2012/05/24(木) - 14:32
ジロ・デ・イタリアを象徴するかのような、美しいドロミテ山塊。ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)がまた一つ最終日のマリアローザ獲得に近づいた。
個人的な見解を述べさせていただくと、第17ステージで走った一帯がドロミテの中でも最も美しい。コルティーナ・ダンペッツォからボルツァーノにかけて、岩盤むき出しの山々が延々と続いている。その稜線のわずかに凹んだ部分を、九十九折りの峠が越えて行く。そのあまりのダイナミックさに遠近感と言葉を失う。
パッソ・ヴァルパローラ、パッソ・ドゥラン、フォルチェッラ・スタウランツァ、そしてパッソ・ジャウ。第17ステージには4つの難関山岳が詰め込まれた。登りの美しさの点では超級が揃う。
「世界で最も美しい場所を舞台にした、最も厳しいレース」という今年のジロのキャッチフレーズはあながち間違っていない。当然選手たちに景色を楽しむ余裕なんてないのだけど。
日本では一般的に「ドロミテ」と呼ばれる。イタリア語に忠実に言うならば「ドロミーティ」。平均勾配が10%近い山岳が続くので、どの選手も山岳仕様のバイクでレースに挑む。フロント36Tか38T、リア27Tか28Tというのが一般的なセッティング。別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は36x28Tでドロミテに挑む。
ゴール地点は、ドロミテ観光の拠点となっているコルティーナ・ダンペッツォ。1956年に冬季オリンピックが開催された地で、四方をドロミテらしい荒々しい山に囲まれている。
「ベスト・オブ・アルプス」とも呼ばれる、山間の美しい街。「イタリアでおすすめの観光地は?」と聞かれると、迷うことなくこのコルティーナ・ダンペッツォの名前を答える。なお、ジロはドイツ語満載のトレンティーノ=アルト・アディジェ州を抜け、ヴェネト州に入る。そのためコルティーナ・ダンペッツォの名前表記は一つ(イタリア語)だけ。
頂上ゴールではなく、長いパッソ・ジャウの下りの先にゴールがある。単純に高出力で登りを走りきった者が勝つのではなく、下りのテクニックや、そこに至るまでの戦略が問われる。「速いものが勝つ」のではなく「強いものが勝つ」。頂上ゴールよりもずっと山岳ステージらしくて好きだ。
この日の獲得標高差は4500m。細かい登りは無く、ダイナミックな山岳をいくつも越えるので、実際はもっともっと登っているようにも感じる。
ざっくりとした印象として、今年のジロは観客が少ない。開催規模が若干小さくなったようにも感じる。レース主催者の経費が大きく削減されたことも影響している。そして何よりもヨーロッパ全体を覆う経済不安。大会スポンサーの勢いも減り、キャラバングッズの量と質、スポンサーヴィレッジの量と質は低下しているように思う。
この日の主役はイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)だろう。思いのほか早くメカトラで相棒シルヴェスタ・シュミット(ポーランド)を失ってしまってからも、1級山岳パッソ・ジャウで淡々とハイペースを刻み続けた。
3度目の総合優勝を狙うバッソの牽引が集団を粉砕し、ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)のアタックも封じ込める。ステージ優勝こそ掴めなかったが、苦手な下りでタイムを失わなかったことはリクイガス・キャノンデールに朗報。積極的にレースを進めた結果だ。
出場選手の中で最も登れていることを証明したバッソ、難関山岳でもライバルたちに怯むことなく走ったヘジダル、そしてちょうど1年前に亡くなった親友シャビエル・トンドに捧げるステージ優勝を飾った「プリート」ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)。この3人がマリアローザの本命だ。
やはり注目はヘジダルがどこまでジロの山岳に耐えることが出来るかだろう。リクイガス・キャノンデールのロベルト・アマディオ監督は「ヘジダルは最後のタイムトライアルでプリートから3分、バッソから1分半のリードを奪うだろう。このままヘジダルが崩れることがなければ、ジロは彼のものだ」と認める。
見落とされがちだが、ヘジダルは2010年ツール・ド・フランスのトゥールマレー頂上ゴールで4位、2011年ツールのガリビエ頂上ゴールで10位に入っている。つまり標高のある山岳も問題ない。ライバルたちは「ヘジダルが崩れる日」を待ち望んでいるが、カナダの31歳はそう簡単に崩れなさそうだ。
一方、グルペットは30分以上遅れて最後の1級山岳パッソ・ジャウを通過した。その中にはフミやマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)の姿も。
フミは最初の2級山岳パッソ・ヴァルパローラで遅れながらも、続く1級山岳パッソ・ドゥランまでに集団復帰。その後の登りで再び遅れた。「最初の登りはカヴェンディッシュらと一緒にクリア。下り区間でメイン集団に復帰しました。グルペットは下りが速い。特に(ベルンハルト)アイゼルとカヴェンディッシュの下りはめちゃくちゃ速い」とのこと。
なお、「チームカーを風よけに使った」「不適切なメカニカルサポートを行なった」等の理由により、この日だけで19人の選手や監督に罰金が課せられている。
グルペットは結局タイムリミットまで10分近くを残してゴール。「このジロのグルペットを仕切っているのは(ロバート)ハンターと(ベルンハルト)アイゼルですね。彼ら2人の合図で自然とグルペットが出来ていく感じです。グルペットに入っていればタイムアウトになることはない」とフミ。
難関山岳を終えてグッタリしている感じは無く、すでに気持ちは第18ステージに切り替わっている。今大会最後の平坦コースで行なわれる第18ステージ。逃げに打ってでるかと思いきや、フミは「明日は逃げきりのチャンスが少ないので、最後の集団スプリントを狙いますよ」宣言。
オリカ・グリーンエッジのトーマス・ヴァイクス(リトアニア)がこの日をもってリタイアすることが決まっているので、スピードのある選手がいなくなる。すでにマシュー・ゴス(オーストラリア)やブレット・ランカスター(オーストラリア)、ダリル・インペイ(南アフリカ)はレースを去っている。となれば、残る5人の中で最もスピードがあるのはフミ。カヴェンディッシュ、フェラーリ、キッキ、番長ハンターらに勝負を仕掛ける。
text&photo:Kei Tsuji in Cortina d'Ampezzo
個人的な見解を述べさせていただくと、第17ステージで走った一帯がドロミテの中でも最も美しい。コルティーナ・ダンペッツォからボルツァーノにかけて、岩盤むき出しの山々が延々と続いている。その稜線のわずかに凹んだ部分を、九十九折りの峠が越えて行く。そのあまりのダイナミックさに遠近感と言葉を失う。
パッソ・ヴァルパローラ、パッソ・ドゥラン、フォルチェッラ・スタウランツァ、そしてパッソ・ジャウ。第17ステージには4つの難関山岳が詰め込まれた。登りの美しさの点では超級が揃う。
「世界で最も美しい場所を舞台にした、最も厳しいレース」という今年のジロのキャッチフレーズはあながち間違っていない。当然選手たちに景色を楽しむ余裕なんてないのだけど。
日本では一般的に「ドロミテ」と呼ばれる。イタリア語に忠実に言うならば「ドロミーティ」。平均勾配が10%近い山岳が続くので、どの選手も山岳仕様のバイクでレースに挑む。フロント36Tか38T、リア27Tか28Tというのが一般的なセッティング。別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は36x28Tでドロミテに挑む。
ゴール地点は、ドロミテ観光の拠点となっているコルティーナ・ダンペッツォ。1956年に冬季オリンピックが開催された地で、四方をドロミテらしい荒々しい山に囲まれている。
「ベスト・オブ・アルプス」とも呼ばれる、山間の美しい街。「イタリアでおすすめの観光地は?」と聞かれると、迷うことなくこのコルティーナ・ダンペッツォの名前を答える。なお、ジロはドイツ語満載のトレンティーノ=アルト・アディジェ州を抜け、ヴェネト州に入る。そのためコルティーナ・ダンペッツォの名前表記は一つ(イタリア語)だけ。
頂上ゴールではなく、長いパッソ・ジャウの下りの先にゴールがある。単純に高出力で登りを走りきった者が勝つのではなく、下りのテクニックや、そこに至るまでの戦略が問われる。「速いものが勝つ」のではなく「強いものが勝つ」。頂上ゴールよりもずっと山岳ステージらしくて好きだ。
この日の獲得標高差は4500m。細かい登りは無く、ダイナミックな山岳をいくつも越えるので、実際はもっともっと登っているようにも感じる。
ざっくりとした印象として、今年のジロは観客が少ない。開催規模が若干小さくなったようにも感じる。レース主催者の経費が大きく削減されたことも影響している。そして何よりもヨーロッパ全体を覆う経済不安。大会スポンサーの勢いも減り、キャラバングッズの量と質、スポンサーヴィレッジの量と質は低下しているように思う。
この日の主役はイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)だろう。思いのほか早くメカトラで相棒シルヴェスタ・シュミット(ポーランド)を失ってしまってからも、1級山岳パッソ・ジャウで淡々とハイペースを刻み続けた。
3度目の総合優勝を狙うバッソの牽引が集団を粉砕し、ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)のアタックも封じ込める。ステージ優勝こそ掴めなかったが、苦手な下りでタイムを失わなかったことはリクイガス・キャノンデールに朗報。積極的にレースを進めた結果だ。
出場選手の中で最も登れていることを証明したバッソ、難関山岳でもライバルたちに怯むことなく走ったヘジダル、そしてちょうど1年前に亡くなった親友シャビエル・トンドに捧げるステージ優勝を飾った「プリート」ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)。この3人がマリアローザの本命だ。
やはり注目はヘジダルがどこまでジロの山岳に耐えることが出来るかだろう。リクイガス・キャノンデールのロベルト・アマディオ監督は「ヘジダルは最後のタイムトライアルでプリートから3分、バッソから1分半のリードを奪うだろう。このままヘジダルが崩れることがなければ、ジロは彼のものだ」と認める。
見落とされがちだが、ヘジダルは2010年ツール・ド・フランスのトゥールマレー頂上ゴールで4位、2011年ツールのガリビエ頂上ゴールで10位に入っている。つまり標高のある山岳も問題ない。ライバルたちは「ヘジダルが崩れる日」を待ち望んでいるが、カナダの31歳はそう簡単に崩れなさそうだ。
一方、グルペットは30分以上遅れて最後の1級山岳パッソ・ジャウを通過した。その中にはフミやマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)の姿も。
フミは最初の2級山岳パッソ・ヴァルパローラで遅れながらも、続く1級山岳パッソ・ドゥランまでに集団復帰。その後の登りで再び遅れた。「最初の登りはカヴェンディッシュらと一緒にクリア。下り区間でメイン集団に復帰しました。グルペットは下りが速い。特に(ベルンハルト)アイゼルとカヴェンディッシュの下りはめちゃくちゃ速い」とのこと。
なお、「チームカーを風よけに使った」「不適切なメカニカルサポートを行なった」等の理由により、この日だけで19人の選手や監督に罰金が課せられている。
グルペットは結局タイムリミットまで10分近くを残してゴール。「このジロのグルペットを仕切っているのは(ロバート)ハンターと(ベルンハルト)アイゼルですね。彼ら2人の合図で自然とグルペットが出来ていく感じです。グルペットに入っていればタイムアウトになることはない」とフミ。
難関山岳を終えてグッタリしている感じは無く、すでに気持ちは第18ステージに切り替わっている。今大会最後の平坦コースで行なわれる第18ステージ。逃げに打ってでるかと思いきや、フミは「明日は逃げきりのチャンスが少ないので、最後の集団スプリントを狙いますよ」宣言。
オリカ・グリーンエッジのトーマス・ヴァイクス(リトアニア)がこの日をもってリタイアすることが決まっているので、スピードのある選手がいなくなる。すでにマシュー・ゴス(オーストラリア)やブレット・ランカスター(オーストラリア)、ダリル・インペイ(南アフリカ)はレースを去っている。となれば、残る5人の中で最もスピードがあるのはフミ。カヴェンディッシュ、フェラーリ、キッキ、番長ハンターらに勝負を仕掛ける。
text&photo:Kei Tsuji in Cortina d'Ampezzo
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