパレルスポンサーとしてエキップアサダやチーム右京などをサポートしている。ツール・ド・フランスなど世界のトップレースをいつの日か観戦したいという夢はずっともっていた。
■ツール・ド・フランスとパリ〜ルーべに憧れて
あれは1985年の夏だったから、もう30年近く前になる。偶然テレビでツール・ド・フランスを観たんだ。僕は小学6年生。当時テレビのスポーツ中継といえば巨人戦のナイターくらいだった。そんな子供時分に、初めて観たツール・ド・フランスが衝撃的だった。それ以来、夢中になって自転車に乗った。
僕には競技経験はないけれど、それがかえって良かったのか、かれこれ30年近く自転車とは良い付き合いをしている。当時はインターネットもなければ、衛星放送が充実していたわけでもなかったから、海外のレース情報はまったく不足していた。
そんな時、入り浸っていたサイクルショップで初めてパリ〜ルーベの映像を観たんだ。当然ビデオ。どこでどう入手したのか分からない。最初はレースの名前も分からなかった。でも、この時が85年のツール・ド・フランス以来、2度目の衝撃だった。
それからというもの、僕の心はツール・ド・フランスとパリ〜ルーベに捉えられたままだ。とくに当時、ツール以上に情報の入手が困難なパリ〜ルーベはまさに羨望の的だった。
時が流れ、毎年テレビであらゆるレースが視聴可能になり、多くの情報を入手しやすい環境になった。それが余計、僕のパリ〜ルーベへの憧れを掻き立てた。「いつか現地で観てみたい」。アーレンベルグの森にプロトンが突っ込んで行くあの瞬間。ルーベのヴェロドロームでの歓喜の瞬間。まさに僕の夢なんだ。だから、いつかきっと、必ず現地に観に行こう!ずっとそう思っていた。
■準備編 観に行くつもりがなぜか走ることに?
「今年はパリ〜ルーベに行く!」ここ数年、そのチャンスを伺っていたけれど実現させることはできなかった。でも、今年はチャンス到来。会社で一週間の有給休暇取得命令が出たのだ。
すぐにシクロワイアード編集長の綾野氏に連絡。「今年、オレ行きます!絶対行きます!」。そしたら編集長から意外な一言が返ってきた。
「じゃあ、パリ〜ルーベを一緒に走りましょう!」
「え?????」
知らなかった訳ではない、プロのレースの前日に同じコースを走れる市民レースがあることを。その名も、”パリ〜ルーベ チャレンジ”。観戦することばかり考えていて、自分があのコースを走るなんて、それまで一度も考えたことなかった。「走ってはみたいですが、考えもしていなかったので諸々準備期間が足りません。特に機材関係が」。すると編集長、「分かりました。任せて下さい」と。
数日後、連絡がありました。「そういうわけで、バイクは完璧です!」と編集長。「?。良いんですか?」としか言いようがなかったけど、「よろしくお願いします!」ということで。なんとスペシャライズドのRoubaix(ルーベ)というバイクに乗れる手はずらしい。
そうなんです。今回ご縁がありまして、スペシャライズドのルーべをお借りして、パリ〜ルーベ チャレンジを走れることと相成りました。その名もルーベ。パリ〜ルーベを走る(勝つ)ために生まれたバイク。編集長の「バイクは完璧です!」とはこのことだったのです。
しかも、ただお借りするだけではありません。今回はスペシャライズド・ジャパンさんのご厚意で、同社が誇るボディージオメトリーフィット(Body Geometry FIT)まで体験させてくれるとのこと。僕のことを心配した(?)同社の広報担当者・佐藤修平さんが、バイクだけでなくフィッティング面に至るまでサポートしてくださるとのこと。なんという心強いことでしょう。
おかげさまでバイクもフィッティングも、万全の準備をして下さいました。せっかくの機会ですので、僕が体験したこのボディージオメトリーフィット(以下BGF)のプロセスを紹介しておきましょう。
■ひとそれぞれの問題を解消していくボディージオメトリーフィットのプロセス
BGF当日。スペシャライズド・ジャパンでSBCU(Specialized Bicycle Components University)の日本総責任者として小売店研修に携わり、BGFの責任者でもある渡辺孝二さんからの質問に答える形で、まずはライダーである僕の状態を確認することから第1ステップが始まりました。
項目に沿った質問形式で行われるこのインタビューの内容は、「普段走っていて困っていること」「気になっていること」「過去の怪我のこと」「今後の目標のこと」などについて、細かく記録されて行きます。
次にアセスメント。まず、ここでは身体的特徴や柔軟性などを客観的に評価します。腕を伸ばしたり、足裏の形まで採ってチェックをしてもらいます。背骨(脊髄)の具合もチェックしていましたね。当然これらは、ポジショニングやペダリングに影響しますからね。
続いて、ローラー台を使用して、実際にバイクに跨ってライダーのフォーム、ポジションの評価を行います。しばらくは、横から見た状態のチェックです。シートの位置、ハンドルの高さ、ステムの長さ、クリートの位置。ライダーごとに快適な走行ができる、より良いポジションを模索して行きます。
次いで、正面から見た状態のチェックです。これは主に股関節の動きの確認です。股関節の動き方は、そのまま膝や足先までの動きに影響します。理想的な股関節の動きが理想的なペダリングを実現するということだと思います。僕の場合、左足を引き上げる時に悪い癖があって、その癖のお陰で何度も怪我をしています。
この正面からのチェックで、そんな僕の癖まで一発で見破られてしまいました。専門家はやっぱり凄いね!
しかも、この時にペダルとシューズの位置関係を調整してくれるのだけれど、これがまた凄い! 今まで、自分の悪い癖を自覚していただけに、それがあっさり解消されたことが実感できて本当にびっくり。
心の中で、「ありがたい、ありがたい、こりゃ楽だ!いや〜ありがたい!」って叫んでたくらい。
最後に僕の未熟さを懇々と諭されて....というのは冗談で、真剣にアドバイスを頂いて施術終了。普段、人の話なんか全く聞かない僕だけど、この時ばかりは真顔でアドバイスを聞きました(笑)。
フィッティング後は、とにかく楽に踏める感覚です。そして、正しく踏んでいる感覚。ペダルはむやみに踏んだら疲れるし、ただ回すだけでは高速を維持できません。トルクをかけた状態を長続きさせることができれば、必然的に今までより速く、遠くまで走れるもんね!それに、正しく踏むことで怪我の原因も解消されたし、もう言うことなしですよ、ホント。ボディージオメトリーフィットについては、こちらを参照してください。
そんなこんなで、バイクは完璧、シューズも完璧! もちろんウェアだって完璧!(ここ大事ですね・笑)問題はライダーである僕自身。でもきっと大丈夫! では、フランスに行ってきます!
■フランス編 いきなり厳しいコース試走へ!
ここからはパリ〜ルーベチャレンジ前日のお話。ボディジオメトリーフィットを受けてから3度ほどの週末の練習をこなし、僕はフランスに飛んだ。
金曜日。ロンド・ファン・フラーンデレンからの春のクラシック取材業務でお疲れ気味の編集長を横目に、僕は朝から喚いていた。昨日の遅くにルーベに到着したばかりだというのに。
「試走行きましょう!試走!」「もう調べました。ホテルから自転車で10分でヴェロドロームです!だからすぐに行きましょう!」という訳で、まだ朝の冷たい空気が残る中、さっそくヴェロドロームへ(笑)。
「ルーベのヴェロドロームだよ〜、ついに来ちゃったもんねー(笑)」と心で笑っていても、顔は引きつってる。ヘルメットも心なしか曲がっている。まだパヴェも走っていないのに。ともかく、英雄たちが歓喜のゴールを迎える栄光のヴェロドロームに、今、この足で立っているのだ。その畏敬の念からか、僕は静かになってしまった。
逆に、ヴェロドロームに着いた途端に元気が出て来た編集長。この後、僕は編集長にパヴェを引きずり回されることに。
ヴェロドロームを出発し、パリ〜ルーベのコースを逆走しながらパヴェを体感しておこうということになったのだ。すでに道路にはプロレースのコース道順を示す「→」サインが付けられているが、それを逆にたどるという器用なことを始めたふたり。
良くテレビ中継の中で、「今年のパヴェは荒れている」とか「それほどでもない」とか、そんな現地情報を伝える場面があるけれど、「一体何を基準に、誰がそんなこと言ってるんだ!」って怒りたくなるくらい、どこをどう走っても激しい衝撃が全身を駆け巡る。
悪名高きカルフール・ド・ラルブルには、小一時間で到着した。荒れたパヴェは激しすぎる。「もう試走はギブアップ」と言おうとした瞬間、一台のオートバイが砂煙を上げながら突進して来た。恨めし気にそのオートバイを傍観していてびっくり。違うのよ、オートバイじゃない!。「何だありゃ、自転車じゃないか!」と思った瞬間、「フレチャだ!フレチャ!」と編集長。
オートバイと思われた物体の正体は、昨シーズンで引退したばかりのファン・アントニオ・フレチャだったのです。こりゃ幸いと、編集長にお願いして記念に1枚。いや〜、速いのなんのって、到底同じ乗り物に乗っている、同じ人間同士には見えなかった。
フレチャとの遭遇をきっかけに、次々とプロチームの試走の現場に遭遇した。サガンとキャノンデールプロサイクリングもチームカーを従えて砂塵を巻き上げなから通り過ぎていった。昨年、ジャパンカップでルコック製のマイヨ・ヴェールにサインをしてプレゼントしてくれたサガン。
「そうだ!オレはただのパヴェを走ってる訳じゃない。プロが走るのと同じパヴェを走ってるんだ!」そう思うと、パヴェの苦痛などどこ吹く風。「楽しい!本当に楽しい!」(現金なものである)。すれ違う一般のサイクリストも、きっと同じ気持ちで走ってるんだろうな。みんな、とても良い顔をしている。沿道で見物しているお爺さんだって、「おらが村」をプロトンが駆け抜ける、一年で一番大事な一瞬を心待ちにしているようだった。
ヴェロドロームに戻って、翌日の出走手続きをした。会場でMCをするお兄さんに、「わざわざ日本から来たのか?! 明日ゴールしたらインタビューしてやる(笑)」と言われたり、憧れのヨハン・ムセーウにも会えたりで、お祭り気分はいやが上にも盛り上がってきます。もうこんなに楽しくて申し訳ないです(笑)。
そして、その夜。我々のホテルからクルマで10分ほどの近くのホテルに宿泊していたU23日本代表選手団を表敬訪問した。一緒に夕食の時間を過ごしました。みんな頑張っているんだよね。激励のつもりが、みんなから逆に色んなパワーをもらって、何だかとても良い夜になりました。浅田彰監督、いつもありがとうございます!
文:井上大平(ルコックスポルティフ)
井上大平さん プロフィール
いのうえ・だいへい/株式会社デサント勤務。ルコックスポルティフの企画担当者。自転車レースを愛し、同ブランドのサイクリングウェアを国内でプロデュースしてきた。また、アパレルスポンサーとしてエキップアサダやチーム右京などをサポートしている。ツール・ド・フランスなど世界のトップレースをいつの日か観戦したいという夢はずっともっていた。
■ツール・ド・フランスとパリ〜ルーべに憧れて
あれは1985年の夏だったから、もう30年近く前になる。偶然テレビでツール・ド・フランスを観たんだ。僕は小学6年生。当時テレビのスポーツ中継といえば巨人戦のナイターくらいだった。そんな子供時分に、初めて観たツール・ド・フランスが衝撃的だった。それ以来、夢中になって自転車に乗った。
僕には競技経験はないけれど、それがかえって良かったのか、かれこれ30年近く自転車とは良い付き合いをしている。当時はインターネットもなければ、衛星放送が充実していたわけでもなかったから、海外のレース情報はまったく不足していた。
そんな時、入り浸っていたサイクルショップで初めてパリ〜ルーベの映像を観たんだ。当然ビデオ。どこでどう入手したのか分からない。最初はレースの名前も分からなかった。でも、この時が85年のツール・ド・フランス以来、2度目の衝撃だった。
それからというもの、僕の心はツール・ド・フランスとパリ〜ルーベに捉えられたままだ。とくに当時、ツール以上に情報の入手が困難なパリ〜ルーベはまさに羨望の的だった。
時が流れ、毎年テレビであらゆるレースが視聴可能になり、多くの情報を入手しやすい環境になった。それが余計、僕のパリ〜ルーベへの憧れを掻き立てた。「いつか現地で観てみたい」。アーレンベルグの森にプロトンが突っ込んで行くあの瞬間。ルーベのヴェロドロームでの歓喜の瞬間。まさに僕の夢なんだ。だから、いつかきっと、必ず現地に観に行こう!ずっとそう思っていた。
■準備編 観に行くつもりがなぜか走ることに?
「今年はパリ〜ルーベに行く!」ここ数年、そのチャンスを伺っていたけれど実現させることはできなかった。でも、今年はチャンス到来。会社で一週間の有給休暇取得命令が出たのだ。
すぐにシクロワイアード編集長の綾野氏に連絡。「今年、オレ行きます!絶対行きます!」。そしたら編集長から意外な一言が返ってきた。
「じゃあ、パリ〜ルーベを一緒に走りましょう!」
「え?????」
知らなかった訳ではない、プロのレースの前日に同じコースを走れる市民レースがあることを。その名も、”パリ〜ルーベ チャレンジ”。観戦することばかり考えていて、自分があのコースを走るなんて、それまで一度も考えたことなかった。「走ってはみたいですが、考えもしていなかったので諸々準備期間が足りません。特に機材関係が」。すると編集長、「分かりました。任せて下さい」と。
数日後、連絡がありました。「そういうわけで、バイクは完璧です!」と編集長。「?。良いんですか?」としか言いようがなかったけど、「よろしくお願いします!」ということで。なんとスペシャライズドのRoubaix(ルーベ)というバイクに乗れる手はずらしい。
そうなんです。今回ご縁がありまして、スペシャライズドのルーべをお借りして、パリ〜ルーベ チャレンジを走れることと相成りました。その名もルーベ。パリ〜ルーベを走る(勝つ)ために生まれたバイク。編集長の「バイクは完璧です!」とはこのことだったのです。
しかも、ただお借りするだけではありません。今回はスペシャライズド・ジャパンさんのご厚意で、同社が誇るボディージオメトリーフィット(Body Geometry FIT)まで体験させてくれるとのこと。僕のことを心配した(?)同社の広報担当者・佐藤修平さんが、バイクだけでなくフィッティング面に至るまでサポートしてくださるとのこと。なんという心強いことでしょう。
おかげさまでバイクもフィッティングも、万全の準備をして下さいました。せっかくの機会ですので、僕が体験したこのボディージオメトリーフィット(以下BGF)のプロセスを紹介しておきましょう。
■ひとそれぞれの問題を解消していくボディージオメトリーフィットのプロセス
BGF当日。スペシャライズド・ジャパンでSBCU(Specialized Bicycle Components University)の日本総責任者として小売店研修に携わり、BGFの責任者でもある渡辺孝二さんからの質問に答える形で、まずはライダーである僕の状態を確認することから第1ステップが始まりました。
項目に沿った質問形式で行われるこのインタビューの内容は、「普段走っていて困っていること」「気になっていること」「過去の怪我のこと」「今後の目標のこと」などについて、細かく記録されて行きます。
次にアセスメント。まず、ここでは身体的特徴や柔軟性などを客観的に評価します。腕を伸ばしたり、足裏の形まで採ってチェックをしてもらいます。背骨(脊髄)の具合もチェックしていましたね。当然これらは、ポジショニングやペダリングに影響しますからね。
続いて、ローラー台を使用して、実際にバイクに跨ってライダーのフォーム、ポジションの評価を行います。しばらくは、横から見た状態のチェックです。シートの位置、ハンドルの高さ、ステムの長さ、クリートの位置。ライダーごとに快適な走行ができる、より良いポジションを模索して行きます。
次いで、正面から見た状態のチェックです。これは主に股関節の動きの確認です。股関節の動き方は、そのまま膝や足先までの動きに影響します。理想的な股関節の動きが理想的なペダリングを実現するということだと思います。僕の場合、左足を引き上げる時に悪い癖があって、その癖のお陰で何度も怪我をしています。
この正面からのチェックで、そんな僕の癖まで一発で見破られてしまいました。専門家はやっぱり凄いね!
しかも、この時にペダルとシューズの位置関係を調整してくれるのだけれど、これがまた凄い! 今まで、自分の悪い癖を自覚していただけに、それがあっさり解消されたことが実感できて本当にびっくり。
心の中で、「ありがたい、ありがたい、こりゃ楽だ!いや〜ありがたい!」って叫んでたくらい。
最後に僕の未熟さを懇々と諭されて....というのは冗談で、真剣にアドバイスを頂いて施術終了。普段、人の話なんか全く聞かない僕だけど、この時ばかりは真顔でアドバイスを聞きました(笑)。
フィッティング後は、とにかく楽に踏める感覚です。そして、正しく踏んでいる感覚。ペダルはむやみに踏んだら疲れるし、ただ回すだけでは高速を維持できません。トルクをかけた状態を長続きさせることができれば、必然的に今までより速く、遠くまで走れるもんね!それに、正しく踏むことで怪我の原因も解消されたし、もう言うことなしですよ、ホント。ボディージオメトリーフィットについては、こちらを参照してください。
そんなこんなで、バイクは完璧、シューズも完璧! もちろんウェアだって完璧!(ここ大事ですね・笑)問題はライダーである僕自身。でもきっと大丈夫! では、フランスに行ってきます!
■フランス編 いきなり厳しいコース試走へ!
ここからはパリ〜ルーベチャレンジ前日のお話。ボディジオメトリーフィットを受けてから3度ほどの週末の練習をこなし、僕はフランスに飛んだ。
金曜日。ロンド・ファン・フラーンデレンからの春のクラシック取材業務でお疲れ気味の編集長を横目に、僕は朝から喚いていた。昨日の遅くにルーベに到着したばかりだというのに。
「試走行きましょう!試走!」「もう調べました。ホテルから自転車で10分でヴェロドロームです!だからすぐに行きましょう!」という訳で、まだ朝の冷たい空気が残る中、さっそくヴェロドロームへ(笑)。
「ルーベのヴェロドロームだよ〜、ついに来ちゃったもんねー(笑)」と心で笑っていても、顔は引きつってる。ヘルメットも心なしか曲がっている。まだパヴェも走っていないのに。ともかく、英雄たちが歓喜のゴールを迎える栄光のヴェロドロームに、今、この足で立っているのだ。その畏敬の念からか、僕は静かになってしまった。
逆に、ヴェロドロームに着いた途端に元気が出て来た編集長。この後、僕は編集長にパヴェを引きずり回されることに。
ヴェロドロームを出発し、パリ〜ルーベのコースを逆走しながらパヴェを体感しておこうということになったのだ。すでに道路にはプロレースのコース道順を示す「→」サインが付けられているが、それを逆にたどるという器用なことを始めたふたり。
良くテレビ中継の中で、「今年のパヴェは荒れている」とか「それほどでもない」とか、そんな現地情報を伝える場面があるけれど、「一体何を基準に、誰がそんなこと言ってるんだ!」って怒りたくなるくらい、どこをどう走っても激しい衝撃が全身を駆け巡る。
悪名高きカルフール・ド・ラルブルには、小一時間で到着した。荒れたパヴェは激しすぎる。「もう試走はギブアップ」と言おうとした瞬間、一台のオートバイが砂煙を上げながら突進して来た。恨めし気にそのオートバイを傍観していてびっくり。違うのよ、オートバイじゃない!。「何だありゃ、自転車じゃないか!」と思った瞬間、「フレチャだ!フレチャ!」と編集長。
オートバイと思われた物体の正体は、昨シーズンで引退したばかりのファン・アントニオ・フレチャだったのです。こりゃ幸いと、編集長にお願いして記念に1枚。いや〜、速いのなんのって、到底同じ乗り物に乗っている、同じ人間同士には見えなかった。
フレチャとの遭遇をきっかけに、次々とプロチームの試走の現場に遭遇した。サガンとキャノンデールプロサイクリングもチームカーを従えて砂塵を巻き上げなから通り過ぎていった。昨年、ジャパンカップでルコック製のマイヨ・ヴェールにサインをしてプレゼントしてくれたサガン。
「そうだ!オレはただのパヴェを走ってる訳じゃない。プロが走るのと同じパヴェを走ってるんだ!」そう思うと、パヴェの苦痛などどこ吹く風。「楽しい!本当に楽しい!」(現金なものである)。すれ違う一般のサイクリストも、きっと同じ気持ちで走ってるんだろうな。みんな、とても良い顔をしている。沿道で見物しているお爺さんだって、「おらが村」をプロトンが駆け抜ける、一年で一番大事な一瞬を心待ちにしているようだった。
ヴェロドロームに戻って、翌日の出走手続きをした。会場でMCをするお兄さんに、「わざわざ日本から来たのか?! 明日ゴールしたらインタビューしてやる(笑)」と言われたり、憧れのヨハン・ムセーウにも会えたりで、お祭り気分はいやが上にも盛り上がってきます。もうこんなに楽しくて申し訳ないです(笑)。
そして、その夜。我々のホテルからクルマで10分ほどの近くのホテルに宿泊していたU23日本代表選手団を表敬訪問した。一緒に夕食の時間を過ごしました。みんな頑張っているんだよね。激励のつもりが、みんなから逆に色んなパワーをもらって、何だかとても良い夜になりました。浅田彰監督、いつもありがとうございます!
文:井上大平(ルコックスポルティフ)
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