2014/05/27(火) - 10:33
長野県と群馬県にまたがる浅間山を中心にして反時計回りに1周するロングライドイベント「グランフォンド軽井沢」。初夏の高地を走り、美しい景観が次々と現れる本格的山岳ロングライドに参加したCW編集部・藤原の実走レポートをお届けします。
今年の春に新卒として編集部に入社した私、藤原はロードバイクを購入してからようやく3年が経とうとしているロードバイク初級者だ。
神奈川県大和市に自宅がある私が自転車に乗るときは、平坦のみで行ける江ノ島周辺へ行くことが大半で、今までのサイクリングでの最長距離は160km。気が向いた時は思い切ってかの有名なヤビツ峠に挑んでみたりもする。ちなみに私のヤビツ峠の登坂時間はコンビニスタートで約45分というタイムが最高記録だ。
私の愛車はオルベア アクアというエントリーグレードのアルミバイク。愛着を持って乗ってきたが、入社式の時にエヴァディオ ヴィーナス(以下、シクロワイアード号)を借りてからカーボンバイクの優秀さのとりこになり、そのまま借り続けている。
アルミのアクアですら160kmを走破してきた私に、シクロワイアード号さえあればもはや無敵。どんな難関コースもクリアできる、そんな確信すら持っていた。
そのため初取材の舞台がグランフォンド軽井沢であってもサイクリング気分で行えると感じていた。しかし、先輩方は私の脚力に不安を覚えたらしく、シクロワイアード号のホイールをリア最大28Tのスプロケットがついた山岳取材用のシマノC24へと知らぬ間に変えてくれていた。もちろん、優れた性能を持つ機材であるとはわかるが、そこまでして頂かなくとも…と思うと同時に、機材面での不安がなくなったため取材も滞り無く行えると思っていた。
グランフォンドのコースは総距離120.7kmで、大部分がアップダウンで構成されており獲得標高が2,240mにものぼる。普段のサイクリングでは意識をしてコースづくりをしないと味わえないコースを走れる期待に、非常にワクワクして当日を待っていた。おまけにこのサイクリングが出勤日数にカウントされるのだから喜びもひとしおだ。
大会当日は寒いという前情報を持って6時頃に会場入りするが、思っていたよりも冷え込んでいなく、避暑地らしい涼しさを感じる。湿度が高い上に気温も高い夏は苦手であるため、涼しい気候に私は調子を上げていく。自転車も最高のものが用意され、体調もすこぶる良好、天候もバッチリ。怖いものはない。
会場全体はスタートを待ち遠しく思うような雰囲気で溢れており、その雰囲気に流されて私もソワソワする。そんな心持のまま先輩方に連れられて、出展ブースのスタッフの方や大会運営の方に1日お世話になる旨のご挨拶をする。
グランフォンドに出走する1000名余の参加者達とともに開会の挨拶を聞いた後、50名程度のグループに別れていよいよ大会が始まる。私の初取材もスタートだ。まずは、軽井沢らしいお洒落なレストランやおみやげ屋さんが並ぶ市街地と清閑な別荘地がある並木道を横目に駆け抜けながら、早朝特有の湿り気と美しい並木が醸し出す「軽井沢」の空気を優雅な気分で楽しむ。
そしていよいよ、国の重要文化財になっている旧三笠ホテルの脇を抜けて、勾配がキツいと噂の白糸ハイランドウェイに突入していく。この道よりも距離と平均勾配が勝るヤビツ峠を制覇したこともある私にとって、ここはなんてことない坂道な筈だ。先輩方は心配して「ここからはマイペースで」と声を掛けてくれるが、最強バイクに乗っている私を甘く見てもらっては困るというものだ。
普段は自転車では通れないことを示す料金表が現れ、イベントの特別感に気持ちが高まっていく。入り口の勾配も言われているほどキツくはない。"楽勝だな"そんなことを思いながら最初の九十九折コーナーの出口の先に視線を移すと壁と見紛う程の勾配の坂が現れて、頭に不安がよぎる。もちろん、ヤビツ峠登坂の実績がある私はそんなことを露とも見せない。白糸ハイランドウェイ入口の辺りで写真を撮っていた先輩方が、すでにインナーにギアがかかり速度が上げられない私の横を駆け抜ける。
いつの間にか私は最終兵器28Tにチェーンをかけて登坂を続けている。直登では登れないような勾配の場合は九十九折にして勾配を緩くするのが慣例ではないのか?ここの道は不躾にも申し訳程度のS字を描くのみで、坂道の勾配は10%以上をマークし続けているのだ。もう足腰共にパンパンで上にあがらない。軽快なダンシングで追い抜いていくベテラン参加者たちに笑われないようにクールな顔を作るので精一杯だ。
いつまでたっても頂上が見えてこない林道が私に与えてくるのは容赦無い勾配の坂道。いつの間にか考えるのをやめて無心になった私を現実に引き戻したのは足の違和感。足が攣るという予感は多くの人が感じたことがあるだろう。とは言え、シクロワイアードのジャージを着た状態で立ちゴケや、登坂の途中で足をつくのも憚れる。疲労で行き場のない私はおもむろに路肩へ寄せてバイクから降り、いかにも取材をしているかの様な雰囲気を醸し出しながらカメラを構え、シャッターを切るフリをしながらこっそり休憩をとる。
足をしっかりと揉みほぐしてから再スタートを切る。辛く終りが見えない坂道に飽きはじめて来た頃、下りが始まることを意味しているかのように先の道路が視界から消え、白糸の滝のおみやげ屋さんが現れる。ほんの5分前の辛いという気持ちは消え失せ、登坂前のように楽勝だなと言わんばかりの感情に満ち溢れていた。
足がいっぱいいっぱいの私には下り区間がボーナスステージにすら見える。疲労回復をしようとペダリングを止めて惰性で下っていると、先輩たちがハンドルに顔を近づけてエアロポジションを取りながら高速で追い抜いていく。せっかくの下り区間を、休むことなく踏みっ放しで下っていく行為には疑問を覚えてしまう。
先行して撮影を行っていた先輩たちに追いつき、一緒に長々と続く上り坂を登り始める。多少元気を取り戻した私が先輩に先程のエアロポジションの理由を聞くと、「下りで参加者さんを抜いておくと撮影できる回数が多くなるから」との回答をもらえたが、私は下りですら休む事が許されない状況に、この先のことが一気に不安になる。
白糸ハイランドウェイの終始点となるゲートにたどり着くと目の前に雪が残る浅間山が現れる。壮大な景色を目の当たりにできるため取材も悪くはない。むしろ、仕事として参加できる今の状況が嬉しいばかりだ。閉鎖区間を抜けて一般道にでて気を引き締める。待っていたのはできる限り速度をあげる下り区間だ。下りは実力差が出る場所なので先輩たちの後ろ3mにつくことで精一杯。ここで千切れたら復帰は難しいような崖っぷちの状況だ。
アウター・トップを踏み切り、限界が見えてきたタイミングで現れた待望の第1エイドに駆け込む。白糸ハイランドウェイでボトルの中身を空にしていた私はテントへ急ぎ補給に努める。そんな私とは裏腹に、先輩たちは取材を優先してこなしながら、片手間で補給を行っている。素晴らしい自然に囲まれた楽しいサイクリングだというのに、景色を楽しむでもなく取材最優先で取り組む様子には驚かされる。
第1エイドを後にした私達は下り区間は先を急ぎ、平坦と登りはゆったりと体力温存するという走り方で、第2エイドステーションが設置されているバラキ湖を目指す。
嬬恋村に入るとイベント最高標高地点への登坂が始まる。ここの登りは、軽井沢のスタート地点から登坂開始の目印となる嬬恋中学校まで34kmで、そこから約10kmの登りが続くというコースプロフィールだ。それはまさに、自宅から登坂開始の目印となる名古木(ながぬき)の交差点まで36kmで、そこから約13kmの道のりを登り続けるヤビツ峠そのもの。
すでに体験したことがあるような行程であることで、先の白糸ハイランドウェイの苦行は忘れ、余裕すら感じながら登坂に臨む。イベント最長距離の登坂さえクリアしてしまえば、後はサイクリングを楽しみながら取材ができるはずなのだ。しかし、いきなり現れた10%超はある坂道に気持ちは早くも沈み込む。
白糸の登坂路を何度も往復しながら撮影をしていた先輩たちも疲れているはずなのに、余裕の表情で談笑しながら走り続けている。そんなドMな先輩達の後ろについて、私は黙々と重くなりつつある足を回す。私のギアはあっという間に34-28Tまで落ち、足が攣りそうになる気配までが押し寄せてくる。
休みたい!そんな気持ちに応えてくれるかのように、先輩が天然の湧き水スポット「干俣の清水」へと案内してくれた。撮影ポイントの1つだが、私にとってはエイドステーションに匹敵する神様が恵んでくれた休憩ポイントだ。私がお尻をついて一息ついている間も、先輩たちは撮影をするために来た道を往復している。ドMな彼らの体力は無尽蔵なのかと驚かされるばかりだ。
撮影を終えて戻ってきた先輩たちとともに私も出発をするが、限界に達しつつある体力は簡単には戻ってこない。バラギ湖まで2kmを残して、また足腰が重くなってくる。ヤビツ峠に取るに足らないこの登坂で頭は垂れ、口は開けっ放しという間抜け面を晒すとは悲しくてたまらない。
先輩たちに背中を押してもらいながら桜が咲いているバラギ湖までは辿り着いたが、追い打ちをかけるかのように勾配がきつく道幅が細い直登が登場する。最高標高地点まで暫く続くその坂道は私に蛇行すら許さない。身体的疲労が限界が来ている上に、首から下げている一眼カメラが膝にあたり邪魔で仕方がなく精神的にも私を追い込む。先輩たちは後ろで撮影を行っているため、ここでは手助けは期待できない。この坂はまるで私に取材の辛さを叩き込むかのようだ。
そして、突如軽くなったペダリングが登坂の終わりを告げる。ここで待っているのは360度に広がる大パノラマだ。体力の限界に達していた私は疲労を隠すため座りながらカメラを構えて、この日初めてのシャッターを切り雄大な自然を写真に収める。頂上に達した参加者は疲労感と達成感のようなものを漂わせており、見ているこちらまでが笑顔になる。
撮影をひとしきり終えた私達は第2エイドステーションが設けられている東海大学嬬恋高原研修センターへと下っていく。ヤビツ峠を登ってきたかのようなコースプロフィールで疲労困憊の私には、昼食という大休憩が待っているこのエイドが極楽にすら見える。疲労回復に努めと空腹を満たすべく、そそくさと施設の中へと私は転がり込む。
自分の実力を棚に上げて、軽い気持ちで挑んだグランフォンド軽井沢取材。予想以上の山岳コースに圧倒され、後に続く鳥居峠、菱野温泉の登坂に不安になるばかり。しかし、まだまだ行けると周りに思わせるように涼しい顔を装い、カレーを黙々と食べる私だった。
つづく。
text:Gakuto.Fujiwara
photo:So.Isobe Naoki.Yasuoka
今年の春に新卒として編集部に入社した私、藤原はロードバイクを購入してからようやく3年が経とうとしているロードバイク初級者だ。
神奈川県大和市に自宅がある私が自転車に乗るときは、平坦のみで行ける江ノ島周辺へ行くことが大半で、今までのサイクリングでの最長距離は160km。気が向いた時は思い切ってかの有名なヤビツ峠に挑んでみたりもする。ちなみに私のヤビツ峠の登坂時間はコンビニスタートで約45分というタイムが最高記録だ。
私の愛車はオルベア アクアというエントリーグレードのアルミバイク。愛着を持って乗ってきたが、入社式の時にエヴァディオ ヴィーナス(以下、シクロワイアード号)を借りてからカーボンバイクの優秀さのとりこになり、そのまま借り続けている。
アルミのアクアですら160kmを走破してきた私に、シクロワイアード号さえあればもはや無敵。どんな難関コースもクリアできる、そんな確信すら持っていた。
そのため初取材の舞台がグランフォンド軽井沢であってもサイクリング気分で行えると感じていた。しかし、先輩方は私の脚力に不安を覚えたらしく、シクロワイアード号のホイールをリア最大28Tのスプロケットがついた山岳取材用のシマノC24へと知らぬ間に変えてくれていた。もちろん、優れた性能を持つ機材であるとはわかるが、そこまでして頂かなくとも…と思うと同時に、機材面での不安がなくなったため取材も滞り無く行えると思っていた。
グランフォンドのコースは総距離120.7kmで、大部分がアップダウンで構成されており獲得標高が2,240mにものぼる。普段のサイクリングでは意識をしてコースづくりをしないと味わえないコースを走れる期待に、非常にワクワクして当日を待っていた。おまけにこのサイクリングが出勤日数にカウントされるのだから喜びもひとしおだ。
大会当日は寒いという前情報を持って6時頃に会場入りするが、思っていたよりも冷え込んでいなく、避暑地らしい涼しさを感じる。湿度が高い上に気温も高い夏は苦手であるため、涼しい気候に私は調子を上げていく。自転車も最高のものが用意され、体調もすこぶる良好、天候もバッチリ。怖いものはない。
会場全体はスタートを待ち遠しく思うような雰囲気で溢れており、その雰囲気に流されて私もソワソワする。そんな心持のまま先輩方に連れられて、出展ブースのスタッフの方や大会運営の方に1日お世話になる旨のご挨拶をする。
グランフォンドに出走する1000名余の参加者達とともに開会の挨拶を聞いた後、50名程度のグループに別れていよいよ大会が始まる。私の初取材もスタートだ。まずは、軽井沢らしいお洒落なレストランやおみやげ屋さんが並ぶ市街地と清閑な別荘地がある並木道を横目に駆け抜けながら、早朝特有の湿り気と美しい並木が醸し出す「軽井沢」の空気を優雅な気分で楽しむ。
そしていよいよ、国の重要文化財になっている旧三笠ホテルの脇を抜けて、勾配がキツいと噂の白糸ハイランドウェイに突入していく。この道よりも距離と平均勾配が勝るヤビツ峠を制覇したこともある私にとって、ここはなんてことない坂道な筈だ。先輩方は心配して「ここからはマイペースで」と声を掛けてくれるが、最強バイクに乗っている私を甘く見てもらっては困るというものだ。
普段は自転車では通れないことを示す料金表が現れ、イベントの特別感に気持ちが高まっていく。入り口の勾配も言われているほどキツくはない。"楽勝だな"そんなことを思いながら最初の九十九折コーナーの出口の先に視線を移すと壁と見紛う程の勾配の坂が現れて、頭に不安がよぎる。もちろん、ヤビツ峠登坂の実績がある私はそんなことを露とも見せない。白糸ハイランドウェイ入口の辺りで写真を撮っていた先輩方が、すでにインナーにギアがかかり速度が上げられない私の横を駆け抜ける。
いつの間にか私は最終兵器28Tにチェーンをかけて登坂を続けている。直登では登れないような勾配の場合は九十九折にして勾配を緩くするのが慣例ではないのか?ここの道は不躾にも申し訳程度のS字を描くのみで、坂道の勾配は10%以上をマークし続けているのだ。もう足腰共にパンパンで上にあがらない。軽快なダンシングで追い抜いていくベテラン参加者たちに笑われないようにクールな顔を作るので精一杯だ。
いつまでたっても頂上が見えてこない林道が私に与えてくるのは容赦無い勾配の坂道。いつの間にか考えるのをやめて無心になった私を現実に引き戻したのは足の違和感。足が攣るという予感は多くの人が感じたことがあるだろう。とは言え、シクロワイアードのジャージを着た状態で立ちゴケや、登坂の途中で足をつくのも憚れる。疲労で行き場のない私はおもむろに路肩へ寄せてバイクから降り、いかにも取材をしているかの様な雰囲気を醸し出しながらカメラを構え、シャッターを切るフリをしながらこっそり休憩をとる。
足をしっかりと揉みほぐしてから再スタートを切る。辛く終りが見えない坂道に飽きはじめて来た頃、下りが始まることを意味しているかのように先の道路が視界から消え、白糸の滝のおみやげ屋さんが現れる。ほんの5分前の辛いという気持ちは消え失せ、登坂前のように楽勝だなと言わんばかりの感情に満ち溢れていた。
足がいっぱいいっぱいの私には下り区間がボーナスステージにすら見える。疲労回復をしようとペダリングを止めて惰性で下っていると、先輩たちがハンドルに顔を近づけてエアロポジションを取りながら高速で追い抜いていく。せっかくの下り区間を、休むことなく踏みっ放しで下っていく行為には疑問を覚えてしまう。
先行して撮影を行っていた先輩たちに追いつき、一緒に長々と続く上り坂を登り始める。多少元気を取り戻した私が先輩に先程のエアロポジションの理由を聞くと、「下りで参加者さんを抜いておくと撮影できる回数が多くなるから」との回答をもらえたが、私は下りですら休む事が許されない状況に、この先のことが一気に不安になる。
白糸ハイランドウェイの終始点となるゲートにたどり着くと目の前に雪が残る浅間山が現れる。壮大な景色を目の当たりにできるため取材も悪くはない。むしろ、仕事として参加できる今の状況が嬉しいばかりだ。閉鎖区間を抜けて一般道にでて気を引き締める。待っていたのはできる限り速度をあげる下り区間だ。下りは実力差が出る場所なので先輩たちの後ろ3mにつくことで精一杯。ここで千切れたら復帰は難しいような崖っぷちの状況だ。
アウター・トップを踏み切り、限界が見えてきたタイミングで現れた待望の第1エイドに駆け込む。白糸ハイランドウェイでボトルの中身を空にしていた私はテントへ急ぎ補給に努める。そんな私とは裏腹に、先輩たちは取材を優先してこなしながら、片手間で補給を行っている。素晴らしい自然に囲まれた楽しいサイクリングだというのに、景色を楽しむでもなく取材最優先で取り組む様子には驚かされる。
第1エイドを後にした私達は下り区間は先を急ぎ、平坦と登りはゆったりと体力温存するという走り方で、第2エイドステーションが設置されているバラキ湖を目指す。
嬬恋村に入るとイベント最高標高地点への登坂が始まる。ここの登りは、軽井沢のスタート地点から登坂開始の目印となる嬬恋中学校まで34kmで、そこから約10kmの登りが続くというコースプロフィールだ。それはまさに、自宅から登坂開始の目印となる名古木(ながぬき)の交差点まで36kmで、そこから約13kmの道のりを登り続けるヤビツ峠そのもの。
すでに体験したことがあるような行程であることで、先の白糸ハイランドウェイの苦行は忘れ、余裕すら感じながら登坂に臨む。イベント最長距離の登坂さえクリアしてしまえば、後はサイクリングを楽しみながら取材ができるはずなのだ。しかし、いきなり現れた10%超はある坂道に気持ちは早くも沈み込む。
白糸の登坂路を何度も往復しながら撮影をしていた先輩たちも疲れているはずなのに、余裕の表情で談笑しながら走り続けている。そんなドMな先輩達の後ろについて、私は黙々と重くなりつつある足を回す。私のギアはあっという間に34-28Tまで落ち、足が攣りそうになる気配までが押し寄せてくる。
休みたい!そんな気持ちに応えてくれるかのように、先輩が天然の湧き水スポット「干俣の清水」へと案内してくれた。撮影ポイントの1つだが、私にとってはエイドステーションに匹敵する神様が恵んでくれた休憩ポイントだ。私がお尻をついて一息ついている間も、先輩たちは撮影をするために来た道を往復している。ドMな彼らの体力は無尽蔵なのかと驚かされるばかりだ。
撮影を終えて戻ってきた先輩たちとともに私も出発をするが、限界に達しつつある体力は簡単には戻ってこない。バラギ湖まで2kmを残して、また足腰が重くなってくる。ヤビツ峠に取るに足らないこの登坂で頭は垂れ、口は開けっ放しという間抜け面を晒すとは悲しくてたまらない。
先輩たちに背中を押してもらいながら桜が咲いているバラギ湖までは辿り着いたが、追い打ちをかけるかのように勾配がきつく道幅が細い直登が登場する。最高標高地点まで暫く続くその坂道は私に蛇行すら許さない。身体的疲労が限界が来ている上に、首から下げている一眼カメラが膝にあたり邪魔で仕方がなく精神的にも私を追い込む。先輩たちは後ろで撮影を行っているため、ここでは手助けは期待できない。この坂はまるで私に取材の辛さを叩き込むかのようだ。
そして、突如軽くなったペダリングが登坂の終わりを告げる。ここで待っているのは360度に広がる大パノラマだ。体力の限界に達していた私は疲労を隠すため座りながらカメラを構えて、この日初めてのシャッターを切り雄大な自然を写真に収める。頂上に達した参加者は疲労感と達成感のようなものを漂わせており、見ているこちらまでが笑顔になる。
撮影をひとしきり終えた私達は第2エイドステーションが設けられている東海大学嬬恋高原研修センターへと下っていく。ヤビツ峠を登ってきたかのようなコースプロフィールで疲労困憊の私には、昼食という大休憩が待っているこのエイドが極楽にすら見える。疲労回復に努めと空腹を満たすべく、そそくさと施設の中へと私は転がり込む。
自分の実力を棚に上げて、軽い気持ちで挑んだグランフォンド軽井沢取材。予想以上の山岳コースに圧倒され、後に続く鳥居峠、菱野温泉の登坂に不安になるばかり。しかし、まだまだ行けると周りに思わせるように涼しい顔を装い、カレーを黙々と食べる私だった。
つづく。
text:Gakuto.Fujiwara
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