敵無しのマルティン個人TT勝利　区間2位フルームがマイヨロホ獲得

8月29日、ブエルタ・ア・エスパーニャ第10ステージの個人タイムトライアルが行われ、トニ・マルティン（ドイツ、HTC・ハイロード）がステージ優勝を飾り、59秒遅れの区間2位に入ったクリス・フルーム（イギリス、チームスカイ）が一躍マイヨロホの座に躍り出た。

個人TTを走る土井雪広（日本、スキル・シマノ） photo:Cor Vos予想こそされていたが、総合上位の成績を大きくシャッフルされることとなった第10ステージの個人タイムトライアル。47kmという距離は、比較的短めの個人TTを設定することが多いブエルタでは珍しく、選手の地足を問う「長距離」。ここまで総合上位につけるクライマー系の選手にとっては試練の一日となった。

サラマンカの街を巡る、大きな登りの無い47kmのコースはパワーでプッシュする他はなし。第1走者のニック・ニュイエンス（ベルギー、サクソバンク）が現地時間13時過ぎにスタートを切ると、続々と選手がサラマンカのコースへ飛び出していく。その中にはもちろん土井雪広（日本、スキル・シマノ）の姿も。

「今日は風が強い区間だけ追い込んで、他は脚を回していただけ。それでも44.7キロアベレージにびっくらこいた」とレース後にツイートした土井は、この日トップから8分49秒遅れの162位。土井の視野はすでにブエルタ後半を見据えている。

この日3番目にスタートしたタイラー・フィニー（アメリカ、BMCレーシング）が昨年の世界選手権U23TTチャンピオンの真価を発揮する57分27秒で頭抜けた暫定トップタイムを刻むと、次なるタイム更新の期待は現エリート世界チャンピオンのファビアン・カンチェラーラ（スイス、レオパード・トレック）に否応無くかかる。

区間4位に終わったファビアン・カンチェラーラ（スイス、レオパード・トレック） photo:Tour d'Espagne/Graham Watsonこの日の優勝候補カンチェラーラは当然のようにフィニーのトップタイムを更新するが、その差はわずかに6秒。スペシャリストの選ばれし戦いは、この日のもうひとりの優勝候補、トニ・マルティン（ドイツ、HTC・ハイロード）によって決着を見る。

序盤からハイペースで入ったマルティンは、中間計測地点でそれまでトップのカンチェラーラのタイムを軒並み更新。ゴールでは56分を切る圧倒的な走りでカンチェラーラに対して1分27秒上回る暫定トップタイム。平均時速は圧巻の50.447km/h。

その後は序盤こそマルティンのタイムに肉薄する選手がいたものの、ゴールではマルティン、カンチェラーラ、フィニーの牙城を崩す選手は現れず。いよいよレースは総合争いの選手たちによる第二幕へと移る。

強さを増すTTスペシャリスト、トニ・マルティン（ドイツ、HTC・ハイロード）が区間優勝 photo:Tour d'Espagne/Graham Watson今ブエルタで精彩を欠くイゴール・アントン（スペイン、エウスカルテル）は長い個人TTに苦しみ、マルティンから6分18秒遅れの104位。総合優勝はほぼ潰えた。ティアゴ・マシャド（ポルトガル）とヤネス・ブライコヴィッチ（スロベニア）のレディオシャックコンビはマルティンからそれぞれ1分54秒、1分56秒遅れに留める好走。ブライコヴィッチはこの日を終えて総合トップ10へ返り咲く。

総合上位陣で唯一、区間優勝も狙えると目されていたのはブラッドレー・ウィギンズ（イギリス、チームスカイ）。TTスペシャリストとしてこの日、総合上位のジャンプアップを狙っていたウィギンズは、その力を発揮し、第1計測地点ではマルティンを1秒上回るトップタイムを更新。ステージ優勝と総合上位を視野に入れる。

だがこの日、目覚ましい走りを見せたのはチームスカイの別のイギリス人だった。ウィギンズの2分前でスタートしたクリス・フルーム（イギリス、チームスカイ）が後半に苦しんだエースとは対照的にタイムを伸ばし、マルティンから59秒遅れの暫定2位に食い込む驚きの走り。失速したウィギンズだが、1分22秒遅れの暫定3位でゴール。

ヤコブ・フグルサング（デンマーク、レオパード・トレック）が総合力の高さを見せ1分37秒遅れの暫定6位、フレデリック・ケシアコフ（スウェーデン、アスタナ）が2分18秒遅れ、マキシム・モンフォール（ベルギー、レオパード・トレック）が2分6秒遅れ、ヴィンチェンツォ・ニーバリ（イタリア、リクイガス・キャノンデール）が2分24秒遅れに留める中、ダニエル・モレーノ（スペイン、カチューシャ）は5分26秒、ホアキン・ロドリゲス（スペイン、カチューシャ）は5分24秒、ユルゲン・ファンデンブロック（ベルギー、オメガファーマ・ロット）は3分56秒を失った。

区間3位に入り総合でも3位にジャンプアップしたブラッドレー・ウィギンズ（イギリス、チームスカイ） photo:Tour d'Espagne/Graham Watsonマイヨロホを着るバウク・モレマ（オランダ、ラボバンク）は3分9秒遅れ、ジャージを失った photo:Tour d'Espagne/Graham Watsonマイヨロホ獲得に笑顔を見せるクリス・フルーム（イギリス、チームスカイ） photo:Cor Vos


そしてマイヨロホを着るバウク・モレマ（オランダ、ラボバンク）もこのTTに苦しみ、3分9秒遅れの25位でゴール。昨日に得たリーダージャージーを一日で失う結果となってしまった。新しくリーダーの座についたのはこの日区間2位のフルーム。実に総合14位からの大ジャンプアップを果たした。チームのエース、ウィギンズも総合を3位まで上げ、チームスカイは初日のチームTTのタイムロスをここで取り返すことに成功した。

総合トップ10の顔ぶれこそ替わったが、まだそのタイム差は6位までが1分以内と大きくはない。まだまだ総合の行方はレース後半の山岳に問う必要がありそうだ。ブエルタ・ア・エスパーニャ2011は休息日を挟み、8月31日の第11ステージから再び争いは激化する。当然のように、このステージは超級山岳の山頂ゴールだ。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2011第10ステージ結果
1位　トニ・マルティン（ドイツ、HTC・ハイロード）　　　　　　　　　　　　　　　　　55'54"
2位　クリス・フルーム（イギリス、チームスカイ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　+59"
3位　ブラッドレー・ウィギンズ（イギリス、チームスカイ）　　　　　　　　　　　　　　+1'22"
4位　ファビアン・カンチェラーラ（スイス、レオパード・トレック）　　　　　　　　　　+1'27"
5位　タイラー・フィニー（アメリカ、BMCレーシング）　　　　　　　　　　　　　　　　+1'33"
6位　ヤコブ・フグルサング（デンマーク、レオパード・トレック）　　　　　　　　　　　+1'37"
7位　ティアゴ・マシャド（ポルトガル、レディオシャック）　　　　　　　　　　　　　　+1'54"
8位　ヤネス・ブライコヴィッチ（スロベニア、レディオシャック）　　　　　　　　　　　+1'56"
9位　ルイスレオン・サンチェス（スペイン、ラボバンク）　　　　　　　　　　　　　　　+2'02"
10位　マキシム・モンフォール（ベルギー、レオパード・トレック）　　　　　　　　　　　+2'06"
11位　フレデリック・ケシアコフ（スウェーデン、アスタナ）　　　　　　　　　　　　　　+2'18"
13位　デニス・メンショフ（スロシア、ジェオックスTMC）　　　　　　　　　　　　　　　+2'19"
15位　ヴィンチェンツォ・ニーバリ（イタリア、リクイガス・キャノンデール）　　　　　　+2'24"
25位　バウク・モレマ（オランダ、ラボバンク）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　+3'09"
39位　ユルゲン・ファンデンブロック（ベルギー、オメガファーマ・ロット）　　　　　　　+3'56"
41位　カルロス・サストレ（スペイン、ジェオックスTMC）　　　　　　　　　　　　　　　+4'07"
53位　ミケーレ・スカルポーニ（イタリア、ランプレ・ISD）　　　　　　　　　　　　　　+4'30"
71位　ホアキン・ロドリゲス（スペイン、カチューシャ）　　　　　　　　　　　　　　　+5'24"
73位　ダニエル・モレーノ（スペイン、カチューシャ）　　　　　　　　　　　　　　　　+5'26"
162位　土井雪広（日本、スキル・シマノ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　+8'49"

個人総合成績（マイヨロホ）
1位　クリス・フルーム（イギリス、チームスカイ）　　　　　　　　　　　　　　38h09'13"
2位　ヤコブ・フグルサング（デンマーク、レオパード・トレック）　　　　　　　　　+12"
3位　ブラッドレー・ウィギンズ（イギリス、チームスカイ）　　　　　　　　　　　　+20"
4位　ヴィンチェンツォ・ニーバリ（イタリア、リクイガス・キャノンデール）　　　　+31"
5位　フレデリック・ケシアコフ（スウェーデン、アスタナ）　　　　　　　　　　　　+34"　
6位　マキシム・モンフォール（ベルギー、レオパード・トレック）　　　　　　　　　+59"
7位　バウク・モレマ（オランダ、ラボバンク）　　　　　　　　　　　　　　　　　　+1'07"
8位　ファンホセ・コーボ（スペイン、ジェオックス・TMC）　　　　　　　　　　　　+1'47"
9位　ヤネス・ブライコヴィッチ（スロベニア、レディオシャック）　　　　　　　　　+2'04"
10位　アイマル・スベルディア（スペイン、レディオシャック）　　　　　　　　　　+2'13"
11位　マルツィオ・ブルセギン（イタリア、モビスター）　　　　　　　　　　　　　+2'15"
12位　ユルゲン・ファンデンブロック（ベルギー、オメガファーマ・ロット）　　　　+2'21"
13位　デニス・メンショフ（ロシア、ジェオックス・TMC）　　　　　　　　　　　　+2'35"
14位　ホアキン・ロドリゲス（スペイン、カチューシャ）　　　　　　　　　　　　　+3'23"
15位　セルヒオ・パルディージャ（スペイン、モビスター）　　　　　　　　　　
17位　ニコラス・ロッシュ（アイルランド、アージェードゥーゼル）　　　　　　　+3'47"
19位　ダニエル・モレーノ（スペイン、カチューシャ）　　　　　　　　　　　　　+3'59"
22位　ミケーレ・スカルポーニ（イタリア、ランプレ・ISD）　　　　　　　　　　+4'22"　
28位　カルロス・サストレ（スペイン、ジェオックス・TMC）　　　　 　　　　 　+6'48"　　
32位　イゴール・アントン（スペイン、エウスカルテル）　　　　　　　　　　　　+8'47"
175位　土井雪広（日本、スキル・シマノ）　　　　　　　　　　　　　　　　　+2h13'15"

ポイント賞（プントス）
1位　ホアキン・ロドリゲス（スペイン、カチューシャ）　　　　　　　　　　74pts
2位　バウク・モレマ（オランダ、ラボバンク）　　　　　　　　　　　　　　62pts
3位　ペーター・サガン（スロバキア、リクイガス・キャノンデール）　　　　50pts

山岳賞（モンターニャ）
1位　ダニエル・マーティン（アイルランド、ガーミン・サーヴェロ）　　　25pts
2位　マッテオ・モンタグーティ（イタリア、アージェードゥーゼル）　　　23pts
3位　ダニエル・モレーノ（スペイン、カチューシャ）　　　　　　　　　　20pts

複合賞（コンビナーダ）
1位　バウク・モレマ（オランダ、ラボバンク）　　　　　　　　　　　　　16pts
2位　ホアキン・ロドリゲス（スペイン、カチューシャ）　　　　　　　　　26pts
3位　ダニエル・モレーノ（スペイン、カチューシャ）　　　　　　　　　　28pts

チーム総合成績
1位　レオパード・トレック　　　　　　　113h58'37"
2位　レディオシャック　　　　　　　　　　　　+07"
3位　ラボバンク　　　　　　　　　　　　　 　 +2'07"

text:Yufta Omata
photo:Cor Vos, Unipublic