2011/09/21(水) - 07:29
1986年から始まった「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」も今年で26回目。筆者は今年で5回目の「自転車山登り」に挑むことになった。MTBクラスを実体験したフリーライターの"やかん"こと佐藤春道(さとう・はるみち)が実体験からのアドバイスを込めてレポートします。
標高差1,260m、平均斜度6.15%・最大斜度15%、ゴール地点2,720m、走行距離20.5km。こんなハードなヒルクライムが、8月の最終日曜日に毎年開催される「ノリクラ」だ。
そもそも、同イベントに参加するきっかけとなったのは、大学で新規に立ち上げた自転車同好会で発足にご助力頂いた先輩たちがこの「ノリクラ」の常連だった事からはじまっている。
彼らに大学生1年の時に誘われ初参加。まだ一桁台の開催の頃である。その翌年も先輩たちと共に参加。
それ以降は、彼らが卒業してしまった事で交通手段(クルマ)を失い、参加はパタと止まってしまった。
その後、一度“取材”という形で乗鞍の地に足を運んだが、「走る」という事からはかなり遠ざかっていた。
それが何を思ったか、一昨年、突如久々のエントリーを決め、申し込んだ。毎回、たいへん高い競争率の抽選で、選に漏れる人が多い中、ぼくは初回からずっとMTBクラスであるせいか、申し込めばかならず走れていた(ROADの参加者が多いのだ)。
そして、毎回走行後は「懲りた」と思うのだが、どういうわけか昨年に続き今年もエントリーしてしまい、まったく練習をしていないにも関わらず、やはり当選してしまった...。
だから、今回のこのレポート作成にあたり、CW編集部からのオーダーのひつとに「ヒルクライムのノウハウを、未体験の人に参考になる記事を書いてください」というモノがあったのだが、少数派のMTBであるし、練習もまったくしていない。そもそもノリクラで乗るMTBは毎年この1回しか乗らないヤツで、しかもサイズが体に合っていない。正直、偉そうに語る事はなにもないのである。
体重が軽いからヒルクライムに向いているのかしれない、とか、登りが嫌いではない(でもダウンヒルも好き)とか、自転車で上がれる山では最高峰(マイカーでの入山は禁止されている)である、なんていう理由だけで、なんとなく惰性で参加をしているだけなのである(すみません)。それは写真の青白い我が素肌をみてもらえれば謙遜でないことぐらい、すぐ分かるはず。
ただ、一般的には、国内ヒルクライムレースの中で「ノリクラ」は頂点に立つという流れがあるので、そこに参加する、という強い意義や愉しみは毎回感じている。ま、そんなに大げさなものじゃないけど。
参戦にあたっての準備
さて、CW編集部からは他に「参戦に当たって準備したことにも触れるように」、と言われている。こんないい加減なライダーなので読者の参考にはならないと思うのだが、大会に備えたことを紹介したいと思う。
まず、ライダー自身の装備は通常のウェア上下とヘルメットに加え、ぼくは視界のギラつきを抑えるため、タレックスの偏光レンズを入れたサングラスを愛用している。また、極めて個人的な話だが、長い時間走ると(ぼくはどうしても最低1時間半はかかる)身体が空腹を覚えるため、補給食として速攻系のエナジーゼリーを1つ、回復系のエナジーゼリーを1つ。その他に、あまり口の中でモソモソしないエナジーバーを用意。それらをジャージ後ろのポケットに入れている。
また、今年は、パワーバーの「ジェルブラスト」というグミ状のエナジーフードを試してみたかったので、これを摂れるようにフィルムケースに詰めなおして携行。他、ちょっとのトラブルに対応できるよう、コンパクトツールを持つ。
ちなみに、ゼリーは走行中に簡単に摂取できるよう、封のキャップは事前にねじ切ってある(苦し紛れに身につけたノウハウである・笑)。
また、バイクにはスポーツドリンクを水で半分に薄めたボトルを1つ、怪我の時や高温になり身体を冷却しなければいけない時用に、真水を入れたボトルを1つ、の2本構成にしている。つまり頭からかぶるのだ。
ロードバイクの人はかなり標高の高いヒルクライムという事もあり、結構走行中のパンクがあり(毎年かなりの数を見る)、それ用の修理セットを持つ人が多い。MTBでは今まで遭遇していないトラブルなのでそれらは携行していない。
今回はウェアに震災復興チャリティ「Unite311」のジャージを選んだ。おかげで力が出るような気がした。
下山セットはとても重要
そして、ノリクラは下山用のウェアなどを事前に山頂に搬送してくれるサービスがあるので、リュックにそれらを詰める事前準備がある。天候が悪いと下りは寒くて死にそうになる。これはとっても重要だ。
ぼくの場合、こちらには空気入れ、エアサスペンション用ポンプ、フロント&テールライト、ウィンドブレーカーのようなものを上下、それにパンツの裾止め。他に、山頂で休憩するので補給食としてカロリーメイト1つにエナジーバーを1本。これに、回復系エナジーゼリーを1つとしている。
本来は、下山用にフルフィンガーのグローブも用意しているのだが、今年は持っていくのを忘れてしまった。また今回は、頂上で写真を撮るという任務があったのでコンパクトカメラを入れておいた。
ぼくの事前準備はこんなものである。あとは、フロントサスペンションにストロークをロックする機構がないので、事前にパンパン高圧にしてほぼリジッドに近い状態にしておくぐらいだ(笑)。
就寝までの準備
さて、このノリクラはレース受付が土曜日のみなので、前泊して受付などを済ませてしまう。会場となる駐車場広場では色々なメーカーやショップがテントブースを出しているので、結構これを見て回るのも毎年楽しい。
正直、この日はこれしかやる事がない為、参加者を飽きさせない様に駐車場会場では多くのショップテントなどが軒を連ねる。個人的には、自身がMTB畑の人間で、ノリクラではロードジャンルの出店が多いのでその新鮮さが毎年楽しい。あまり普段は関係性のないブースが多いのだ。時折小雨振るコンディションだったが、“当日のみ特価”などをやっているのお店が多く、相変わらず盛況だった。
とくにケミカルのRESPO(ダイアテックプロダクツ)のブースではRESPOのオイルを注してくれるサービスがあるので、ズボラな人に超人気ですごい人だかりだ。メンテの順番を待つ人で長蛇の列(笑)。
定評あるレスポのオイルを会場でクリーニングしながら射してくれる素晴らしいサービス。でも、あまりに行列が凄く、ぼくは並ぶのを諦めました...。
朝の時間は慌ただしいが、MTBは暇なのだ..
そうこうしているうちにあっという間に日は暮れ、宿にて温泉に浸かったあと就寝。翌日は、特に今年オープニング時間が30分前倒しされた為、レース当日の起床は4:55とした。
宿の朝食は5:15。山頂に荷を搬送してくれるサービス受付が6:30までなので、この時間までになんとか会場に着く。そこからは開会式などが進み、トップであるチャンピオンクラス(ロード)が7時スタート。
このロードクラスはとにかく人数が多く、ひとつのクラス(年代別)の中でさらに細分化されるぐらいである。そんな感じなので、MTBクラスのスタートは8:17だ。チャンピオンクラスのトップは1時間かからずに山頂まで上り着いてしまうので、MTBがスタートする頃にはすでにかなりの人数がゴールしている事になる。この辺りのハチャメチャさはノリクラならではだと思う。
珍しく緊張したスタート前
今年ぼくは、柄にもなくスタートの20分前ぐらいに極度の緊張状態に陥り、計ってはいないが心拍がドカンと上がった感じだった。恐らく、まったく練習していない焦りが突然、湧き上がったのだろう。
コンディション的にはやや寝不足ではあったが、それ以外は問題なし。夜半の土砂降りで濡れた路面に加え、今年は高原らしいひんやりした空気が辺り一面を覆っていたため、スタートまでの待機時間は特に身体が冷えた。
そのままでスタートしてしまうと必ず故障してしまう為、身体をフリースで覆いながらラジオ体操の真似事をし、なるべく身体を冷やさないように工夫。また例年は、整列して待っているMTB列には並ばず、集団がスタート地点に動き出したら一番お尻に合流するスタイルを取っていたが、今年は真面目に並んでみて、スタート地点への移動もなるべく前に行くようにしてみた。
そしてスタートまでのカウントが2度ほど行われ、この頃までにど緊張が解けず、向けられたカメラにピースをかましたりしてリラックス(笑)。
いよいよ号砲が乗鞍の山中に響き渡り、いざスタート。今年はこの先頭集団に割かし近いポジションを占められた為、スタート後は運良くトップ集団に紛れ込め、はじめの3コーナー辺りまでは彼らの驚くべきスピードに揉まれる事ができた。
しかし、ハッキリいって異常。 スタート早々からあんなとんでもないスピードで駆け上っていくなんて...。
すぐに集団から離され、あとは中段のグループに吸収されながら、どんどん追い抜かれ、彼らのピッチを目の前にする事ができた。正直、これは大きな収穫であった。前述のよう、過去の大会はビリのドンケッツからスタートしていたので追い抜くことはあっても抜かれることはまずなかった。だから速いペースのライダーのピッチが分からなかったのだ(もちろんギアポジションも)。
今年は速いライダーにどんどん抜かれていったので、彼らのペダリングピッチやギアポジションなどを観察する事ができ、とても参考になった。もちろん、ドベの自分では参考になるだけで真似する事はまず無理なのであったが……。
声を出すことの効果
その後はだいたい同じペースのライダー同士で寄りあって走る事となり、今年のぼくは3人でのグループを形成しながらの長い長い登坂となった。
彼らと抜かれたり抜いたりしながら(コース状況でそれぞれ得意不得意があるのだ)。途中途中は、なるべくフラットな場所で栄養・水分補給を挟みながら、なおも上る、上る。
降りること、ペダリングを休ませることは一切許されないのだ。本当に、0.5秒でもペダリングを止めたらそこで即失速→転倒となってしまうぐらいノリクラの坂は過酷なのだ。
コース途中にはチェックポイントが2か所設けられ、スタッフの方たちがスポーツドリンクと水を用意して待機してくれていた。紙コップの水を走りながら手渡ししてもらうという、ちょっと選手チックな体験ができる。この体験は、正直、参加初年度も感動だったが、5回目となった今回でも嬉しい体験だった。
なんというか、気分いいんです。ああいうの。
ちなみに、これはMTB-XCで覚えた事だが、サービスのドリンク種類が複数ある場合、こちらから種類を指定(声を出しながら)走ると受け取りがスムーズになる。渡す方も、選手がどれを欲しているのかが瞬時に分かり、お互いのやりとりがロスなくいく。毎年、これをやっている人がほとんどいなく、ちょっと勿体ないと思った。
また、これも今年の収穫だったが、走行中に声を出すと身体の奥底からパワーが湧き出てくるような感触があった。
ノリクラではコーナーの各所にスタッフが歩哨として立っていてくれて、人によっては声を掛けてくれる。これに返事をすることで、ぼくは元気が出た。向こうが「頑張って!」とか言ってくれるのに対して「ハイ!」でもなんでもいいから発声すると、感覚的にはかなり違った。
こうして、毎回毎回、『なんで今年もエントリーしちゃったんだろう』と心の後悔をしたり、時々見える九十九折に延々続くライダーの群れに心を折られそうになり(ここの感覚は富士山の登山とかに似ている)、『やめてもいいよね』『もっと軽いギアで踏んでもいいよね』という悪魔の囁きに抵抗しながら、ただひたすらゴールである山頂を目指す。とにかく、ペダリングはいっさい緩めることはない。
そうこうしているうちに、「コース半分」や残り5kmポイントからの1km刻みの看板を、朦朧とする意識の中から辛うじて認識。辛くて辛くてしょうがないが、着実に終わりが近づいている事を実感する。この少しずつの達成感は、「自分はやった!」という自尊心を満たし、マラソンとも似ているおかしな快感となり、原動力となる。ぼくとしては、ヒルクライムの醍醐味のひとつといえると思っている。
ヒヤリとする場面もあったがなんとか完走
今年は標高とピッチのせいだろうか、一回だけ意識がかなり薄くなりかけた時があり、一瞬ひやりとした。また上半身が衰えたのか(筋トレとかまったくしてない)、上体を強く支える腕や掌がしびれる症状があった。これらをなんとか誤魔化しながらのライド。
残りの表示がkmからmに変わり始めたところで今一度エンジンを掛け直し、最後の力をなんとか振り絞る。ゴール目前で猛ダッシュを決めようとしたものの、やはり判断力が落ちているのか軽いギアのままペダルを踏み込んでしまい、まったく立ちこぎの成果がない情けない状態でボロボロになりながらゴールした。
ゴール地点の標高2,720mは、気温は適温。湿度もなくたいへん快適で、昨年の酷暑と違い、疲れた身体が大いに癒された。景色も、雄大に広がる山々や近くにある鶴ヶ池を眺めながらの相変わらずの絶景。時折ガスが発生するコンディションで快晴とまではいかなかったが、登り切った達成感を味わえた。ここでは毎回、心が空っぽになる。
また、「今年もなんとか上れた」という安堵感でもいっぱいだ。この一瞬の為だけに走っている(上っている)と言ってもいいと思う。
今年は例年以上に普段からMTBに長く乗る時間がなく、体力の衰えも明らかに感じていた。だからかなりの不安の中でのエントリーであったが、終わってみれば「なんとか今年も上れた」という結果になった。正直、「もうコリゴリ、来年はない」と思う半面、「やはり来年もこのビッグイベントに参加してみたい」という誘惑に惑わされる、相変わらずの思いの循環であった。
ただひたすら上りが続く、辛い以外なにもないノリクラだが、やはりクライマーにとっては虜にする魅力があるようだ。
さて、来年はどうしよう?
実走レポート:やかん/佐藤春道
photo:Akihiro.Nakao,サイクリック
標高差1,260m、平均斜度6.15%・最大斜度15%、ゴール地点2,720m、走行距離20.5km。こんなハードなヒルクライムが、8月の最終日曜日に毎年開催される「ノリクラ」だ。
そもそも、同イベントに参加するきっかけとなったのは、大学で新規に立ち上げた自転車同好会で発足にご助力頂いた先輩たちがこの「ノリクラ」の常連だった事からはじまっている。
彼らに大学生1年の時に誘われ初参加。まだ一桁台の開催の頃である。その翌年も先輩たちと共に参加。
それ以降は、彼らが卒業してしまった事で交通手段(クルマ)を失い、参加はパタと止まってしまった。
その後、一度“取材”という形で乗鞍の地に足を運んだが、「走る」という事からはかなり遠ざかっていた。
それが何を思ったか、一昨年、突如久々のエントリーを決め、申し込んだ。毎回、たいへん高い競争率の抽選で、選に漏れる人が多い中、ぼくは初回からずっとMTBクラスであるせいか、申し込めばかならず走れていた(ROADの参加者が多いのだ)。
そして、毎回走行後は「懲りた」と思うのだが、どういうわけか昨年に続き今年もエントリーしてしまい、まったく練習をしていないにも関わらず、やはり当選してしまった...。
だから、今回のこのレポート作成にあたり、CW編集部からのオーダーのひつとに「ヒルクライムのノウハウを、未体験の人に参考になる記事を書いてください」というモノがあったのだが、少数派のMTBであるし、練習もまったくしていない。そもそもノリクラで乗るMTBは毎年この1回しか乗らないヤツで、しかもサイズが体に合っていない。正直、偉そうに語る事はなにもないのである。
体重が軽いからヒルクライムに向いているのかしれない、とか、登りが嫌いではない(でもダウンヒルも好き)とか、自転車で上がれる山では最高峰(マイカーでの入山は禁止されている)である、なんていう理由だけで、なんとなく惰性で参加をしているだけなのである(すみません)。それは写真の青白い我が素肌をみてもらえれば謙遜でないことぐらい、すぐ分かるはず。
ただ、一般的には、国内ヒルクライムレースの中で「ノリクラ」は頂点に立つという流れがあるので、そこに参加する、という強い意義や愉しみは毎回感じている。ま、そんなに大げさなものじゃないけど。
参戦にあたっての準備
さて、CW編集部からは他に「参戦に当たって準備したことにも触れるように」、と言われている。こんないい加減なライダーなので読者の参考にはならないと思うのだが、大会に備えたことを紹介したいと思う。
まず、ライダー自身の装備は通常のウェア上下とヘルメットに加え、ぼくは視界のギラつきを抑えるため、タレックスの偏光レンズを入れたサングラスを愛用している。また、極めて個人的な話だが、長い時間走ると(ぼくはどうしても最低1時間半はかかる)身体が空腹を覚えるため、補給食として速攻系のエナジーゼリーを1つ、回復系のエナジーゼリーを1つ。その他に、あまり口の中でモソモソしないエナジーバーを用意。それらをジャージ後ろのポケットに入れている。
また、今年は、パワーバーの「ジェルブラスト」というグミ状のエナジーフードを試してみたかったので、これを摂れるようにフィルムケースに詰めなおして携行。他、ちょっとのトラブルに対応できるよう、コンパクトツールを持つ。
ちなみに、ゼリーは走行中に簡単に摂取できるよう、封のキャップは事前にねじ切ってある(苦し紛れに身につけたノウハウである・笑)。
また、バイクにはスポーツドリンクを水で半分に薄めたボトルを1つ、怪我の時や高温になり身体を冷却しなければいけない時用に、真水を入れたボトルを1つ、の2本構成にしている。つまり頭からかぶるのだ。
ロードバイクの人はかなり標高の高いヒルクライムという事もあり、結構走行中のパンクがあり(毎年かなりの数を見る)、それ用の修理セットを持つ人が多い。MTBでは今まで遭遇していないトラブルなのでそれらは携行していない。
今回はウェアに震災復興チャリティ「Unite311」のジャージを選んだ。おかげで力が出るような気がした。
下山セットはとても重要
そして、ノリクラは下山用のウェアなどを事前に山頂に搬送してくれるサービスがあるので、リュックにそれらを詰める事前準備がある。天候が悪いと下りは寒くて死にそうになる。これはとっても重要だ。
ぼくの場合、こちらには空気入れ、エアサスペンション用ポンプ、フロント&テールライト、ウィンドブレーカーのようなものを上下、それにパンツの裾止め。他に、山頂で休憩するので補給食としてカロリーメイト1つにエナジーバーを1本。これに、回復系エナジーゼリーを1つとしている。
本来は、下山用にフルフィンガーのグローブも用意しているのだが、今年は持っていくのを忘れてしまった。また今回は、頂上で写真を撮るという任務があったのでコンパクトカメラを入れておいた。
ぼくの事前準備はこんなものである。あとは、フロントサスペンションにストロークをロックする機構がないので、事前にパンパン高圧にしてほぼリジッドに近い状態にしておくぐらいだ(笑)。
就寝までの準備
さて、このノリクラはレース受付が土曜日のみなので、前泊して受付などを済ませてしまう。会場となる駐車場広場では色々なメーカーやショップがテントブースを出しているので、結構これを見て回るのも毎年楽しい。
正直、この日はこれしかやる事がない為、参加者を飽きさせない様に駐車場会場では多くのショップテントなどが軒を連ねる。個人的には、自身がMTB畑の人間で、ノリクラではロードジャンルの出店が多いのでその新鮮さが毎年楽しい。あまり普段は関係性のないブースが多いのだ。時折小雨振るコンディションだったが、“当日のみ特価”などをやっているのお店が多く、相変わらず盛況だった。
とくにケミカルのRESPO(ダイアテックプロダクツ)のブースではRESPOのオイルを注してくれるサービスがあるので、ズボラな人に超人気ですごい人だかりだ。メンテの順番を待つ人で長蛇の列(笑)。
定評あるレスポのオイルを会場でクリーニングしながら射してくれる素晴らしいサービス。でも、あまりに行列が凄く、ぼくは並ぶのを諦めました...。
朝の時間は慌ただしいが、MTBは暇なのだ..
そうこうしているうちにあっという間に日は暮れ、宿にて温泉に浸かったあと就寝。翌日は、特に今年オープニング時間が30分前倒しされた為、レース当日の起床は4:55とした。
宿の朝食は5:15。山頂に荷を搬送してくれるサービス受付が6:30までなので、この時間までになんとか会場に着く。そこからは開会式などが進み、トップであるチャンピオンクラス(ロード)が7時スタート。
このロードクラスはとにかく人数が多く、ひとつのクラス(年代別)の中でさらに細分化されるぐらいである。そんな感じなので、MTBクラスのスタートは8:17だ。チャンピオンクラスのトップは1時間かからずに山頂まで上り着いてしまうので、MTBがスタートする頃にはすでにかなりの人数がゴールしている事になる。この辺りのハチャメチャさはノリクラならではだと思う。
珍しく緊張したスタート前
今年ぼくは、柄にもなくスタートの20分前ぐらいに極度の緊張状態に陥り、計ってはいないが心拍がドカンと上がった感じだった。恐らく、まったく練習していない焦りが突然、湧き上がったのだろう。
コンディション的にはやや寝不足ではあったが、それ以外は問題なし。夜半の土砂降りで濡れた路面に加え、今年は高原らしいひんやりした空気が辺り一面を覆っていたため、スタートまでの待機時間は特に身体が冷えた。
そのままでスタートしてしまうと必ず故障してしまう為、身体をフリースで覆いながらラジオ体操の真似事をし、なるべく身体を冷やさないように工夫。また例年は、整列して待っているMTB列には並ばず、集団がスタート地点に動き出したら一番お尻に合流するスタイルを取っていたが、今年は真面目に並んでみて、スタート地点への移動もなるべく前に行くようにしてみた。
そしてスタートまでのカウントが2度ほど行われ、この頃までにど緊張が解けず、向けられたカメラにピースをかましたりしてリラックス(笑)。
いよいよ号砲が乗鞍の山中に響き渡り、いざスタート。今年はこの先頭集団に割かし近いポジションを占められた為、スタート後は運良くトップ集団に紛れ込め、はじめの3コーナー辺りまでは彼らの驚くべきスピードに揉まれる事ができた。
しかし、ハッキリいって異常。 スタート早々からあんなとんでもないスピードで駆け上っていくなんて...。
すぐに集団から離され、あとは中段のグループに吸収されながら、どんどん追い抜かれ、彼らのピッチを目の前にする事ができた。正直、これは大きな収穫であった。前述のよう、過去の大会はビリのドンケッツからスタートしていたので追い抜くことはあっても抜かれることはまずなかった。だから速いペースのライダーのピッチが分からなかったのだ(もちろんギアポジションも)。
今年は速いライダーにどんどん抜かれていったので、彼らのペダリングピッチやギアポジションなどを観察する事ができ、とても参考になった。もちろん、ドベの自分では参考になるだけで真似する事はまず無理なのであったが……。
声を出すことの効果
その後はだいたい同じペースのライダー同士で寄りあって走る事となり、今年のぼくは3人でのグループを形成しながらの長い長い登坂となった。
彼らと抜かれたり抜いたりしながら(コース状況でそれぞれ得意不得意があるのだ)。途中途中は、なるべくフラットな場所で栄養・水分補給を挟みながら、なおも上る、上る。
降りること、ペダリングを休ませることは一切許されないのだ。本当に、0.5秒でもペダリングを止めたらそこで即失速→転倒となってしまうぐらいノリクラの坂は過酷なのだ。
コース途中にはチェックポイントが2か所設けられ、スタッフの方たちがスポーツドリンクと水を用意して待機してくれていた。紙コップの水を走りながら手渡ししてもらうという、ちょっと選手チックな体験ができる。この体験は、正直、参加初年度も感動だったが、5回目となった今回でも嬉しい体験だった。
なんというか、気分いいんです。ああいうの。
ちなみに、これはMTB-XCで覚えた事だが、サービスのドリンク種類が複数ある場合、こちらから種類を指定(声を出しながら)走ると受け取りがスムーズになる。渡す方も、選手がどれを欲しているのかが瞬時に分かり、お互いのやりとりがロスなくいく。毎年、これをやっている人がほとんどいなく、ちょっと勿体ないと思った。
また、これも今年の収穫だったが、走行中に声を出すと身体の奥底からパワーが湧き出てくるような感触があった。
ノリクラではコーナーの各所にスタッフが歩哨として立っていてくれて、人によっては声を掛けてくれる。これに返事をすることで、ぼくは元気が出た。向こうが「頑張って!」とか言ってくれるのに対して「ハイ!」でもなんでもいいから発声すると、感覚的にはかなり違った。
こうして、毎回毎回、『なんで今年もエントリーしちゃったんだろう』と心の後悔をしたり、時々見える九十九折に延々続くライダーの群れに心を折られそうになり(ここの感覚は富士山の登山とかに似ている)、『やめてもいいよね』『もっと軽いギアで踏んでもいいよね』という悪魔の囁きに抵抗しながら、ただひたすらゴールである山頂を目指す。とにかく、ペダリングはいっさい緩めることはない。
そうこうしているうちに、「コース半分」や残り5kmポイントからの1km刻みの看板を、朦朧とする意識の中から辛うじて認識。辛くて辛くてしょうがないが、着実に終わりが近づいている事を実感する。この少しずつの達成感は、「自分はやった!」という自尊心を満たし、マラソンとも似ているおかしな快感となり、原動力となる。ぼくとしては、ヒルクライムの醍醐味のひとつといえると思っている。
ヒヤリとする場面もあったがなんとか完走
今年は標高とピッチのせいだろうか、一回だけ意識がかなり薄くなりかけた時があり、一瞬ひやりとした。また上半身が衰えたのか(筋トレとかまったくしてない)、上体を強く支える腕や掌がしびれる症状があった。これらをなんとか誤魔化しながらのライド。
残りの表示がkmからmに変わり始めたところで今一度エンジンを掛け直し、最後の力をなんとか振り絞る。ゴール目前で猛ダッシュを決めようとしたものの、やはり判断力が落ちているのか軽いギアのままペダルを踏み込んでしまい、まったく立ちこぎの成果がない情けない状態でボロボロになりながらゴールした。
ゴール地点の標高2,720mは、気温は適温。湿度もなくたいへん快適で、昨年の酷暑と違い、疲れた身体が大いに癒された。景色も、雄大に広がる山々や近くにある鶴ヶ池を眺めながらの相変わらずの絶景。時折ガスが発生するコンディションで快晴とまではいかなかったが、登り切った達成感を味わえた。ここでは毎回、心が空っぽになる。
また、「今年もなんとか上れた」という安堵感でもいっぱいだ。この一瞬の為だけに走っている(上っている)と言ってもいいと思う。
今年は例年以上に普段からMTBに長く乗る時間がなく、体力の衰えも明らかに感じていた。だからかなりの不安の中でのエントリーであったが、終わってみれば「なんとか今年も上れた」という結果になった。正直、「もうコリゴリ、来年はない」と思う半面、「やはり来年もこのビッグイベントに参加してみたい」という誘惑に惑わされる、相変わらずの思いの循環であった。
ただひたすら上りが続く、辛い以外なにもないノリクラだが、やはりクライマーにとっては虜にする魅力があるようだ。
さて、来年はどうしよう?
実走レポート:やかん/佐藤春道
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