2011/09/05(月) - 17:06
ヨーロッパ中、世界中にその名を轟かす「魔の山」アングリルは、アストゥリアスの山の中にある。ロードレースファンなら誰もが一度は聞いたことのある峠だが、グーグルマップで探しても見つけるのが難しいほど細い峠だ。
霧に包まれたアングリル頂上 photo:Kei Tsujiプレスセンターが置かれた谷間の村リオサを抜け、ラ・ベガの集落を通り過ぎると、コースは霧の中へと向かう。あたりは“リトル・スイス”と呼ばれ、牧歌的な山岳風景が広がる。標高300mの麓の気温は15度。標高1575mのアングリル頂上は9度という。
常に霧がかかっているような山間部なので、山の様子を伺うのは難しい。レース当日も地元の人曰く“アストゥリアスらしい天気”、つまり曇りだ。山肌はゴツゴツとした岩に覆われ、年間を通した湿度の高さからシダ植物が地面を覆う。
登りのコースプロフィールを見る限り、アングリルはTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)名物の富士山ステージ、つまりあざみラインに近い。ジロ・デ・イタリア名物のモンテ・ゾンコラン、プラン・デ・コロネスにも近い。
アングリル:登坂距離12.2km・高低差1245m・平均勾配10.2%・最大勾配23.5%
ゾンコラン:登坂距離10.1km・高低差1200m・平均勾配11.9%・最大勾配22%
プラン・デ・コロネス:登坂距離12.9km・高低差1096m・平均勾配8.4%・最大勾配24%
あざみライン:登坂距離11.4km・高低差1126m・平均勾配10.5%・最大勾配22%
豪快にワインを飲む photo:Kei Tsujiどの登りが一番キツいとかいうレベルではなく、どの登りもとにかくキツい。だがやはり「ロードレースのオリンポス(神々が住む最高峰)」「エル・インフェルノ(地獄)」と呼ばれるアングリルは特別だ。
アングリルの前半は比較的“普通”の登り。8%ほどの勾配が5kmにわたって続く。しかし中腹にある平坦に近い区間を通過すると、登りの様相はがらっと変わる。中腹から頂上までの平均勾配は15%まで跳ね上がる。
時折霧が晴れ、眼下に登りが広がる photo:Kei Tsujiゴールの6km手前にある「山羊ゾーン(山羊にしか登れないという意味)」で、最大勾配は23.5%に達し、その他にもコンスタントに勾配は20%を超える。アングリルは20%オーバーの激坂が休む間もなく現れる印象だ。
アングリルがブエルタに登場するのは5回目。前回の2008年はアルベルト・コンタドール(スペイン、当時アスタナ)がステージ優勝を飾っている。
失速したマイヨロホのブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji当時、プレス関係者用のシャトルバスは、観客の多さと勾配のきつさによって頂上までたどり着けなかった。その失敗を踏まえ、今年は朝11時にシャトルバスが出発する。レースがスタートするころには、すでにアングリルの頂上に着いている。頂上で5時間も待つ計算・・・。
土井雪広(スキル・シマノ)はこの日のためにコンパクトクランクを用意。フロント36T・リア最大28Tというローギアで挑む。他チームのスタッフに聞いたところ、他の選手もコンパクトクランクがメインで、36Tx32T、36Tx29Tというアングリル仕様のバイクばかり。ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)はノーマルクランクの38Tx32Tというギアレシオ。
観客の多くはマウンテンバイクを使用。ロードバイクに乗った観客は、苦痛の表情を浮かべながら蛇行する。頂上付近は午前中から常に霧がかかった状態で、一時的に視界は20mほどまで落ちた。冷たい風が霧を運び、温度計は8度を指す。午後になると徐々に霧が押しやられ、登り部分は時折下界が望めるほどに回復した。
急勾配の登りを進む photo:Kei Tsuji
あまりの勾配に蛇行する選手も多い photo:Kei Tsuji登りの途中には「ありがとう!サム!」というペイントがされた岩がある。これは会場にほど近いオビエド出身のサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)を讃えるペイント。今大会には出場していないが、アストゥリアス出身ながらバスクチームに所属するサンチェスは地元の英雄だ。
頂上到着から5時間が経過し、ようやく遠くからヘリの音が聞こえてきた(霧が濃いのでヘリは見えないが)。
深い霧の中から選手が現れる photo:Kei Tsujiリクイガス・キャノンデールやエウスカルテルの攻勢が競技無線を通じて伝えられる。そして総合4位、ファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)が飛び出したと伝える。
勾配のキツさと道の細さから、個人タイムトライアルのように選手たちが登ってくる。コーボは特段苦しい表情を見せるわけではなく、シッティングメインで淡々と急勾配区間を進む。その先に待っていたのは、ホセマリア・ヒメネス、ジルベルト・シモーニ、ロベルト・エラス、アルベルト・コンタドールに続くアングリル制覇の栄光、そしてマイヨロホだった。
ピム・リヒハルト(ヴァカンソレイユ・DCM)の背中に何かが刺さっている photo:Kei Tsujiコーボは2008年ツール・ド・フランスの超級山岳オタカムでステージ優勝という成績を残しているが、これはチームメイトのレオナルド・ピエポリ(イタリア)がドーピングで失格となったため。グランツールの頂上ゴールでガッツポーズを見せたのはこれが初めて。グランツールのリーダージャージもこれが初めて。
マイヨロホのウィギンズは眉を八の字に曲げ、長くて細い脚を懸命に振り下ろす。チームメイトのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)にも付いていけない。
アングリルを登る土井雪広(スキル・シマノ)18分57秒遅れのステージ116位 photo:Kei Tsuji総合ワンツー体制を築いていたチームスカイは、アングリルで総合ツースリーに落ちた。コーボとのタイム差はフルームが20秒、ウィギンズが46秒。コーボがステージ優勝で手にしたボーナスタイム20秒が効いている。
チームスカイはまだグランツール総合優勝を諦めない。登坂距離は短いものの、第17ステージの超級山岳ペーニャ・カバルガ頂上ゴールでレースを動かすだろう。その後のバスクステージもコースプロフィール以上に難易度が高いと言われており、まだ総合逆転の可能性を秘めている。
土井雪広はアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)のすぐ後ろで頂上を目指していた。ゴール38km手前で落車し、前後のホイールを交換したが、1級山岳までにメイン集団に復帰したという。「今まで経験した登りの中でダントツでキツかった」と語る土井雪広のコメントは、休息日のインタビュー記事にて詳しく。
とにかくブエルタは最大の山場を越えた。翌日は2回目の休息日。マドリードまで残り6ステージだ。
text&photo:Kei Tsuji in Angliru, Spain
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常に霧がかかっているような山間部なので、山の様子を伺うのは難しい。レース当日も地元の人曰く“アストゥリアスらしい天気”、つまり曇りだ。山肌はゴツゴツとした岩に覆われ、年間を通した湿度の高さからシダ植物が地面を覆う。
登りのコースプロフィールを見る限り、アングリルはTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)名物の富士山ステージ、つまりあざみラインに近い。ジロ・デ・イタリア名物のモンテ・ゾンコラン、プラン・デ・コロネスにも近い。
アングリル:登坂距離12.2km・高低差1245m・平均勾配10.2%・最大勾配23.5%
ゾンコラン:登坂距離10.1km・高低差1200m・平均勾配11.9%・最大勾配22%
プラン・デ・コロネス:登坂距離12.9km・高低差1096m・平均勾配8.4%・最大勾配24%
あざみライン:登坂距離11.4km・高低差1126m・平均勾配10.5%・最大勾配22%
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アングリルの前半は比較的“普通”の登り。8%ほどの勾配が5kmにわたって続く。しかし中腹にある平坦に近い区間を通過すると、登りの様相はがらっと変わる。中腹から頂上までの平均勾配は15%まで跳ね上がる。
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アングリルがブエルタに登場するのは5回目。前回の2008年はアルベルト・コンタドール(スペイン、当時アスタナ)がステージ優勝を飾っている。
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土井雪広(スキル・シマノ)はこの日のためにコンパクトクランクを用意。フロント36T・リア最大28Tというローギアで挑む。他チームのスタッフに聞いたところ、他の選手もコンパクトクランクがメインで、36Tx32T、36Tx29Tというアングリル仕様のバイクばかり。ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)はノーマルクランクの38Tx32Tというギアレシオ。
観客の多くはマウンテンバイクを使用。ロードバイクに乗った観客は、苦痛の表情を浮かべながら蛇行する。頂上付近は午前中から常に霧がかかった状態で、一時的に視界は20mほどまで落ちた。冷たい風が霧を運び、温度計は8度を指す。午後になると徐々に霧が押しやられ、登り部分は時折下界が望めるほどに回復した。
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チームスカイはまだグランツール総合優勝を諦めない。登坂距離は短いものの、第17ステージの超級山岳ペーニャ・カバルガ頂上ゴールでレースを動かすだろう。その後のバスクステージもコースプロフィール以上に難易度が高いと言われており、まだ総合逆転の可能性を秘めている。
土井雪広はアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)のすぐ後ろで頂上を目指していた。ゴール38km手前で落車し、前後のホイールを交換したが、1級山岳までにメイン集団に復帰したという。「今まで経験した登りの中でダントツでキツかった」と語る土井雪広のコメントは、休息日のインタビュー記事にて詳しく。
とにかくブエルタは最大の山場を越えた。翌日は2回目の休息日。マドリードまで残り6ステージだ。
text&photo:Kei Tsuji in Angliru, Spain
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