2011/07/20(水) - 19:28
天候が冴えない。朝から雷が轟き、夕暮れのような暗さの雲が立ち込めた。滝のような雨。そしてガリビエ峠に雪が降るとのニュースが流れた。今日のステージも危険な香りがプンプンする。
・ベロキの落車事故で知られる危険な下り
何かとアームストロング時代の2003、2004年のエピソードに絡むコースが採用される今年のツール。
ステージ後半に上るガップ郊外の2級山岳マンス峠の下りは、2003年ツールで総合2位につけるホセバ・ベロキ(スペイン)がダウンヒルで落車して大怪我を追ってリタイヤ。一緒に走っていたアームストロングが草地にコースアウト。シクロクロススタイルで駆け抜け、難を乗り切ったというツールに永遠に語り継がれるであろう事故・珍事が起こった危険な峠道だ。
マンス峠の下りは農道にちかい田舎道でアスファルトの状態も悪く、ベロキの落車したのも、熱で溶けたアスファルトにタイヤを滑らせ、はずみでタイヤが外れてホイールがロックしてハイサイドを起こしたことが原因だった。「ツールが下りで決まってしまう可能性がある」と心配する声、あるいは何かが起こることを予感する声が聞かれた。
・天候の悪化でコース短縮を心配する声
アルプスの峠の積雪による木曜・金曜のステージのコース短縮の可能性、そして雨による今日のステージの危険箇所の回避の可能性などが囁かれた。
スタート地点ではコースディレクターのジャン=フランソワ・ペシュー氏が各チームの監督と話し合いを続けている。しかし天候が悪いからという理由によるコースの変更は、よほど走行が不可能でない限り行われないようだ。
ペシュー氏は言う「今のところコース変更は考えていない。今私達は夏にいることを忘れてはいけない。天気は急に変わる。夜に雪が降っても朝にはなくなっている。私からは何かあれば時間毎に知らせる。私にとっては問題ない」。
コースが変わればレース内容も変わる。山岳が短縮されれば有利な選手、不利になる選手が当然出てくる。ヴォクレールは勝ち逃げし、コンタドールは挽回のチャンスを失う。1996年にはガリビエ峠の積雪のためニュートラリゼーションとなり、レース距離が大幅に短縮。ビャルヌ・リースがミゲール・インデュラインを破って優勝する一因となった。
しかし、一日じゅう荒天が続くと思われ、レインギアフル装備でスタート地点に着くと、空は晴れあがってきた。そして暑くさえなった。しかしゴールのプレスセンターに先行で向かった他のジャーナリストからは「恐ろしい勢いで雨が降っているのでレースができるのかどうかも怪しい」という声が届く。どうしたら天気はここまで変わるのか?
・カヴにかけられる嫌疑
晴れたことで緊張の緩んだ選手たち、が休息日空けの時間と太陽を満喫しだす。
昨ステージでスプリントで3位に食い込んだダニエル・オス(リクイガス)は、公式サイトの第2表示言語に日本語を採用したほどの日本好き。「日本のファンがスプリントに期待しているよ」と伝えると、ニッコリ笑って「今日は難しいけど、シャンゼリゼで狙いたいよ。それも難しいけどやってみる」と静かに燃える。
ジルベールはビラージュに現れてにこやかにサインに応じる。しかし今日の優勝候補であり、最後の峠でアタックして一気にマイヨヴェールに近づく最大のチャンス。勝負の日だ。スタート地点脇には「ジルベールにマイヨヴェールを」のベルギー国旗と緑のシャツの飾り付けで応援するファンも。
コンタドールはスタートラインでアスタナの旧チームメイトの隣に並ぶと親しげに話しだした。まるでこのステージは自分の総合争いにとっては関係ないかのように。
緊張感あるマイヨヴェールのカヴェンディッシュ。マイヨ奪回を狙うロハスとジルベールのふたりの攻撃に耐えなければいけない。
カヴについては山岳で遅れたときにチームカーに掴まってグルペットに復帰しているんじゃないかという疑惑が上がっている。タイラー・ファラー(ガーミン・サーヴェロ)がメディアにそれを意味する「カヴは遅れてから誰も見ていないところでちょっと信じられないカムバックをしている」という発言をしたことによる。
チームはこれを否定。カムバックはチームメイトのアシストによるものだと主張している。実際、カヴの周りにはいつもモトコミッセールがいるし、チームカー牽引で集団復帰できるほど効果的に行うことは難しい。カメラマンも絶えず路上にいる。
私が山岳で確認できるのは、カヴが集団から脱落しても、いつも決まってベルニーことベルンハルト・アイゼルが懸命にカヴを引いている姿。さすが「カヴの母」という異名をもつだけのことはある。
結局、この日の中間スプリントポイント逃げの10人+3人が通過したあと、残された2ポイントをカヴもロハスもジルベールも狙わなかった。カヴはアルプスでは体力セーブも課題だ。最も心配なのは、逆転される可能性よりタイムアウト失格の可能性だ。
・アルカンシェルが再び輝いた「ノルウェーの日」
ボアッソンハーゲン、フースホフト、ヘジダルという3人の逃げは、チームとしてはガーミンふたりVSチームスカイひとり。しかし国籍的にはノルウェーふたりVSカナダひとり。「まるでノルウェーチャンピオンシップだった」と語るフースホフト(実際にはこの2人の対決があったわけではない)。
アルカンシェルを着ての2度目の勝利。表彰台でフースホフトは大きく雄叫びを上げ、観客たちの声援に応えた。この日、ゴール地点には多くのノルウェー国旗が振られ、「フースホフト!、フースホフト!」の大歓声コールが巻き起こった。こんなにたくさんのノルウェー人たちが居たのか?
そして、今日勝つと考えていたのだろうか?
アルカンシェルを着ての2度目の勝利は、記念すべきツール通算10勝目。ここまでのツールでフースホフトは大成功を収めている。チームタイムトライアルでのガーミンの勝利、マイヨジョーヌを着た1週間、圧倒的な強さを見せたピレネーでの独走勝利。そして再びの逃げの勝利。
フースホフトは言う「ツールの序盤は調子の良さ・強さを感じていた。しかしステージ優勝がなかった。勝てると思っていたリズーでも勝てなかった。しかしマイヨジョーヌを着ていつも勝てる位置にいた。
チャンスがある2度の逃げで、2度とも勝利を収めることができた。なんという幸運だろう」
フースホフトが勝つつもりでいたリズーへゴールした第6ステージは、今日対決したもうひとりの同郷のノルウェー人、ボアッソンハーゲンが勝利した。そしてピレネでの大逃げの勝利は、最初は期待していなかったものだという。そして今回はその"9歳下のノルウェーの後輩"を打ち負かした。
フースホフトは言う「エドアルドには申し訳ない気分だ。でも彼に対するレースをしなければならなかった。上りで前を行く僕のチームメイトのヘジダルを追う彼の後輪についていたんだ。ゴールではその3人になった。ヘジダルにアタックしてもらいたかったけど、彼はそれまでにもうたくさんのエネルギーを使っていた。最後はエドアルドを驚かすために早めに仕掛けた。僕もスプリントが得意だけど、そんな状況でもエドアルドをスプリントで負かすのは容易じゃないんだ」。
・勝負のスタイルを変えた雷神トール
この勝利で、かつてスプリンターだった過去と決別し、スタイルを変えてきたように思えるフースホフト。クレディ・アグリコル時代は純粋なスプリンターとして。サーヴェロテストチーム時代は上り坂スプリントを得意とするスプリンター。世界選を制した2010年シーズンは、スプリント能力が少し落ちた代わりに上りがこなせるようになった」と、自分の肉体の変化について話していた。
そしてこのツールでは上りがキーを握るコースで逃げて勝負するという新たな得意パターンを開拓した。年々スプリントへの依存度を減らし、よりハードな展開に持ち込んで勝つ方法を身につけている。今春に狙っていたクラシック、とくにパリ~ルーベに勝てなかった(チームメイトのファンスーメレンが勝利)ことが心残りだが、フースホフトはそれ以外のすべてを手に入れつつある。
・コンタドールの「調子が良くなっている」は本当だった
ついにきたコンタドールのアタック。「本格的な上りが待つアルプスまで動かない」という予想を覆し、短い上りでアタックを決め、危険なダウンヒルを果敢に攻めた。着いていけたのはエヴァンスとサムエル・サンチェスのみ。シュレク兄弟は二人揃って遅れ、思わぬところでタイム差を返された。アンディは雨天候とダウンヒルが苦手な弱点をさらけ出し、兄フランクからも遅れ、コンタドールに1分以上のタイム差を返された。
今日の敗者アンディとフランクに対し、成功を収めたのがエヴァンスだ。短い上りとは言えコンタドールのアタックに反応し、さらに下りでコンタドールに対して3秒のタイム差をつけることに成功。調子の良さを証明し、またひとつ優勝候補としてのステイタスを上げた。
コンタドールは調子の良さを喜ぶ。「結果は特別なものじゃない。アタックしたかったんだ。誰が着いてきているかもあまり気にしていなかった。登りは短くて十分なものじゃなかったから、どういう結果になるかはあまり考えていなかっったんだ。何人かが着いてこれなかったことが分かって、期待した以上の結果になった」
「一番大切なのは僕の脚がよく反応したこと。センセーション(調子のよい状態)を感じた。ライバルたちは昨日のまま変わっていなかったね。
調子の良さが僕とチームにとっては大きなモチベーションになるね。これから山はまだ3日間もあるんだ。
「調子が日に日に上がっていく」「アルプスまでに元の調子に戻る」と話していたコンタドールの話は本当だった。
・不満を漏らすアンディ 満足気なリース
アンディはこのコンタドールの奇襲戦略の影に昨年までの時分たちの監督であるリース氏がいることに悔しさを隠さない。
アンディは皮肉たっぷりに言う「予想外のアタックだったよ。この影にはビヤンヌ(リース氏)がいるんだ。彼は僕たちが悪天候が嫌いなのを知っている。オメデトウを言うよ。ナイスだね。僕たちには家で待っている家族がいるんだ。観客はフェアなレースか病院で終わるレースか、どちらを見たがっているんだい?」
「でもこのタイム差は大きな意味を持たないよ。僕は調子がいいんだ。ツールは終っていない。今始まったんだ。僕は自信があるし、調子もいい。それは証明したし、再び証明するつもりだ。これからの数日間、前を向き続けるつもりだよ」。
「予想外のアタックだった」と言うアンディ、そしてフランクだが、コンタドールの2回目のアタックを追えなかった言い訳としては苦しい。
兄フランクのほうが調子が良いことが見えてきている今、犠牲になるべきはアンディなのか?フランク兄弟はふたり揃ってはシャンゼリゼの表彰台の中央には立てないこと、ツールに勝つにはどちらかが犠牲にならなくてはならないことを知っている。今日のように弟を待てば、自分のチャンスもなくなってしまう。
「この攻撃はプランされたものだったのか?」と問われたサクソバンクのリース監督は言う「朝にアルベルトとアタックできる可能性があることについては話し合っていた。アルベルトは"脚の調子がいいからアタックするよ"と言っていた。そして彼はそうした。彼はチャンスがあるときそれを掴みにいき、モノにするんだ」。
「コンタドールは生き返りましたね?」そう聞くレポーターには「アルベルトは最初から死んでなんかいないんだ」とピシャリと返した。
・ピノーの叔父の死
この日、ゴール地点でちょっとした騒ぎが起こった。ひとりのテクニシャン(作業員)が、ゴールのすぐそばのキャンキングカーの脇で死んでいるのが発見されたという。59歳のパトリック・グアイさんというこの人物は、ジェローム・ピノー(クイックステップ)の叔父で、過去にはツールに出場した自転車選手だったという。ASOと警察は状況調査に入っている。
text:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO, CorVos
・ベロキの落車事故で知られる危険な下り
何かとアームストロング時代の2003、2004年のエピソードに絡むコースが採用される今年のツール。
ステージ後半に上るガップ郊外の2級山岳マンス峠の下りは、2003年ツールで総合2位につけるホセバ・ベロキ(スペイン)がダウンヒルで落車して大怪我を追ってリタイヤ。一緒に走っていたアームストロングが草地にコースアウト。シクロクロススタイルで駆け抜け、難を乗り切ったというツールに永遠に語り継がれるであろう事故・珍事が起こった危険な峠道だ。
マンス峠の下りは農道にちかい田舎道でアスファルトの状態も悪く、ベロキの落車したのも、熱で溶けたアスファルトにタイヤを滑らせ、はずみでタイヤが外れてホイールがロックしてハイサイドを起こしたことが原因だった。「ツールが下りで決まってしまう可能性がある」と心配する声、あるいは何かが起こることを予感する声が聞かれた。
・天候の悪化でコース短縮を心配する声
アルプスの峠の積雪による木曜・金曜のステージのコース短縮の可能性、そして雨による今日のステージの危険箇所の回避の可能性などが囁かれた。
スタート地点ではコースディレクターのジャン=フランソワ・ペシュー氏が各チームの監督と話し合いを続けている。しかし天候が悪いからという理由によるコースの変更は、よほど走行が不可能でない限り行われないようだ。
ペシュー氏は言う「今のところコース変更は考えていない。今私達は夏にいることを忘れてはいけない。天気は急に変わる。夜に雪が降っても朝にはなくなっている。私からは何かあれば時間毎に知らせる。私にとっては問題ない」。
コースが変わればレース内容も変わる。山岳が短縮されれば有利な選手、不利になる選手が当然出てくる。ヴォクレールは勝ち逃げし、コンタドールは挽回のチャンスを失う。1996年にはガリビエ峠の積雪のためニュートラリゼーションとなり、レース距離が大幅に短縮。ビャルヌ・リースがミゲール・インデュラインを破って優勝する一因となった。
しかし、一日じゅう荒天が続くと思われ、レインギアフル装備でスタート地点に着くと、空は晴れあがってきた。そして暑くさえなった。しかしゴールのプレスセンターに先行で向かった他のジャーナリストからは「恐ろしい勢いで雨が降っているのでレースができるのかどうかも怪しい」という声が届く。どうしたら天気はここまで変わるのか?
・カヴにかけられる嫌疑
晴れたことで緊張の緩んだ選手たち、が休息日空けの時間と太陽を満喫しだす。
昨ステージでスプリントで3位に食い込んだダニエル・オス(リクイガス)は、公式サイトの第2表示言語に日本語を採用したほどの日本好き。「日本のファンがスプリントに期待しているよ」と伝えると、ニッコリ笑って「今日は難しいけど、シャンゼリゼで狙いたいよ。それも難しいけどやってみる」と静かに燃える。
ジルベールはビラージュに現れてにこやかにサインに応じる。しかし今日の優勝候補であり、最後の峠でアタックして一気にマイヨヴェールに近づく最大のチャンス。勝負の日だ。スタート地点脇には「ジルベールにマイヨヴェールを」のベルギー国旗と緑のシャツの飾り付けで応援するファンも。
コンタドールはスタートラインでアスタナの旧チームメイトの隣に並ぶと親しげに話しだした。まるでこのステージは自分の総合争いにとっては関係ないかのように。
緊張感あるマイヨヴェールのカヴェンディッシュ。マイヨ奪回を狙うロハスとジルベールのふたりの攻撃に耐えなければいけない。
カヴについては山岳で遅れたときにチームカーに掴まってグルペットに復帰しているんじゃないかという疑惑が上がっている。タイラー・ファラー(ガーミン・サーヴェロ)がメディアにそれを意味する「カヴは遅れてから誰も見ていないところでちょっと信じられないカムバックをしている」という発言をしたことによる。
チームはこれを否定。カムバックはチームメイトのアシストによるものだと主張している。実際、カヴの周りにはいつもモトコミッセールがいるし、チームカー牽引で集団復帰できるほど効果的に行うことは難しい。カメラマンも絶えず路上にいる。
私が山岳で確認できるのは、カヴが集団から脱落しても、いつも決まってベルニーことベルンハルト・アイゼルが懸命にカヴを引いている姿。さすが「カヴの母」という異名をもつだけのことはある。
結局、この日の中間スプリントポイント逃げの10人+3人が通過したあと、残された2ポイントをカヴもロハスもジルベールも狙わなかった。カヴはアルプスでは体力セーブも課題だ。最も心配なのは、逆転される可能性よりタイムアウト失格の可能性だ。
・アルカンシェルが再び輝いた「ノルウェーの日」
ボアッソンハーゲン、フースホフト、ヘジダルという3人の逃げは、チームとしてはガーミンふたりVSチームスカイひとり。しかし国籍的にはノルウェーふたりVSカナダひとり。「まるでノルウェーチャンピオンシップだった」と語るフースホフト(実際にはこの2人の対決があったわけではない)。
アルカンシェルを着ての2度目の勝利。表彰台でフースホフトは大きく雄叫びを上げ、観客たちの声援に応えた。この日、ゴール地点には多くのノルウェー国旗が振られ、「フースホフト!、フースホフト!」の大歓声コールが巻き起こった。こんなにたくさんのノルウェー人たちが居たのか?
そして、今日勝つと考えていたのだろうか?
アルカンシェルを着ての2度目の勝利は、記念すべきツール通算10勝目。ここまでのツールでフースホフトは大成功を収めている。チームタイムトライアルでのガーミンの勝利、マイヨジョーヌを着た1週間、圧倒的な強さを見せたピレネーでの独走勝利。そして再びの逃げの勝利。
フースホフトは言う「ツールの序盤は調子の良さ・強さを感じていた。しかしステージ優勝がなかった。勝てると思っていたリズーでも勝てなかった。しかしマイヨジョーヌを着ていつも勝てる位置にいた。
チャンスがある2度の逃げで、2度とも勝利を収めることができた。なんという幸運だろう」
フースホフトが勝つつもりでいたリズーへゴールした第6ステージは、今日対決したもうひとりの同郷のノルウェー人、ボアッソンハーゲンが勝利した。そしてピレネでの大逃げの勝利は、最初は期待していなかったものだという。そして今回はその"9歳下のノルウェーの後輩"を打ち負かした。
フースホフトは言う「エドアルドには申し訳ない気分だ。でも彼に対するレースをしなければならなかった。上りで前を行く僕のチームメイトのヘジダルを追う彼の後輪についていたんだ。ゴールではその3人になった。ヘジダルにアタックしてもらいたかったけど、彼はそれまでにもうたくさんのエネルギーを使っていた。最後はエドアルドを驚かすために早めに仕掛けた。僕もスプリントが得意だけど、そんな状況でもエドアルドをスプリントで負かすのは容易じゃないんだ」。
・勝負のスタイルを変えた雷神トール
この勝利で、かつてスプリンターだった過去と決別し、スタイルを変えてきたように思えるフースホフト。クレディ・アグリコル時代は純粋なスプリンターとして。サーヴェロテストチーム時代は上り坂スプリントを得意とするスプリンター。世界選を制した2010年シーズンは、スプリント能力が少し落ちた代わりに上りがこなせるようになった」と、自分の肉体の変化について話していた。
そしてこのツールでは上りがキーを握るコースで逃げて勝負するという新たな得意パターンを開拓した。年々スプリントへの依存度を減らし、よりハードな展開に持ち込んで勝つ方法を身につけている。今春に狙っていたクラシック、とくにパリ~ルーベに勝てなかった(チームメイトのファンスーメレンが勝利)ことが心残りだが、フースホフトはそれ以外のすべてを手に入れつつある。
・コンタドールの「調子が良くなっている」は本当だった
ついにきたコンタドールのアタック。「本格的な上りが待つアルプスまで動かない」という予想を覆し、短い上りでアタックを決め、危険なダウンヒルを果敢に攻めた。着いていけたのはエヴァンスとサムエル・サンチェスのみ。シュレク兄弟は二人揃って遅れ、思わぬところでタイム差を返された。アンディは雨天候とダウンヒルが苦手な弱点をさらけ出し、兄フランクからも遅れ、コンタドールに1分以上のタイム差を返された。
今日の敗者アンディとフランクに対し、成功を収めたのがエヴァンスだ。短い上りとは言えコンタドールのアタックに反応し、さらに下りでコンタドールに対して3秒のタイム差をつけることに成功。調子の良さを証明し、またひとつ優勝候補としてのステイタスを上げた。
コンタドールは調子の良さを喜ぶ。「結果は特別なものじゃない。アタックしたかったんだ。誰が着いてきているかもあまり気にしていなかった。登りは短くて十分なものじゃなかったから、どういう結果になるかはあまり考えていなかっったんだ。何人かが着いてこれなかったことが分かって、期待した以上の結果になった」
「一番大切なのは僕の脚がよく反応したこと。センセーション(調子のよい状態)を感じた。ライバルたちは昨日のまま変わっていなかったね。
調子の良さが僕とチームにとっては大きなモチベーションになるね。これから山はまだ3日間もあるんだ。
「調子が日に日に上がっていく」「アルプスまでに元の調子に戻る」と話していたコンタドールの話は本当だった。
・不満を漏らすアンディ 満足気なリース
アンディはこのコンタドールの奇襲戦略の影に昨年までの時分たちの監督であるリース氏がいることに悔しさを隠さない。
アンディは皮肉たっぷりに言う「予想外のアタックだったよ。この影にはビヤンヌ(リース氏)がいるんだ。彼は僕たちが悪天候が嫌いなのを知っている。オメデトウを言うよ。ナイスだね。僕たちには家で待っている家族がいるんだ。観客はフェアなレースか病院で終わるレースか、どちらを見たがっているんだい?」
「でもこのタイム差は大きな意味を持たないよ。僕は調子がいいんだ。ツールは終っていない。今始まったんだ。僕は自信があるし、調子もいい。それは証明したし、再び証明するつもりだ。これからの数日間、前を向き続けるつもりだよ」。
「予想外のアタックだった」と言うアンディ、そしてフランクだが、コンタドールの2回目のアタックを追えなかった言い訳としては苦しい。
兄フランクのほうが調子が良いことが見えてきている今、犠牲になるべきはアンディなのか?フランク兄弟はふたり揃ってはシャンゼリゼの表彰台の中央には立てないこと、ツールに勝つにはどちらかが犠牲にならなくてはならないことを知っている。今日のように弟を待てば、自分のチャンスもなくなってしまう。
「この攻撃はプランされたものだったのか?」と問われたサクソバンクのリース監督は言う「朝にアルベルトとアタックできる可能性があることについては話し合っていた。アルベルトは"脚の調子がいいからアタックするよ"と言っていた。そして彼はそうした。彼はチャンスがあるときそれを掴みにいき、モノにするんだ」。
「コンタドールは生き返りましたね?」そう聞くレポーターには「アルベルトは最初から死んでなんかいないんだ」とピシャリと返した。
・ピノーの叔父の死
この日、ゴール地点でちょっとした騒ぎが起こった。ひとりのテクニシャン(作業員)が、ゴールのすぐそばのキャンキングカーの脇で死んでいるのが発見されたという。59歳のパトリック・グアイさんというこの人物は、ジェローム・ピノー(クイックステップ)の叔父で、過去にはツールに出場した自転車選手だったという。ASOと警察は状況調査に入っている。
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