「これはただの始まりに過ぎない」

中国・上海で行われた「MyCanyon(マイキャニオン)」のキックオフイベントで話を聞いた、全てのキャニオンスタッフはそう言い切った。たくさんの広がりと可能性を秘めながら、きらびやかに封切られたオーダーサービスの詳細と魅力を、魅惑のデザインワークと彼らへのインタビューを織り交ぜながら掘り下げていきたい。

「この先に広がる、無限の可能性」─ キャニオンが描く、カスタムの新しいカタチ


キャニオンのオーダーサービス、「MyCanyon(マイキャニオン)」が遂にスタートした。

「キャニオンのバイクが好き。でも、このカラーならロゴはこの色がいい」「このフレームにこのホイールを組み合わせたい」。そんな声に応えるのが、キャニオンが展開する「MyCanyon」だ。パフォーマンスロードのAEROAD CFRを対象に、自分だけの一台をオンラインでオーダー可能。従来までの注文販売とは一線を画す、セミオーダー型の新しいバイク購入体験だ。

ユーザー直接販売による低価格と圧倒的に短いリードタイムで知名度を上げ、2014年に日本国内でのサービス・サポートを行う日本法人が立ち上がったことで人気に火がついたキャニオン。この10年で提携ショップも増え、組み付けやメンテナスに対する不安も減り、キャニオンならではのメリットをあらゆるユーザーが受けやすくなった。

上海で開催中のMyCanyonキックオフイベント。一等地の会場を貸し切った豪華な内容だ photo:So Isobe
キャニオン本社の首脳陣が来場。華やかにプレゼンテーションが行われた photo:So Isobe


遂にスタートしたキャニオンのカスタマイズプログラム。世界的アーティストとのコラボモデルをはじめ、13種類のアートワークから自分だけの一台を作り出すことができる photo:So Isobe

会場には特別カラーのレプリカバイクも多数。スペシャルバイクのデザインこそMyCanyonの原点だという photo:So Isobe
ヘルメットやシューズなど、キャニオンのオリジナル製品の姿も photo:So Isobe


現在カスタマイズ可能なモデルは、ファンデルプールたちが駆る最上級エアロロード「AEROAD CFR」1モデルのみで、コンポーネントはスラムREDかシマノDURA-ACE、ホイールもDTスイス ARC1100かジップ 454 NSW(+13.5万円)かと限定されているが、サドル(セライタリアSLRの3グレード)とハンドルのステム長が選べるようになった(ハンドル幅は元よりカスタム可能)ことは大きなメリットと言えるだろう。(MyCanyonのシステムやオーダー方法について詳しい記事はこちら

トレックやオルベアのカスタムプログラムと比較すれば選択肢は限定的であるものの、そこには「あえて選択肢を絞り込むことで、"カッコ良く、美しいキャニオンの世界観"を世界中のユーザーへ届けたい」という開発陣の思いがある。ただし今後はモデルやパーツの選択肢を増やしていくために、オーダーの動向を注視していくという。

FABRIO、MANO、OPUS──MyCanyonが描く3つの美学

キャニオンの魂を感じる13種類のアートワーク。その全てがキャニオン本社工場に新設されたブースでハンドペイントされたものだ photo:So Isobe

なんといっても魅力的なのは、絶対王者マチュー・ファンデルプールたちのチャンピオンバイクを手がけてきた本社デザインチーフや、世界的なアーティストとのコラボレーションによる、見る者すべての心を撃ち抜くペイント。フェリペ・パントンによる電撃のようなスピード感を放つデザインに、宇宙の深淵を描いた“ヘニゼ”や“カリーナ”。上海の展示会場にショーアップして並べられたフレームは、まさにアートであり、哲学であり、魂を感じるデザインだ。

ベースデザインとなるFABRIOシリーズ。ミニマルさと華やかさを同居させたコレクションだ photo:So Isobe

Opusシリーズは世界的アーティストとのコラボレーション作品 photo:So Isobe
MANOシリーズはハンドペイントによる特殊技用が魅力 photo:So Isobe


デザインは大きく分けて、FABRIO(ファブリオ)、MANO(マノ)、OPUS(オーパス)という3つのデザインコレクションが柱となっている

ミニマルさと華やかさを同居させたFABRIOと、革新的なブラシ技法を採用したMANO(+3万円~)、そして世界的な有名アーティスト2人とコラボしたOPUS(+15万円)。それら全てのMyCanyonモデルは、キャニオン本社工場に新設された工房でハンドペイントされ、特に「FABRIO」のスパークルや「MANO」のグラフィックは全て職人の手作業による、表情の異なる「一点モノ」だ。ここにあなたのネームを加えれば完全な「オリジナルバイク」の完成だ。

ここからは、会場に展示された車体の写真で、公式画像では分からない塗装の様子をご覧頂きたい。

「カスタムは、まだ始まったばかり」デザインチーフが語る、色に込めた新たな挑戦

シニアグラフィックデザイナーとして腕をふるうルーカス・ベック氏。数々のチャンピオンバイクを手がけ、MyCanyonでも多くの作品を産んだ photo:So Isobe

「これはCanyonにとって、カスタマイゼーションの世界への大きな一歩なんです」。

そう語るのは、MyCanyonのカラープログラムを主導したシニアグラフィックデザイナーのルーカス・ベック氏だ。東京五輪のTokyo Editionや、ファンデルプールの数々のスペシャルバイクをはじめとした、キャニオンライダーたちのデザインを手掛けてきた彼にとって、MyCanyonは待ち望んでいた未来への扉を開くプロジェクトだった。

「私たちはずっと、ライダーのフィッティングや仕様へのこだわりに応えたいと思っていました。だからこそ、今回それが実現できたのは本当にワクワクすることなんです。そしてこれは、始まりにすぎません」。

彼自身のルーツはグラフィックデザイン。雑誌のレイアウトやスクリーンプリント、プリントメディアの仕事からキャリアをスタートさせた。「私はいまだに“表面”に魅了されるんです。どういう風に塗るか、どう色が流れていくか。パーツがつながって見えるようなライン、角度。それを見るのがたまらなく好きなんですよ」と言う彼が培ってきたものは、バイクという“立体物”のデザインに強く活かされている。

会場に置かれたパリ〜ルーベ制覇レプリカモデル。衝撃を与えた際の応力図をそのまま落とし込んだデザインだ。これもベック氏による作品である photo:So Isobe

そんな彼が「良いデザインとは?」と聞かれて即座に挙げたのは、「清潔感のあるシンプルな佇まい」と、もうひとつ。見る人の心をつかむ「驚き」という2つだった。

「Tokyo Editionのように、色もグラフィックも一つに絞って“静かに語る”デザインは美しい。でも、逆にパッと見て目を奪われるような意外性、意志の強さにも惹かれます。MyCanyonのデザインでも、その両方を大事にしています」。ちなみに今でも印象深いTokyo Editionをデザインするために、ベック氏はマンガ作家のためのレッスンを受け、マンガとアニメの違いなど、日本のアニメデザインを深く掘り下げたというエピソードも持っている。

現時点で用意されているのは、13種類のカラーパターン。「少ない」と思うユーザーもいるかもしれない。しかし、それは「多様性を捨てた」のではなく、「これから先を見据えた最初のステップ」だと彼は言う。「開発には多くの工程と調整が必要です。でもこの13色には、私たちがどんな未来を描こうとしているかの“予告編”が詰まっているんです」とも。

インタビューでは、2023シーズンでファンデルプールが乗った3台のバイクが、たまたまオランダ国旗を構成していたというエピソードも披露してくれた。「あれば彼のリクエストに応じたものでしたが、オランダ国旗の色で揃ったのはまったくの偶然だったんです。でも結果的にすごく象徴的になった。ああいう発見も、デザインの面白さですよね」。

「MyCanyonは始まりの一歩を踏み出したところ」とベック氏は言う。これからの拡がりにも期待したいところだ photo:So Isobe

彼が個人的に好むのは、シングルカラーの潔さ。「エンボス加工のロゴだったり、白やグリーンのツートーン、少し黄味がかったニュアンスカラー。主張しすぎず、でも忘れられない。そういうものに惹かれます」と言うベック氏。思い返してみれば、キャニオンのスペシャルバイクたちは、いつもシンプルで、それでいて目立つものが多いことに気付かされる。そこにはきっと、バウハウスに端を発する、機能性とシンプルさを重視する「ドイツらしさ」が含まれているのだろう。

最後に、彼がインスピレーションの源として挙げたのは意外にも、サイクリングの世界の外。「私はよく、パリのファッションウィークを見ています。ハイブランドに興味があるわけじゃない。でも色の合わせ方や、素材の使い方には本当に刺激を受けますね。それに、自転車と価値観の近いレーシングカーからも着想を得ることは多いですね。バイクの世界にない文脈を持ち込むことで、新しい表現が生まれるんです」。

この一台に、あなたの物語を

初日のプレゼンテーションには多くのファンや関係者が集結。注目度の高さが伺い知れた photo:So Isobe

ファンデルプールのグラベル世界選手権優勝モデルレプリカ photo:So Isobe
Speedmax CFR Track。プロ選手との協業によって生み出されたトラックバイクだ photo:So Isobe


キャニオンが大切にしている言葉が「Shoot for the moon, and you'll land among the stars(=高みを目指せ)」という、かつての作家が遺した言葉だ。キャニオンにとってはただのスローガンではなく、最高を追い求め、限界を超えていくという、ブランドそのものの哲学を表している。

「ファンデルプールや、アネミエク・ファンフルーテン、カシア・ニエウィアドマ、そしてヤン・フロデノ。彼らは"自転車で成し得ること"の常識を次々と塗り替え、その活躍が我々デザイナーやエンジニアの魂を揺さぶり、さらなる高みへと駆り立ててくれました。彼らの覚悟に応えるために、私たちは“特別なバイク”を創り続けてきたのです。それこそMyCanyonの原点なのです」とは、プレゼンテーションで高らかに語られた言葉だ。

つまり、MyCanyonは単なるカスタムオーダーではない。乗る人の個性、野心、そして物語を映し出す一台を、生み出すための“創造の場”である。

アジア・パシフィックの代表を務める望月秀記氏と、キャニオンジャパンでマーケットマネージャーを務める石山幸風氏 photo:So Isobe

MyCanyonのオーダーは、キャニオン公式サイトより。作業は従来の完成車を選ぶのと、そう大差はない。操作ですらシンプルisベスト。細部までキャニオンの美学を体現したオーダーシステムだ。

キャニオン東京テストセンターにて「MyCanyon」実車を展示中!

現在、東京・八王子にあるキャニオン東京テストセンターでは、カスタムペイントプログラム「MyCanyon」を施した実車4台と、全13色のMyCanyonカラーサンプルを展示中。カスタムバイクの実車を間近で見られる貴重な機会だ。

「尾根幹」から程近い場所に位置するキャニオン東京テストセンター (c)キャニオンジャパン
オリジナルキャップなどのアクセサリーも販売中 (c)キャニオンジャパン



展示車と同モデルであるAEROAD CFRの試乗車も用意。実車の塗装や質感、カラーリングの美しさを確認できるだけでなく、同モデルの走行性能も体感可能だ。

さらに、キャニオンのオリジナルキャップやバーエンドベルなどのアクセサリーも販売中。見学のみでも気軽に立ち寄れる。

試乗を希望される方へ
キャニオン東京テストセンターでの試乗は事前予約制。現在、以下の日程で試乗会を実施予定。

7月12日(土)・13日(日)
7月26日(土)・27日(日)

参加を希望する場合は、以下の予約ページより事前申込を行うこと。
https://coubic.com/canyonjapan/1369614#pageContent

キャニオン東京テストセンター
〒192-0362 東京都八王子市松木51-7
・京王相模原線「京王堀之内駅」から徒歩約12分(約1km)
・多摩ニュータウン通り沿い
・南多摩尾根幹線道路(通称:尾根幹)「ぐりーんうぉーく多摩」の交差点から約2km
提供:キャニオンジャパン  text&photo:So Isobe