2012/08/31(金) - 05:02
「みんな大げさに言いすぎだと思っていた。でも本当に、予想を越えて遥かに、厳しい登りだった」。レース後のインタビューで、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)はそう話した。最大勾配が30%に達するミラドール・デ・エサロで「プリート」がステージ2勝目。総合リードを広げることに成功した。
イベリア半島の北西に突き出たガリシア州。ポルトガル語に近いガリシア語が話される地域を、この日もブエルタは駆ける。
ブエルタ初登場のビラガルシア・デ・アロウサを発ち、リアス式海岸に沿った平坦路をグネグネと進んでいく。ゴールまでずっとずっと平地が続くと思いきや、ラスト1.9km地点で様子が一変。「平坦ステージ」にカテゴライズされながら、なんとも尖ったゴールが用意された。
「展望台」という名前の通り、ゴール地点ミラドール・デ・エサロは丘の上にある。入り組んだ湾を眺めるこの標高270mの丘を、わずか1.9kmで登りきる。平均勾配は13.1%で、カテゴリーは3級。最大勾配が30%(公式ブックによると29%)に達するという「激坂」が今大会5つめの頂上ゴールだ。
「大きな逃げグループが形成されるようなら選手を乗せる。でも特に自分たちから動くつもりはない。明日チャンスがあるので、選手たちにはリラックスして走ってもらう」と、アルゴス・シマノのクリスティアン・ギベルトー監督。
本人曰く『今大会2回目の休息日(個人タイムトライアル)』を終えた土井雪広の表情はリフレッシュした印象。この日は逃げに乗るチャンスだが、「逃げに乗るならジョンだと思う」と笑いながら否定する。「このチームはジョンのグリーンジャージを真剣に狙っている、本当に」。
ここまで比較的短時間で逃げが決まることの多かったブエルタだが、この日はレースが落ち着くまでに1時間を要した。アタックに次ぐアタックで、逃げが決まったのは75km地点。4人の先行が決まってようやく、メイン集団はスピードを落とした。
アタック消耗戦をくぐり抜けたのは、キャメロン・マイヤー(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)、アマエル・モワナール(フランス、BMCレーシングチーム)、ミケル・アスタルロサ(スペイン、エウスカルテル)、ケヴィン・デウェールト(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)。逃げグループの中に、これまで欠かさず逃げに選手を乗せていたスペインのUCIプロコンチネンタルチームの名前は無かった。
ゴールまで80kmを残してタイム差は最大7分10秒まで拡大。メイン集団はカチューシャがコントロールする。ラスト40km地点で発生した落車により、シャビエル・ザンディオ(スペイン、チームスカイ)がリタイアを喫している。
カチューシャに加えてチームスカイやモビスター、ラボバンクが集団先頭に立つと、逃げグループとのタイム差は瞬く間に縮まる。ゴールまで10kmを残してタイム差は2分を割り込む。最後の3級山岳ミラドール・デ・エサロに差し掛かる頃には、先頭4名のリードは30秒しか残っていなかった。
登りが始まってすぐ逃げグループは崩壊。アスタルロサとマイヤーが抵抗したが、ペースが上がったメイン集団に結局は飲み込まれてしまう。
総合上位陣が牽制する中、口火を切ったのはイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)。しかしカチューシャが落ち着いて集団を率い、アントンの先行を阻止する。
ラスト1kmを切り、最も勾配が増したポイントを前にマイヨロホのロドリゲスがアタック。これに反応出来たのはアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)だけだった。
マイペース走行に徹したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)やクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)らがしばらくして一旦合流したものの、今度はコンタドールがペースアップ。こうして総合ワンツーの先行が決まる。
ペースを作るコンタドールと、慌てずペースを合わせるロドリゲス。ゴールスプリント勝負に持ち込まれると思われたが、ゴールまで200mを残してロドリゲスがギアを掛けて飛び出す。コンタドールはこの加速に対処出来ず、グングン先行したロドリゲスがそのままゴールに飛び込んだ。
ロドリゲスは最大勾配26%の「ユイの壁」にゴールするフレーシュ・ワロンヌで今年初勝利。最大21%の「モンテルポーネ」にゴールするティレーノ〜アドリアティコの名物ステージでも2度勝利している。とにかく急勾配登りにめっぽう強いロドリゲスだが、「ミラドール・デ・エサロほど厳しい登りは経験したことがなかった」と言う。
同じく3級山岳の頂上ゴールが設定された第6ステージに続く今大会2勝目。ボーナスタイム12秒を獲得するとともに、コンタドールを8秒、バルベルデを13秒、そしてフルームを23秒引き離すことに成功した。
ロドリゲスは今大会すでに合計48秒ものボーナスタイムを得ている(ステージ優勝2回、ステージ2位3回)。これまで登場した5つの頂上ゴールは急勾配&短距離でロドリゲス向き。しかし、この先の5つの頂上ゴールは緩斜面&長距離の山岳がメイン。パンチャータイプのロドリゲスではなく、コンタドールやフルーム向きと目されている。
ロドリゲスは「まだ4人の総合争いはオープンな状態。この先の難関山岳ステージでは安定感が試される。2回目の休息日を迎える頃には、今より大きなタイム差が付いているだろう」とコメントしている。
また、ロドリゲスは複合賞トップを維持するとともに、ポイント賞トップに返り咲いた。翌日はスプリンター向きの平坦ステージ。ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、アルゴス・シマノ)がグリーンジャージ奪回を狙う。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2012第12ステージ結果
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 4h24'32"
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク) +08"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +13"
4位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) +20"
5位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +23"
6位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)
7位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) +27"
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) +31"
9位 プリジミスラウ・ニエミエツ(ポーランド、ランプレ・ISD) +33"
10位 ゴルカ・ベルドゥーゴ(スペイン、エウスカルテル) +36"
162位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ) +5'29"
敢闘賞
ミケル・アスタルロサ(スペイン、エウスカルテル)
個人総合成績(マイヨロホ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 44h50'35"
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク) +13"
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +51"
4位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +1'20"
5位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) +2'59"
6位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ) +3'29"
7位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) +4'22"
8位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ) +5'17"
9位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク) +5'18"
10位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク) +6'01"
139位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ) +1h12'44"
ポイント賞(プントス)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 119pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 106pts
3位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、アルゴス・シマノ) 103pts
山岳賞(モンターニャ)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 22pts
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 20pts
3位 サイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) 16pts
複合賞(コンビナーダ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 4pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 7pts
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク) 10pts
チーム総合成績
1位 ラボバンク 134h06'59"
2位 チームスカイ +2'55"
3位 アージェードゥーゼル +3'40"
text&photo:Kei Tsuji in Dumbria, Spain
イベリア半島の北西に突き出たガリシア州。ポルトガル語に近いガリシア語が話される地域を、この日もブエルタは駆ける。
ブエルタ初登場のビラガルシア・デ・アロウサを発ち、リアス式海岸に沿った平坦路をグネグネと進んでいく。ゴールまでずっとずっと平地が続くと思いきや、ラスト1.9km地点で様子が一変。「平坦ステージ」にカテゴライズされながら、なんとも尖ったゴールが用意された。
「展望台」という名前の通り、ゴール地点ミラドール・デ・エサロは丘の上にある。入り組んだ湾を眺めるこの標高270mの丘を、わずか1.9kmで登りきる。平均勾配は13.1%で、カテゴリーは3級。最大勾配が30%(公式ブックによると29%)に達するという「激坂」が今大会5つめの頂上ゴールだ。
「大きな逃げグループが形成されるようなら選手を乗せる。でも特に自分たちから動くつもりはない。明日チャンスがあるので、選手たちにはリラックスして走ってもらう」と、アルゴス・シマノのクリスティアン・ギベルトー監督。
本人曰く『今大会2回目の休息日(個人タイムトライアル)』を終えた土井雪広の表情はリフレッシュした印象。この日は逃げに乗るチャンスだが、「逃げに乗るならジョンだと思う」と笑いながら否定する。「このチームはジョンのグリーンジャージを真剣に狙っている、本当に」。
ここまで比較的短時間で逃げが決まることの多かったブエルタだが、この日はレースが落ち着くまでに1時間を要した。アタックに次ぐアタックで、逃げが決まったのは75km地点。4人の先行が決まってようやく、メイン集団はスピードを落とした。
アタック消耗戦をくぐり抜けたのは、キャメロン・マイヤー(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)、アマエル・モワナール(フランス、BMCレーシングチーム)、ミケル・アスタルロサ(スペイン、エウスカルテル)、ケヴィン・デウェールト(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)。逃げグループの中に、これまで欠かさず逃げに選手を乗せていたスペインのUCIプロコンチネンタルチームの名前は無かった。
ゴールまで80kmを残してタイム差は最大7分10秒まで拡大。メイン集団はカチューシャがコントロールする。ラスト40km地点で発生した落車により、シャビエル・ザンディオ(スペイン、チームスカイ)がリタイアを喫している。
カチューシャに加えてチームスカイやモビスター、ラボバンクが集団先頭に立つと、逃げグループとのタイム差は瞬く間に縮まる。ゴールまで10kmを残してタイム差は2分を割り込む。最後の3級山岳ミラドール・デ・エサロに差し掛かる頃には、先頭4名のリードは30秒しか残っていなかった。
登りが始まってすぐ逃げグループは崩壊。アスタルロサとマイヤーが抵抗したが、ペースが上がったメイン集団に結局は飲み込まれてしまう。
総合上位陣が牽制する中、口火を切ったのはイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)。しかしカチューシャが落ち着いて集団を率い、アントンの先行を阻止する。
ラスト1kmを切り、最も勾配が増したポイントを前にマイヨロホのロドリゲスがアタック。これに反応出来たのはアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)だけだった。
マイペース走行に徹したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)やクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)らがしばらくして一旦合流したものの、今度はコンタドールがペースアップ。こうして総合ワンツーの先行が決まる。
ペースを作るコンタドールと、慌てずペースを合わせるロドリゲス。ゴールスプリント勝負に持ち込まれると思われたが、ゴールまで200mを残してロドリゲスがギアを掛けて飛び出す。コンタドールはこの加速に対処出来ず、グングン先行したロドリゲスがそのままゴールに飛び込んだ。
ロドリゲスは最大勾配26%の「ユイの壁」にゴールするフレーシュ・ワロンヌで今年初勝利。最大21%の「モンテルポーネ」にゴールするティレーノ〜アドリアティコの名物ステージでも2度勝利している。とにかく急勾配登りにめっぽう強いロドリゲスだが、「ミラドール・デ・エサロほど厳しい登りは経験したことがなかった」と言う。
同じく3級山岳の頂上ゴールが設定された第6ステージに続く今大会2勝目。ボーナスタイム12秒を獲得するとともに、コンタドールを8秒、バルベルデを13秒、そしてフルームを23秒引き離すことに成功した。
ロドリゲスは今大会すでに合計48秒ものボーナスタイムを得ている(ステージ優勝2回、ステージ2位3回)。これまで登場した5つの頂上ゴールは急勾配&短距離でロドリゲス向き。しかし、この先の5つの頂上ゴールは緩斜面&長距離の山岳がメイン。パンチャータイプのロドリゲスではなく、コンタドールやフルーム向きと目されている。
ロドリゲスは「まだ4人の総合争いはオープンな状態。この先の難関山岳ステージでは安定感が試される。2回目の休息日を迎える頃には、今より大きなタイム差が付いているだろう」とコメントしている。
また、ロドリゲスは複合賞トップを維持するとともに、ポイント賞トップに返り咲いた。翌日はスプリンター向きの平坦ステージ。ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、アルゴス・シマノ)がグリーンジャージ奪回を狙う。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2012第12ステージ結果
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 4h24'32"
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク) +08"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +13"
4位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) +20"
5位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +23"
6位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)
7位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) +27"
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) +31"
9位 プリジミスラウ・ニエミエツ(ポーランド、ランプレ・ISD) +33"
10位 ゴルカ・ベルドゥーゴ(スペイン、エウスカルテル) +36"
162位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ) +5'29"
敢闘賞
ミケル・アスタルロサ(スペイン、エウスカルテル)
個人総合成績(マイヨロホ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 44h50'35"
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク) +13"
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +51"
4位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +1'20"
5位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) +2'59"
6位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ) +3'29"
7位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) +4'22"
8位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ) +5'17"
9位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク) +5'18"
10位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク) +6'01"
139位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ) +1h12'44"
ポイント賞(プントス)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 119pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 106pts
3位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、アルゴス・シマノ) 103pts
山岳賞(モンターニャ)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 22pts
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 20pts
3位 サイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) 16pts
複合賞(コンビナーダ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) 4pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 7pts
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク) 10pts
チーム総合成績
1位 ラボバンク 134h06'59"
2位 チームスカイ +2'55"
3位 アージェードゥーゼル +3'40"
text&photo:Kei Tsuji in Dumbria, Spain
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